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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
~語~
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『ウヌ、どうしたジョゾウよ、突然電話なぞ』
「実はなボウジよ……何、少し頼みがあっての」
『頼みとな?』
「左様。 来たる翌日、勇殿がオッファノ族と呼びし魔者達を諫める為に【あまぅぞん】なる所へ向かうのだが、どうにも勇士の数が足りぬ模様……」
『ホウ……して?』
「ウム……だが拙僧は現在【にゅうじぃれんどぅ】におる故、どうにもならぬ……そこでボウジよ、其方が良ければ戦士を一人都合出来ぬであろうか?」
『……ジョゾウよ、それは幾ら何でも無茶というものよ』
「ヌ……しかし魔剣オウフホジがあれば戦い様もあろう」
『其方には言うておらぬが……今オウフホジは宝物庫に封印しておる。 戦う理由無き今、魔剣使いが要る道理は無かろう思うてな』
「なんとぉ……左様であったか」
『ウム、残念ながら。 使い手の育成も成らぬ故、アレをまともに使えるのは某のみ……』
「ボウジ……なれば其方が……」
『それはならんぞ……某は今、カラクラの王。 この身散れば里は消えるであろう』
「左様であった……なれば仕方あるまい……愚問であった」
『気にするなジョゾウよ……こう話したかったのもあるのであろう?』
「ハハハ、さすがボウジ、よくわこうておる……親友だけの事はあろうな」
『当然の事よ……してジョゾウよ』
「なんであろうか?」
『いい加減堅苦しい会話は止めないか? 息苦しくて適わん』
「ウ……ヌ、しかし拙僧ただ今出先故……厠なう故……」
『ならば儂から一方的にプライベート口調で話させて頂こう』
「ま、待てボウジよ……」
『待たぬ!! あ、いや違った、待つものか!! ……お前は大体いつもそうだ、自分勝手気ままに動いて儂に尻拭いをさせる。 しかしお前の気風の良さだ、誰もお前を咎めようとはせん。 今回もそうだ、空島なる場所に行く為に何度も何度も行ったり来たり……イヂリもどれ程寂しい想いをしているかわかるかァ!?』
「お……うぅ……イヂリの名は出すでない……」
『出すぞッ!! イヂリだけではない、ジョゴもだッ!! 嫁も息子も置いて好き放題なぞ許せる事では無い事をいい加減知れェ!!』
「うぅ……すまねぇ……」
『……二人ともお前の帰還を毎日待ち続けておる。 だが儂が二人を宥める事が出来る限界もある……はよぅ帰って来い。 危険が無いのはわかる事ではあるが、余りにも長い事ならばお前を巣から追い出すぞ?』
「わかったぁボウジ……ヨッメとムチュコの事、頼むわ……すぐ帰りたいが、しばし待ってくれよなぁ……」
『うむ、わかればいい、わかればいいのだ』
「ボウジよ……無理言ってすまなんだなぁ。 俺はただ勇殿の力になりたくてしょうがないんだわ……あんの人に長い事触れてりゃわかる、温かぃンだ」
『その気持ちはわからなくも無い。 だが、お前は温かさを受ける方では無く、与える立場であるべきだという事をそろそろ自覚しろという事だ』
「ううむ……年長者というのもなかなかどうして面倒よの」
『ロゴウ殿が出来過ぎたのだ、いざ仕方ない所ではある。 だからといって甘えてばかりでは下の者達にも示しが付かん。 最近の若い者達は人間の文化に触れて何やら色々と余計な事ばかり覚えてならんでな、儂らが示してあるべき姿を伝えねばならぬ』
「おぉ……さすがボウジ、やはり俺の見込んだ男よ。 して、若者達は何か問題でもあったのか?」
『ウム、実はな……最近共用のスマートフォンを使い回してインターネットに触れる事が増え、日本語も覚えたという事もあって色々いかがわしい場所に出入りしているらしいのだ。……【2.5ちゃんねる】という荒れ場にな。 そこにあるという交流の場で、人間と対話を試みているらしい』
