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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~SS、三つ~
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SS第五話
≪続・愛を求める創世の女神さん≫
アルクトゥーンは現在、地中海上空を航行中。
洋上の空と言えば敵が近づくのも困難。
それに加えて国連の眼が光っているヨーロッパならば攻撃を仕掛けるのも容易ではないだろう。
例え国連そのものの力が言う程の効力を発揮せずとも、正当性と証拠を明示した彼等に反論出来る国は少ない。
少なくとも勇達に国連が立っている以上、所属国家が無差別に攻撃を仕掛ける事は無いと言える。
ただの団体である【救世同盟】と違い、国とは約束の下に成り立つものなのだから。
勇達グランディーヴァはそれを成す事が出来たから、認められる事が出来たのだ。
そんな束の間の平穏を享受する様に、多くの乗務員達が自分達の時間を過ごす。
艦内の持ち場で仕事に勤しむ者、自分達の出来る事を探す者、訓練に汗を流す者。
しかしそれらも夜となれば寝静まり、夜なりの時間を過ごし始める。
それは勇と茶奈も例外では無かった。
「茶奈……」
「勇さん……」
灯りの消えた一つの部屋。
愛を受け入れ合った二人が見つめ、想いを馳せる。
互いの腰を取り、積み重ねられた想いが瞳に浮かぶ。
二人は鼓動の高鳴るままに。
互いを受け入れようと、そっと腕を互いの背へと回した。
人が愛し合うという事……それは抱き合うという事。
二人もまた人だから、愛し合える。
そこに天力や命力などは必要無い。
ア・リーヴェさんの視線も、必要無い。
「―――で、ア・リーヴェ、いつまで見てるんだ?」
『おかまいなく。 私は天士ゆえ、お二人の行為を邪魔する様な事はありません』
ベッドの前で腕を回し合う二人を見つめるのは、扉の前で正座するア・リーヴェさん。
暗がりの中であろうとも関係無く、二人の姿を見開いた眼でガン見していた。
「いや、そういう問題じゃないから。 見られるの恥ずかしいから」
『いえ、お気になさらぬよう。 私は天力で出来た身……いわば生物とは違うのです。 なので人形と思い、無視して頂きますよう』
頑なにその場を離れようともせず。
それどころか正座を崩し、アンダービューで眺めようと二人の足元へ尻餅のまま擦り寄っていく。
小さくて暗くて見難いが、その口元に浮かぶのはアヒル口。
明らかな故意である。
『なんでしたら私を使って頂いても構いません』
「どういう意味それ!?」
最近何かと心輝の下に訪れ、ゲームについて話を詳しく聞いているア・リーヴェさんの姿があったという。
そこから推測するに、昔の茶奈の様に余計な知識を彼から得てしまったのかもしれない。
もはや勇と茶奈の思考すら超えたア・リーヴェさんの暴挙を前に、高鳴る鼓動もドン引きだ。
「もういいか……ごめん茶奈……」
「ううん……仕方ないですよ、ア・リーヴェさんですし……」
足元で哀しい目を向けるア・リーヴェさんを他所に、二人が下がりきったテンションに従うまま体を離す。
服すら脱ぐ事は無かったので、何も始まってすらいなかった訳であるが。
残念な気持ちのまま少しだけ話を交わすと、茶奈は自室へ帰っていったのだった。
結局その後もなんだかんだとア・リーヴェさんの邪魔が入り。
道中で二人の仲がそれ以上進展する事は無かったのだという。
◇◇◇
SS第六話
≪創世の女神さんと謎生物≫
それはなんて事の無い昼間の出来事。
勇と茶奈が二人揃って居住区を歩く。
自室で使う消耗品が切れ掛けという事もあり、折角だからと一緒にお買い物。
本来なら訓練詰めにしたい所なのだが、動き詰めでも心が参ってしまう。
