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第十七節「厳しき現実 触れ合える心 本心大爆発」
~ソレゾレ ノ ユクエ~
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数日後……。
空は薄っすらと雲が覆い、太陽の光を受けた影響でその白さを際立たせていた。
僅かに湿気を伴う空気が人々の鼻に付き、間もなく来るであろう夏を予感させる。
季節は6月の中旬……。
太陽が高く上がり始め、気持ちの良い風が吹き抜けるこの季節にも……彼等への要求は絶える事は無い。
いつもの様に本部に集まり、先日の様にミーティングルームの席に座る勇達。
その視線の先には福留が壇の席に座り込み、彼等の正面に設置された画面をパソコン越しに操作しながら彼等に説明を始めようとする姿があった。
「では早速ですが予定の最終確認を行います。 まずは勇君のAチームですが……翌日の夕方発の便に乗り、目的地のトルコへと出発致します。 そしてその三日後にはアージさんのBチームが即日中国入りの予定で動いて頂きます。 最後にレンネィさんのCチームですが……申し訳ありませんがこちらは先方との折り合いが付かず、現状の予定は保留となります」
チーム分けが行われて初の出向任務。
戦力が分散した上での作戦にまだ完全な不安の排除は出来ていないものの……既に彼等の気持ちは固まっており、その表情は力強い眼差しを向けていた。
彼等もいつの間にか強くなったものだ……福留は彼等の逞しさを前にして生まれた安堵感を胸中に秘める。
「……Aチームの作戦は、現地に現れた『あちら側』の人間の国の調査及び説得となります」
「人間……ですか」
勇の相槌に福留が首を縦に振ると……映し出された画像が現地の様子へと切り替わった。
そこにあるのは、フェノーダラ王国とはまた異なった文化レベルで建造された城とも取れる大きな平たい建造物と、そこを中心とした塀に囲まれた大きな町であった。
フェノーダラ王国とは、一年前に滅びた『あちら側』の人間の国である。
勇達とも深い交流があったが、1年前の戦いの折に攻撃を受け……勇と懇意であった王女エウリィと共に光に消えた。
彼女の死がきっかけとなって変化した勇の左目は彼女と同じ薄青色の網膜を有し……彼の心の奥底にその姿が今なお残り続けている。
「彼等は自分達の国を『リジーシア』と呼んでいるそうです……勇君達には是非とも彼等とトルコ政府との架け橋を担って頂きたい」
「わかりました」
勇が笑顔で頷くと、福留もまた「ウンウン」と頷き彼等の反応を憂う。
だが、そんな彼等の裏でレンネィがぽつりと呟いた。
「リジーシア……また厄介な国が来ていたのね」
その顔は眉間を寄せており、半ば不安を醸す表情であった。
そんな彼女の反応に気付き、瀬玲が問い質す。
「そんなヤバい国なんですか?」
「『ヤバい』って程じゃあないけれど……」
二人のやり取りに気付いた福留や他の者達もその会話に耳を傾ける。
「あの国は弱小国家だから恐ろしさはそんなでもないけれど、色々と『必死』なのよね……弱小だからこそなのかもしれないけど。 まぁ~きっと平気よぉ、二人共しっかりしてるし……おチビちゃん達はわからないけどね」
わかったような、わからないような……そんな曖昧とも言える話に勇と瀬玲は苦笑いをする事しか出来なかった。
「レン姐さん、良く知ってるっすね。 行った事あるんすか?」
「えぇ、一度魔剣使いになって間もない頃にね」
「それ何十年前なんすかね……」
ガッ!!
「シン……!!」
不意に心輝の首根っ子にその細い指があてがわれるや……命力をゆらりと込めたその指が彼の首を「ギチリ」と締めこんだ。
「何……年、前よ……!!」
「ウ、ウス……」
―――レンネィさん、それはさすがにサバ読み過ぎですよ……―――
幾人かがそう思ったが……その空気を前に口に出せる訳も無く。
「レンネィ殿、御年はいくらに御座ろう。 幾年かサバ読み過ぎでは無かろうか?」
―――ジョゾウさーん!!―――
ガッ!!
