時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~天駆ける小舟~

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 遂に突貫作戦が決行され、早々と敵の第一陣内を突き抜けた。
 しかし島まではまだ少し遠い。
 ならば勇達の存在に気付き、対策を講じる事さえ可能だ。

 故に、島沿岸付近の魔者達の動きは顕著だった。
 槍投げ作戦が通用しない事を把握し、次の一手を打った事で。

 なんと仲間同士で行・列を無し、広範囲の肉盾を形成し始めたのである。

 さすがの戦闘種族か。
 一人で止まらないなら複数人でという訳だ。
 さしずめサッカーで言うサイドキックからゴールを塞ぐ守備達といった所か。
 その姿からは、己を犠牲にする事さえ厭わないという気概が伝わってくるかのよう。
 
 一人二人ならボートで吹き飛ばす事も出来るだろう。
 でも今の人数壁ではもはや塞き止められかねない。



 だがこれも想定の内だった。
 こうなる事を踏まえ、勇達は予め別の行動をも考えていたのだ。



 すると途端、ボートが大きく右へと逸れていく。
 しかもまるで水上を転ぶかの様に、かつ正面へと水飛沫を上げながら。

 急旋回を始めた事によって。

 こんな事が出来るのちゃなが推進力となっているから。
 魔剣の炎自体が噴出方向を変え、強引にボートの進路を変えたのである。

 そのお陰であっという間に方向が切り替わり、再び船底が海上を突く。
 あまりな想定外の行動に、雑兵達が驚愕する中で。

「「「に、逃がすなあッ!!」」」

「もう遅いッ!!」

 こんな叫びもが聴こえて来る中、肉壁達からあっという間に離れていく。
 それも再び島へと強引に舵を切る中で。
 またしても空へ水飛沫を高々と上げながら。

 そう、また急速旋回だ。
 勇の操舵に合わせてちゃながコントロールするという絶妙なコンビネーションでの。
 さしずめ水上S字カーブ航法と言った所か。
 お陰であっという間に島への進路に復帰するという。

 その速度はもはや海に慣れた雑兵達だろうと追い付けない。

 勇達の突撃は思いのほか効果的だった。
 直進で来るという見せかけに浜辺付近の者達もが釣られていて。
 お陰で今や正面の浜辺には誰一人として待ち構えてはいない。

「お、おおっ!! いっちまえーーーッ!!」

 すなわち、あとは島へ一直線。
 ディフェンスもキーパーをも越え、ゴールネットへと突き刺さるだけだ。

 故に皆が気合いを籠めて正面を見据える。
 その後の行動に向け、気持ちを切り替えて行こうと。



 そう思っていた矢先だった。



 突如として、勇達の頭が大きくガクりと揺れたのだ。
 それも一瞬、視界がブレて先を見失ってしまう程に。
 それでいざ視線を戻した時、勇達は思わず困惑する事に。

 何故なら、視界が空一杯を映していたのだから。

 何が起こったのか、誰もわからなかった。
 状況を掴む事さえままならなくて。
 それでいて得も知れない浮遊感に見舞われていたからこそ。

 けれど間も無く気付く事になるだろう。
 自分達がどの様な状況に陥っていたのかを。



 なんと、ボートが空を飛んでいたのである。



 それは余りの出力ゆえだった。
 かつ、彼等を迎えた環境がそうさせてしまった。

「うわあああッ!?」
「と、飛んでるのォォォーーー!?」

 そう、ボートが浅瀬へと乗り上げたのだ。

 どうやら浜辺からの陸続きが海中まで伸びていたらしい。
 転移範囲が想像以上に広かった所為で。
 おまけに魔者達が海を濁していたから気付けなかった。

 その所為でボートが打ち上げられてしまったのだろう。
 さながらレールを走って打ち上がるペットボトルロケットの要領で。
 浅瀬が発射台カタパルトとなり、ボート自体がロケットと化したのだ。

 しかもその速度は凄まじく、あっという間に陸地上にまで到達していて。
 余りの出来事で出力調整さえ忘れさせる事に。

 しかし勇達にもはや状況判断を出来る余裕は無い。
 こうして空を飛ぶなどほぼほぼ初めてに等しいから。
 予想外の展開だからこそ反応さえもおぼつかなくて。

 それにこうなった以上、勇もマヴォも成す術が無いからこそ。

 当然だ。
 海面から浮けば水中翼など飾りに過ぎない。
 ここから命力を掛けようが、只の空気抵抗対策になるだけで。

 ちゃながコントロール出来ない今、迎える結末はただ一つ。



 なんと、ボートが島中央へ続く坂へと打ち当たる事に。
 それも超速度のまま容赦無く。

 そして船体が粉々に破砕する程に激しく。



ドッガシャァァァーーーーーーンッッッ!!!!

 余りにも激しい激突だった。
 無数の破片を高速で打ち上げてしまう程に。

 しかも勇達をも巻き込んで空高くへと。

 ボート強度が充分過ぎたからこそ潰れる事は無かった。
 大地へと激突した衝撃を全て受け止めてくれたから。
 おまけに坂だったから正面衝突にはならなくて。

 しかしその余りの反力により、勇達は散り散りと飛ばされる事に。
 あろう事か、敵陣の頭上に舞っていく中で。

「ひ、ひぃぃぃッ!?」
「んごぉぉぉッ!?」

 こうなれば訓練してきた心輝達でさえ気が気でない。
 身体が自由とならない状況で飛ばされたからこそ。

 更に、それ以上の悪状況が勇達を襲う事となる。

 ちゃなが気を失っていたのだ。
 勢いに流されるまま、力無いままに体を舞わせていたのである。
 頭部から血のりさえも飛ばさせる中で。

 そのちゃなの状態を、勇だけが気付いていた。
 だからこそ必死で足掻いていて。
 強化された動体視力で破片を捉え、足場にして宙を跳ねていく。

 気絶したちゃなを何としてでも一人にしない為にも。

 そのお陰でちゃなを空中で捉まえる事は出来た。
 だがその代償として、マヴォや心輝達を見失う事となったが。

ガラガラガラ……!!
ズザザーーーッ!!

 たちまちその勢いが収まり、破片が大地へ転がっていく。
 勇がちゃなと共に無事着地を果たす中で。

 ただそれでも警戒はもう解けない。
 勇が降り立ったのはまさに敵陣、島の中央だったのだから。

「くぅぅッ!?」

 なれば間も無く、槍を構えた魔者達によって囲まれる事に。
 容赦無く敵意を向けられながら。

 その包囲網はまさに一寸の隙さえ見当たりはしない。



 仲間と分断され、更にはちゃなが戦闘不能に。
 これではもはや戦いもままならない。
 しかしそれでも敵は容赦無く攻撃を仕掛けて来るだろう。

 まさに絶体絶命の危機である。

 果たして勇達はこの状況を打破出来るのだろうか。
 未だ敵の王さえ見つからぬこの中で……。 


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