時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」

~加速と限界 シンなる魔剣に求める物は~

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 カプロを前に、心輝が新たな誓いを立てた。
 勇を信じ貫く事。
 その強い想いはおのずと顔にも表れ、仲間達に心を悟らせる。

 こうして心輝は、真の意味で勇達の仲間へと成る事が出来たのだった。





「ほいじゃ、早速心輝の魔剣の製造に取り掛かるッスかねぇ」

 造るとなればそこはカプロ。
 如何にも楽しそうな笑みを浮かべ、やる気溢れんばかりに衣服の袖を捲り上げる。
 向かうのは……すぐ隣に設置された万能工作機。

 カプロの魔剣製造方法は飛躍的な進化を遂げている。
 昔の様に熱した金属を金づちで打って造るというのはもはや時代遅れだ。
 今では多軸駆動腕マニュピレーターを搭載した三次元複合工作機を使用し、素材を自由に成型する事が出来る様になっていた。

 工作機こそ、基本的な構造は一般的な工場などで取り入れられている物と同一だ。
 それがどういう物かと言えば……三畳程もありそうな巨大箱型筐体の中に取り付けられた二本の駆動腕を操作者オペレーターが操作し、内部にセットした材料を削るというもの。

 だがそこはカプロの工房……現代技術と古代技術を取り入れ、中身は大きく変貌している。
 駆動腕の先端には魔剣技術で製造された魔切削刃ソウルエンドミルが装着され、普通では容易に加工出来ない金属ですら楽に削る事が可能だ。
 地球最硬度を誇るダイヤモンドですら例外ではない。
 またリフジェクター技術をふんだんに取り入れており、加工機内に三次元モデリング化された映像を投射、立体映像のままに素材を削る事が出来るのである。
 そしてそれらを全て工作機で賄えるようにシステムをAIが制御、操作者が工作機内で手動操作ハンドリングする事で直接3Dモデリングが可能となっているのだ。
 その様子はまるで粘土で型を作り込むのと同様に。
 これを使用すれば直感的に魔剣の製造ができ、しかも完成度は非常に高い。
 オマケに製作速度は格段に上がり、早い物ではなんと一時間もあれば素体が完成するという程。

 カプロにとってはまさにこれ以上に無い、最高の作業道具なのである。

「さてさて、腕が鳴るッスよぉ~うぴぴ!」

 常に持ち歩いているであろう、黒い手袋をポケットから取り出して身に着ける。
 それは装着して手を動かすだけで自由自在に工作機が操作出来る、オペレーショングローブというもの。
 もちろん多少のコツを必要とするが、カプロはもはや使い慣れたもので。
 それを身に付けた姿はどこか様になっている風にも見えた。

 しかしそれが身に付けられた途端……僅かに鼻を突く臭いが勇達に届く。

 精密機器の塊だから洗濯出来ないのかもしれない。
 凄い事だけはわかるのだが、こうともなると驚きも半減である。
 当人がなお得意気な笑みを浮かべてる辺り、その事に全く気付いていないのだろう。

「【グワイヴ】は前のデータから構築するんでちょちょいのちょいッス。 【イェステヴ】は記憶から素体構築になるんでちょっと形変わるかもしれねッスけど」

 手をワシャワシャと動かすと、途端に工作機が音を立てて起動を始める。
 内部では多軸駆動腕が「キュウンッ」と音を立てて鋭い動きを刻んでいた。
 原点復帰スタートアップ……大型機械では必ず行われる動作である。

 もはや準備は万端。
 生で見られる最新の魔剣製造を前に、勇達も興味津々だ。

 たった一人を除いては。



「なぁ、ちょっと待ってもらっていいか?」



 そんな時、その一人である心輝がカプロを制止する。
 今回最も喜ぶべきであり、一番こういう事が好きそうな彼がである。

「なんスか? なんか要望でもあるッスか?」

 カプロが今にも始めんと言わんばかりに手をワシャリと動かしながら、心輝へと振り向く。
 既に起動を始めていた駆動腕がカプロの手とリンクして動き、妙な威圧感を醸し出す。

「要望っつか何つぅか、出来れば〝バージョンアップ〟を頼みてぇなって」

「バージョンアップ?」

 早い話が強化である。
 しかしそれは心輝が【グワイヴ】や【イェステヴ】の機能に不満があった訳ではない。

「こないだの戦いまでで思ったんだけどよ、勇の身体速度にどうしても【グワイヴ】の加速能力じゃ太刀打ち出来ねぇ」

「シン、アンタまだそんな事を……」

「ああいや、そういう意味じゃねぇんだ。 一緒に戦うつったって追い付けなきゃ結局勇が先陣切る事になっちまう。 だからむしろ、そういった速度だけは勇よりも速く無きゃなんねぇ。 俺が先陣切って余力作ってやれるくらいによ」

