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第十八節「策士笑えど 光衣身に纏いて 全てが収束せん」
~妙者覗きし 思惑に乗せ戦士達は行く~
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ベゾー族の住む変容地域は目指す先にある山の麓~中腹に存在する。
茶奈達はそこへ向けてゆっくりと歩を進めていた。
ただ山道をひた進む。
15分程歩くと彼等の周囲が次第に緑色から淡い黄色の植物へと変化していく。
2年の月日がそれらを侵食しているのだろうか、緑と黄が入り混じる風景は世界の境目を示し幻想感さえ感じさせた。
どちらが侵す側なのか、それは誰にもわかりようも無い。
「兄者……」
「ウム……見られているな」
茶奈が二人の反応を受けて周囲を見回すが、何もおかしい所は感じない。
二人の経験によって培われた感覚が何者かの視線を感じたのだろう。
「既に奴等の領域だからな、女神ちゃんも警戒始めておきな」
「は、はい!!」
風が作る草木の掠れる音だけが響き、周囲に居るのは彼女達だけだと錯覚させるほどに静かだ。
人の気配すら感じないその周囲を警戒し、彼等は徐々に道とは言えない道へと入り込んでいく。
―――
そんな彼女達の姿をどこからか……筒形の望遠鏡を介して覗き込む一人の魔者の姿があった。
「来たネェ来たネェ……情報通りだ」
その大きな手に掴んだ望遠鏡をゆっくり降ろし、彼女達が居るであろう場所を遠くから見つめるその魔者……ベゾー族の王。
周囲に立つ他の者達と比べても比較的小柄……おおよそ180cm程の身長で、ローブの様な灰色の厚い生地の衣を纏う。
片手に握るのは、木漏れ日を受けて燐と輝きを放つ長い柄の杖。
王は「ニタァ」とした笑みを浮かべ、甲高い声を上げる。
「お前達、後は手筈通りにやんナァ、しくじッたら承知しないからネェ?」
「ぎょ、御意!!」
指示を受けた部下達が慌てながら自分達の持ち場へと走り去っていくのを振り返る事無く……彼女はその鋭い目付きを茶奈達の居る方角へと向け続けていた。
「カカッ!! さァてどう料理してやろうかネェ……爆殺か、惨殺か……楽しみでしョうがないッたらありャしないネェ!!」
途端、その場に「ヒヒッ!!」という超高音域の笑い声が木霊する。
木々に覆われる様な形に造られたその場所で、王はただ一人高々と笑い声を上げていた。
―――
「作戦の手筈通りに動くぞ」
「はい……ですが私は本当に戦闘に参加しなくて平気なんですか?」
「あぁ、茶奈殿は俺とマヴォを繋ぐ様に動いてもらえればそれで十分だ」
「そうですか……」
周囲を警戒し、ぼそりと彼等だけに聞こえる様な声で話し合う。
だが茶奈の表情はどこか浮かない。
ラクアンツェに指摘され、自分の持ち味を出し切れない、出す場を設けられない彼女の苛立ちは募る。
本当は仲間を守る為に自分の力を存分に奮いたい……それすらも叶わない自分の境遇に嫌気すら感じていた。
そんな時ふと、茶奈の脳裏に先程の勇の姿が思い浮かぶ。
―――あの人は悩みなんて無いんです……私の悩みなんて判る訳……―――
そう考え始めると彼女の顔がどんどんと俯いていく。
気分がどんどんと落ち込んでいく。
戦う事の出来ない惨めな自分が情けなくて。
すると不意に彼女の肩に「ポン」と優しい感触が乗っかった。
それに気付いた茶奈が振り向くと……マヴォの笑顔が映りこむ。
「まぁいざって時は頼むぜ女神ちゃん!!」
「あ……はいっ!!」
二人のやり取りをチラリと伺い……アージが「フッ」と微かに声を漏らし僅かに口角を上げる。
「彼女の扱いはマヴォの方が得意な様だな」
誰にも聞こえぬ独り言をぼそり呟くと……その顔を引き締めた。
「では行くぞ、マヴォ、茶奈殿!!」
「応!!」
「はいっ!!」
そう声を上げた途端、アージとマヴォがその強靭な足を踏み込み……二手に別れ突き進んでいく。
二人が突き進んでいく姿を見送ると……茶奈がドゥルムエーヴェを構え、空へとゆっくり上昇を始めた。
彼等の作戦……白の兄弟の攻撃基軸に重点を置いた二点突破の陣形。
遠く離れた仲間同士とのやり取りは別行動するにおいて重要な事だ。
だが二人同士では通話が出来ても互いの位置が即座にわからねば、やりとりが出来ても意味が無い。
彼等の位置をしっかりと把握し、それを伝える者が必要なのである。
茶奈が絶対的な空という安全領域を最大限に利用して二人の周囲の状況を逐一伝え……可能であれば援護攻撃を行う。
それが今の彼女の役目である。
もっとも、茶奈の現状で援護攻撃を行おうものなら二人の命の危険にも繋がりかねないが。
ゴォォォォォ……!!
