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第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」
~婦女子語る想いカミングアウツ~
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モンゴル……日本の北西西に位置し、中国とロシアに挟まれていながらも大きな土地を有した、高原に居する国家である。
遊牧民等が多いと思われがちなこの国だが……都市部へ赴けば発展している様が手に取ってわかる程に活発であり、その成長度は高いと言える。
だが一度南へ赴けば砂漠が広がり、北へと行けばは高原と山が連なる地域が広がっており、自然の厳しさを肌で感じるには充分な環境とも言えるだろう。
首都ウランバートル……その地に降り立った瀬玲、アージ、マヴォ、そしてナビゲーターの笠本は、作戦を行う前の準備としてモンゴル在中に寝泊まりを行う施設へと訪れていた。
比較的日本に近い地理とはいえ……ここに至る時間は長く、旅の疲れを癒す為に一旦の休息を取る事がスケジュールに組み込まれていた。
とはいうものの……アージとマヴォは魔者であるという事から混乱を防ぐ為にも、街へと赴く事をモンゴル政府から止められた訳ではあるが。
宿場として使う事となった軍施設の建屋……そこが四人がモンゴル在中に寝泊まりする施設。
街へと繰り出そうと女子二人が玄関前で準備を整えていると……そんな二人の前に大きな影がぬいっと姿を現した……マヴォである。
「なぁセリとささもっちゃん」
突然の声に驚くどころか、笠本が「ギロリ」と眼鏡越しにマヴォを睨み付ける。
それに気付いたマヴォが「ウッ」と思わず声を漏らし一下がりしながらも、意を決して踏み止まり彼女達に自身の願いをぶつけた。
「も、もしよぉ、面白そうな土産見つけたら買って来てくれよぉ~? こういうの集めるのが最近の趣味なんだよォ」
そう言うと、自身に身に着けたジャケットのポケットから何かを取り出し彼女達に見せつける。
それは小さな木彫りの人型キーホルダー……大柄な彼の趣味とは思えない程に可愛い様相を見せたそのキーホルダーは、彼の手が震えると同時に節々がゆらゆらと揺れていた。
「ん……わかった、見つけたら買っておくね」
「頼んだぜぇ~!!」
マヴォが見送る様に手を振る中……二人は建屋がある軍の敷地を離れ、街へと向けて歩を進める。
彼の意外な一面を垣間見たのがどこか嬉しかったのだろうか……瀬玲の顔に素直な笑顔が浮かんでいた。
そんな様相の彼女を前に、笠本はどうにも腑に落ちない表情を見せる。
「楽しそうですね、セリさん」
「そうですね……モンゴル来るのは初めてだし」
「いえ、そうではなく……想い詰めている様には見えなかったので」
笠本がそう思うのも無理は無い……今の彼女の様子は、嫌々戦いに来た素振りなど一切見せない今まで通りの姿。
仲間と語り、笑い、支え合う……彼女が今まで見せてきた、ありのままの姿である。
「んー……私は別に、皆と居る事が嫌いって訳じゃないですよ? ただ勇の考えがちょっと気に入らなかったのと……戦いにそこまで一生懸命になれない、私はそこまで彼等に付いていく事は出来ないって思っただけです」
「そうですか……セリさんは優しいんですね」
瀬玲を「優しい」と言う笠本の意図が読めなかったのか……瀬玲が首を傾げる。
そんな様子を見せた彼女を笠本が聞かれる事も無く答えた。
「セリさんは勇さん達を今まで支えてきましたから……そんな彼等が貴女の手から離れていく、それを感じたからこそ身を引いたのでしょう?」
恥ずかしげも無くその一言を告げる彼女を前に、瀬玲は「チリチリ」と耳元が熱くなるような感覚を覚える。
途端手を左右に振り、それに合わせる様に顔を横に振って応えた。
「笠本さん私の事過大評価しすぎ……そんなんじゃないですよきっと。 そんな事よりもずっと単純な事だと思ってます」
「単純って言うと?」
並び歩く瀬玲の顔が空へ向けられると……それに釣られたかの様に笠本も空を見上げる。
何も無い白と青が織り成す虚空のキャンパスを二人見上げ……ひんやりとした空気が顎下から輪郭を沿う様に流れて火照った顔が冷えていく感覚を覚える中、瀬玲は僅かに笑窪を作りそっと答えた。
「フフッ、私はただ自尊心がこれ以上傷付くのが嫌なだけですよ」
彼女が述べたのは極単純な……自己満足の延長。
「自尊心……ですか」
「ええ……アイツラと一緒に居るとなんだか自分が自分で居られなくなりそうで」
「あぁ~……わかります、彼等のテンションは私も時々理解出来ない事があります。 体育会系というか、暑苦しいというか」
「さすが笠本さん……やっぱりわかります?」
不意に笠本が自身の掛ける眼鏡を「スッ」と上げ、レンズに当たり反射した光が眩く輝きを放つ。
「えぇ……私も時折感化されそうになるので、心輝君かマヴォさんをいじる事で冷静さを取り戻すようにしています」
しれっと酷い事をカミングアウトする笠本に、瀬玲も苦笑を浮かべざるを得ない。
「セリさんはそれでいいかと思います。 貴女は戦うよりも、私と同じ側の人間だと思うので」
妙な親近感を覚えたのだろう……笠本が胸元で小さく両手を握り締めたポーズ見せると瀬玲の顔も自然とはにかみ、彼女の心ながらの応援とも取れるその言葉に喜びを露わにした。
