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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~嵐前、座し~
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アメリカ合衆国にて緊急議会が開かれた翌日。
政府が国民に向けてグランディーヴァとの全面戦争の事を一斉に報道。
それに伴い、東海岸一帯の民間人は一時退去を命じられる事となった。
本土が戦闘地域になる可能性を万が一考慮しての配慮である。
その中心がさすがの大都市ともあって人数も多く。
報道直後から交通機関が麻痺する程に渋滞や混雑が発生。
ものものしい雰囲気が東海岸一帯を騒然とさせたものだ。
しかし猶予はおおよそ四日間ともあって。
期限間近ともなれば街からは殆ど人の姿は見られなくなっていた。
また、議会直後よりアメリカ軍も大きな動きを見せ始める。
東海岸に向けて戦力が集結しつつあったのだ。
海軍は巨大な原子力空母を筆頭に、駆逐艦や護衛艦などといった無数の戦艦が。
空軍は自慢の航空戦力を始め、武器弾薬の輸送や人員の補充など。
もちろんそれが全てではない。
彼等は他の国に対しても警戒しなければならないからだ。
アメリカという国は昔から多くの国と戦いを繰り広げて来た歴史があり、反感を持つ国も少なくは無い。
虎視眈々と勢力拡大を狙う国や反旗を翻さんとする国もあり、今回の戦いで隙を見せる訳にはいかないのである。
だがそれでもその戦力は広大な東海岸沖を埋め尽くさんばかりの規模。
それだけの戦力がグランディーヴァを迎え撃とうとしているのだ。
では何故そうピンポイントに配置したのか。
それはアメリカ軍には勇達の目標地点が既にわかっていたからだ。
それはホワイトハウスの南西すぐ近くにある、五角系の形を有した巨大な建造物。
俗に言う【ペンタゴン】と呼ばれる、アメリカ合衆国国防総省の本部だ。
今回の作戦指令部が設置された場所でもある。
そこにエイミーを始めとした軍関係者を集結させていたからだ。
つまりその指令部を落とされればアメリカの敗北という事。
敢えてその状況を作りだし、勇達の行動を絞ったのである。
もちろんそれはエイミーも承知の上。
むしろ彼女は強く望んだのだ。
「グランディーヴァを正面から叩き潰す為に、私はここに居なければならない」と。
国防総省本部地下、作戦司令部。
多くの監視モニターやパソコンが壁や広間に等間隔で並べられ、状況を逐一映す。
その目下では無数の兵士が走り回り、戦闘に向けての準備を着々とこなす姿が。
そんな中、エイミーら重要人物達はガラス窓で隔離された空間に座して話を交わしていた。
エイミーは最高裁定者として中心の椅子へと座し。
側近としてロドニーという白髪の男が彼女の傍に付く。
着任間もない彼女を補佐する為に。
その背後には例の二人のボディーガードの姿が。
身辺の防備は完璧という訳だ。
その他を軍高官が連ねて机を囲む。
当然彼等も【アースレイジー】のシンパ達である。
作戦司令部には彼女の信頼する人員だけが配置されていて、作戦は難なく遂行可能。
それだけの人員を確保出来ている辺りは彼女の幅広い人脈が故か。
もちろん全員が【アースレイジー】の関係者である。
それも当然か。
彼女達が恐れたのは背中から撃たれる事。
つまり味方からの裏切りだからだ。
現在この国では、国民間でグランディーヴァ勢とアースレイジー勢、二つの勢力に分かれている。
今でこそグランディーヴァ勢力は大きく数を減らしたが、彼等へのシンパはまだまだ多い。
軍部にも根強く残り、グランディーヴァとの戦闘の際には彼等が手引きをしかねないと考えているのだ。
だからこそ、彼等は身内だけで戦う事を選んだ。
実際に、大西洋に集結中の前線艦隊には【アースレイジー】の関係者が厳選した精鋭を配置。
逆にグランディーヴァ勢は彼等と入れ替わる様に太平洋防衛網へと配置、手出しは出来ない。
どちらにも加担していない人員は東海岸沖を守る砦の役割を与えられている。
