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カリンの場合 後編

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王子は盗賊の娘を取り立てようとしてかなわず、諌めた家臣を恨み暴君となった。
側近へと望んだ親友が自由を求めて旅立った王子はすねて政をおざなりにした。
二人は親子だった。
家臣は絶望した。
やる気のない父王に暴君な王子。
テコ入れのために父王にはしっかり者の王妃。
王子には幼なじみをあてがってしのごうとした。
そこに幼なじみカリンの気持ちや都合など一切考慮されなかった。
形ばかり公爵令嬢を正妃に、位が足りないためカリンを側妃ではなく愛妾に。
酷い屈辱だった。
仮にもカリンは伯爵令嬢である。
学園を卒業したら数年は働いていずれは婚約する内々の予定もあったのだ。
王妃の親族ゆえの幼なじみとして、王子とは言いたいことは言える間柄ではある。
だが、村娘に出会って暴君に変わった王子の愛妾などなりたくなかった。
そして屈辱を感じていたのはカリンだけではなかった。
王子妃となる公爵令嬢は、カリンの愛妾就任に怒り狂っていたという。
学園の創立祭のパーティーで、カリンを断罪した。
罪名は王子妃となる自身と王家に対する不敬、だそうだ。
カリンは即座に王都を追放された。
馬車で半日走って高台についた。
そして岩に腰掛けた。

そっと下を望むと燃え盛る街が見える。
かつて、昨日まで王都と呼ばれていた街は、そろそろ燃え尽きるところだった。
王都全体を囲む城壁。
その門は閉じられたまま。
なぜそうなっているのかはわからないが、誰がそうしたのかはおそらく王子だろう。

「そろそろね」
公爵令嬢がカリンの隣に並ぶ。
カリンを断罪した時の声がうるさいと王子によって同じく王都を追放され、難を逃れた。
その横には村娘。
村娘は王子を許さなかった。
王子の近くに侍らされながら、決して振り向かなかった。
それは王子を煽った。
振り向いてもらえないのは、村娘の村が討伐されたからだと宰相や討伐部隊に当たり散らし断罪することで村娘の感心を得ようとして暴走した。
村娘はそれを止めるつもりはなかったが、全てを憎んでいるわけではなかった。
村娘は王子のために人生を曲げられた公爵令嬢とカリンに、自分を重ねて心を配ってくれた。
断罪によって逃してくれた。
そして、村娘に見捨てられた王子は王都を燃やした。
「これからどうするの」
公爵令嬢が尋ねると村娘は肩をすくめた。
「さあ、私はどこでも生きていけるから。そっちこそどうするの?」
「私は叔母が迎えに来るわ」
公爵令嬢は隣国の公爵家の養子になるのです。
「そっちは?」
わざわざ聞いてくれる村娘はやはり面倒見のいい人なのでしょう。
それが災いを呼び込んだのですが。
「私も隣国へ、公爵家の侍女になるの」
ちらりと公爵令嬢を見るとそれだけで村娘は察してくれた。
カリンは公爵令嬢付きの侍女になる。
お金を貯めて、それから自分の人生をもう一度考えることにしている。
じゃあねとあっさり村娘は去って行った。
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