たまにはこうしてのびのびと過ごす事も必要な訳で。
これは魔特隊時代から続く一種の慣習にも近い休養日。
彼等に許された安息の時間である。
しかしこの日、ほんの些細な出来事が二人を襲う。
『フジサキユウ……どうか、どうか―――』
道行く二人の耳に、心に、悲哀に満ちたア・リーヴェさんの声が響く。
『どうか救ってください……お願い致します……』
それは二人の胸中を突き刺す程に、強い想いが籠った心声。
それに気付き、強く引かれんばかりの勢いでその顔を振り向かせた。
その時二人の前に姿を現したのは―――キッピーに咥えられたア・リーヴェさん。
見るからに全力だった。
飲み込まれまいと全力で抵抗し、口のヘリに片足と両腕を引っ掛けて耐えていたのだ。
しかしキッピーのカエルの様に長い舌が体に絡みつき、ア・リーヴェさんを捕まえて離さない。
いや実際にはそこまで長くないが、長きに渡る攻防で伸びきっただけだ。
一体どれだけの時間をその攻防に費やしたかは定かではない。
だがキッピーも顔を赤く腫らせており、相当な時間が経過していると思われる。
二人共必死なのだ。
何が何でもア・リーヴェさんを食べたいキッピー。
何が何でもキッピーから救われたいア・リーヴェさん。
二人の激しい戦いは続き、今なお熾烈さを増す。
『ぐあああ!!』
そこで遂にキッピーが奥の手を繰り出した。
それはなんと手。
手を使い始めたのだ。
今まで何故使っていなかったのかと突っ込まざるを得ないが。
しかしキッピーの腕力は言う程強くは無い。
とうとう引き込まれ始めるア・リーヴェさんだったが、彼女も負けてはいない。
キッピーの唇に指を立て、掴む様に抵抗を始めたのである。
痛い、これは痛い。
キッピーの眼が血走り始め、鼻息が荒くなる。
小さな体躯でどれだけの握力が有るのだろうか、勇に貰った力は伊達じゃない。
絡み付いた舌ごと押し出してやると言わんばかりに、頭を押し込まんとするキッピーの手を押し返す。
『フジサキユウ!! どうか!! どうか!! 私を救ってください!!』
その中でも必死の声が繰り返し響き渡る。
周囲を通る人々の耳にも響き渡る。
『お願いしまあっあっ』
だがその願いも虚しく。
遂にア・リーヴェさんの体がキッピーの口の中へと沈み込み始めた。
キッピーの肌が茶奈の手入れのお陰でトゥルットゥルンになってた所為で、掴み所に掛ける力が足りなかったのだ。
美肌おそるべしである。
この攻防の勝敗を決したのは紛れも無く、ハリツヤを意識したアンチエイジングの実力。
ア・リーヴェさんの訴えも虚しく、キッピーの唇に掛かった腕脚はものの見事に口の中へ。
最後の抵抗として両手で唇を掴み、赤く腫れた口内からア・リーヴェさんの叫びが打ち上がる。
『フジサキユウゥーーーーー!!!!』
ゴクリ……
その叫びを最後に、ア・リーヴェさんはキッピーの中へと消えたのだった。
「いいんですか? 助けなくて……」
「え? あ、いや、呆気に取られて何も出来なかったかな……」
『ええ、危うく飲み込まれる所でした』
そんな時ふと、その場に聴こえるはずも無い声がして。
咄嗟に振り向くと、勇の肩にいつの間にかア・リーヴェさんの姿があった。
「いや、飲み込まれただろ?」
『いえ、その様な事実はありません。 決して』
何を頑なになっているのかはわかりはしないが、当人がそう言っているのだからそういう事なのだろう。
勇と茶奈にとっては凄くどうでもいい事だったので、深く考える事も無く。
この数日間の出来事で、ア・リーヴェさんを割と適当に扱っても当人の意思含め問題無いという事がわかったので。
やはり肩の上はア・リーヴェさんにとっては危ないとはいえ、どこか安心出来るようだ。
なおキッピーが狙いを定めて勇の体をよじ登ろうとしているが、登れる訳も無いのでもう心配は無いだろう。
もちろんすぐに勇の胸ポケットへと降りた訳だが。
数分に渡り、そんな珍事件が二人の前で繰り広げられた。