茶奈が番えた魔剣が火花を放ち、その体ごと空へと上昇していく。
その瞳には二手に分かれたアージとマヴォの姿がしっかりと映りこんでいた。
「アージ、マヴォ、クリア……です」
「らーじゃ」
簡単な言葉でお互いの意思疎通を行う。
予め決めて置いた言葉であれば打ち合わせで決める事は出来る。
翻訳がされなければ、お互いが認識出来る言葉を使えばいいのだ。
「よし、私も行こう」
僅かにドゥルムエーヴェを傾け、二人が進む方向へと進路を取る。
アージとマヴォも僅かにチラリと振り向き、彼女が飛んでくる姿をその目に捉えていた。
ポンッ!!
ヒュルヒュルヒュル~……
その時、聴きなれない不可解な音が鳴り響き、3人の耳に届く。
音の源……それは茶奈へと向かう不規則な軌道を作る黒い一筋。
「えっ?」
カッ!!
ッバッゴォォォーーーーーー!!!!
その瞬間、閃光が場を支配した。
爆発音と衝撃音が周囲へと鳴り響く……空中で大爆発が起きたのだ。
「なっ!? 何ィーーーッ!?」
「女神ちゃあんッ!?」
大爆発を目の当たりにした二人が思わず大声を張り上げる。
爆心地に居たであろう茶奈を巻き込んだ大爆発はそれ程までに衝撃的で……青空を埋め尽くす程に大きく広がる黒煙を生み出していた……。
茶奈達はそこへ向けてゆっくりと歩を進めていた。
ただ山道をひた進む。
15分程歩くと彼等の周囲が次第に緑色から淡い黄色の植物へと変化していく。
2年の月日がそれらを侵食しているのだろうか、緑と黄が入り混じる風景は世界の境目を示し幻想感さえ感じさせた。
どちらが侵す側なのか、それは誰にもわかりようも無い。
「兄者……」
「ウム……見られているな」
茶奈が二人の反応を受けて周囲を見回すが、何もおかしい所は感じない。
二人の経験によって培われた感覚が何者かの視線を感じたのだろう。
「既に奴等の領域だからな、女神ちゃんも警戒始めておきな」
「は、はい!!」
風が作る草木の掠れる音だけが響き、周囲に居るのは彼女達だけだと錯覚させるほどに静かだ。
人の気配すら感じないその周囲を警戒し、彼等は徐々に道とは言えない道へと入り込んでいく。
―――
そんな彼女達の姿をどこからか……筒形の望遠鏡を介して覗き込む一人の魔者の姿があった。
「来たネェ来たネェ……情報通りだ」
その大きな手に掴んだ望遠鏡をゆっくり降ろし、彼女達が居るであろう場所を遠くから見つめるその魔者……ベゾー族の王。
周囲に立つ他の者達と比べても比較的小柄……おおよそ180cm程の身長で、ローブの様な灰色の厚い生地の衣を纏う。
片手に握るのは、木漏れ日を受けて燐と輝きを放つ長い柄の杖。
王は「ニタァ」とした笑みを浮かべ、甲高い声を上げる。
「お前達、後は手筈通りにやんナァ、しくじッたら承知しないからネェ?」
「ぎょ、御意!!」
指示を受けた部下達が慌てながら自分達の持ち場へと走り去っていくのを振り返る事無く……彼女はその鋭い目付きを茶奈達の居る方角へと向け続けていた。
「カカッ!! さァてどう料理してやろうかネェ……爆殺か、惨殺か……楽しみでしョうがないッたらありャしないネェ!!」
途端、その場に「ヒヒッ!!」という超高音域の笑い声が木霊する。
木々に覆われる様な形に造られたその場所で、王はただ一人高々と笑い声を上げていた。
―――
「作戦の手筈通りに動くぞ」
「はい……ですが私は本当に戦闘に参加しなくて平気なんですか?」
「あぁ、茶奈殿は俺とマヴォを繋ぐ様に動いてもらえればそれで十分だ」
