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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
~想~
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体に残った命力と翠星剣の命力珠に篭められた命力を使い、勇が密林の中を全速力で駆け抜けていく。
珠の取り外された翠星剣を腰掛けに使い、あずーを背負ったまま雨でぬかるんだ大地を力強く蹴る姿がそこにあった。
「待ってろあずッ!! すぐ!! 助けてやるからッ!!」
「ハァ……ハァ……ありがと、勇君……」
希望は一つ……拠点に居る医者達だ。
彼等であれば毒を中和する事が出来るかもしれない。
……その願いが力の限り足を動かさせていた。
確証は無かった。
そもそもオッファノ族達の言う事が信じられるかどうかすら怪しいものだ。
だが、もう二度と守りたい者を失いたくないから……
あんな悲しみを二度と繰り返したくないから……
勇はただ走り、目的地へひたすら力を奮う。
だがあずーの息はどんどん細り、その顔に落とす影はより深みを増していた。
「勇君……あのね……」
「なんだ……?」
「私と……初めて会った時の事……覚えてる……?」
「……心輝に連れられて行った日……?」
勇が苦しそうにしながらも語り掛けて来る彼女を無下に出来る訳も無く……励ましの意味を篭め、彼女にそっとそう返す。
だが、彼女は小刻みに顔を横に振ると―――
「ううん……違うよ……覚えてないよね……」
「えっ……?」
「あれはね―――」
あずーの言葉に耳を傾け、走りながら静かに聞き入る。
それは彼女が想う、その根源。
―――
――
―
アタシが6歳の時……私がお兄と一緒に隣町の……公園に……遊びに行った時の事なんだ……。
お兄は遊びに来たら……すぐどっか行っちゃったんだ……。
……帰り道なんかわかる訳も無い……連れられて来ただけだったから……。
気付いたら一人で……寂しくて……すごく泣いたんだぁ……。
誰も助けてくれなくて……もう帰れないかもって……。
でもね……その時……一人の男の子が私に声掛けてくれたんだ……。
その男の子も道はわからないって……でも、一緒に居てあげるって……。
寂しくない様に……一緒に居てあげるって……。
凄く嬉しかった……一緒に居てくれて……凄く……嬉しかった……。
その後、お兄が帰ってきて……男の子はどこかに……行っちゃったけど―――
―――その顔だけは……今でも覚えてる。
中学3年生になって……その男の子と……同じ顔をした人が家に来た時……アタシは運命を感じたんだよ……。
―――神様、あの人にまた巡り合わせてくれて……ありがとう!!―――
―
――
―――
「もう……覚えてないや」
「だよね……小さい時だもん……ハァ……ハァ……ウゥ!」
「あずッ!?」
体を蝕む毒が、彼女を苦しめる。
苦悶の表情を浮かべ、息を荒げるが……それでも彼女の口は止まらなかった。
「ずっと……ずっと……想ってた……勇君の……事……」
「あず……」
意識が朦朧としていても、伝えたかったから。
その想いは彼女の全てだったから。
「ずっと……大好きでした……これからも……ずっと……ウゥゥッ……」
未だ彼等の先には拠点の影は見えない。
だが、細っていく彼女の息は絶え絶えにも近い程に。
「……勇君……大好き……お願い……聞いて……?」
「あずっ、もういい……喋るなッ!! 生き延びてから言ってくれえッ!!」
「『愛してる』って……言ってくれたら…………アタシ…………死なないよ…………」
「あっ……う……ふぐッ!!」
「だって…………アタシの愛は…………奇跡…………だか……ら……」
「あずッ!? あずーーーッ!?」
途端、彼女の頭が力を失いだらりと下がる。
そして止まる声……彼女は完全に……意識を失ったのだ。
「あっ……あああッ!! あず……起きろあずぅーーーーーーッ!!」
勇の声が夜空に響く。
だがそれは虚しく虚空に消え、応える者は誰も居ない。
「まだだ、待ってろ……!! 待ってろあず……!! 絶対に君を殺しはしない!!」
自分の不甲斐なさが彼女を殺す……その無念が彼の押し潰す。
彼女を殺さない為にも……生かす為にも……彼は、命を懸けて力を振り絞る。
ただ、ひたすらに……その想いは真っ直ぐに……。
月下に跳ねる彼等の姿が浮かぶ。
心の叫びを月に咆え、勇はその力の全てを……進む事だけに捧げるのだった。