あまりに些細過ぎて別段安息を崩した訳でも無く。
普通の日常の一コマとしてこのハプニングは終わりを告げたのだった。
≪続・愛を求める創世の女神さん≫
アルクトゥーンは現在、地中海上空を航行中。
洋上の空と言えば敵が近づくのも困難。
それに加えて国連の眼が光っているヨーロッパならば攻撃を仕掛けるのも容易ではないだろう。
例え国連そのものの力が言う程の効力を発揮せずとも、正当性と証拠を明示した彼等に反論出来る国は少ない。
少なくとも勇達に国連が立っている以上、所属国家が無差別に攻撃を仕掛ける事は無いと言える。
ただの団体である【救世同盟】と違い、国とは約束の下に成り立つものなのだから。
勇達グランディーヴァはそれを成す事が出来たから、認められる事が出来たのだ。
そんな束の間の平穏を享受する様に、多くの乗務員達が自分達の時間を過ごす。
艦内の持ち場で仕事に勤しむ者、自分達の出来る事を探す者、訓練に汗を流す者。
しかしそれらも夜となれば寝静まり、夜なりの時間を過ごし始める。
それは勇と茶奈も例外では無かった。
「茶奈……」
「勇さん……」
灯りの消えた一つの部屋。
愛を受け入れ合った二人が見つめ、想いを馳せる。
互いの腰を取り、積み重ねられた想いが瞳に浮かぶ。
二人は鼓動の高鳴るままに。
互いを受け入れようと、そっと腕を互いの背へと回した。
人が愛し合うという事……それは抱き合うという事。
二人もまた人だから、愛し合える。
そこに天力や命力などは必要無い。
ア・リーヴェさんの視線も、必要無い。
「―――で、ア・リーヴェ、いつまで見てるんだ?」
『おかまいなく。 私は天士ゆえ、お二人の行為を邪魔する様な事はありません』
ベッドの前で腕を回し合う二人を見つめるのは、扉の前で正座するア・リーヴェさん。
暗がりの中であろうとも関係無く、二人の姿を見開いた眼でガン見していた。
「いや、そういう問題じゃないから。 見られるの恥ずかしいから」
『いえ、お気になさらぬよう。 私は天力で出来た身……いわば生物とは違うのです。 なので人形と思い、無視して頂きますよう』
頑なにその場を離れようともせず。
それどころか正座を崩し、アンダービューで眺めようと二人の足元へ尻餅のまま擦り寄っていく。
小さくて暗くて見難いが、その口元に浮かぶのはアヒル口。
明らかな故意である。
『なんでしたら私を使って頂いても構いません』
「どういう意味それ!?」
最近何かと心輝の下に訪れ、ゲームについて話を詳しく聞いているア・リーヴェさんの姿があったという。
そこから推測するに、昔の茶奈の様に余計な知識を彼から得てしまったのかもしれない。
もはや勇と茶奈の思考すら超えたア・リーヴェさんの暴挙を前に、高鳴る鼓動もドン引きだ。
「もういいか……ごめん茶奈……」
「ううん……仕方ないですよ、ア・リーヴェさんですし……」
足元で哀しい目を向けるア・リーヴェさんを他所に、二人が下がりきったテンションに従うまま体を離す。
服すら脱ぐ事は無かったので、何も始まってすらいなかった訳であるが。
残念な気持ちのまま少しだけ話を交わすと、茶奈は自室へ帰っていったのだった。
結局その後もなんだかんだとア・リーヴェさんの邪魔が入り。
道中で二人の仲がそれ以上進展する事は無かったのだという。
◇◇◇
SS第六話
≪創世の女神さんと謎生物≫
それはなんて事の無い昼間の出来事。
勇と茶奈が二人揃って居住区を歩く。
自室で使う消耗品が切れ掛けという事もあり、折角だからと一緒にお買い物。
本来なら訓練詰めにしたい所なのだが、動き詰めでも心が参ってしまう。
たまにはこうしてのびのびと過ごす事も必要な訳で。
これは魔特隊時代から続く一種の慣習にも近い休養日。
彼等に許された安息の時間である。
しかしこの日、ほんの些細な出来事が二人を襲う。
『フジサキユウ……どうか、どうか―――』