「ホゥ……それは良き事ではないか?」
『それがそうでもないのだ……その場に居合わせた者達は決まって、奇妙奇天烈な言葉を放つ様になったり、妙な思想を植え付けられて他者に否定的になったりする等といった症例が出ておる。 日本政府に掛け合い、インターネットの遮断を試みたが……それに対し暴動を行うなどの例も出ておる』
「なんと……」
『最近は人間の【アイドルオッカケ】なる事をしている者もおり、予断を許さぬ状態だ』
「あ、うん……追っかけね……え、何、そこまでしてる子いるの……?」
『他にも日本政府から送られてきた希望指定品の中に、アニメの抱き枕なる物も含まれておった』
「抱き……それを頼んだのは余程の歪んだ趣向の持ち主か……異種族の、しかも異次元の生命体に情欲を掻き立てるのか……げ、解せぬな」
『だろ? それ程に今染まりつつある……この世界は余りにも誘惑に満ち溢れているのだ』
「あぁ、うん……そうね」
『お前のインストリアルグラムの方がまだ可愛い方だ。 我々ももう少しインターネットの事を学び、ネットリテラシーなる物を理解せねばならん。 そこに強いお前の力が必要だ……今度帰ってくる時は必ず長い時間を持って帰れ。 そして若者達にお前の知識を伝えてほしい……正しい知識を』
「ウム……わかった。 俺頑張る」
『あ、ほんとマジで頼むわ。 儂機械苦手なんだよ。 タッチパネル使いにくいし』
「だからタッチペンはいい物を使えとあれほど……とりあえず、今話した事はオフレコで頼む」
『余りにも理不尽ならば二人には話すぞ』
「わ、わかった……出来るだけ早く帰る……では」
『しばしさらばだ友よ』
「……フゥ……ボウジめ、本当に滅入ってるのか……いざ仕方あるまい、次の休みは長めに頂くとしよう。 ―――しかし、これは彼奴には見せられんな……」
彼のスマートフォンに映るのは、国連軍兵士である笑顔の女性二人に囲まれた自撮り写真。
その両脇に抱えられたのは日本アニメ『アイドルマエストロ』のヒロインキャラが描かれた抱き枕。
インストリアル映えを求める余りにパフォーマンスを求めすぎる事は身を滅ぼすというのを、自身で証明しそうになったジョゾウなのであった。
「実はなボウジよ……何、少し頼みがあっての」
『頼みとな?』
「左様。 来たる翌日、勇殿がオッファノ族と呼びし魔者達を諫める為に【あまぅぞん】なる所へ向かうのだが、どうにも勇士の数が足りぬ模様……」
『ホウ……して?』
「ウム……だが拙僧は現在【にゅうじぃれんどぅ】におる故、どうにもならぬ……そこでボウジよ、其方が良ければ戦士を一人都合出来ぬであろうか?」
『……ジョゾウよ、それは幾ら何でも無茶というものよ』
「ヌ……しかし魔剣オウフホジがあれば戦い様もあろう」
『其方には言うておらぬが……今オウフホジは宝物庫に封印しておる。 戦う理由無き今、魔剣使いが要る道理は無かろう思うてな』
「なんとぉ……左様であったか」
『ウム、残念ながら。 使い手の育成も成らぬ故、アレをまともに使えるのは某のみ……』
「ボウジ……なれば其方が……」
『それはならんぞ……某は今、カラクラの王。 この身散れば里は消えるであろう』
「左様であった……なれば仕方あるまい……愚問であった」
『気にするなジョゾウよ……こう話したかったのもあるのであろう?』
「ハハハ、さすがボウジ、よくわこうておる……親友だけの事はあろうな」
『当然の事よ……してジョゾウよ』
「なんであろうか?」
『いい加減堅苦しい会話は止めないか? 息苦しくて適わん』
「ウ……ヌ、しかし拙僧ただ今出先故……厠なう故……」
『ならば儂から一方的にプライベート口調で話させて頂こう』
「ま、待てボウジよ……」
『待たぬ!! あ、いや違った、待つものか!! ……お前は大体いつもそうだ、自分勝手気ままに動いて儂に尻拭いをさせる。 しかしお前の気風の良さだ、誰もお前を咎めようとはせん。 今回もそうだ、空島なる場所に行く為に何度も何度も行ったり来たり……イヂリもどれ程寂しい想いをしているかわかるかァ!?』