その配置にしたのにも理由は当然ある。
【アースレイジー】関係者ではない人間を後ろに配置したのは、万が一にもグランディーヴァに合流して戦力にされない為。
そして関係者を前線に配置したのは、全攻撃的戦力を駆使して圧倒する為。
エイミー達は最初の戦いで全てを決するつもりでいたのだ。
相手がもし国家であればそれは無謀というもの。
しかし今回の敵はグランディーヴァという一団体。
たった一隻の巨大空中戦艦を基軸とした極小規模勢力に過ぎないのだ。
更に、彼女達も知っていたのだ。
集中砲火を浴びせれば、アルクトゥーンはいとも容易く堕とせる事を。
それらの詳細データは全てブライアン側から提供された極秘資料から得たもの。
提供された意図こそ読めはしないが、これ以上無い情報にエイミー達が利用しない訳も無く。
「エイミー大統領代理、彼等は本当に東海岸から攻めて来るのだろうか」
「ええ、彼等は来ます。 間違いなく。 これはブライアン大統領も承知の事です」
そして何よりも、エイミーは勇の進路を知っていたから。
勇はブライアン大統領に直接こう言い放った。
「大西洋側より進軍する」と。
その様子はハッキリと議会にて動画で公開されており、彼女も当然その点を把握している。
それをハッタリであると見る者も少なくは無いだろう。
しかし彼女は確信していた。
藤咲勇は口にしたら必ず実行に移す男なのだと。
そしてその真意も。
「彼等は正しさを証明する為にも必ず抜けようとしてくるでしょう。 そう、東側……からね」
その時エイミーは体をそっと椅子の背もたれへと預け、照明しかない天井を見上げる。
その先に見える光景を思い返しながら。
彼女が予感する真の進路、それは―――
こうして開戦まで残り後一日という所で、アメリカ軍側の準備は全てが整った。
後は指定された期日の午後0:00をもって開始される戦いを待つのみ。
エイミーはその中でしたたかに笑う。
一足早い大統領の座を得た事、そしてグランディーヴァを叩き潰す機会を得た事に。
もうこの戦いは避けられない。
どちらも引き下がる事の出来ない戦いだから。
様々な想いが交錯するアメリカ本土。
果たして、最後に残るのは誰の想いなのだろうか……。
政府が国民に向けてグランディーヴァとの全面戦争の事を一斉に報道。
それに伴い、東海岸一帯の民間人は一時退去を命じられる事となった。
本土が戦闘地域になる可能性を万が一考慮しての配慮である。
その中心がさすがの大都市ともあって人数も多く。
報道直後から交通機関が麻痺する程に渋滞や混雑が発生。
ものものしい雰囲気が東海岸一帯を騒然とさせたものだ。
しかし猶予はおおよそ四日間ともあって。
期限間近ともなれば街からは殆ど人の姿は見られなくなっていた。
また、議会直後よりアメリカ軍も大きな動きを見せ始める。
東海岸に向けて戦力が集結しつつあったのだ。
海軍は巨大な原子力空母を筆頭に、駆逐艦や護衛艦などといった無数の戦艦が。
空軍は自慢の航空戦力を始め、武器弾薬の輸送や人員の補充など。
もちろんそれが全てではない。
彼等は他の国に対しても警戒しなければならないからだ。
アメリカという国は昔から多くの国と戦いを繰り広げて来た歴史があり、反感を持つ国も少なくは無い。
虎視眈々と勢力拡大を狙う国や反旗を翻さんとする国もあり、今回の戦いで隙を見せる訳にはいかないのである。
だがそれでもその戦力は広大な東海岸沖を埋め尽くさんばかりの規模。
それだけの戦力がグランディーヴァを迎え撃とうとしているのだ。
では何故そうピンポイントに配置したのか。
それはアメリカ軍には勇達の目標地点が既にわかっていたからだ。
それはホワイトハウスの南西すぐ近くにある、五角系の形を有した巨大な建造物。
俗に言う【ペンタゴン】と呼ばれる、アメリカ合衆国国防総省の本部だ。
今回の作戦指令部が設置された場所でもある。
そこにエイミーを始めとした軍関係者を集結させていたからだ。
つまりその指令部を落とされればアメリカの敗北という事。
敢えてその状況を作りだし、勇達の行動を絞ったのである。
もちろんそれはエイミーも承知の上。
