時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十九節「神冀詩 命が生を識りて そして至る世界に感謝と祝福を」

~もう言葉なんて要らない~

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 茶奈の見せつけた力は圧倒的だった。
 その力はもはや以前の彼女とは比べ物にもならない。
 勇、心輝、瀬玲三人の同時攻撃さえ蹴散らして見せる程に。
 加え、【アストラルエネマ】としての膨大な命力も未だ発揮していないという。

「あっはは!! 無様ですねぇ、やはり天士になって間もなければこの程度ですか……!」

 勇と心輝を手軽く叩き落とし、こうして余裕さえ見せつける。
 二つの粉塵が巻き上がる中、それらを煽る風音に嘲笑までをも乗せて。

 一方の勇達はと言えば、何とか無事だ。
 勇は【創世の鍵】の力で衝撃抑制を、心輝は【超回復】で受けた損傷を治せるから。
 それに二人ともこの程度で壊れる様なヤワな肉体ではない。
 進化した体はもはや一般常識では測れない程に強靭であるが故に。
 それは例え強くなった茶奈の攻撃であろうとも、ある程度なら耐えきれよう。

 ただし耐えられるのは肉体のみに限るが。

『二人と 大 夫!? ザザッ』
『平気 よぉ、勇は うだ? ザッザ―――』
「ああ、問題無い。 でもインカムはもうダメらしい」
 
 どうやら外付け機械インカムだけは耐えきれなかった様だ。
 いざ取り外して見れば外装には抉った様な傷が。
 地面を砕いた時、岩の一部にでも打ち当たったのだろう。
 グランディーヴァ謹製の魔兵装仕立てでも、今の一撃にはさすがに無理があったらしい。

 しかしこうなってしまえば使い物にはならない。
 仕方なく放り投げ、再び立ち上がっては空へと睨みを利かせる。
 余力はまだ残っているからこそ力強く。

 ただ茶奈は空から依然として動いていない。
 待ちの姿勢を貫いている。

 動く必要が無いのだ。
 勇達がこの場に訪れた以上は。
 後は適度に勇達を痛め付け、その映像を世界に送るだけで目的は完遂する。
 より余裕を見せた方がずっと絶望が大きいからこそ。
 
 故に、もはや行為全てに慈悲は無し。
 機械の如く目的成就に徹するその姿には一切として。

「勇ッ!!」

 とはいえ、そのお陰で勇達が地上を走る余裕もまだあるという訳で。
 その間も無く瀬玲が単身で勇の下へと駆け付ける。

「ハッキリ言ってあの防御能力ヤバいわ。 どうするつもり?」

「どうするもこうするもないさ。 まだ始まったばかりで、俺達だってまだ本気を出しきっちゃいないんだからな」

 ならこうして打ち合わせる事も可能だ。
 それに体勢を立て直す事だって。

 するとその途端、今度は勇達の傍に心輝が現れる。
 しかも光を弾き飛ばしながら瞬時にして。

「―――うおッ!? お前等突然現れんなよッ!!」

「違う、お前を呼び寄せたんだ。 今この場だけならこんな行為も出来るって事だ、憶えておいてくれ」

「他者転送ね、了解ッ!!」

 そう、心輝のみに対して天力転送を行ったのである。
 これを成したのは【第十の門 メ・ラコ】の疑似天力変換能力によるもの。
 狭い範囲内に限り、命力体単体を疑似的に天力転送させられるというものだ。

 後はこの様に心輝を呼び戻せばいい。
 そうすれば三人が打ち合わせる事も、再び息を合わせて飛び出す事も可能だから。

「いいか、よく聞いてくれ。 どうやら茶奈の能力はアルトラン・ネメシスの力で格段に引き上げられているらしい。 だから奴をもっと動かすには今の感じじゃダメだ。 むしろ少しでも加減をすればこっちがやられるぞ!」

