時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」

~命を導く機械神 莉那達 対 揚猜①~

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 岩巨人オーギュが現れたのは、インド共和国、ニューデリー。
 この国の現首都であり、南アジア最大規模の人口密度を誇る都市だ。
 しかもそれだけに留まらず、牽引する様に隣接都市もが近代化の一途を辿っている。
 更には、ヒマラヤ山脈沿いに続く近隣諸国の都市もが連なっていて。
 一括りにすれば、相当な人数がこの地に住んでいると言っても過言では無いだろう。

 だからこそ狙うには打ってつけの場所だった様だ。
 特に、【揚猜】オーギュの様な巨人ならば。
 あの巨体で走ろうものなら、一晩で端から端まで破壊し尽くす事も不可能ではないのだから。

 現に今、オーギュはもう東へと走っている。
 ニューデリー中心地は既に壊滅、ならばと次の破砕地を求めて。
 それもわざわざ人口密集地を踏み潰しながら、まるでステップを踏む様に。
 これだけの巨体・超質量ならば、つど破壊行動を行う必要など無い。

 たった一踏みだ。
 跳ねて一踏みすれば、それだけで周辺全てが一挙にして崩壊する。
 反動跳、衝撃波、更には強烈な地震の発生によって。

 人も瓦礫もそれだけで数十メートルと跳ね上げられて。
 空気抵抗を顧みないからこそ、全てを薙ぎる突風もが吹き荒れる。
 遂には通っていない場所さえも、地震の連鎖崩壊によって須らく倒壊していくという。

 そんな破壊行動がインド、ネパール、またインドとジグザグに続く。
 このままだと、連なる各国の首都を潰しつつ中国にまで到達しかねない。
 そうなればアジアの主要国はほぼ壊滅、未来などあったものではないだろう。

 破壊の規模ならば、オーギュの所業が【六崩世神】の中で段違いに大きいと言える。
 刻まれた軌跡はまさに、世界の終わりの様な光景だったのだ。



 一方その頃、インド東端部。
 小さな隣国ブータンへと続く、とある国道―――



 そこでは深夜にも拘わらず、沢山の人々が列挙して歩く姿があった。
 インドを離れようと、近隣の街からこぞって押し寄せたのだ。
 ニューデリーでの惨事を聞きつけ、急いで避難する為に。

 ブータンは自然保護区が多く、国土の殆どが山林に覆われている。
 だからこそ皆が皆、逃げ隠れるには持って来いだとでも思ったらしい。

 しかしそれは浅はかな判断だ。
 こうも集まってしまえば何の意味も無いのだから。
 人が密集すれば最後、その場はもはや虫を誘う蜜場と化すだろう。

 地獄の軌跡が礎として。

「ふはははッ!! 逃げようとしても無駄だ無駄だァ!! 不遜な肉共の成す事などォ全てが無駄なのだァ!!」

 そう、そんな集団をオーギュが逃がすはずもない。
 より多くの人間を巻き込み、恐怖に陥れようとしているからこそ。
 むしろ、これだけ密集しているなら好都合だ。

 そう言わんばかりに一直線に駆け抜けていく。
 地響きに怯え悲鳴を上げる人々へと向かって。

 そして遂には、その身を玉の様に丸めていて。

「全部まとめて打ち上げてやろォう!! 大地に突くその時までェしっかりと恐怖をひり出すがいいッ!!!」

 その全てを吹き飛ばさんと、力一杯に跳ね上がる。
 余す事の無いようにと、全身を大きく広げさせて。

 人々にはその光景がどの様に見えたのだろうか。
 いや、きっと考える暇も無いだろう。
 自分達に逃げ場は無いのだと、そう絶望していたのだから。



 だが―――



「あれェ!? おい、ちょっと待てェ!?」

 その絶望が降り立つ事は、無かった。
 オーギュの身体が、落ちるどころか空へと浮き上がっていたのだ。
 人々が一心に見上げるその中で。

 なんと、アルクトゥーンがオーギュを捕まえて飛んでいたのである。
 自慢の爪でその肩をしっかりと掴み取って。

 しかも二つの巨体はあっという間に景色の彼方へ。
 〝助かったのか?〟と人々が認識した時にはもう、場は静けさに包まれていた。



 アルクトゥーンの飛行速度はなお衰える事は無かった。
 オーギュを抱えたまま、あのヒマラヤ山脈をもあっという間に越えていて。
 捕らえてものの数秒でその北、中国の砂漠地帯空域へと到達する事に。

 そこへと到達した途端、突如として爪が開かれ。
 たちまちオーギュが放り投げられる様に大地へと落とされる。

「のぉうわぁぁぁ~~~ッ!?」

 どうやらその巨体故に、動作性に関しては他の【六崩世神】よりずっと劣るらしい。
 身軽に動ける岩巨人も、その速度を前には自由が利かなかった様だ。
 遂には真っ逆さまに大地へと飛び込み、上半身から打ち付ける事に。

