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第五節「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」
~来客 油断 難しき隠し事~
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池上達の襲撃は不運でもあったが、悪い事だらけという訳でも無く。
命力の有用的な使い方も実践する事が出来て。
そして何より、これ以上に無い気晴らしになった様で。
自宅に向かう勇の足取りは、当初よりもずっと気軽だった。
とはいえ、勇がやったのは言わば一方的な返り討ちな訳で。
こればかりは仕方ない事としよう。
襲撃現場からほんの少し歩けば、もうそこには自宅が待っている。
さすがにあれだけ激しく動けば疲れるもので。
こればかりは命力があろうとも防げない。
早く帰って休みたいと歩幅も増すほどだ。
自宅のある通りが見えれば、自然と安堵の笑みが零れもしよう。
しかしそんな勇の目にちょっとした違和感が映り込む。
それはその通りの手前に備えられた有料駐車場。
そこに見慣れない車が停まっていたのだ。
それが普通の車だったらきっと気にも留めなかっただろう。
でもその車は明らかに場違いと思える程に目立つ様相を誇っていて。
純白のボディに金の装飾フレーム、外国製エンブレムはもはやご愛敬。
先日乗った物と異なる車種という所がまた、あの人の底知れない財力を匂わせてならない。
そう、きっとそれは福留の車。
こんなデザインが彼の好みなのだろうか。
先日の物とはて非なる造形を前に、勇も思わず首を傾げる。
とはいえ、大事な人を待たせるは悪いと思うのが人というもの。
それに気付くと、勇は一目散に自宅へと駆けていった。
◇◇◇
どうやら勇の予感は的中した様だ。
自宅に足を踏み入れれば、玄関に革靴が丁寧に揃えて置かれていて。
当然の事ながら、高級感溢れるブランド製品である。
周囲の靴が余計に離れて置かれてる辺り、揃えたであろう親もそれを察したのだろう。
ほんの少し露骨だが。
「ただいま。 福留さん来てるんですか?」
「えぇ勇君、お邪魔していますよ」
そんな声が聴こえて、思わず勇が「にしし」と影で笑みを浮かべる。
「やっぱりかぁ」などと思いつつ、目の前の革靴の状態にも笑えてならなくて。
靴を脱いで上がり込めば、リビングには福留と母親の姿が。
ダイニングテーブルを挟んで座り、にこやかな笑顔で勇を迎える。
その雰囲気からは緊急性の様なものを一切感じられない。
きっと今まで二人で談笑でもしていたのだろう。
つまり今日訪れた理由はそれほど大変な話では無いという事だ。
敢えて言うなら、きっと政府との契約に関する話といった所か。
その証拠と言わんばかりに、テーブルの上には何やら書類らしき茶封筒が沢山積まれていて。
それが福留の持ち込んだ物という事は明白だ。
何せ朝に机の上を片付けたのは勇なのだから。
「ちょっとこれからの事で相談があるんだって。 それで早く帰ろうって事になったのよ」
母親がこうやって早く帰ってきているという事は、恐らくは父親も。
今頃、馴れない満員電車という社会の荒波に揉まれながら向かっている事だろう。
大事な車は残念ながらもうございません。
こればかりは政府の要望でもどうしようもない事である。
「そういえば、ちゃなちゃんは一緒じゃないの?」
「あ、うん。 田中さんは見なかったから」
「あらそう」
一応は探したのだが、勇がクラスに辿り着いた時にはもう居なくて。
音沙汰も無いという事から、先に帰宅したとでも思っていたものだが。
こうもなると「どこに行ったのだろう?」とも思う。
気付けば玄関前で立ち尽くし、「大丈夫かな」と心配の表情を浮かべる勇の姿が。