「マジかよ、常に全力で行く必要があるって事かよォ……ッ!!」

「ん、なら私に少し考えがある。 二人は思う通りにやってくれていいよ。 少しはやり易くなるハズ」

「わかった、好きにやってみてくれ!」

 その中で繰り広げたのは半ば投げやりの様な話し合いで。
 けど、これが三人だけの時の語り草スタンダートだ。
 何の気遣いも要らない、昔からの付き合いである三人だからこその。

 だからこそ、意図は充分に伝わった。

「だったらよぉ、単純な俺がやる事と言ったらコレしかねぇなあッ!!」

 ならばその意図と、燃え盛る自意志のままに。
 またしても心輝が空へと瞬時に飛び上がる。

 しかも今度は勇との同時突撃。
 強靭な脚力を生かした跳躍で一気に茶奈の下へ。



 だが次の瞬間にはもう、二人は茶奈の左右に居た。
 自慢の天力転送、自慢の機動力で瞬時に回り込んだのだ。



「愚かな肉どもがッ!! だから甘いと言ったハズッ!!」

 しかしそれでも茶奈を捉える事は叶わない。
 攻撃が当たる寸前で消えた事によって。

 そしてその当人はすぐ頭上に。

 まるで瞬間移動だ。
 それ程の速さで、体勢を変える事無く移動している。
 【翼燐エフタリオン】の反重力性飛翔機能を存分に発揮した事によって。

 でもこれは勇達の想定内に過ぎない。
 元より簡単に当たるなどとは思っても居ないのだから。

 だからこそ勇が再び消え、心輝が加速する。
 まるで二人が交差するかの様にして。

 しかもその度に茶奈へと飛び掛かり、剣を拳を斬り振り繰り返す。
 何度躱されようと、見切られようとも諦める事無く。

「しつこいッ!!」
「それが俺達の長所だからなッ!!」
「茶奈の真似してる癖に知らねぇのかあッ!?」

 間髪入れない連続攻撃を前に一転、茶奈が回避一辺倒に。
 これが引き立てる為のフリなのか、それとも本気なのかはわからない。
 ただ少なくとも、勇達の動きの変化が体勢を変えた要因である事に間違いは無い。

 そう、勇達の動きが変わっている。
 当てる為の攻撃から、躱し防がれる事を前提とした攻撃へ。
 何が有ろうと瞬時に切り返せる体勢のままに剣を拳を振り切っているのだ。

 そうなれば当然威力は落ちるだろう。
 けれど反面、反撃カウンターが容易になる。
 そうなれば例え自慢の防御力があろうとも無為に帰す。
 防御の上から被せる様に追撃を打ち込めるからだ。

 茶奈としてもそれは本意ではない。
 打たれ続ける事よりも躱す方が最良だと判断したのだろう。
 だから敢え無く回避に転じている。
 怒涛の連撃を前に焦る事も無く。

 とはいえ冷静に見えても表情は浮かない。
 その証拠と言わんばかりに、嫌悪感を露わにした不満顔を見せている。
 感情の塊とも言える存在なだけに、表情だけはどうにも隠せない様だ。

「調子に乗るなッ!! 肉の分際でえッ!!」

 その嫌悪塗れの顔が歪んで叫びを放つ。
 右手に掴む杖を平に振り切りながら。

 魔剣を使うつもりなのだ。
 大火力を誇った数々なる自慢の技を。

 本来ならこんな乱戦で使える技は無い。
 でもそれは茶奈が周囲を配慮していた時の話で。

 全てにおいて遠慮知らずの今の彼女に、力を留めておく理由など存在しない。



「消 し 飛 べぇーーー!!」


 
 例え速くても。
 例え強靭でも。
 その場全てを焼き尽くされれば逃げ耐える事は叶わない。

 茶奈の狙いは、心輝だった。
 素早いだけの、天力転送の叶わない心輝だった。

 その標的へと向けて、無情の炎が今―――解き放たれる。

 【複合熱榴弾コンポジットカノン】である。
 それも今の茶奈の力を詰め込んだ、尋常ならざる力を誇る黒き弾丸として。

 その速度はまさに光の如し。
 【ペルパリューゼ】の光弾や心輝の機動力をも凌駕する程の。



ッドギャオオオーーーーーーンッッッ!!!!