 心輝の基本スタンスは言わばしんがり。
 先陣を切って敵地に乗り込み、敵を攪乱するのを得意としている。
 その末に得たのが電光石火、紅雷光の軌跡ラティスタンドライヴ
 その速度はフルクラスタを纏った茶奈の走行速度をも凌駕し、今まではそれでも十分なまでの役目を果たしていた。

 だがそれが勇となると話は別だ。

 今の勇の加速力は創世の鍵の力抜きで心輝を凌駕している。
 それでも茶奈であれば航空能力を使えば追い付く事は容易い。
 しかし心輝の場合、加速力は魔剣に依存しているので魔剣の性能を超えた速度を出す事は不可能。

 従来の二つの魔剣では……圧倒的に出力が足りないのだ。

「【浮導ふどうオゥレーペ】みたいな追加魔剣でも構わねぇんだ。 なんかそういうので加速力を上げられねぇかな……装甲が薄くても、他の機構殺しても構わねぇから」

「速度アップッスか……うーん」

 途端にカプロが悩むあまりに腕を組んで顔を落とす。
 同様の動作を背後の工作機内で駆動腕が行い、またしても妙な雰囲気を漂わせていた。

「ま、無理ッスね」
「即答かよ!?」

 落としていた顔を上げて見せたのは……座った目を浮かべた諦めの表情。
 挑戦的な彼らしくもない、なんとも覇気を感じさせない様を見せていた。

 それもそのはず……そこにはもはや、彼の技術では越えられない壁が存在したのだから。

「当然ッスよ。 現代の技術じゃこれ以上の性能アップは見込めないッス。 【グワイヴ】も【イェステヴ】もほぼ完成形に近い理想的な構造になってるんスから」

 その言葉の中には彼の完璧主義から来る誇張も多少なりに含まれているだろう。
 だがその言葉に偽りは無い。

「どっちも元々完成してたってのもあったスけどね。 だから今まで現存出来た訳で。 それをシン用に調整を重ねて改良して、最適化したのが【グワイヴ・ヴァルトレンジ・リファイン】と【イェステヴ・リグオーデ】ッス。 例えそこから弄ったとしても、微妙にバランスが崩れるだけで大した変化は無いッスよ」

「マジかよ……」

 簡単に言えば、微調整は出来るが基本はもう変わらないという事。
 例えばテレビは光量や色彩の調整は出来るが、画面のサイズは変えられない。
 それと同じで、基本性能を上げる事は出来ないのである。

 ならばテレビを買い替えればいい、そう思う事もあるだろう。
 だがもしその上のサイズが売っていなければどうだろうか。
 その上のサイズが無いという事……それはすなわち、メーカーが商品を出せない領域という事。
 
 何かしらの理由で造る事が出来ないのだ。

「なぁカプロ、なんでそれ以上の物が造れないんだ?」

「それはっスね、単純に素材の問題ッス」

 するとカプロが手袋を取り外し、机の上に置かれていたタブレットを手に取る。
 そして何かしらの操作を行うと、映した何かを勇達へと見せつける様に画面を向けた。

「これって―――」

「これは【グワイヴ】の強度計算データをモデリングに反映したものッス」

 そこに映っていたのは三次元モデル3DCGで描かれた【グワイヴ】。
 それが画面内でグネグネとうねる様に動き、モデルそのものの色を激しく蠢かせていた。

「格闘武器ッスからね、綿密な強度計算とシンの命力による強化度合いを加味して最適な強度を導き出しているッス。 だからそれ以上装甲を薄くすれば衝撃に耐えられなくなるし、厚くしても堅くなる訳じゃない。 素材の限界を超えるギリギリの調整ッスから」

 基本的には魔剣に使われているのは『あちら側』の素材だ。
 それに加えて一部の『こちら側』素材と、新開発の複合素材を使っている。
 しかしいずれも物理的な組成……すなわち限界強度を超える事は出来ない。
 もちろん、命力が加わる事でその強度は飛躍的に上がるが……それも使用者の限界を迎えれば当然そこまで。
 つまり二つの魔剣は……心輝の命力と素材の強度のバランス、それらが最適な形で造られている。
 例え【浮導オゥレーペ】の様な補助装備があっても越えられない壁がそこに存在しているのだ。

 心輝が進化するか、この常識を打ち崩す素材が無い限り実現は不可能という訳である。

「マジかよ……じゃあ【グワイヴ】以上の魔剣は存在しねぇのか」

「新開発素材に目覚ましい進歩があればまだ話は別ッスけどね、正直そんな時間があるとは思えねッス」

 勇達に猶予がまだあるとはいえ、いつ世界が終わるとも知れない状況である事に変わりは無い。
 その中でいつ開発されるかもわからない素材に期待するなど、出来る訳も無く。

 たちまち室内にカプロの諦めムードが伝染し、誰の物とも知れぬ溜息の吐かれる音が虚しく響くのだった。


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