時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第二十節「心よ強く在れ 事実を乗り越え 麗龍招参」

~悠久の時を生きる者~

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「―――しかし驚いたよ、まさか剣聖以外にも僕をここまで引き上げる奴が居るなんてさ……剣聖には改めて感謝したいくらいだよ」

 大地に尻餅を突き、そう語るギオ。
 その顔には先程素で殴られて出来たアザが痛々しく残っていた。

「まぁ正直ここまでやりあうたぁ予想はしてなかったがなぁ~。 面白いモンも見れたしよぉ」

 そんな事を口走る剣聖の横でカプロが自慢げに「フフン」と鼻を高々と持ち上げていた。

「でも……正直もうギオとは戦いたくない……」
「さりげなく酷いなぁ君は……」

 少し離れた所に勇が同様に座り、茶奈から命力を分けてもらっていた。
 おかげで先程から10分程しか経ってはいないが、落ち着いて喋れる程には回復していた。

「でも今日は凄く気分がいいんだ……あの姿に成ると色々なモノが吹き飛ぶ気がしてね」
「あん時から何回あの姿になったんだぁよ?」
「一度も成ってないよ……だから本当に久しぶりにスッキリしたんだ。 もう100年ぶりくらいか……」
「まぁ俺と出会った時は500年ぶりとか言ってたよなぁ~」
「あぁ、懐かしいなぁ……『百の魔女』とやり合った時の事は今でも鮮明に思い出すよ」

 途方も無い年数を口にする二人を前に、勇達もただポカンとしてしまう。

「ギオの年齢幾つくらいなんだよ?」

 ふと疑問に思った心輝が問い掛けると、別段抵抗も無くギオが口を開いた。

「僕の年齢? うーん、憶えてないな……1000年くらいは生きてると思うけれど」
「せ、せんねん!?」

 『あちら側』の人間も勇達と同様、生きられる歳は精々100年前後、命力により寿命を延ばした剣聖ですら300歳前後である。
 つまり彼は剣聖よりも遥かに年寄りだという事だ。

「『百の魔女』って?」
「そう呼ばれた魔剣使いが居たんだぁよ。 百個の魔剣を同時に扱える命力を持った魔剣使いだったってェ話だ。 アストラルエネマだったなんて話もあるが、実際は只命力がとんでもなく多いだけの奴だったってよぉ」
「そうは言うけれど、魔剣の扱いも相当だったんだよ。 彼女との激しい殺し合いもいい思い出さ」



 ギオが「殺し合い」に拘る理由……それは彼が不死身に近く、生死に対する執着が薄れているからこそ。
 命を懸けた戦いは彼に生を与え今を作り続ける……彼にとってそれは人が食事を行う事と同意義なのかもしれない。
 ただそのスパンが果てしなく長いからこそ、彼は常に望み続けているのだろう。

 「最高の殺し合い」を。

「1000年も生きてるってよ、魔者の中には長寿の種族とかもいるのかよ?」
「んー……僕が知る限りでは皆人間と変わらないよ」
「コイツが特殊過ぎるんだぁよぉ……」

 剣聖がそうぼやきながらギオの肩を叩く。
 命力を敢えて乗せてないのだろう、大きな掌がバシバシと当たる度にギオの顔が苦痛に歪んでいた。

「そう言えば、そんなに長い時間生きてるなら……ギオはフララジカに関する情報とか何か持ってたりしないか?」
「フララジカ……随分懐かしい響きだねぇ……でも残念ながら名前くらいしか知らないかな」
「んなのとっくに聞いたってんだよぉ~」