「お……うぅ……イヂリの名は出すでない……」
『出すぞッ!! イヂリだけではない、ジョゴもだッ!! 嫁も息子も置いて好き放題なぞ許せる事では無い事をいい加減知れェ!!』
「うぅ……すまねぇ……」
『……二人ともお前の帰還を毎日待ち続けておる。 だが儂が二人を宥める事が出来る限界もある……はよぅ帰って来い。 危険が無いのはわかる事ではあるが、余りにも長い事ならばお前を巣から追い出すぞ?』
「わかったぁボウジ……ヨッメとムチュコの事、頼むわ……すぐ帰りたいが、しばし待ってくれよなぁ……」
『うむ、わかればいい、わかればいいのだ』
「ボウジよ……無理言ってすまなんだなぁ。 俺はただ勇殿の力になりたくてしょうがないんだわ……あんの人に長い事触れてりゃわかる、温かぃンだ」
『その気持ちはわからなくも無い。 だが、お前は温かさを受ける方では無く、与える立場であるべきだという事をそろそろ自覚しろという事だ』
「ううむ……年長者というのもなかなかどうして面倒よの」
『ロゴウ殿が出来過ぎたのだ、いざ仕方ない所ではある。 だからといって甘えてばかりでは下の者達にも示しが付かん。 最近の若い者達は人間の文化に触れて何やら色々と余計な事ばかり覚えてならんでな、儂らが示してあるべき姿を伝えねばならぬ』
「おぉ……さすがボウジ、やはり俺の見込んだ男よ。 して、若者達は何か問題でもあったのか?」
『ウム、実はな……最近共用のスマートフォンを使い回してインターネットに触れる事が増え、日本語も覚えたという事もあって色々いかがわしい場所に出入りしているらしいのだ。……【2.5ちゃんねる】という荒れ場にな。 そこにあるという交流の場で、人間と対話を試みているらしい』
「ホゥ……それは良き事ではないか?」
『それがそうでもないのだ……その場に居合わせた者達は決まって、奇妙奇天烈な言葉を放つ様になったり、妙な思想を植え付けられて他者に否定的になったりする等といった症例が出ておる。 日本政府に掛け合い、インターネットの遮断を試みたが……それに対し暴動を行うなどの例も出ておる』
「なんと……」
『最近は人間の【アイドルオッカケ】なる事をしている者もおり、予断を許さぬ状態だ』
「あ、うん……追っかけね……え、何、そこまでしてる子いるの……?」
『他にも日本政府から送られてきた希望指定品の中に、アニメの抱き枕なる物も含まれておった』
「抱き……それを頼んだのは余程の歪んだ趣向の持ち主か……異種族の、しかも異次元の生命体に情欲を掻き立てるのか……げ、解せぬな」
『だろ? それ程に今染まりつつある……この世界は余りにも誘惑に満ち溢れているのだ』
「あぁ、うん……そうね」
『お前のインストリアルグラムの方がまだ可愛い方だ。 我々ももう少しインターネットの事を学び、ネットリテラシーなる物を理解せねばならん。 そこに強いお前の力が必要だ……今度帰ってくる時は必ず長い時間を持って帰れ。 そして若者達にお前の知識を伝えてほしい……正しい知識を』
「ウム……わかった。 俺頑張る」
『あ、ほんとマジで頼むわ。 儂機械苦手なんだよ。 タッチパネル使いにくいし』
「だからタッチペンはいい物を使えとあれほど……とりあえず、今話した事はオフレコで頼む」
『余りにも理不尽ならば二人には話すぞ』
「わ、わかった……出来るだけ早く帰る……では」
『しばしさらばだ友よ』
「……フゥ……ボウジめ、本当に滅入ってるのか……いざ仕方あるまい、次の休みは長めに頂くとしよう。 ―――しかし、これは彼奴には見せられんな……」
彼のスマートフォンに映るのは、国連軍兵士である笑顔の女性二人に囲まれた自撮り写真。
その両脇に抱えられたのは日本アニメ『アイドルマエストロ』のヒロインキャラが描かれた抱き枕。
インストリアル映えを求める余りにパフォーマンスを求めすぎる事は身を滅ぼすというのを、自身で証明しそうになったジョゾウなのであった。
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