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第五節「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」
~蜥蜴 防衛 疾風駆ける~
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【ザサブ族】とは今までの魔者とは大きく様相の異なる存在であった。
まるでトカゲの様に鼻と口を前面に突き出した頭部を持ち。
艶やかで赤黒い鱗に覆われた体は人間よりも硬そうにも見える。
とはいえ、体型や背丈はむしろ今までよりずっと人間に近い。
衣服を纏うのは当然の事、木を加工して造り上げた鎧を身に纏っていて。
武器も槍や剣といった対人装備を有し、力でねじ伏せるタイプではない様子。
少なくとも道具を使う辺り、ダッゾ族よりは知能が高いのだろう。
彼等が見せる布陣はまさにそれを体現するもの。
大量の魔者達が個々に五人分ほどの間隔を常に保ち。
広域に展開しつつ、少しづつ坂を下りてきているのだ。
麓下で自衛隊と交戦しているのは先頭に立つ者達だけに過ぎない。
獰猛であろうとも慎重。
確実に前線部隊だけで自衛隊の陣営を押し込んでいるのである。
通常兵器が通用しないのは当然彼等も同じ。
魔剣を持たない相手ならば、たった数人だけでも人間を押し退ける事など造作も無い事だ。
人間側はただただ防ぎ耐える事しか出来ないのだから。
阿蘇山麓、前線地帯。
そこには積まれんばかりの大量のバリケードが張られた様子が。
自衛隊員がその周囲を陣取って、迫り来る魔者達への応戦模様を繰り広げていた。
自衛隊員達の装備も当初と違って対魔者に特化している。
基本的に武装は無意味であり、アーミーナイフや短銃などの護身用のみ。
代わりにジュラルミンや強化樹脂製の大型盾が前線部隊に配備され、行く手を阻む為に役立つ。
ライフル射撃や迫撃砲弾なども撃ち込まれているが、これはもはや威嚇用にしかならない。
前線で盾を並べて耐え忍ぶ姿は中世時代以前の集団戦闘さながら。
とはいえこれは暴徒鎮圧などでも多用される戦法でもあって有用性は高いが。
攻撃が通用しない今、これが最適な対処方法と言える。
しかしそれもその場凌ぎにしかならない。
見た目は原始的な戦いそのものだ。
だが原初こそが最も力に溢れているとはよく言ったもの。
そこに覗くのは現代のテクノロジーすら凌駕する圧倒的暴力。
緩やかではあるが、確実に。
自衛隊陣営は後退を余儀なくされていたのである。
「防御陣形ィ!! 崩されるな、耐えろォ!!」
怒号にも近い叫び声が響き、それに合わせて自衛隊員達が盾を構える。
身を隠す程に巨大な盾を。
それを魔者達が叩き、殴り、斬り突いて、僅かづつ押し退けて行く。
幾度と無くその攻防が繰り返されてきたのだろう、既にどの盾も原型を留めていない。
対して魔者達の武器は―――ほぼ無傷。
青銅や粗鉄といった原始的に近い素材の武器での攻撃にも拘らず。
「ク、クソォ!!」
特に、魔者と対面する自衛隊員はもはや気が気ではない。
何故なら彼の持つ透明な強化樹脂盾が砕け始めていたのだから。
何度も何度も叩き付けられた事で強度限界を超えていたのである。
なまじ見えているからこそ、その恐怖は計り知れない。
バギンッ!!
更には剣による振り下ろしの一撃が盾の表皮を打ち砕き。
遂に刀身が裏側から覗く程に抉り込まれる。
それはつまり、盾を貫通したという事。
たちまちその隙間から覗くのは―――縦筋とも足る爬虫類の細い瞳。
それはたった一瞬の事だったに過ぎない。
でもそれだけで隊員の恐怖を煽るには充分過ぎた。
「うわあああ!?」
恐れないはずも無かったのだ。
その魔者は気付けば剣の切っ先を真っ直ぐ盾へと向けていて。
出来た隙間を今にも貫こうとしていたのだから。
知能があるが故の、正確無情の一撃を放つ為に。
だがその瞬間、疾風の如き人影が戦場を駆け抜ける。
キュウンッ!!!
それは風を裂く音と共に。
自衛隊員はその時何が起きたかすぐに理解する事は出来なかった。
ただただ目の前で起きた事が信じられなくて。
一筋の閃光が視線の先で横一線に刻まれていて。
攻撃しようとしていた魔者が仰け反り跳ねていたのだから。
赤い鮮血を撒き散らしながら。
そして現れたのは――― 一人の少年。
ザザッ!!
