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第五部~ベルトラン帝国
13.罠
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パレードは王城を出て川を渡り、再び王城に戻るルートになっている。
王城のある方が旧市街、橋を渡った方にあるのが新市街だ。
道はどこも見物客がびっしり並び、警備兵がそれを必死に抑えている。
パレードは新市街を横切って再び川を渡り、旧市街へと入っていった。
旧市街の方が道が狭くなっているせいで見物客が輿のすぐ側まで近寄れるようになっている。
パレードは終盤に差し掛かり、見物客の熱狂は最高潮に達していた。
「しかし、これはちょっと凄いな」
あまりの熱気に俺は少し引き気味だった。
警備兵が必死に遠ざけようとしているけどそれがより興奮を煽っているみたいだ。
「というか、これは少し変じゃないか?」
実際警備兵の作る境界線は押し寄せる見物客で破られそうになっていた。
これはもう暴動寸前だ。
「まさか……おい!警戒態勢を取れ!」
ヘルマが叫んだのと境界線が決壊したのはほぼ同時だった。
見物客が一斉に学生たちの乗る輿へと殺到してくる。
これは…ひょっとして罠なのか?
「待て、テツヤ!我々が動くわけには……!」
思わず立ち上がりそうになったところでリンネ姫の声に我に返った。
ここでは俺たちは外部の人間になる。下手に動くと話がこじれるかもしれない。
「ストームシールド!」
魔法兵の詠唱が風の壁を作り出す。
学生たちの輿に群がっていた見物客が数メートル吹き飛ばされた。
それでも見物客は尚も向かって来ようとしている。
間違いない、これは見物客に見せかけた襲撃だ!
その時、魔法兵の唱えた壁の風がいきなりかき消えた。
まさか、耐魔障壁か?
「陛下!このまま城まで戻ります!」
ヘルマがそう叫んでベルトラン十五世の横に着いた。
御者が鞭を振るい、馬車の動きが早くなる。
しかし前方の輿に邪魔されて思ったように速度が出ない。
俺が輿ごと飛ばすか?そう思った時、視界の端に何かが動いた気がした。
何者かが俺たちのいる輿の底に潜り込んだのが見えた。
まずい!
俺は咄嗟にリンネ姫をアマーリアたちのいる輿へと飛ばし、上段に駆け上った。
ヘルマを飛ばし、続いてベルトラン十五世を抱えて脱出を試みる。
同時に何者かの魔法が発動した。
◆
「ここは…どこだ…?」
ベルトラン十五世を掴んで逃げ出そうとした瞬間辺りが闇に包まれ、気付いた時には見知らぬ場所にいた。
そこは恐ろしく深い穴の底だった。
遥か頭上に輝く日の光は星のようにしか見えない。
穴の壁はほぼ切り立った垂直で梯子や手掛かりになりそうなものは何もない。
完全に閉じ込められていた。
「さっきのはなんだったんだ…?」
「おそらく転移魔法の一種でここに飛ばされたのだろうな」
「うわぁ、びっくりしたぁ!」
独り言に横から突然返事が返ってきた。
…ベルトラン十五世?
ようやく自分がいまだにベルトラン十五世の腕を抱えていることに気付いた。
「こ、これは失礼しました」
「しかしここはどこなのだ?」
「どうやら自然にできた竪穴みたいですね」
「ふむ、どうやら先ほどの群衆は陽動で余をここに飛ばして閉じ込めるのが目的だったようだな」
こんな状況だというのにベルトラン十五世の声に慌てた様子はなかった。
むしろ楽しんでいるようにすら聞こえる。
「とりあえずここを出ましょう」
「そうしたいのは山々だが、いかんせんここでは魔法が使えぬようだ。どうやらこれを企てた者はこの穴自体にも細工を施しているらしいな」
確かにライティングの魔法を唱えても何も起こらない。
おそらく竪穴全体に耐魔障壁の措置がされているのだろう。
しかもかなり強力な奴らしく、蛇髪女人族の服を着ている俺の力もほぼ封じられている。
それでもいくらかは使えるようで、意識を集中すると竪穴周辺の地中をスキャンすることができた。
どうやら周囲にも同じような地下洞窟が幾つか走っているらしく、そこまで穴を開けたら脱出できそうだ。
「ちょっと待っていてください」
俺は一番近い地下洞窟へと意識を集中させた。
耐魔障壁のせいで普段通りとはいかなかったけどなんとか人がくぐれるくらいの穴を開けることができた。
「ここを通っていけば出ることができますよ」
穴をくぐって地下洞窟に出ると耐魔障壁の効果も切れていき、俺は更に力を使って洞窟を広げながら出口を目指した。
洞窟の外は…荒涼とした山地だった。
どうやらこの出口は俺たちをここに飛ばした連中にも気付かれていなかったようで周囲には誰もいない。
「ここはどこなのだ?」
「どうやらかなり南に飛ばされたみたいですね。ここはベルトラン帝国の南端のようです」
俺は近くの岩壁を操作して地図を描いた。
「ここがガルバジアで今俺たちがいるのがここです。この山脈がベルトラン帝国の南の国境になるので俺たちはほぼ国境沿いにいることになります」
「何故主にそんなことが分かる」
「何故って…俺の持つ力のお陰としか…」
アスタルさんに力を開放してもらって以来こういう細かな力の使い方が格段にできるようになっている。
しかしそれは見ることや聞くことと同じようにほぼ直感的なものなので人に説明するのはかなり難しい。
「ふむ……」
ベルトラン十五世は俺が作った地図をじっと見ていた。
「とりあえず位置も分かったことだしさっさと帰りましょう。俺の力を使えばすぐに戻れますよ」
「…いや」
俺の言葉にベルトラン十五世は首を振った。
「余は帰らぬ。しばらくここに留まるぞ」
「はあぁ?」
王城のある方が旧市街、橋を渡った方にあるのが新市街だ。
道はどこも見物客がびっしり並び、警備兵がそれを必死に抑えている。
パレードは新市街を横切って再び川を渡り、旧市街へと入っていった。
旧市街の方が道が狭くなっているせいで見物客が輿のすぐ側まで近寄れるようになっている。
パレードは終盤に差し掛かり、見物客の熱狂は最高潮に達していた。
「しかし、これはちょっと凄いな」
あまりの熱気に俺は少し引き気味だった。
警備兵が必死に遠ざけようとしているけどそれがより興奮を煽っているみたいだ。
「というか、これは少し変じゃないか?」
実際警備兵の作る境界線は押し寄せる見物客で破られそうになっていた。
これはもう暴動寸前だ。
「まさか……おい!警戒態勢を取れ!」
ヘルマが叫んだのと境界線が決壊したのはほぼ同時だった。
見物客が一斉に学生たちの乗る輿へと殺到してくる。
これは…ひょっとして罠なのか?
