183 / 298
第五部~ベルトラン帝国
12.パレード
しおりを挟む
「見事な試合であった」
ベルトラン十五世が機嫌良さそうに口を開いた。
試合の後、俺たちは再び謁見の間に呼ばれたのだった。
「我が国最強の戦士であるヘルマと互角に渡り合うとは、確かにその強さに偽りはないようだ」
「お褒めに預かり恐悦至極」
「これほどの戦士、フィルド王国にはもったいないな。どうだテツヤよ、我が国に来る気はないか?」
は?俺がベルトランに?
「我が国に来るのであれば格別の地位を与えよう。名誉も名声も、富も思うがままだぞ。どうだ?悪い話ではなかろう」
え~と、これはつまりスカウトされてるってことなのか?
「お言葉ですが陛下」
俺の隣にいたリンネ姫が口を開いた。
今まで聞いたこともないくらい低い声で心なしか周囲の空気すら歪んで見える。
「この者は我が国の国民であり、また私の臣下でもあります。そのような話はまず私を通していただくのが筋ではないかと」
これ絶対に怒ってるな。
リンネ姫の額に青筋が浮かんでいるのが見えた気がする。
「ふむ、確かにそれもそうだな。ではフィルド王国には交換としてマテク地域を譲渡しよう。それならば文句はあるまい?」
流石にこの言葉には謁見の間がどよめきに包まれた。
しかし異を唱える者は誰もいなかった。
つまりそれだけベルトラン十五世の力が絶対ということなのか。
「生憎ですがこのテツヤは金や土地程度で交換できるものではありません。たとえこの謁見の間を全て黄金で満たしたとしても譲り渡すことはできないでしょう」
いやいやいや、地球で今までに採掘された金の総量ですら競技用プール四杯弱なんだぞ?
こんなクソ馬鹿広い謁見の間を満たす黄金って、どんだけだよ!
ベルトラン十五世はリンネ姫の断固とした拒否にも涼しい顔をしていた。
「そうか、それは残念だ。まあよかろう、今の余は機嫌が良い。この話はここまでとしておこう。テツヤよ、気が変わったのならいつでも言ってくるがよい。歓迎するぞ」
「は、はあ」
こうしてベルトラン十五世との謁見は終了した。
しかしこれで終わりというわけではなく翌日にはパレードに参加することになっているらしい。
これは貴族学園の卒業祝賀の他に先日の襲撃事件解決のお祝いも兼ねているのだとか。
「なんなのだ、あいつは!」
部屋に戻るなりリンネ姫が爆発した。
「テツヤをよこせだと!言うに事欠いて……」
その後は言葉にもならなかったらしい。
地団太を踏んで怒りを表している。
「まあまあ、あれはただのリップサービスみたいなものだろ。帝王ともあろうものが直々にヘッドハンティングするわけないって」
「いえ、それはないですね」
なだめようとした俺の言葉をエリオンが否定した。
「陛下とは何度か話をしたこともありますがお世辞や社交辞令とは最も遠い人ですよ。そして自分が欲しいと思ったものは必ず手に入れる人でもあります」
マジかよ。
てことはあの言葉も本気だったのか?
「テツヤ!」
リンネ姫が俺にしがみついてきた。
「お主はベルトラン帝国には行かぬよな?行かぬと言ってくれ!」
「行かない、行かないって!あんなこと急に言われたから戸惑ったけど、そもそも地位とか名誉なんか興味もないって」
「そうか…そう、その通りであるよな!」
俺の言葉にリンネ姫もほっとしたようだ。
何故か周りのみんなも安堵の息をついている。
「そもそも今回もだけどこの国に来ると碌な目に遭わないんだよな。相性が悪いのかな?」
「そ、そう!その通りだ!テツヤはこの国と相性が悪いのだよ!これはもう近寄らない方が良いな!こんな国はさっさとおさらばしようではないか!はっはっはっ!」
「まったく…ともあれ明日のパレードはみんなも参加するように要請が来ているからよろしく頼むよ」
安心したように高笑いするリンネ姫を見てエリオンが苦笑している。
とりあえず明日さえ無事に過ぎたらしばらくは落ち着けるのかな。
◆
見物客の歓声と楽団の奏でる音楽、色を付けた麦殻が通りに舞っている。
卒業生たちは笑顔で見物客に手を振り、見物客は春の花で作った首飾りを卒業生たちにかけていた。
帝国を代表する学校の卒業記念パレードだけあって都市を挙げての一大イベントとなっているみたいだ。
「しかし、なんで俺がこんな所に」
「お主は件の事件の最大功労者なのだ。これは格段の名誉なのだぞ」
隣にいるヘルマがたしなめてきた。
俺はパレードの後尾となる帝王の乗る輿にいた。
一番上にベルトラン十五世が座り、その下の段にリンネ姫と俺、そしてヘルマがいる。
「そうは言ってもなあ、こうも人に囲まれているとなんだか落ち着かないんけど」
「お主もいずれ慣れるさ。一人一人ではなくそういう一塊だと思えば気にもならなくなるぞ」
流石にリンネ姫は慣れたものらしく、笑顔で手を振っている。
「それにしても凄い人出だな。毎年こうなのか?」
「今年は特に凄いな。おそらく学園邸宅の襲撃事件のことが人々の耳に入っているのだろう。警備も厳重になっているからなおさら多く感じるのだろうな」
「どうだ、テツヤ!これが我が国の国民だ!活気があるであろう!?我が国に来れば毎日がこうだぞ!」
上座からベルトラン十五世が愉快そうに叫んできた。
いや、こんな喧噪は流石にご免こうむりたいんですけど。
人々の歓声に包まれながらパレードは賑々しくゆっくりと進んでいった。
ベルトラン十五世が機嫌良さそうに口を開いた。
試合の後、俺たちは再び謁見の間に呼ばれたのだった。
「我が国最強の戦士であるヘルマと互角に渡り合うとは、確かにその強さに偽りはないようだ」
「お褒めに預かり恐悦至極」
「これほどの戦士、フィルド王国にはもったいないな。どうだテツヤよ、我が国に来る気はないか?」
は?俺がベルトランに?