黒土を巻き上げながら駆け抜けた勢いを殺し。
片手に握る短剣に付いた血のりを振り払う。
その姿は少年でありながら、もはや戦士そのもの。
そう、勇である。
「怪我は有りませんか!?」
「え? あ、ああ」
その姿を目の当たりにした隊員が驚きを隠せない。
それもそのはず。
突如現れた勇が余りにもそれらしくなかったから。
スポーツウェアを着込んだ幼顔の少年が、軍人でも歯が立たない怪物を一撃で仕留めた。
そのゆるぎない事実がただただ信じられなかったのだ。
彼等も勇達の存在を聞いていない訳ではないのだろう。
それでもこうして驚いたのは、その存在が余りにも不釣り合いで。
でも不思議と頼れる気がしていて。
「た、助かった! すまない、後はよろしく頼む……!!」
気付けばこう返していた。
勇もそれにまんざらではなく。
強い頷きを見せると、再び戦場を駆け抜けていく。
戦場に訪れた以上、もう立ち止まる事は許されない。
今こうしている間にも魔者達は次々と進軍しているのだから。
その進攻を食い止める為にも。
勇はただただ戦場を―――駆け抜ける。
まるでトカゲの様に鼻と口を前面に突き出した頭部を持ち。
艶やかで赤黒い鱗に覆われた体は人間よりも硬そうにも見える。
とはいえ、体型や背丈はむしろ今までよりずっと人間に近い。
衣服を纏うのは当然の事、木を加工して造り上げた鎧を身に纏っていて。
武器も槍や剣といった対人装備を有し、力でねじ伏せるタイプではない様子。
少なくとも道具を使う辺り、ダッゾ族よりは知能が高いのだろう。
彼等が見せる布陣はまさにそれを体現するもの。
大量の魔者達が個々に五人分ほどの間隔を常に保ち。
広域に展開しつつ、少しづつ坂を下りてきているのだ。
麓下で自衛隊と交戦しているのは先頭に立つ者達だけに過ぎない。
獰猛であろうとも慎重。
確実に前線部隊だけで自衛隊の陣営を押し込んでいるのである。
通常兵器が通用しないのは当然彼等も同じ。
魔剣を持たない相手ならば、たった数人だけでも人間を押し退ける事など造作も無い事だ。
人間側はただただ防ぎ耐える事しか出来ないのだから。
阿蘇山麓、前線地帯。
そこには積まれんばかりの大量のバリケードが張られた様子が。
自衛隊員がその周囲を陣取って、迫り来る魔者達への応戦模様を繰り広げていた。
自衛隊員達の装備も当初と違って対魔者に特化している。
基本的に武装は無意味であり、アーミーナイフや短銃などの護身用のみ。
代わりにジュラルミンや強化樹脂製の大型盾が前線部隊に配備され、行く手を阻む為に役立つ。
ライフル射撃や迫撃砲弾なども撃ち込まれているが、これはもはや威嚇用にしかならない。
前線で盾を並べて耐え忍ぶ姿は中世時代以前の集団戦闘さながら。
とはいえこれは暴徒鎮圧などでも多用される戦法でもあって有用性は高いが。
攻撃が通用しない今、これが最適な対処方法と言える。
しかしそれもその場凌ぎにしかならない。
見た目は原始的な戦いそのものだ。
だが原初こそが最も力に溢れているとはよく言ったもの。
そこに覗くのは現代のテクノロジーすら凌駕する圧倒的暴力。
緩やかではあるが、確実に。
自衛隊陣営は後退を余儀なくされていたのである。
「防御陣形ィ!! 崩されるな、耐えろォ!!」
怒号にも近い叫び声が響き、それに合わせて自衛隊員達が盾を構える。
身を隠す程に巨大な盾を。
それを魔者達が叩き、殴り、斬り突いて、僅かづつ押し退けて行く。
幾度と無くその攻防が繰り返されてきたのだろう、既にどの盾も原型を留めていない。
対して魔者達の武器は―――ほぼ無傷。
青銅や粗鉄といった原始的に近い素材の武器での攻撃にも拘らず。
「ク、クソォ!!」
特に、魔者と対面する自衛隊員はもはや気が気ではない。
何故なら彼の持つ透明な強化樹脂盾が砕け始めていたのだから。
何度も何度も叩き付けられた事で強度限界を超えていたのである。
なまじ見えているからこそ、その恐怖は計り知れない。
バギンッ!!
更には剣による振り下ろしの一撃が盾の表皮を打ち砕き。
遂に刀身が裏側から覗く程に抉り込まれる。
それはつまり、盾を貫通したという事。
たちまちその隙間から覗くのは―――縦筋とも足る爬虫類の細い瞳。
それはたった一瞬の事だったに過ぎない。
でもそれだけで隊員の恐怖を煽るには充分過ぎた。
「うわあああ!?」
恐れないはずも無かったのだ。
その魔者は気付けば剣の切っ先を真っ直ぐ盾へと向けていて。
出来た隙間を今にも貫こうとしていたのだから。
知能があるが故の、正確無情の一撃を放つ為に。
だがその瞬間、疾風の如き人影が戦場を駆け抜ける。
キュウンッ!!!
それは風を裂く音と共に。
自衛隊員はその時何が起きたかすぐに理解する事は出来なかった。
ただただ目の前で起きた事が信じられなくて。
一筋の閃光が視線の先で横一線に刻まれていて。
攻撃しようとしていた魔者が仰け反り跳ねていたのだから。
赤い鮮血を撒き散らしながら。
そして現れたのは――― 一人の少年。
ザザッ!!
黒土を巻き上げながら駆け抜けた勢いを殺し。
片手に握る短剣に付いた血のりを振り払う。
その姿は少年でありながら、もはや戦士そのもの。
そう、勇である。
「怪我は有りませんか!?」
「え? あ、ああ」
その姿を目の当たりにした隊員が驚きを隠せない。
それもそのはず。
突如現れた勇が余りにもそれらしくなかったから。
スポーツウェアを着込んだ幼顔の少年が、軍人でも歯が立たない怪物を一撃で仕留めた。
そのゆるぎない事実がただただ信じられなかったのだ。
彼等も勇達の存在を聞いていない訳ではないのだろう。
それでもこうして驚いたのは、その存在が余りにも不釣り合いで。
でも不思議と頼れる気がしていて。
「た、助かった! すまない、後はよろしく頼む……!!」
気付けばこう返していた。
勇もそれにまんざらではなく。
強い頷きを見せると、再び戦場を駆け抜けていく。
戦場に訪れた以上、もう立ち止まる事は許されない。
今こうしている間にも魔者達は次々と進軍しているのだから。
その進攻を食い止める為にも。
勇はただただ戦場を―――駆け抜ける。
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