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第二十一節「器に乗せた想い 甦る巨島 その空に命を貫きて」
~心身荒みて、届かぬ想い~
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自陣とも言える輸送機待機場所で、多くの軍人が右往左往し陣地の設営を行う。
そんな中、瀬玲は勇達が去っていくのを静かに佇みながら見送っていた。
勇達の姿が見えなくなり、そっと輸送機が並ぶ方へと振り返ると……そこに彼女を見つめたままのあずーの姿があった。
「どうしたのあず? 貴方も行かないと―――」
「セリちゃんこそどうしたの? なんからしくないよ?」
いつもであれば瀬玲は平然と装い、どの様な事があっても鼻にも掛けず堂々と振る舞う。
だが今の彼女はただ茫然自失となった姿を晒す……あずーはその事にいち早く気付き、彼女を心配して残っていたのだった。
「んー……そう思う?」
「うん」
迷う事無く即答するあずーに観念したのか……沈んでいた顔が更に影を落とす。
「ねぇ、あず……ちょっと愚痴聞いてもらってもいい?」
「ん? いいよ」
珍しく弱気を見せる瀬玲に、あずーも何やら感じる事があるのだろうか……静かに彼女の言葉に耳を傾けた。
「最近さ、茶奈が張り切ってるじゃん? その所為か全体的になんかこう……体育会系のノリが強くなってきてるから……なんか付いていけないのよ」
「セリちゃんあんまりスマートじゃない事好きじゃないもんね」
瀬玲が沈んだまま、「ぷう」と小さな膨れっ面を見せ、不満を覗かせる。
「本当はさぁ、別にこれ以上強くなる必要は無いんじゃないかなぁって思う訳よ」
「なんで~?」
「だってさ、勇なんてもうこれ以上強くなったってアイツに勝てる奴なんか剣聖さんやラクアンツェさんくらいじゃん? おまけにアイツの修行方法取り込んだら新境地開けるって皆やってるじゃん? もう普通の王くらいなら何て事なく倒せそうだし」
「確かにね~」
「無理して私が同じ様にやらなくてもさ、アージさん、マヴォさん、レンネィさん居るし、シンだって結構ノリノリだし……もうそれでいいんじゃないかなって」
「セリちゃん最初から乗り気あんまりなかったもんねぇ」
「勇の助けに成りたいっていう事とか、シンの事抑えないと~とか思ってたけどさ、なんかもうそういう次元通り越しちゃったし……正直やりがいがねぇ」
「なんかセリちゃん、仕事疲れの中年のおっさんくさい……」
途端、愚痴る度に眉間にシワが寄っていく瀬玲の顔がジョゾウの様に固まった。
「それなら辞めちゃえばいいんじゃないかなぁ」
そんな彼女にぶつけられたのは、あずーのストレートな一言。
あずーに悪気がある訳ではない。
ただ瀬玲には悩みがあり、苦しんでいるという事……それに対し彼女が思う事を素直にぶつけているだけなのだ。
「アタシもさー修行とか言われても、正直きついなーって思う事はあるし……セリちゃんと同じくらいの気持ちなんだと思う。 でもアタシは皆と一緒に居ると楽しいからそれでいいかなって思ってるよ」
今までのあずーの言葉とは思えない様な、ハッキリとした答え……それは彼女の成長の証とも言えるだろう。
この様に言えるのも、瀬玲があずーにとっても幼馴染であるからこそ。
それを知っているから瀬玲もまた彼女に遠慮なく本音をぶつけられる訳である。
「セリちゃんは、皆と一緒に居るの……どう思ってる?」
「私は……」
言葉が詰まる。
今までは頭の弱い子だと思い心の中では馬鹿にしていた所もあったあずーに対し、何も言い返せずにいる。
そんな自分が、愚痴塗れの自分が、今どれだけ惨めか……情けないのか……瀬玲はそこから生まれる悔しさで口元が震えていた。
―――私……なんで魔剣使いやってるんだろな……―――
最初はただ、自分達を守ろうと必死に戦っていた勇の背中を守りたい、そう思っただけだった。
それも、気付けば勇は守らなくてもいい様な存在へと成長し、周りの仲間達も次々に彼に追い付こうと成長していく。
置いて行かれる自分。
本当は必要とされたかったのかもしれない。
ちやほやされたい、特別に成りたい自分が居たのかもしれない。
だから魔剣を取った……勇達をダシにして、気取り、自分の心を誤魔化して。
だが、こんなドロドロになってまで戦いに身を投じる事に……彼女は疲れを感じていたのだろう。
何故なら彼女の本質は……普通の女の子でしかないのだから。
瀬玲の顔が気落ちする度に下に俯いていく。
その瞳は僅かに潤うが、瞼によって遮られ、表情は殆ど伺えない。
「ごめんね、今のアタシじゃそれくらいしか言えない……それじゃ、行くね。 セリちゃん気を付けてね」
あずーが悲しそうな顔を浮かべたまま……そのまま立ち去っていく。
それを見届ける事も無く、俯いたままの瀬玲はそのまま地べたへと座り込み……体育座りで身を屈め、膝に顔を埋めた。
「……もうどうしたらいいかわかんない……」
昂った感情が声を甲高くさせ、負の感情を乗せた言葉が漏れる。
多くの者達がそんな彼女を見る中……既にモチベーションの限界とも言える状態を晒す彼女に声を掛けようと思う者は誰一人として居なかった。
どこで抜かれたのだろう?
どこで差が付いたのだろう?