そんな折、福留は勇の服装をしきりに眺めていて。
まるで表情も変えず、視線だけをしきりに動かしながら。
「勇君、まだお若いのでやんちゃなのはわかりますが、程々にお願いいたしますねぇ」
「え? あ、はい……」
どうやらそれだけで勇が何をしてきたのか、なんとなく察した様だ。
しかし母親に気付かれぬ様にと配慮したのだろう、無難な言葉で釘を刺す。
これには勇ももはやタジタジだ。
よく見れば勇の服装は至る所がグシャグシャにヨレている。
場所によっては裂けている所が見え。
一部は攻撃が裂けきれずに破られた箇所も。
幸いな事に、いずれも目を凝らさなければ目立たない程度のものであるが。
余裕そうで意外とそうでもない結果に、「詰めが甘かったか」などと思ってならない。
「ところで勇君、部活とかの件はどうでしたか?」
「部活は辞めてきました。 色々と先輩に食いつかれて面倒でしたけどね」
「そうですか。 本当ならば続けて頂きたい所なんですがねぇ」
福留がどこか申し訳なさそうに眉を細める。
この様に、なんて事の無い会話をする時の表情はとてもあからさまで。
まるで顔で会話しているのかと思える程に柔軟で感情が読み取りやすい。
そんな素直な側面に精神面で助けられているからこそ、勇もこうして素直に返す事が出来るのだ。
「理由は理解はしてるつもりなんで大丈夫です。 それに魔者相手だと実感が殆ど無いんですが、人間相手だと恐ろしいくらいに強くなってるってわかりましたから」
「人間相手って、勇君ケンカでもしてきたの? そういえば服ヨレヨレじゃない!?」
「あ、やっべ……」
こうして折角の配慮も勇のうっかりで無為に消え。
たちまち福留の顔に苦悶の表情が浮かび上がる。
勇の正直さは筋金入りの様だ。
誠実で素直な父親と、おっとりとしていて隙だらけな母親の間とに生まれた子供らしいとも言えるが。
「勇君はもう少し言葉の選び方に気を付けた方がいいかもしれませんねぇ?」
「き、気を付けます……」
これには勇も苦笑を浮かべる他無く。
「プンプン」と怒る母親を福留に任せ、着替える為に自室へ向けて階段を駆け上っていくのだった。
命力の有用的な使い方も実践する事が出来て。
そして何より、これ以上に無い気晴らしになった様で。
自宅に向かう勇の足取りは、当初よりもずっと気軽だった。
とはいえ、勇がやったのは言わば一方的な返り討ちな訳で。
こればかりは仕方ない事としよう。
襲撃現場からほんの少し歩けば、もうそこには自宅が待っている。
さすがにあれだけ激しく動けば疲れるもので。
こればかりは命力があろうとも防げない。
早く帰って休みたいと歩幅も増すほどだ。
自宅のある通りが見えれば、自然と安堵の笑みが零れもしよう。
しかしそんな勇の目にちょっとした違和感が映り込む。
それはその通りの手前に備えられた有料駐車場。
そこに見慣れない車が停まっていたのだ。
それが普通の車だったらきっと気にも留めなかっただろう。
でもその車は明らかに場違いと思える程に目立つ様相を誇っていて。
純白のボディに金の装飾フレーム、外国製エンブレムはもはやご愛敬。
先日乗った物と異なる車種という所がまた、あの人の底知れない財力を匂わせてならない。
そう、きっとそれは福留の車。
こんなデザインが彼の好みなのだろうか。
先日の物とはて非なる造形を前に、勇も思わず首を傾げる。
とはいえ、大事な人を待たせるは悪いと思うのが人というもの。
それに気付くと、勇は一目散に自宅へと駆けていった。
◇◇◇
どうやら勇の予感は的中した様だ。
自宅に足を踏み入れれば、玄関に革靴が丁寧に揃えて置かれていて。
当然の事ながら、高級感溢れるブランド製品である。
周囲の靴が余計に離れて置かれてる辺り、揃えたであろう親もそれを察したのだろう。
ほんの少し露骨だが。
「ただいま。 福留さん来てるんですか?」
「えぇ勇君、お邪魔していますよ」