『俺は諦めない……必ず、君を救うからッ!!』
珠の取り外された翠星剣を腰掛けに使い、あずーを背負ったまま雨でぬかるんだ大地を力強く蹴る姿がそこにあった。
「待ってろあずッ!! すぐ!! 助けてやるからッ!!」
「ハァ……ハァ……ありがと、勇君……」
希望は一つ……拠点に居る医者達だ。
彼等であれば毒を中和する事が出来るかもしれない。
……その願いが力の限り足を動かさせていた。
確証は無かった。
そもそもオッファノ族達の言う事が信じられるかどうかすら怪しいものだ。
だが、もう二度と守りたい者を失いたくないから……
あんな悲しみを二度と繰り返したくないから……
勇はただ走り、目的地へひたすら力を奮う。
だがあずーの息はどんどん細り、その顔に落とす影はより深みを増していた。
「勇君……あのね……」
「なんだ……?」
「私と……初めて会った時の事……覚えてる……?」
「……心輝に連れられて行った日……?」
勇が苦しそうにしながらも語り掛けて来る彼女を無下に出来る訳も無く……励ましの意味を篭め、彼女にそっとそう返す。
だが、彼女は小刻みに顔を横に振ると―――
「ううん……違うよ……覚えてないよね……」
「えっ……?」
「あれはね―――」
あずーの言葉に耳を傾け、走りながら静かに聞き入る。
それは彼女が想う、その根源。
―――
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アタシが6歳の時……私がお兄と一緒に隣町の……公園に……遊びに行った時の事なんだ……。
お兄は遊びに来たら……すぐどっか行っちゃったんだ……。
……帰り道なんかわかる訳も無い……連れられて来ただけだったから……。
気付いたら一人で……寂しくて……すごく泣いたんだぁ……。
誰も助けてくれなくて……もう帰れないかもって……。
でもね……その時……一人の男の子が私に声掛けてくれたんだ……。
その男の子も道はわからないって……でも、一緒に居てあげるって……。
寂しくない様に……一緒に居てあげるって……。
凄く嬉しかった……一緒に居てくれて……凄く……嬉しかった……。
その後、お兄が帰ってきて……男の子はどこかに……行っちゃったけど―――
―――その顔だけは……今でも覚えてる。
中学3年生になって……その男の子と……同じ顔をした人が家に来た時……アタシは運命を感じたんだよ……。
―――神様、あの人にまた巡り合わせてくれて……ありがとう!!―――
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「もう……覚えてないや」
「だよね……小さい時だもん……ハァ……ハァ……ウゥ!」
「あずッ!?」
体を蝕む毒が、彼女を苦しめる。
苦悶の表情を浮かべ、息を荒げるが……それでも彼女の口は止まらなかった。
「ずっと……ずっと……想ってた……勇君の……事……」
「あず……」
意識が朦朧としていても、伝えたかったから。
その想いは彼女の全てだったから。
「ずっと……大好きでした……これからも……ずっと……ウゥゥッ……」
未だ彼等の先には拠点の影は見えない。
だが、細っていく彼女の息は絶え絶えにも近い程に。
「……勇君……大好き……お願い……聞いて……?」
「あずっ、もういい……喋るなッ!! 生き延びてから言ってくれえッ!!」
「『愛してる』って……言ってくれたら…………アタシ…………死なないよ…………」
「あっ……う……ふぐッ!!」
「だって…………アタシの愛は…………奇跡…………だか……ら……」
「あずッ!? あずーーーッ!?」
途端、彼女の頭が力を失いだらりと下がる。
そして止まる声……彼女は完全に……意識を失ったのだ。
「あっ……あああッ!! あず……起きろあずぅーーーーーーッ!!」
勇の声が夜空に響く。
だがそれは虚しく虚空に消え、応える者は誰も居ない。
「まだだ、待ってろ……!! 待ってろあず……!! 絶対に君を殺しはしない!!」
自分の不甲斐なさが彼女を殺す……その無念が彼の押し潰す。
彼女を殺さない為にも……生かす為にも……彼は、命を懸けて力を振り絞る。
ただ、ひたすらに……その想いは真っ直ぐに……。
月下に跳ねる彼等の姿が浮かぶ。
心の叫びを月に咆え、勇はその力の全てを……進む事だけに捧げるのだった。
『俺は諦めない……必ず、君を救うからッ!!』
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