「そうですか……」
周囲を警戒し、ぼそりと彼等だけに聞こえる様な声で話し合う。
だが茶奈の表情はどこか浮かない。
ラクアンツェに指摘され、自分の持ち味を出し切れない、出す場を設けられない彼女の苛立ちは募る。
本当は仲間を守る為に自分の力を存分に奮いたい……それすらも叶わない自分の境遇に嫌気すら感じていた。
そんな時ふと、茶奈の脳裏に先程の勇の姿が思い浮かぶ。
―――あの人は悩みなんて無いんです……私の悩みなんて判る訳……―――
そう考え始めると彼女の顔がどんどんと俯いていく。
気分がどんどんと落ち込んでいく。
戦う事の出来ない惨めな自分が情けなくて。
すると不意に彼女の肩に「ポン」と優しい感触が乗っかった。
それに気付いた茶奈が振り向くと……マヴォの笑顔が映りこむ。
「まぁいざって時は頼むぜ女神ちゃん!!」
「あ……はいっ!!」
二人のやり取りをチラリと伺い……アージが「フッ」と微かに声を漏らし僅かに口角を上げる。
「彼女の扱いはマヴォの方が得意な様だな」
誰にも聞こえぬ独り言をぼそり呟くと……その顔を引き締めた。
「では行くぞ、マヴォ、茶奈殿!!」
「応!!」
「はいっ!!」
そう声を上げた途端、アージとマヴォがその強靭な足を踏み込み……二手に別れ突き進んでいく。
二人が突き進んでいく姿を見送ると……茶奈がドゥルムエーヴェを構え、空へとゆっくり上昇を始めた。
彼等の作戦……白の兄弟の攻撃基軸に重点を置いた二点突破の陣形。
遠く離れた仲間同士とのやり取りは別行動するにおいて重要な事だ。
だが二人同士では通話が出来ても互いの位置が即座にわからねば、やりとりが出来ても意味が無い。
彼等の位置をしっかりと把握し、それを伝える者が必要なのである。
茶奈が絶対的な空という安全領域を最大限に利用して二人の周囲の状況を逐一伝え……可能であれば援護攻撃を行う。
それが今の彼女の役目である。
もっとも、茶奈の現状で援護攻撃を行おうものなら二人の命の危険にも繋がりかねないが。
ゴォォォォォ……!!
茶奈が番えた魔剣が火花を放ち、その体ごと空へと上昇していく。
その瞳には二手に分かれたアージとマヴォの姿がしっかりと映りこんでいた。
「アージ、マヴォ、クリア……です」
「らーじゃ」
簡単な言葉でお互いの意思疎通を行う。
予め決めて置いた言葉であれば打ち合わせで決める事は出来る。
翻訳がされなければ、お互いが認識出来る言葉を使えばいいのだ。
「よし、私も行こう」
僅かにドゥルムエーヴェを傾け、二人が進む方向へと進路を取る。
アージとマヴォも僅かにチラリと振り向き、彼女が飛んでくる姿をその目に捉えていた。
ポンッ!!
ヒュルヒュルヒュル~……
その時、聴きなれない不可解な音が鳴り響き、3人の耳に届く。
音の源……それは茶奈へと向かう不規則な軌道を作る黒い一筋。
「えっ?」
カッ!!
ッバッゴォォォーーーーーー!!!!
その瞬間、閃光が場を支配した。
爆発音と衝撃音が周囲へと鳴り響く……空中で大爆発が起きたのだ。
「なっ!? 何ィーーーッ!?」
「女神ちゃあんッ!?」
大爆発を目の当たりにした二人が思わず大声を張り上げる。
爆心地に居たであろう茶奈を巻き込んだ大爆発はそれ程までに衝撃的で……青空を埋め尽くす程に大きく広がる黒煙を生み出していた……。
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