「待て、テツヤ!我々が動くわけには……!」
思わず立ち上がりそうになったところでリンネ姫の声に我に返った。
ここでは俺たちは外部の人間になる。下手に動くと話がこじれるかもしれない。
「ストームシールド!」
魔法兵の詠唱が風の壁を作り出す。
学生たちの輿に群がっていた見物客が数メートル吹き飛ばされた。
それでも見物客は尚も向かって来ようとしている。
間違いない、これは見物客に見せかけた襲撃だ!
その時、魔法兵の唱えた壁の風がいきなりかき消えた。
まさか、耐魔障壁か?
「陛下!このまま城まで戻ります!」
ヘルマがそう叫んでベルトラン十五世の横に着いた。
御者が鞭を振るい、馬車の動きが早くなる。
しかし前方の輿に邪魔されて思ったように速度が出ない。
俺が輿ごと飛ばすか?そう思った時、視界の端に何かが動いた気がした。
何者かが俺たちのいる輿の底に潜り込んだのが見えた。
まずい!
俺は咄嗟にリンネ姫をアマーリアたちのいる輿へと飛ばし、上段に駆け上った。
ヘルマを飛ばし、続いてベルトラン十五世を抱えて脱出を試みる。
同時に何者かの魔法が発動した。
◆
「ここは…どこだ…?」
ベルトラン十五世を掴んで逃げ出そうとした瞬間辺りが闇に包まれ、気付いた時には見知らぬ場所にいた。
そこは恐ろしく深い穴の底だった。
遥か頭上に輝く日の光は星のようにしか見えない。
穴の壁はほぼ切り立った垂直で梯子や手掛かりになりそうなものは何もない。
完全に閉じ込められていた。
「さっきのはなんだったんだ…?」
「おそらく転移魔法の一種でここに飛ばされたのだろうな」
「うわぁ、びっくりしたぁ!」
独り言に横から突然返事が返ってきた。
…ベルトラン十五世?
ようやく自分がいまだにベルトラン十五世の腕を抱えていることに気付いた。
「こ、これは失礼しました」
「しかしここはどこなのだ?」
「どうやら自然にできた竪穴みたいですね」
「ふむ、どうやら先ほどの群衆は陽動で余をここに飛ばして閉じ込めるのが目的だったようだな」
こんな状況だというのにベルトラン十五世の声に慌てた様子はなかった。
むしろ楽しんでいるようにすら聞こえる。
「とりあえずここを出ましょう」
「そうしたいのは山々だが、いかんせんここでは魔法が使えぬようだ。どうやらこれを企てた者はこの穴自体にも細工を施しているらしいな」
確かにライティングの魔法を唱えても何も起こらない。
おそらく竪穴全体に耐魔障壁の措置がされているのだろう。
しかもかなり強力な奴らしく、蛇髪女人族の服を着ている俺の力もほぼ封じられている。
それでもいくらかは使えるようで、意識を集中すると竪穴周辺の地中をスキャンすることができた。
どうやら周囲にも同じような地下洞窟が幾つか走っているらしく、そこまで穴を開けたら脱出できそうだ。
「ちょっと待っていてください」
俺は一番近い地下洞窟へと意識を集中させた。
耐魔障壁のせいで普段通りとはいかなかったけどなんとか人がくぐれるくらいの穴を開けることができた。
「ここを通っていけば出ることができますよ」
穴をくぐって地下洞窟に出ると耐魔障壁の効果も切れていき、俺は更に力を使って洞窟を広げながら出口を目指した。
洞窟の外は…荒涼とした山地だった。
どうやらこの出口は俺たちをここに飛ばした連中にも気付かれていなかったようで周囲には誰もいない。
「ここはどこなのだ?」
「どうやらかなり南に飛ばされたみたいですね。ここはベルトラン帝国の南端のようです」
俺は近くの岩壁を操作して地図を描いた。
「ここがガルバジアで今俺たちがいるのがここです。この山脈がベルトラン帝国の南の国境になるので俺たちはほぼ国境沿いにいることになります」
「何故主にそんなことが分かる」
「何故って…俺の持つ力のお陰としか…」
アスタルさんに力を開放してもらって以来こういう細かな力の使い方が格段にできるようになっている。
しかしそれは見ることや聞くことと同じようにほぼ直感的なものなので人に説明するのはかなり難しい。
「ふむ……」
ベルトラン十五世は俺が作った地図をじっと見ていた。
「とりあえず位置も分かったことだしさっさと帰りましょう。俺の力を使えばすぐに戻れますよ」
「…いや」
俺の言葉にベルトラン十五世は首を振った。
「余は帰らぬ。しばらくここに留まるぞ」
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