むしろ彼女は強く望んだのだ。
「グランディーヴァを正面から叩き潰す為に、私はここに居なければならない」と。
国防総省本部地下、作戦司令部。
多くの監視モニターやパソコンが壁や広間に等間隔で並べられ、状況を逐一映す。
その目下では無数の兵士が走り回り、戦闘に向けての準備を着々とこなす姿が。
そんな中、エイミーら重要人物達はガラス窓で隔離された空間に座して話を交わしていた。
エイミーは最高裁定者として中心の椅子へと座し。
側近としてロドニーという白髪の男が彼女の傍に付く。
着任間もない彼女を補佐する為に。
その背後には例の二人のボディーガードの姿が。
身辺の防備は完璧という訳だ。
その他を軍高官が連ねて机を囲む。
当然彼等も【アースレイジー】のシンパ達である。
作戦司令部には彼女の信頼する人員だけが配置されていて、作戦は難なく遂行可能。
それだけの人員を確保出来ている辺りは彼女の幅広い人脈が故か。
もちろん全員が【アースレイジー】の関係者である。
それも当然か。
彼女達が恐れたのは背中から撃たれる事。
つまり味方からの裏切りだからだ。
現在この国では、国民間でグランディーヴァ勢とアースレイジー勢、二つの勢力に分かれている。
今でこそグランディーヴァ勢力は大きく数を減らしたが、彼等へのシンパはまだまだ多い。
軍部にも根強く残り、グランディーヴァとの戦闘の際には彼等が手引きをしかねないと考えているのだ。
だからこそ、彼等は身内だけで戦う事を選んだ。
実際に、大西洋に集結中の前線艦隊には【アースレイジー】の関係者が厳選した精鋭を配置。
逆にグランディーヴァ勢は彼等と入れ替わる様に太平洋防衛網へと配置、手出しは出来ない。
どちらにも加担していない人員は東海岸沖を守る砦の役割を与えられている。
その配置にしたのにも理由は当然ある。
【アースレイジー】関係者ではない人間を後ろに配置したのは、万が一にもグランディーヴァに合流して戦力にされない為。
そして関係者を前線に配置したのは、全攻撃的戦力を駆使して圧倒する為。
エイミー達は最初の戦いで全てを決するつもりでいたのだ。
相手がもし国家であればそれは無謀というもの。
しかし今回の敵はグランディーヴァという一団体。
たった一隻の巨大空中戦艦を基軸とした極小規模勢力に過ぎないのだ。
更に、彼女達も知っていたのだ。
集中砲火を浴びせれば、アルクトゥーンはいとも容易く堕とせる事を。
それらの詳細データは全てブライアン側から提供された極秘資料から得たもの。
提供された意図こそ読めはしないが、これ以上無い情報にエイミー達が利用しない訳も無く。
「エイミー大統領代理、彼等は本当に東海岸から攻めて来るのだろうか」
「ええ、彼等は来ます。 間違いなく。 これはブライアン大統領も承知の事です」
そして何よりも、エイミーは勇の進路を知っていたから。
勇はブライアン大統領に直接こう言い放った。
「大西洋側より進軍する」と。
その様子はハッキリと議会にて動画で公開されており、彼女も当然その点を把握している。
それをハッタリであると見る者も少なくは無いだろう。
しかし彼女は確信していた。
藤咲勇は口にしたら必ず実行に移す男なのだと。
そしてその真意も。
「彼等は正しさを証明する為にも必ず抜けようとしてくるでしょう。 そう、東側……からね」
その時エイミーは体をそっと椅子の背もたれへと預け、照明しかない天井を見上げる。
その先に見える光景を思い返しながら。
彼女が予感する真の進路、それは―――
こうして開戦まで残り後一日という所で、アメリカ軍側の準備は全てが整った。
後は指定された期日の午後0:00をもって開始される戦いを待つのみ。
エイミーはその中でしたたかに笑う。
一足早い大統領の座を得た事、そしてグランディーヴァを叩き潰す機会を得た事に。
もうこの戦いは避けられない。
どちらも引き下がる事の出来ない戦いだから。
様々な想いが交錯するアメリカ本土。
果たして、最後に残るのは誰の想いなのだろうか……。
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