「我が国に来るのであれば格別の地位を与えよう。名誉も名声も、富も思うがままだぞ。どうだ?悪い話ではなかろう」
え~と、これはつまりスカウトされてるってことなのか?
「お言葉ですが陛下」
俺の隣にいたリンネ姫が口を開いた。
今まで聞いたこともないくらい低い声で心なしか周囲の空気すら歪んで見える。
「この者は我が国の国民であり、また私の臣下でもあります。そのような話はまず私を通していただくのが筋ではないかと」
これ絶対に怒ってるな。
リンネ姫の額に青筋が浮かんでいるのが見えた気がする。
「ふむ、確かにそれもそうだな。ではフィルド王国には交換としてマテク地域を譲渡しよう。それならば文句はあるまい?」
流石にこの言葉には謁見の間がどよめきに包まれた。
しかし異を唱える者は誰もいなかった。
つまりそれだけベルトラン十五世の力が絶対ということなのか。
「生憎ですがこのテツヤは金や土地程度で交換できるものではありません。たとえこの謁見の間を全て黄金で満たしたとしても譲り渡すことはできないでしょう」
いやいやいや、地球で今までに採掘された金の総量ですら競技用プール四杯弱なんだぞ?
こんなクソ馬鹿広い謁見の間を満たす黄金って、どんだけだよ!
ベルトラン十五世はリンネ姫の断固とした拒否にも涼しい顔をしていた。
「そうか、それは残念だ。まあよかろう、今の余は機嫌が良い。この話はここまでとしておこう。テツヤよ、気が変わったのならいつでも言ってくるがよい。歓迎するぞ」
「は、はあ」
こうしてベルトラン十五世との謁見は終了した。
しかしこれで終わりというわけではなく翌日にはパレードに参加することになっているらしい。
これは貴族学園の卒業祝賀の他に先日の襲撃事件解決のお祝いも兼ねているのだとか。
「なんなのだ、あいつは!」
部屋に戻るなりリンネ姫が爆発した。
「テツヤをよこせだと!言うに事欠いて……」
その後は言葉にもならなかったらしい。
地団太を踏んで怒りを表している。
「まあまあ、あれはただのリップサービスみたいなものだろ。帝王ともあろうものが直々にヘッドハンティングするわけないって」
「いえ、それはないですね」
なだめようとした俺の言葉をエリオンが否定した。
「陛下とは何度か話をしたこともありますがお世辞や社交辞令とは最も遠い人ですよ。そして自分が欲しいと思ったものは必ず手に入れる人でもあります」
マジかよ。
てことはあの言葉も本気だったのか?
「テツヤ!」
リンネ姫が俺にしがみついてきた。
「お主はベルトラン帝国には行かぬよな?行かぬと言ってくれ!」
「行かない、行かないって!あんなこと急に言われたから戸惑ったけど、そもそも地位とか名誉なんか興味もないって」
「そうか…そう、その通りであるよな!」
俺の言葉にリンネ姫もほっとしたようだ。
何故か周りのみんなも安堵の息をついている。
「そもそも今回もだけどこの国に来ると碌な目に遭わないんだよな。相性が悪いのかな?」
「そ、そう!その通りだ!テツヤはこの国と相性が悪いのだよ!これはもう近寄らない方が良いな!こんな国はさっさとおさらばしようではないか!はっはっはっ!」
「まったく…ともあれ明日のパレードはみんなも参加するように要請が来ているからよろしく頼むよ」
安心したように高笑いするリンネ姫を見てエリオンが苦笑している。
とりあえず明日さえ無事に過ぎたらしばらくは落ち着けるのかな。
◆
見物客の歓声と楽団の奏でる音楽、色を付けた麦殻が通りに舞っている。
卒業生たちは笑顔で見物客に手を振り、見物客は春の花で作った首飾りを卒業生たちにかけていた。
帝国を代表する学校の卒業記念パレードだけあって都市を挙げての一大イベントとなっているみたいだ。
「しかし、なんで俺がこんな所に」
「お主は件の事件の最大功労者なのだ。これは格段の名誉なのだぞ」
隣にいるヘルマがたしなめてきた。
俺はパレードの後尾となる帝王の乗る輿にいた。
一番上にベルトラン十五世が座り、その下の段にリンネ姫と俺、そしてヘルマがいる。
「そうは言ってもなあ、こうも人に囲まれているとなんだか落ち着かないんけど」
「お主もいずれ慣れるさ。一人一人ではなくそういう一塊だと思えば気にもならなくなるぞ」
流石にリンネ姫は慣れたものらしく、笑顔で手を振っている。
「それにしても凄い人出だな。毎年こうなのか?」
「今年は特に凄いな。おそらく学園邸宅の襲撃事件のことが人々の耳に入っているのだろう。警備も厳重になっているからなおさら多く感じるのだろうな」
「どうだ、テツヤ!これが我が国の国民だ!活気があるであろう!?我が国に来れば毎日がこうだぞ!」
上座からベルトラン十五世が愉快そうに叫んできた。
いや、こんな喧噪は流石にご免こうむりたいんですけど。
人々の歓声に包まれながらパレードは賑々しくゆっくりと進んでいった。
11
あなたにおすすめの小説
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?
スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。
女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!?
ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか!
これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる