時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十一節「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」

~伏兵鮮曲〝想定外〟~

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「―――考えても見れば、私が歩んできた人生も今の状況とどこか似ている所を感じます。 だからこそ私は動いているのでしょう。 今の理不尽な状況に憤っているからこそ……」

 福留の過去が遂に明かされた。

 壮絶とも言える生い立ちに、勇は絶句する。
 自分達の人生とは大きく異なる生い立ちは、自身という人間のちっぽけさを認識させるには十分過ぎる程のスケールがあったからだ。

 複雑な人生の集大成から成る、福留という存在は……言うほど容易に受け入れられはしない。
 少なくとも、たかが二十年の3/4よんぶんのさん程しか過酷な期間を送っていない勇にとってしてみれば。

「それが君に伝えたかった私の過去です。 どうでしょうか、納得して頂けましたか?」

 そう問われるも、勇には応える事が出来なかった。
 当然、納得出来なかった訳ではない。

 あまりにも……辻褄が合い過ぎたから。

 勇が発起した日……福留は一時的に敵として相対した際に、銃口を勇へと向けた。
 馴れたかの様な手捌き、そして一切の迷いの無い狙い。
 それはかつて彼が生きてきた時に学んだ杵柄……過酷な人生から習得した技術だったのだ。

 影に居る事を望んだのも、彼が日本国籍を持たないから。
 日本政府が動けば国籍取得も容易であろうが、福留の性格上それを望むとは言い難い。
 彼は今の立場を甘んじて受け入れ、立場なりの動きをしていたに過ぎないのだ。

 勇と出会った事も必然だったのだろう。
 彼が日本政府の一員として防衛庁に勤務し、特事部として『あちら側』の問題に対して対応していた事が二人の出会ったきっかけ。
 防衛庁に居たのは詰まる所、福留コネクションの志を汲んでの事。

 そしてそれが結果的にこうして世界を救う為の動きに参加するきっかけともなった。

 きっとこれこそが福留の成したかった事だったのかと……鮮明な程にわかりやすい話だったのだ。

「はは……勇君、そんな深く考えなくても平気ですよ。 確かに重い話でしたが、結局の所やってきた事は君がこれからやろうとしている事と変わりないでしょうから」

「福留さん……」

「私の生い立ちに気を病む必要はこれっぽっちもありません。 むしろそれをバネに、君らしい人生を歩んで欲しい……それが年寄りとしての願いでもあります。 もちろんこの戦いが終わったら、の話ではありますがね」

 長々と休む間もなく話していた所為か、福留の声が僅かに掠れる。
 そこでようやく再びお茶を手に取り、喉の渇きを癒させていた。

「はい……俺、そう出来る様に頑張ります。 福留さんみたいな人生を他の人に歩ませない為に」

「ええ、それでいいんです。 その言葉が聞けただけで、身上話を話した甲斐があったというものです」

 途端、福留が「ははは」と柔らかい笑い声を上げる。
 それがどこか和やかな雰囲気を呼び込み、自然と出来ていた勇の強張りを緩まさせていた。

「……ちなみにこの事を知るのは仲間達を除けば世界でも指折りしか居ません。 その一人として誇っても良いと思います。 大した事では無いですがねぇ」

 自身の事を話せた事、勇の決意が聞けた事。
 それがどうにも嬉しかったのか、上機嫌に語る姿はいつもの福留とは違う様。
 本当に嬉しいのだと感じ取れる程に……普段とは異なるにやけた顔付きが勇の目に留まった。

「俺も福留さんの事聞けて良かったです。 それにしても、あの幅の広さが福留さんの強みなんだなって今更ながらに思いましたよ……おかげで俺の両親も助けられましたし。 シンの奴も助かったって言ってましたよ」