 落ちた後は倒れた体を鈍い動きで起こし、砂を被った腹顔を何とか揚げさせていて。

「一体何があったってェんじゃあ!? ぬゥ、あ、あれはァ……ッ!?」

 そんな顔が揚げられた時にやっと目撃する事となる。
 己をここまで運び込んだ者を。
 今空の彼方にて、背を見せて大きく旋回する銀飛龍の姿を。



 そして直ぐ目の当たりにする事だろう。
 更なる変化を果たす龍神の真価を。



「ジェネレーター出力、想定の一〇九%。 各部正常。 莉那さん、いつでも行けますよ」

「了解。 これより白兵戦モードへ移行します!」

「【SADAME】システム、正常動作確認オールグリーン。 火器管制の一部操作を譲渡します」

譲渡確認アイマーク―――アルクトゥーン、戦闘コンバットプログラム【G・D・O・N】、起動アクティベーション!!」

 操縦者二人が声を張り上げた時、アルクトゥーンが変形する。
 その巨体で大気を受け止めながら。

 腰部周りに光が走り、その後部が丸ごと回転し。
 空へと向けられた大爪が、弧を描いて後ろへと伸びきって。
 次いで爪先が畳まれれば、たちまち鋭く尖ったつま先と化す。
 その様相はまさに、人脚を模したかの如し。

 直後、胴体左右の外装アーマーが前方へと回転して持ち上がる。
 その途端に内部から現れたのは、腕だった。
 その間も無くに腕がスライドして伸び、関節をも露わとさせて。
 更には自在五指フリーマニピュレータまでもがその姿を晒そう。

 竜を模した頭部にも変化が訪れる。
 下顎部が開く様に丸ごと回転し、なんと人を象った顔が現れたのだ。
 精悍な面立ちを有する雄顔が。

 そして翼が、開く。
 光を、打ち放つ。

 力が今、解き放たれる。



 顕現せしは機械びと
 しかしてその猛々しい巨体はまさしく人神の如し。
 輝銀に煌めくその雄姿は、人類を護りし守護神か。



「おお、これがアルクトゥーン人型最終決戦仕様、【G・D・O・N】モードなのですねぇ」

「いいえお爺様、もはやこれにそんな無粋な名は似合いません。 この機体は希望の一つ、世界の生命を導く機械神なのですから。 それを敢えて名付けるならば―――」

 剛腕が奮いを上げて、鉄拳を握り締める。
 巨脚が大地を突き、その力強さを見せつけながら。
 今こそかつての志を成さんと、その紫晶瞳に命の輝きを瞬かせて。

 しからば見よ。
 これが人類の希望だ。
 古代より受け継ぎし可能性だ。



「―――命導機神、グランディオンッ!!!」


 
 その希望には、勇ましきこの名こそが相応しい。







 姿を変えた今、もはやこれは【機動旗艦アルクトゥーン】ではない。
 莉那と福留が信じ、勇が認めた人型決戦超兵器、【命導機神グランディオン】なのである。

 恐らく古代人はこの様な戦いをも予見していたのだろう。
 イ・ドゥールの想定とはまた違った形での戦いを。
 【グリュダン】という〝アルトランの残滓から生まれた〟驚異の岩巨人を知った事で。

 だからこそ遺したのだ。
 例え命力が無い人間でも戦えるようにと。
 来たるべき時に人類が勝利出来るようにと。

 そしてその希望がこうして遂に現代へと甦る。
 今こそ、邪神の眷属を討ち倒さんと。

「ぬぅぅ!! おのれ許せぇん!! 我が主様に賜りしこの身体と並ぶなどとォ!! だが、そんな鉄屑に何が出来るものかァ!! 所詮は肉が造った玩具よォ!!」

 しかし目の前に居るのは、まさにその宿願とも言える相手だ。
 それも道理も理屈も通用しない相手である以上、待ってくれる理由など無い。

 故に、オーギュはもう走り込んでいた。
 グランディオンが変形完了した時には既に。
 己の道を阻む敵を粉砕せんと、巨腕を振り上げて。

 だがその巨腕が振り抜かれた時、もう既にグランディオンの姿は無かった。

 なんと、紙一重で躱していたのだ。
 まるで人間の様な、軽やかに流れる動きで。

 しかもその時には既に右腕を振り上げていて。
 その巨腕が垂直に鋭く振り下ろされた瞬間、それは起きる。



 突き出されたオーギュの腕が、刎ねたのだ。



 グランディオンの魔剣の如き手刀が、関節を一刀両断したのである。

「ぬわぁにぃ~~~~~~ッッ!!?」

 そうして擦れ違う中、オーギュの顔に驚愕が浮かぶ。
 それだけ信じられない程の機動性を見せつけられたのだから。

 見せつけた動きはまさしく人間―――いや、魔剣使いそのものだったからこそ。

 そう、グランディオンの動作はまさに勇達と遜色違わない。
 天を突かんばかりの巨体にも拘らず。
 物理法則さえも乗り越え、人が創りし超常の力を発揮しよう。 

 その全ては、宿敵を滅ぼさんが為に。

「【SADAME】システム問題無く動作。 では莉那さん、我々の集大成を見せて差し上げましょう」 

「ええ、かつての古代人達の想いに報いる為にも、そして世界を守る為にも―――」

「「私達が、勝ちますッ!!」」

 故に莉那が、福留が咆える。
 自ら礎とした古代人が遺し、カプロとビーンボールが完成させたこの機械神と共に。
 いつか願いし想いを引き継いで、来たるべき明日を迎える為に。

 命導機神グランディオン。
 今こそお前の超力を、存分に奮う時がやってきたのだ。


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