時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」

~世界を在るべきままとする為に 剣聖達 対 憤常②~

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 剣聖が立ち塞がった事でパーシィにも余裕が出来たのだろう。
 空かさず倒されたキャロの下へと向かう姿が。

「良かった、生きてる! 生きてるわぁ!!」

 どうやら最悪の事態は免れたらしい。
 瓦礫の中から彼女を引き出してみれば、まだ息はあった様で。
 そうわかればと直ぐさま抱え込み、颯爽と剣聖達から離れていく。

「悪いけどここは逃げさせて貰うわん!! まぁアタシ達なんか何の役にも立たないだろうしッ」

「ああ、とっとと遠くに逃げやぁがれ」

 そんなパーシィを相手にも、剣聖は背を向けたまま相変わらずの塩対応で突っ返す。
 とはいえ、これが剣聖なりの優しさではあるのだが。

 これから巻き起こす戦いは恐らく、人知を超える。
 そこに〝常人〟二人が巻き込まれれば、剣聖の足枷となってしまうだろう。
 ならこうして逃げて貰った方がずっと戦い易いというものだ。

 幸い、もうゴルペオの好奇心はパーシィ達には向けられていない。
 今は目の前で立つ強者だけに一心を注いでいる様だ。

 故にパーシィ達が無事に彼方へ去ったのは間も無くの事で。

ズズンッ……!!

 たちまち、周辺一体に地響きが唸りを上げ始める。
 剣聖とゴルペオが共に己の身体を震わせた事によって。
 その体に内包した力を昂らせているのである。

 これから始まるであろう激戦に備える為に。

「寝覚めが悪いと言っていたが―――その心配をする必要は無い。 どうせ貴様らに望む明日は来ないのだからな……ッ!!」

「ほぉ、随分な自信じゃあねぇか。 片腕だけでどうするつもりなんだぁよ?」

「これか? 怒怒怒……この程度などなんて事は無いわ!!」

 そんな中、ゴルペオが肘下を失った腕を掲げ、奮わせたままに力を込める。
 するとどうだろう、突如として傷口が紫炎の様な炎に包まれ始めていて。
 その途端、なんと失われていた腕が突如として再生を果たしたではないか。
 まるで塵芥から構築したかの如く、周辺から集まった破片が固まる事で。

 形も、力も先程と寸分と変わらない。
 出来上がった途端に拳を握り締め、その力強さを見せつける。
 ただそれだけで「バォンッ!!」と爆音の如き衝撃波が産まれる程に強く。

「怒怒怒、この通り主様より賜った我の体は不滅。 そして憤怒の如く、打たれれば打たれる程さらなる強靭な肉体へと変化していく。 如何な者とてこの神体を砕き切る事など不可能よ!! その根源たる怒りを拭わねばなあ!!」

 そう、この再生能力こそがゴルペオの自信の根源なのだ。
 人間では絶対に滅せない、永久なる進化を続ける肉体を持つからこそ。

 その様な不死体を造り上げたアルトラン・ネメシスの如何に恐ろしい事か。
 もはや邪神にとって、命とてなんて事の無いただの工作物に過ぎないのだろう。

「いいのかよぉ、そんなネタ晴らししちまって」

「怒、怒、怒!! 構わんッ!! 聞いた所で我を滅する事など不可能なのだからなッ!!」

 しかしその工作物も、人類にとっては最悪の脅威となる。
 パーシィでさえ傷一つ付けられなかった上に、今の剣聖の一撃さえも無為に消え。
 言った通りならば、もう先程の力で打っても砕く事は出来ないかもしれない。
 普通の者ならこれだけで諦めようとも仕方の無い事だ。

 でも剣聖はと言えば―――やはり常人の型には嵌らないらしい。

「クハハ、そうか! 何度でも打ちまくれるって事かぁ!! なかなか面白れぇモン持ってるじゃあねぇか……!! ならよぉう―――」

 見下されていようと関係無く、身構え闘志を滾らせる姿が。

 当人はもう既にやる気充分と言った所か。
 相手が不滅だろうが進化しようが関係無い様だ。

 ならばゴルペオとて応えよう。

 それはこの男が決して武人の心を持つからではない。
 強者を更なる力で容赦無く叩き潰す事が主義趣向だからこそ。
 
「―――早速、ブチかまさせてもらうぜえッ!!」
「来るがいい!! 脆弱な肉如きが愚かさを知れぇいッ!!」

 二人の気迫は既に最高潮だ。
 故に、二人から打ち放たれた闘気がぶつかり合い、衝撃波さえも周囲へ撒き散らす。
 ありとあらゆる粉塵を、瓦礫を巻き上げ吹き飛ばす程に強烈な衝撃力を以って。

 

 だがその瞬間―――



 突如として、その衝撃波さえも押し込み飛ばす程の力が打ち込まれた。
 空より、二人の間を割る様にして。

ッドバォォォーーーーーーンッッ!!!