 そんな凶悪な一撃が間も無く、獄炎と閃光を打ち放つ。
 島上空を黒煙で埋め尽くさんばかりに激しく熱く。

 直撃である。
 見紛う事無く。

「アッハハハ!! これで一つ丸焼き―――ッ!?」

 そのはずだった。
 間違い無く直撃だった。

 しかし茶奈はこの時初めて気付く事となる。
 その直撃であろうとも、唯一抗う事の叶う力を勇達が有しているという事に。

 途端、それは起きた。

 爆炎が、回る。
 黒煙が、歪む。
 陽炎が、捻る。
 まるで中心へと吸い込まれるかの様にして。

 空を覆い尽くした爆発が急激に縮んでいたのだ。
 さながら爆破映像を逆再生させたかの如く。



「んっふふ! 狙い通りいッ!!」



 しかもその場に有り得ないはずの者の声が響く。
 あの瀬玲の嬌声が爆発の中心から。

 そう、瀬玲だ。
 爆炎が消え去った時、その着弾地点には瀬玲が居たのだ。
 心輝を庇う様にその前で、魔剣を盾にして構えながら。
 勇が敢えて彼女を盾として転送したのだろう。

 けどこれが狙いだ。
 瀬玲の目論見通りだ。

 これこそが魔剣【虹閃奏弓ペルパリューゼ】の本領。
 命力吸引―――その能力を存分に奮った結果である。

 そして吸い取った命力はそっくりそのまま自身の力として流用も可能。



 ならば茶奈の弾丸を吸い取った今、極限濃度の命力さえ瀬玲の意のままに。
 


「こいつはお返しィ!!」

 その力がたちまち魔剣の先へと収束されて。
 身が落ち行く中、とうとう茶奈へと解き放たれる事に。

ドォウッ!!

 そうして撃ち出された弾丸は今までの比では無かった。
 人程までに大きく、それでいて赤々と。
 魔剣を介した事で、本質の命力が浄化されて原色へと戻ったのだろう。

「くッ!!」

 そんな巨大光弾を前にすれば、茶奈とて顔を歪ませずにはいられない。
 相応の速度ゆえに回避も不可能と、堪らず身構える姿が。

 だがその反応は間違いだった。
 瀬玲から撃ち返されたのは、決して力そのものではなかったからこそ。



ドッパァーーーンッッ!!!



 なんと、突如として光弾が弾け飛んだのだ。
 大量の光粒を霧散させながら、茶奈の目の前で。

 当然、これはただの不発などではない。
 この光粒をばら撒く事こそが真の狙いだったからこそ。

「何? こ、これは……肉どもが、消えた?」

 その狙いが功を奏し、茶奈が焦りを見せる。
 目前に居る心輝や瀬玲を前にしてもこう宣いながら。

 そう、邪神自身が見失った。
 天士ではない心輝と瀬玲の姿を。



 命力攪乱幕チャフである。
 高濃度の命力を周囲広域に散布する事で二人の存在を覆い隠したのだ。



 直接攻撃ではなく、相手の感覚を奪う弱体攻撃。
 感覚に頼る茶奈の逆手を取った、まさに効果的な行動と言えよう。

 こうなれば感覚で見えるのは勇だけで。
 後の二人を追うには、使い慣れない視覚を用いなければならない。

「そうか肉共……小賢しさだけが卓越したか」

 これは間違い無く茶奈にとって不利となる一歩だ。
 目とも言うべき力を一つ奪い去ったからこそ。

 ただこの攪乱幕はいつまでも続くという訳ではない。

 だからこそ効果の続く限り攻めるだけだ。
 今また勇が心輝が、再び空へと飛び上がる。
 瀬玲の援護射撃が舞うその中で。

 得たチャンスを最大限に生かす為にも。


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