道行く二人の耳に、心に、悲哀に満ちたア・リーヴェさんの声が響く。
『どうか救ってください……お願い致します……』
それは二人の胸中を突き刺す程に、強い想いが籠った心声。
それに気付き、強く引かれんばかりの勢いでその顔を振り向かせた。
その時二人の前に姿を現したのは―――キッピーに咥えられたア・リーヴェさん。
見るからに全力だった。
飲み込まれまいと全力で抵抗し、口のヘリに片足と両腕を引っ掛けて耐えていたのだ。
しかしキッピーのカエルの様に長い舌が体に絡みつき、ア・リーヴェさんを捕まえて離さない。
いや実際にはそこまで長くないが、長きに渡る攻防で伸びきっただけだ。
一体どれだけの時間をその攻防に費やしたかは定かではない。
だがキッピーも顔を赤く腫らせており、相当な時間が経過していると思われる。
二人共必死なのだ。
何が何でもア・リーヴェさんを食べたいキッピー。
何が何でもキッピーから救われたいア・リーヴェさん。
二人の激しい戦いは続き、今なお熾烈さを増す。
『ぐあああ!!』
そこで遂にキッピーが奥の手を繰り出した。
それはなんと手。
手を使い始めたのだ。
今まで何故使っていなかったのかと突っ込まざるを得ないが。
しかしキッピーの腕力は言う程強くは無い。
とうとう引き込まれ始めるア・リーヴェさんだったが、彼女も負けてはいない。
キッピーの唇に指を立て、掴む様に抵抗を始めたのである。
痛い、これは痛い。
キッピーの眼が血走り始め、鼻息が荒くなる。
小さな体躯でどれだけの握力が有るのだろうか、勇に貰った力は伊達じゃない。
絡み付いた舌ごと押し出してやると言わんばかりに、頭を押し込まんとするキッピーの手を押し返す。
『フジサキユウ!! どうか!! どうか!! 私を救ってください!!』
その中でも必死の声が繰り返し響き渡る。
周囲を通る人々の耳にも響き渡る。
『お願いしまあっあっ』
だがその願いも虚しく。
遂にア・リーヴェさんの体がキッピーの口の中へと沈み込み始めた。
キッピーの肌が茶奈の手入れのお陰でトゥルットゥルンになってた所為で、掴み所に掛ける力が足りなかったのだ。
美肌おそるべしである。
この攻防の勝敗を決したのは紛れも無く、ハリツヤを意識したアンチエイジングの実力。
ア・リーヴェさんの訴えも虚しく、キッピーの唇に掛かった腕脚はものの見事に口の中へ。
最後の抵抗として両手で唇を掴み、赤く腫れた口内からア・リーヴェさんの叫びが打ち上がる。
『フジサキユウゥーーーーー!!!!』
ゴクリ……
その叫びを最後に、ア・リーヴェさんはキッピーの中へと消えたのだった。
「いいんですか? 助けなくて……」
「え? あ、いや、呆気に取られて何も出来なかったかな……」
『ええ、危うく飲み込まれる所でした』
そんな時ふと、その場に聴こえるはずも無い声がして。
咄嗟に振り向くと、勇の肩にいつの間にかア・リーヴェさんの姿があった。
「いや、飲み込まれただろ?」
『いえ、その様な事実はありません。 決して』
何を頑なになっているのかはわかりはしないが、当人がそう言っているのだからそういう事なのだろう。
勇と茶奈にとっては凄くどうでもいい事だったので、深く考える事も無く。
この数日間の出来事で、ア・リーヴェさんを割と適当に扱っても当人の意思含め問題無いという事がわかったので。
やはり肩の上はア・リーヴェさんにとっては危ないとはいえ、どこか安心出来るようだ。
なおキッピーが狙いを定めて勇の体をよじ登ろうとしているが、登れる訳も無いのでもう心配は無いだろう。
もちろんすぐに勇の胸ポケットへと降りた訳だが。
数分に渡り、そんな珍事件が二人の前で繰り広げられた。
あまりに些細過ぎて別段安息を崩した訳でも無く。
普通の日常の一コマとしてこのハプニングは終わりを告げたのだった。
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