勇達への嫉妬心が揺らぎ、虚しさを更に引き立たせる。
結局……今ここに居る理由が……もっともらしい理由が……彼女には何一つ思い浮かぶ事が出来ずにいた。
彼女の心は最早、限界であった。
そんな中、瀬玲は勇達が去っていくのを静かに佇みながら見送っていた。
勇達の姿が見えなくなり、そっと輸送機が並ぶ方へと振り返ると……そこに彼女を見つめたままのあずーの姿があった。
「どうしたのあず? 貴方も行かないと―――」
「セリちゃんこそどうしたの? なんからしくないよ?」
いつもであれば瀬玲は平然と装い、どの様な事があっても鼻にも掛けず堂々と振る舞う。
だが今の彼女はただ茫然自失となった姿を晒す……あずーはその事にいち早く気付き、彼女を心配して残っていたのだった。
「んー……そう思う?」
「うん」
迷う事無く即答するあずーに観念したのか……沈んでいた顔が更に影を落とす。
「ねぇ、あず……ちょっと愚痴聞いてもらってもいい?」
「ん? いいよ」
珍しく弱気を見せる瀬玲に、あずーも何やら感じる事があるのだろうか……静かに彼女の言葉に耳を傾けた。
「最近さ、茶奈が張り切ってるじゃん? その所為か全体的になんかこう……体育会系のノリが強くなってきてるから……なんか付いていけないのよ」
「セリちゃんあんまりスマートじゃない事好きじゃないもんね」
瀬玲が沈んだまま、「ぷう」と小さな膨れっ面を見せ、不満を覗かせる。
「本当はさぁ、別にこれ以上強くなる必要は無いんじゃないかなぁって思う訳よ」
「なんで~?」
「だってさ、勇なんてもうこれ以上強くなったってアイツに勝てる奴なんか剣聖さんやラクアンツェさんくらいじゃん? おまけにアイツの修行方法取り込んだら新境地開けるって皆やってるじゃん? もう普通の王くらいなら何て事なく倒せそうだし」
「確かにね~」
「無理して私が同じ様にやらなくてもさ、アージさん、マヴォさん、レンネィさん居るし、シンだって結構ノリノリだし……もうそれでいいんじゃないかなって」
「セリちゃん最初から乗り気あんまりなかったもんねぇ」
「勇の助けに成りたいっていう事とか、シンの事抑えないと~とか思ってたけどさ、なんかもうそういう次元通り越しちゃったし……正直やりがいがねぇ」
「なんかセリちゃん、仕事疲れの中年のおっさんくさい……」
途端、愚痴る度に眉間にシワが寄っていく瀬玲の顔がジョゾウの様に固まった。
「それなら辞めちゃえばいいんじゃないかなぁ」
そんな彼女にぶつけられたのは、あずーのストレートな一言。
あずーに悪気がある訳ではない。
ただ瀬玲には悩みがあり、苦しんでいるという事……それに対し彼女が思う事を素直にぶつけているだけなのだ。
「アタシもさー修行とか言われても、正直きついなーって思う事はあるし……セリちゃんと同じくらいの気持ちなんだと思う。 でもアタシは皆と一緒に居ると楽しいからそれでいいかなって思ってるよ」
今までのあずーの言葉とは思えない様な、ハッキリとした答え……それは彼女の成長の証とも言えるだろう。
この様に言えるのも、瀬玲があずーにとっても幼馴染であるからこそ。
それを知っているから瀬玲もまた彼女に遠慮なく本音をぶつけられる訳である。
「セリちゃんは、皆と一緒に居るの……どう思ってる?」
「私は……」
言葉が詰まる。
今までは頭の弱い子だと思い心の中では馬鹿にしていた所もあったあずーに対し、何も言い返せずにいる。
そんな自分が、愚痴塗れの自分が、今どれだけ惨めか……情けないのか……瀬玲はそこから生まれる悔しさで口元が震えていた。
―――私……なんで魔剣使いやってるんだろな……―――
最初はただ、自分達を守ろうと必死に戦っていた勇の背中を守りたい、そう思っただけだった。
それも、気付けば勇は守らなくてもいい様な存在へと成長し、周りの仲間達も次々に彼に追い付こうと成長していく。
置いて行かれる自分。
本当は必要とされたかったのかもしれない。
ちやほやされたい、特別に成りたい自分が居たのかもしれない。
だから魔剣を取った……勇達をダシにして、気取り、自分の心を誤魔化して。
だが、こんなドロドロになってまで戦いに身を投じる事に……彼女は疲れを感じていたのだろう。
何故なら彼女の本質は……普通の女の子でしかないのだから。
瀬玲の顔が気落ちする度に下に俯いていく。
その瞳は僅かに潤うが、瞼によって遮られ、表情は殆ど伺えない。
「ごめんね、今のアタシじゃそれくらいしか言えない……それじゃ、行くね。 セリちゃん気を付けてね」
あずーが悲しそうな顔を浮かべたまま……そのまま立ち去っていく。
それを見届ける事も無く、俯いたままの瀬玲はそのまま地べたへと座り込み……体育座りで身を屈め、膝に顔を埋めた。
「……もうどうしたらいいかわかんない……」
昂った感情が声を甲高くさせ、負の感情を乗せた言葉が漏れる。
多くの者達がそんな彼女を見る中……既にモチベーションの限界とも言える状態を晒す彼女に声を掛けようと思う者は誰一人として居なかった。
どこで抜かれたのだろう?
どこで差が付いたのだろう?
勇達への嫉妬心が揺らぎ、虚しさを更に引き立たせる。
結局……今ここに居る理由が……もっともらしい理由が……彼女には何一つ思い浮かぶ事が出来ずにいた。
彼女の心は最早、限界であった。
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