「おや……」

「大迫さん……でしたっけ、福留さんのコネクションの人なんでしょう?」

 これもまた勇が小嶋を捕まえた日の事。
 勇の両親を逮捕しようとしていた警部を捕まえた大迫という男の話だ。
 心輝の機転で警部が【救世同盟】の息が掛かった者とわかった途端に正体を現し、その場を収めたのだが……彼の正体は未だわからないまま。
 それが福留コネクションの手の者なのだとすれば、これもまた理屈が合うだろう。

 しかし……当の福留はその話を聞くや、途端に顎を手に受け考えを巡らせる仕草を見せた。

「大迫……いえ、私の知らない名前ですねぇ……どういう方なのですか?」

「え、福留さんも知らない……? 俺も詳しくは聞いてないんですが、日本国内の【救世同盟】を追っているとかなんとか……」

 そう言われても、福留の様子は変わらぬまま。
 予想に反する反応に、勇もどこか眉間を寄せて困る様子を見せていた。

 するとそんな時……ふと福留が手を退け、「フゥー」と小さな溜息を鼻で付く様を見せる。
 視線をあらぬ方へ向け、「ウンウン」と小さく頷きながら。

「なるほど、そういう事ですか……ははは……やってくれますねぇ~」

 途端、福留の口から不敵な笑みが漏れ……勇の困惑を呼ぶ。
 何かがわかった様な素振りに、勇は思わずその首を前のめりにさせていた。

「残念ですが、それは私の手の者ではありません。 おそらくその人は……鷹峰さんの刺客でしょう」

「えっ、鷹峰さんの!?」

「ええ……国内において彼の持つ繋がりはですね、私の持つコネクション並みに幅が広いのですよ。 ああ見えてしたたかなんですよ、彼。 人柄もいいから人望もありますしねぇ」

 もはや勇の口が塞がらない。
 福留の話もさる事ながら、あの温和そうな鷹峰がそこまでのやり手だったとは夢にも思わなかったからだ。
 福留もそんな話をすると、どこか先程の愉快さがどこかに飛んで行ったかの様に顔をしかめさせていた。

「しかしやられました……なるほど、彼は彼なりに動いていたという訳ですね。 もしかしたら勇君が動かなくても、日本国内に限っては問題無かったのかもしれません……アハハ」

 どうやらこれは福留が与り知らぬ事だった様子。 

 とはいえ、考えても見れば当然だ。
 福留はその時、勇の事を見限っていた。
 だとすれば、彼の両親を守る様な行動に移すとは言い難い訳で。

 つまり……福留は勇の事を見限っていても、鷹峰は信じ続けていたという事に他ならないのだろう。

 そういった意味では……福留は一つ、鷹峰にしてやられたという事になる。
 勇と茶奈が平和的にデートを迎える事が出来たのも、もしかしたら彼の陰のサポートがあったのかもしれない。
 もちろんそれは一つの可能性でしかないが。

「うーん……これは一本取られましたね。 本当は勇君に私の美談を聞いてもらって美しく終わらせるつもりだったのですが……いやはや、本当にこれは参りましたねぇ~」

「えぇ~……なんかすんません……」



 こうして、福留の話は突如として方向性が全く違う形で幕を閉じた。
 勇は福留の過去を受け入れ、彼の教訓を胸に戦いに身を投じる事を改めて決意するのだった。





 その後しばらく後、福留は鷹峰とコンタクトを取り……かの話がその通りであった事を知る。
 鷹峰の率いるのは極秘治安維持部隊、通称【影】。
 【救世同盟】に侵食された政財界を正す為に極秘裏に設立された、対テロ対策のプロフェッショナル集団である。
 彼等は今も日本国内で暗躍し、未だ潜んでいるであろう【救世同盟】のシンパを探し続けているのだそうだ。

 形は違えど……国を、世界を想う気持ちは一つ。
 鷹峰もまた今の世界に疎いを感じたからこそ動いたのだろう。 

 それを無下にしない為にも……勇達は福留と共に志を貫く事を誓うのであった。


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