そんな声が聴こえて、思わず勇が「にしし」と影で笑みを浮かべる。
「やっぱりかぁ」などと思いつつ、目の前の革靴の状態にも笑えてならなくて。
靴を脱いで上がり込めば、リビングには福留と母親の姿が。
ダイニングテーブルを挟んで座り、にこやかな笑顔で勇を迎える。
その雰囲気からは緊急性の様なものを一切感じられない。
きっと今まで二人で談笑でもしていたのだろう。
つまり今日訪れた理由はそれほど大変な話では無いという事だ。
敢えて言うなら、きっと政府との契約に関する話といった所か。
その証拠と言わんばかりに、テーブルの上には何やら書類らしき茶封筒が沢山積まれていて。
それが福留の持ち込んだ物という事は明白だ。
何せ朝に机の上を片付けたのは勇なのだから。
「ちょっとこれからの事で相談があるんだって。 それで早く帰ろうって事になったのよ」
母親がこうやって早く帰ってきているという事は、恐らくは父親も。
今頃、馴れない満員電車という社会の荒波に揉まれながら向かっている事だろう。
大事な車は残念ながらもうございません。
こればかりは政府の要望でもどうしようもない事である。
「そういえば、ちゃなちゃんは一緒じゃないの?」
「あ、うん。 田中さんは見なかったから」
「あらそう」
一応は探したのだが、勇がクラスに辿り着いた時にはもう居なくて。
音沙汰も無いという事から、先に帰宅したとでも思っていたものだが。
こうもなると「どこに行ったのだろう?」とも思う。
気付けば玄関前で立ち尽くし、「大丈夫かな」と心配の表情を浮かべる勇の姿が。
そんな折、福留は勇の服装をしきりに眺めていて。
まるで表情も変えず、視線だけをしきりに動かしながら。
「勇君、まだお若いのでやんちゃなのはわかりますが、程々にお願いいたしますねぇ」
「え? あ、はい……」
どうやらそれだけで勇が何をしてきたのか、なんとなく察した様だ。
しかし母親に気付かれぬ様にと配慮したのだろう、無難な言葉で釘を刺す。
これには勇ももはやタジタジだ。
よく見れば勇の服装は至る所がグシャグシャにヨレている。
場所によっては裂けている所が見え。
一部は攻撃が裂けきれずに破られた箇所も。
幸いな事に、いずれも目を凝らさなければ目立たない程度のものであるが。
余裕そうで意外とそうでもない結果に、「詰めが甘かったか」などと思ってならない。
「ところで勇君、部活とかの件はどうでしたか?」
「部活は辞めてきました。 色々と先輩に食いつかれて面倒でしたけどね」
「そうですか。 本当ならば続けて頂きたい所なんですがねぇ」
福留がどこか申し訳なさそうに眉を細める。
この様に、なんて事の無い会話をする時の表情はとてもあからさまで。
まるで顔で会話しているのかと思える程に柔軟で感情が読み取りやすい。
そんな素直な側面に精神面で助けられているからこそ、勇もこうして素直に返す事が出来るのだ。
「理由は理解はしてるつもりなんで大丈夫です。 それに魔者相手だと実感が殆ど無いんですが、人間相手だと恐ろしいくらいに強くなってるってわかりましたから」
「人間相手って、勇君ケンカでもしてきたの? そういえば服ヨレヨレじゃない!?」
「あ、やっべ……」
こうして折角の配慮も勇のうっかりで無為に消え。
たちまち福留の顔に苦悶の表情が浮かび上がる。
勇の正直さは筋金入りの様だ。
誠実で素直な父親と、おっとりとしていて隙だらけな母親の間とに生まれた子供らしいとも言えるが。
「勇君はもう少し言葉の選び方に気を付けた方がいいかもしれませんねぇ?」
「き、気を付けます……」
これには勇も苦笑を浮かべる他無く。
「プンプン」と怒る母親を福留に任せ、着替える為に自室へ向けて階段を駆け上っていくのだった。
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