時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」

~昂れよそれが彼女のインスティンクト~

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 初めて勇に連れられ戦場に赴いた時の事。

 『見ててくれよな……俺は死ぬつもりなんてないし、皆を守りたいって本気で思ってるからさ、俺は負けられないよ』

 そう言って、心配する私の言葉を暖かく返した勇の声。



 初めて戦士として戦場に就いた時の事。

『そうだ、死ぬ! 戦いに出れば皆……殺すか死ぬかしかないんだ……だから見るんだ! 生きたければ……目を閉じるなよ!!』

 そう言って、戦う事の恐ろしさを教えてくれた勇の声。



 空島で自身を投げ出し仲間達を救った勇の事。

『ごめん……俺……皆……助けたくて……』

 皆を生かす為に自身の命を躊躇いも無く投げ捨てようとした勇の声。



 私にとって、前線に立っていたのはいつも彼だった。
 時には茶奈の代わりに私が守ってもらう様に戦って貰った事だってあった。

 そんな彼に甘えて……私はただ彼を守ると公言しながら……自身は安全な場所で戦い続けていた。

 でもわかってはいたんだ……『私は茶奈にはなれない』……って。



 心の奥底で、慕っていた気持ちもあった。
 でもそれは適わなくて、それがただ虚しくて。
 少しでも彼の傍で支えられたら……そう思っていたけれど。



 それが認められなくて……私は現実から逃げようとした。



 でもそれはきっと、一人よがりで、利己的で、優しさなんて一欠けらも無い……ただの私の我儘。



 でもそんな私の前に、ずっと彼は居てくれたんだなって。
 


『……うん、俺はずっといるよ・・・・・



 そう、言いきった彼が……どんな前線でどんな戦いを繰り広げてきたのか……私は知ろうともしなかったのかもしれない。
 ただ怖いから、痛いのが嫌だから……たったそれだけの理由で、私は彼を知ろうとは思わなかったんだろう。



 私はなんて弱いんだ。
 
 才能も、実力も、何も無い……でも私に足りなかったのは……心だったんだ。



 アイツ・・・はずっと、怖いのに戦って来て、守って、挫けても、ずっと立って、進み続けて来たのに。

 私はなんて弱いんだ。

 アイツと私は違う? そうじゃない、違うなんて言い訳だ。

 悔しい、腹立たしい、ムカつく、許せない……こんな自分が一番許せない。



 ああ、もう、どうでもいい……何もかもが……





―――ド ウ デ モ イ イ―――





-

――
―――



「―――……っざけんな―――」
「ヌ?」

 突如瀬玲の口からぼそりとした声が漏れ、ウィグルイが気付く。
 だがそれは徐々に大きく、強く―――



「―――ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなァアアアアアアアーーーーー!!」



 まるでそれは心の奥底から湧き上がる感情がとめどなく溢れ出んばかりに高らかに、奇声にも足る雄叫びが彼女の口から飛び出した。



ダンッ!!



 途端、彼女が力の限り飛び上がり、後方へと向けて宙を舞う。
 まるでそれは獣の様に……四肢を使い地面へ着地すると、視線を落ちていたカッデレータの場所へとやり……再び飛び上がった。



ガッ!!



 着地と同時に魔剣を掴み取ると、ウィグルイとの一定の距離を保つかの様にバックステップし、その勢いで姿勢を整え魔剣を構えた。

「ほう……まさかここで気が持ち上がるとは……面白いのぉだから人間は―――」
「うるせぇーーー!! 黙れえッ!!」

 彼女から放たれた言葉は今までの彼女とは思えない程に大きく、汚い言葉。
 突然の咆哮にウィグルイが口を塞いだ。



 今の彼女は、体裁を捨て、自身の在り方を捨て、ただただ……感情の赴くままにその力を『敵』へと向けるのみ。

 それは単に……自身に対する『怒り』を露わにしていた。



「あぁーーーームカつく……ムカつくムカつくゥゥゥアアアアアッ!!!!」



 だがその目はしっかりと理性を保ち、冷たく鋭い眼差しをただ目の前に居る敵へと向け……意識をそこ一点へと集中させていた。

 感情の昂り、そして冷静さを取り戻した彼女は……何の前触れも無く、その矢を放った。

「フハハッ!! その手は効かぬとォ!!」

 繰り出された矢弾がウィグルイへと向かうが、彼女の激昂を前に昂った彼もまた雄叫びを上げながら矢弾を躱し、一直線に瀬玲へと突撃していった。



 だが……彼女もまた、前へ踏み込んでいた。



「その意気やよしィ!!」

 それに合わせる様にウィグルイの命力を篭めた右の剛腕が彼女へ襲い掛かる。

 途端、彼女の歯が「ギリリッ!!」と食いしばり、その左肩が前へと出た。



ドッガァーーー!!



 ウィグルイの剛腕が彼女の左肩へと直撃する。
 その瞬間「ゴギギッ」と彼女の骨が軋む様な音を周囲に鳴り響かせた。



 だが瀬玲は……それに怯む事無く突き出されたウィグルイの腕へと、殴られた勢いを利用し背を向けて跨る様にぐるりと飛び乗る。

 そして、自身が篭めた命力の拳を……その腕へと一直線に振り下ろした。



パキィーーーーーーンッ!!



 途端鳴り響く鳴音……その瞬間、ウィグルイの殴られた腕の反対面から「ブシュワッ!!」と大量の血が噴き出した。

「ウオオオオオオッ!?」

 堪らず後ずさるウィグルイ。
 その拍子に瀬玲は乗っていた腕から飛び降り、彼へと振り向いた。
 依然その目からは闘争心が滾る様子を見せ、冷静沈着であった彼女の面影は最早どこにもない。

「馬鹿な……命力をふんだんに篭めた儂の腕をこうも……貴公、もしやッ!?」

 ウィグルイが叫ぶ程の力の使い方……それもそのはず―――

 彼等イ・ドゥール族は武術を嗜む部族……そして彼等にのみ伝えられる秘伝とも言うべき力の源……それは『命力を極限にまで自身の肉体強化へ充てる』というもの。



 それはすなわち……勇が目指す理想の形そのものなのである。



 そして彼により伝授された技法を彼女もまた会得している。
 厳密に言えば、会得していた・・・・のだ。

 彼女は努力をする事を怠ってはいなかった。
 ただ、仲間達に置いて行かれない様にと……皆が見ていない場所で一人静かにひっそりと誰にも負けない程の修練を行っていた。

 それはただ自分が弱いと知っていたから……。



 だからこそ、彼女は『模倣』したのだ。

 ウィグルイの腕を貫いた一撃は……勇がかつて見せた『針の一撃』。
 命力の壁を貫き、相手に防御を無視した一撃を加える技法だ。

 だが、彼女はそれを見た事はあっても練習をした事は無かった。



 瀬玲は応用が苦手である。
 それは今でも変わらず、自身が導く形は殆ど無いといっても過言では無いだろう。

 だが、彼女は憶えていた。
 勇や、仲間達が見せた戦い方を。
 ただ、それを見様見真似で……『模倣』したに過ぎない。





 そんな彼女……相沢瀬玲は形容するなれば『模倣の天才』。



 

 見た物を教えてもらう事無く、ただ実践に移す事が出来る天才。
 ただそれをしようとも思わなかったからこそ、今まで誰も気付く事は無かったのだろう。

 だが、この事で彼女は自分の事を実感した……「私は弱くはない」のだと。
 そして猛り、己の感情を一心に吹き上げたのだった。



「アアアアーーーーーーーーーーーーッ!!!」


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