二人の女子が街を行く。
後日起こるかもしれない激闘に備え、心の洗濯を行う為に。
その手に握られたのは、仲間を想うが故の……沢山のキーホルダーが詰められた小さな袋であった。
遊牧民等が多いと思われがちなこの国だが……都市部へ赴けば発展している様が手に取ってわかる程に活発であり、その成長度は高いと言える。
だが一度南へ赴けば砂漠が広がり、北へと行けばは高原と山が連なる地域が広がっており、自然の厳しさを肌で感じるには充分な環境とも言えるだろう。
首都ウランバートル……その地に降り立った瀬玲、アージ、マヴォ、そしてナビゲーターの笠本は、作戦を行う前の準備としてモンゴル在中に寝泊まりを行う施設へと訪れていた。
比較的日本に近い地理とはいえ……ここに至る時間は長く、旅の疲れを癒す為に一旦の休息を取る事がスケジュールに組み込まれていた。
とはいうものの……アージとマヴォは魔者であるという事から混乱を防ぐ為にも、街へと赴く事をモンゴル政府から止められた訳ではあるが。
宿場として使う事となった軍施設の建屋……そこが四人がモンゴル在中に寝泊まりする施設。
街へと繰り出そうと女子二人が玄関前で準備を整えていると……そんな二人の前に大きな影がぬいっと姿を現した……マヴォである。
「なぁセリとささもっちゃん」
突然の声に驚くどころか、笠本が「ギロリ」と眼鏡越しにマヴォを睨み付ける。
それに気付いたマヴォが「ウッ」と思わず声を漏らし一下がりしながらも、意を決して踏み止まり彼女達に自身の願いをぶつけた。
「も、もしよぉ、面白そうな土産見つけたら買って来てくれよぉ~? こういうの集めるのが最近の趣味なんだよォ」
そう言うと、自身に身に着けたジャケットのポケットから何かを取り出し彼女達に見せつける。
それは小さな木彫りの人型キーホルダー……大柄な彼の趣味とは思えない程に可愛い様相を見せたそのキーホルダーは、彼の手が震えると同時に節々がゆらゆらと揺れていた。
「ん……わかった、見つけたら買っておくね」
「頼んだぜぇ~!!」
マヴォが見送る様に手を振る中……二人は建屋がある軍の敷地を離れ、街へと向けて歩を進める。
彼の意外な一面を垣間見たのがどこか嬉しかったのだろうか……瀬玲の顔に素直な笑顔が浮かんでいた。
そんな様相の彼女を前に、笠本はどうにも腑に落ちない表情を見せる。
「楽しそうですね、セリさん」
「そうですね……モンゴル来るのは初めてだし」
「いえ、そうではなく……想い詰めている様には見えなかったので」
笠本がそう思うのも無理は無い……今の彼女の様子は、嫌々戦いに来た素振りなど一切見せない今まで通りの姿。
仲間と語り、笑い、支え合う……彼女が今まで見せてきた、ありのままの姿である。
「んー……私は別に、皆と居る事が嫌いって訳じゃないですよ? ただ勇の考えがちょっと気に入らなかったのと……戦いにそこまで一生懸命になれない、私はそこまで彼等に付いていく事は出来ないって思っただけです」
「そうですか……セリさんは優しいんですね」
瀬玲を「優しい」と言う笠本の意図が読めなかったのか……瀬玲が首を傾げる。
そんな様子を見せた彼女を笠本が聞かれる事も無く答えた。
「セリさんは勇さん達を今まで支えてきましたから……そんな彼等が貴女の手から離れていく、それを感じたからこそ身を引いたのでしょう?」
恥ずかしげも無くその一言を告げる彼女を前に、瀬玲は「チリチリ」と耳元が熱くなるような感覚を覚える。
途端手を左右に振り、それに合わせる様に顔を横に振って応えた。
「笠本さん私の事過大評価しすぎ……そんなんじゃないですよきっと。 そんな事よりもずっと単純な事だと思ってます」
「単純って言うと?」
並び歩く瀬玲の顔が空へ向けられると……それに釣られたかの様に笠本も空を見上げる。
何も無い白と青が織り成す虚空のキャンパスを二人見上げ……ひんやりとした空気が顎下から輪郭を沿う様に流れて火照った顔が冷えていく感覚を覚える中、瀬玲は僅かに笑窪を作りそっと答えた。
「フフッ、私はただ自尊心がこれ以上傷付くのが嫌なだけですよ」
彼女が述べたのは極単純な……自己満足の延長。
「自尊心……ですか」
「ええ……アイツラと一緒に居るとなんだか自分が自分で居られなくなりそうで」
「あぁ~……わかります、彼等のテンションは私も時々理解出来ない事があります。 体育会系というか、暑苦しいというか」
「さすが笠本さん……やっぱりわかります?」
不意に笠本が自身の掛ける眼鏡を「スッ」と上げ、レンズに当たり反射した光が眩く輝きを放つ。
「えぇ……私も時折感化されそうになるので、心輝君かマヴォさんをいじる事で冷静さを取り戻すようにしています」
しれっと酷い事をカミングアウトする笠本に、瀬玲も苦笑を浮かべざるを得ない。
「セリさんはそれでいいかと思います。 貴女は戦うよりも、私と同じ側の人間だと思うので」
妙な親近感を覚えたのだろう……笠本が胸元で小さく両手を握り締めたポーズ見せると瀬玲の顔も自然とはにかみ、彼女の心ながらの応援とも取れるその言葉に喜びを露わにした。
二人の女子が街を行く。
後日起こるかもしれない激闘に備え、心の洗濯を行う為に。
その手に握られたのは、仲間を想うが故の……沢山のキーホルダーが詰められた小さな袋であった。
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