レンネィのもう片手がジョゾウの嘴を力強く掴む。
「ジョゾウ……!!」
「レ、レンネゥ殿……く、くれは明らくな〝ぽうあはらすめんほぅ〟で御座る!!」
「と、とりあえず……この2年間現地人との関係を拒否してきた者達ですから最低限の注意だけは払って行動願いますねぇ……」
不穏な空気に堪らず福留が締めると……レンネィは気が済んだのか二人から手を離した。
彼女は口を「へ」の字へと曲げ、「ムスッ」と怒った表情を浮かばせている。
どうやら相当御冠の御様子。
「次にBチームですが……中国の四川省への出向となります。 現地で現在支配地域を広げつつある『ベゾー族』の討伐あるいは説得となりますが……恐らく説得には応じないと思いますので存分に力を奮って頂きたいと思います」
その言葉を聞くや、アージがぼそりと声を漏らす。
「ベゾーか……これも因果だな……」
「アージさん、知ってるんですか?」
不意に飛んだ質問に軽く頷くと……アージは淡々と語り始めた。
「遠い親戚の様な種族だ。 かといって加減をするつもりは無いがな……世界が合わさる前にはどうやら王が有能な指導者に切り替わり、勢力を増しているという噂を耳にした事が有る。 恐らく魔剣を所持しているだろう……我ら『白の兄弟』が赴くには十二分過ぎる理由と成ろう」
腕を組み語るアージは、薄っすらと眼を開き微かな想いを馳せる。
「実はよぉ、俺達は世界が合わさる前に……奴等ベゾーの下に向かおうとしてたんだ」
アージの口が止まると、すかさずマヴォが口を挟み……二人が顔を揃えて頷いた。
「そうだったのですねぇ……それでしたら丁度良いかもしれませんね……茶奈さんをどうかよろしくお願い致します」
「承った……」
そんな話を聞き、二人の前に座る茶奈も彼等に振り向くと軽く会釈をすると……それに気付いたアージはただ一言「ウム」と言い頷き、マヴォはと言えばニヤニヤと口角を上げて小刻みに手を振っていた。
「そしてCチームは状況が変わるまで待機……となります」
「はぁ~寄りにもよって待機かよぉ~少しでも実戦経験積んでおきたいんだけどなぁ」
待機……という言葉を聞いた途端、心輝が項垂れる様に机にもたれかかる。
最も戦地に向かいたいと思っているであろう彼が待機と言われればこうなってしまうのも無理はない。
もっとも……実戦練習であれば仲間同士でも行える為、申し分無い筈ではあるが。
「以上が最終確認となります。 出発される皆さんは各々の予定に合わせて荷物の整理と準備をお願い致します」
打ち合わせが終わり、各々が席を立つ。
出発までの残りの時間を無駄にせぬよう、それぞれがやるべき事を始める為に足を進める中……勇と茶奈が部屋の中に二人残っていた。
「勇さんはこれからどうするんですか?」
そう問われると、勇は少し考え……額を一掻きする。
「そうだな……特に無いし、荷物の整理だけして家に帰ろうかなって思ってる」
「それじゃあ、私もそれに合わせて帰ります。 今日はお父さんとお母さんと一緒に美味しい物でも食べに行きませんか?」
「お、いいね……そうしようか」
彼女の提案を受け、勇の顔が途端に笑顔になり二人が顔を合わせる。
すると茶奈も「フフッ」と笑い、上目遣いに勇を見つめた。
茶奈は藤咲家に居候して長く……血縁では無いが、いつの間にやら彼女は勇の両親を本当の両親の様に慕い「お父さん」「お母さん」と呼ぶ様になっていた。
勇や彼の両親もまたその言葉を長く聞き続けており、今では何の違和感も無くなっていた。
そう思う程に、今の彼女は藤咲家の家族の様に溶け込んでいるのだ。
相変わらずの徒歩での帰宅であったが、二人の足取りは軽く。
これから起こるであろう僅かな楽しい時間を期待しているのがありありとわかる様に、地面を叩く足音はリズミカルに音を刻み―――
―――その二人の笑顔の会話は確かに道中で華咲かせていた。
空は薄っすらと雲が覆い、太陽の光を受けた影響でその白さを際立たせていた。
僅かに湿気を伴う空気が人々の鼻に付き、間もなく来るであろう夏を予感させる。
季節は6月の中旬……。
太陽が高く上がり始め、気持ちの良い風が吹き抜けるこの季節にも……彼等への要求は絶える事は無い。
いつもの様に本部に集まり、先日の様にミーティングルームの席に座る勇達。
その視線の先には福留が壇の席に座り込み、彼等の正面に設置された画面をパソコン越しに操作しながら彼等に説明を始めようとする姿があった。
「では早速ですが予定の最終確認を行います。 まずは勇君のAチームですが……翌日の夕方発の便に乗り、目的地のトルコへと出発致します。 そしてその三日後にはアージさんのBチームが即日中国入りの予定で動いて頂きます。 最後にレンネィさんのCチームですが……申し訳ありませんがこちらは先方との折り合いが付かず、現状の予定は保留となります」
チーム分けが行われて初の出向任務。
戦力が分散した上での作戦にまだ完全な不安の排除は出来ていないものの……既に彼等の気持ちは固まっており、その表情は力強い眼差しを向けていた。
彼等もいつの間にか強くなったものだ……福留は彼等の逞しさを前にして生まれた安堵感を胸中に秘める。
「……Aチームの作戦は、現地に現れた『あちら側』の人間の国の調査及び説得となります」
「人間……ですか」
勇の相槌に福留が首を縦に振ると……映し出された画像が現地の様子へと切り替わった。
そこにあるのは、フェノーダラ王国とはまた異なった文化レベルで建造された城とも取れる大きな平たい建造物と、そこを中心とした塀に囲まれた大きな町であった。
フェノーダラ王国とは、一年前に滅びた『あちら側』の人間の国である。
勇達とも深い交流があったが、1年前の戦いの折に攻撃を受け……勇と懇意であった王女エウリィと共に光に消えた。
彼女の死がきっかけとなって変化した勇の左目は彼女と同じ薄青色の網膜を有し……彼の心の奥底にその姿が今なお残り続けている。
「彼等は自分達の国を『リジーシア』と呼んでいるそうです……勇君達には是非とも彼等とトルコ政府との架け橋を担って頂きたい」
「わかりました」
勇が笑顔で頷くと、福留もまた「ウンウン」と頷き彼等の反応を憂う。
だが、そんな彼等の裏でレンネィがぽつりと呟いた。
「リジーシア……また厄介な国が来ていたのね」
その顔は眉間を寄せており、半ば不安を醸す表情であった。
そんな彼女の反応に気付き、瀬玲が問い質す。
「そんなヤバい国なんですか?」
「『ヤバい』って程じゃあないけれど……」
二人のやり取りに気付いた福留や他の者達もその会話に耳を傾ける。
「あの国は弱小国家だから恐ろしさはそんなでもないけれど、色々と『必死』なのよね……弱小だからこそなのかもしれないけど。 まぁ~きっと平気よぉ、二人共しっかりしてるし……おチビちゃん達はわからないけどね」
わかったような、わからないような……そんな曖昧とも言える話に勇と瀬玲は苦笑いをする事しか出来なかった。
「レン姐さん、良く知ってるっすね。 行った事あるんすか?」
「えぇ、一度魔剣使いになって間もない頃にね」
「それ何十年前なんすかね……」
ガッ!!