 まるで爆発だ。
 それも大地を抉り取ってしまう程の。

「んなあッ!?」
「ぬうッ!?」

 余りの威力に、剣聖もゴルペオも堪らず足を退かさせる。
 それだけ、二人にとって想定外でかつ強烈な一撃だったのだから。

 そう、想定外だったのだ。
 その者の登場は、双方にとっても。



「剣聖には悪いけれど、ここは私が戦わせてもらうッ!!」



 そうして現れたのは、人影だった。



 推参せし者、黄金の柔髪を靡かせて。
 銀色の身体にを輝きを、その節々に雷光をも纏い放とう。
 己の宿命に殉ずる事を望むままに。

 【鋼輝妃】ラクアンツェである。

 恐らくはウィグルイ同様、アルクトゥーンへ強引に乗り込んで来たのだろう。
 それも戦力外通告されていたからこそ内緒のままで。
 莉那達も航行に集中していて気付かなかった様だ。

「てめぇ、役立たずは待ってろって言っただろうがッ!!」

「そういう訳にはいかないわ。 私にだって意地があるッ!! 例え不完全であろうと、この力を全て注ぐという覚悟と信念がッ!!」

「て、てんめぇ……!?」

 当然、身体は通告を貰った時のまま。
 異音も出ていれば、節々に走る激痛も未だ健在で。

 でも、それさえも押し退ける気概がラクアンツェにはある。
 三〇〇年で培った胆力は、この程度では怯みもしない。
 それだけ、この長い年月で己を賭け続けて来たから。

 故に引き下がらない。
 例え剣聖が口煩く咆えようとも。
 共に戦う事になろうと、邪魔されようとも。

 世界の敵を討ち滅ぼす為に力を奮う。
 その為に生きて来た彼女に、それ以外の選択肢はあり得ない。

 それが例え、己の死に繋がる事になろうとも。

「同じ様な状況に立たされれば貴方だってこうしたでしょう? なら大人しく黙って見ていなさい。 主役というものは、引き立て役の前座が終わるのを黙って待つものなのだから」

「ラク、おめぇ―――」

「なら、世界を救う為の前座にさせて頂戴。 全ては、〝世界を在るべきままとする為に〟ね」

「―――ッ!? ……ちぃ、わかった。 なら好きにしろや。 だが何もしねぇで負けるんじゃあねぇぞぉ!?」

「ふふ、わかったわ。 ありがと!」

 その覚悟を、その信念を剣聖は知っている。
 だからラクアンツェの心の強さも知っている。
 体が不完全な今でも、仲間の誰よりも強いのだと。

 だからこそこうして送り出す事を決めた。
 共に戦うのでも無く、退けるのでも無く。
 彼女の思うがままに戦わせるのだと。

 決して見放した訳では無い。
 決して疚しい他意など無い。

 これは誓いの形である。
 遥か昔に交わした約束の、あるべきと願った姿なのである。

「どうやら先に我の相手をするのは貴様らしいな。 怒、怒、怒ッ!!」

「ええそうよ。 けれど、舐めないで欲しいわね。 死を賭けた者の強さというものをッ!!」

 ならばもう臆しもしない。
 目の前の強大な宿敵に、一つでも決定的な一打を加える為にも。
 三〇〇年で培い、築き上げて来た希望を後世へ繋げる為にも。

 今、その力を全てぶつけるのみ。



機構解放イグニッションッ!! ウーグィーシュッ・フルオーバードライヴッ!!」
指令受託レディ



 その一言と共に、全身に走光が迸る。
 白銀鋼の輝きを際立たせる黄金の閃光が。
 それと同時に節々から命燐光までもが荒々しく吹き出して。
 肘から、膝から足首から、なんと小さな金の光翼が顕現したのだ。

 まるで極光を纏うかの如く、輝羅輝羅と瞬かせて。

 その姿は他の魔剣と違って殆ど変わりはしない。
 しかして今まで以上の機動性が実現可能となる。
 その節々に制限された機構が解放された事によって。

 こうなれば例え不完全であろうとも関係は無い。
 強引であろうとも、無理があろうとも。
 結果、身体がバラバラになるのだととしても。
 不調ならば、命力で纏めて無理矢理動かせばいいのだから。

 その強き鋼の意思が、不調さえ押し退ける。
 その未来に賭ける輝きが、弱い心を押し退ける。

 故に【鋼輝妃】。
 それこそが真の名の由来。
 鋼の体など、彼女にとってはただの手段にしか過ぎないのだ。

「さぁ、始めましょうか……未来に踏み出す一歩目をッ!!」

「理解出来んなぁ、負ける為の戦いなど!! 怒怒怒ッ!!」

 その【鋼輝妃】が今、剣聖に代わってゴルペオとぶつかり合う。
 全身全霊を賭けて、命ある限りに。

 いつか見た未来を、今生きる子供達へと託す為にも。


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