 勇からの唐突な質問であったが……彼から満足のいく回答は得られずじまい。
 それどころか抜け目のない剣聖が聞いた事が無い訳も無く。

「そうか……やっぱりそう簡単に見つかる訳ないよなぁ、世界が元に戻る方法」
「世界の行く末なんかどうでもいいかな……それよりも―――」

 そう言いかけると、ギオがスッと立ち上がり笑顔で勇を見つめる。

「―――君……そう言えば名前を聞いてなかった。 名前、教えて貰えるかい?」
「勇だ……藤咲勇」
「そうかぁ……勇君かぁ……フフッ、フフフッ……」

 勇の名前を聞くと、妙に嬉しそうな顔を浮かべその目を細める。
 そんな様子のギオを前に、勇も周りの者達も珍妙な物を見る様な目で見続けた。

「あぁ……これは運命なのさ、君の様な人が、強者が今ここに居る……僕はそれがとても嬉しいッ!!」

 あまりの歓びに打ちひしがれその両手で自身を抱く様に力強く腕を回す。
 そんな仕草を前にさすがの勇もたじろいでいた。



 しかしそれすらも掠れる程に、彼の感情が遂に爆発した。



「勇君……僕は君が欲しいッ!! 僕の嫁になってくれッ!!」
「げッ!? ぜ、絶対に嫌だッ!! 俺にそんな趣味は無い!!」

 突然の告白、突然の一言。
 それに驚き慄いた勇は咄嗟に立ち上がり後ずさる。

 だがギオはそれでも止まらず……勇へとゆっくり迫り寄っていく。

「頼むよぉー!! 君が必要なんだッ!!」
「う、うわぁ~!?」



 今にも別の意味で襲い掛からんとするギオ。



 だが、その時……二人の間に素早く一人の人影が現れ間を塞いだ。



「勇さんにはもうこれ以上触れさせはしませんッ!!」

 茶奈が勇を庇い、その両手を広げてギオの進路を塞いだのだ。
 怒りにも似た感情が彼女の力を昂らせ、命力を迸らせていた。



 だがそれがいけなかった。



 そんな彼女を見た途端、ギオの目が思いっきり見開いた。



「き、君は……君はァーーーーッ……!!」
「むむっ!!」
「君ッ……僕の嫁になってくれッ!!」
「「「えぇーーーーーーーーー!?」」」



 再びの突然の一言に周囲が驚愕の声を張り上げた。



「えっ……あ、いえ、その……いきなり言われても困ります……」
「茶奈ァ!! アンタ何照れてんのよォ!?」

 その一言を前に……照れた茶奈はモジモジとした仕草を取る。

「だ、だってぇ……こんな事言われたの初めてなんだモンッ……!!」

 普段使わないような語尾を付け言い訳をする茶奈……その様子からテンパっているのがまる判りである。

「茶奈、逃げるぞッ!!」
「あ、え、は、はいっ!!」
「ま、待ってくれ二人共ッ!!」

 不意に茶奈の手を掴んだ勇が彼女を引く様に走り始めると、茶奈もそれに合わせる様に足を動かし二人でグラウンドを駆ける。

 それを追おうとギオも足を踏み出すが……その瞬間、彼の前に心輝達が立ち塞がった。

「どういうつもりだい……僕の邪魔をするっていうなら容赦はしないよ……?」

 興を削がれたのか……ギオが真剣な顔付きへと戻り、道を塞ぐ心輝達を睨み付ける。



 だが、魔剣を構えた心輝達は……突然その魔剣から手を離した。
 けたたましい音と共に多数の魔剣が地面へと落下していく。

 そんな様子を見たギオの顔は既に蒼白。

「へへっ……お前の弱点はとうに聞いてるんだよ……!!」
「命力に頼らずとも俺の腕力は半端ねぇぜぇ……!!」

 俄然やる気の心輝達……弱点が判れば勝てる、それは特性を知った彼等なら十分理解出来る事だ。

 だが彼等のやりとりを横から見ていた剣聖が「いけねっ」と小さく漏らすと……こっそりとその場から立ち去っていった。

「あいつらの逃げる時間くらい余裕で稼いでやるぜ!!」
「くそぉ……まっ……まさか……僕の特性を喋ったなぁ剣聖ッ!!」



 おもむろに振り向くギオ……だがその視線の先に居るはずだった剣聖の姿はもう無い。



「剣聖ィーーーーーー!? 逃げたなあーーーーーー!?」
「オラぁーーー!!」



 身も心もボロボロになりつつも……勇は力強く大地を踏みしめ、茶奈も彼を気遣いながら付いていく。



 真夏の太陽が燦々と照り付ける空の下で……仲間達の助けの中、勇と茶奈が手を繋いで離れる様に逃げていく姿。

 しかしその顔はどこか楽しそうで……。



 今回の連日続いた波乱の騒動はこうして幕を閉じ、一つの思い出を終える。
 彼の者にとっては一瞬であろう今でも、皆にとっては掛け替えのない一幕なのだ。



 傷付き、倒れても……諦めぬ限り……道は続く。

 戦士達の道は、今なお続き……力強く踏みしめて。



第二十節 完


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