「シン……!!」
不意に心輝の首根っ子にその細い指があてがわれるや……命力をゆらりと込めたその指が彼の首を「ギチリ」と締めこんだ。
「何……年、前よ……!!」
「ウ、ウス……」
―――レンネィさん、それはさすがにサバ読み過ぎですよ……―――
幾人かがそう思ったが……その空気を前に口に出せる訳も無く。
「レンネィ殿、御年はいくらに御座ろう。 幾年かサバ読み過ぎでは無かろうか?」
―――ジョゾウさーん!!―――
ガッ!!
レンネィのもう片手がジョゾウの嘴を力強く掴む。
「ジョゾウ……!!」
「レ、レンネゥ殿……く、くれは明らくな〝ぽうあはらすめんほぅ〟で御座る!!」
「と、とりあえず……この2年間現地人との関係を拒否してきた者達ですから最低限の注意だけは払って行動願いますねぇ……」
不穏な空気に堪らず福留が締めると……レンネィは気が済んだのか二人から手を離した。
彼女は口を「へ」の字へと曲げ、「ムスッ」と怒った表情を浮かばせている。
どうやら相当御冠の御様子。
「次にBチームですが……中国の四川省への出向となります。 現地で現在支配地域を広げつつある『ベゾー族』の討伐あるいは説得となりますが……恐らく説得には応じないと思いますので存分に力を奮って頂きたいと思います」
その言葉を聞くや、アージがぼそりと声を漏らす。
「ベゾーか……これも因果だな……」
「アージさん、知ってるんですか?」
不意に飛んだ質問に軽く頷くと……アージは淡々と語り始めた。
「遠い親戚の様な種族だ。 かといって加減をするつもりは無いがな……世界が合わさる前にはどうやら王が有能な指導者に切り替わり、勢力を増しているという噂を耳にした事が有る。 恐らく魔剣を所持しているだろう……我ら『白の兄弟』が赴くには十二分過ぎる理由と成ろう」
腕を組み語るアージは、薄っすらと眼を開き微かな想いを馳せる。
「実はよぉ、俺達は世界が合わさる前に……奴等ベゾーの下に向かおうとしてたんだ」
アージの口が止まると、すかさずマヴォが口を挟み……二人が顔を揃えて頷いた。
「そうだったのですねぇ……それでしたら丁度良いかもしれませんね……茶奈さんをどうかよろしくお願い致します」
「承った……」
そんな話を聞き、二人の前に座る茶奈も彼等に振り向くと軽く会釈をすると……それに気付いたアージはただ一言「ウム」と言い頷き、マヴォはと言えばニヤニヤと口角を上げて小刻みに手を振っていた。
「そしてCチームは状況が変わるまで待機……となります」
「はぁ~寄りにもよって待機かよぉ~少しでも実戦経験積んでおきたいんだけどなぁ」
待機……という言葉を聞いた途端、心輝が項垂れる様に机にもたれかかる。
最も戦地に向かいたいと思っているであろう彼が待機と言われればこうなってしまうのも無理はない。
もっとも……実戦練習であれば仲間同士でも行える為、申し分無い筈ではあるが。
「以上が最終確認となります。 出発される皆さんは各々の予定に合わせて荷物の整理と準備をお願い致します」
打ち合わせが終わり、各々が席を立つ。
出発までの残りの時間を無駄にせぬよう、それぞれがやるべき事を始める為に足を進める中……勇と茶奈が部屋の中に二人残っていた。
「勇さんはこれからどうするんですか?」
そう問われると、勇は少し考え……額を一掻きする。
「そうだな……特に無いし、荷物の整理だけして家に帰ろうかなって思ってる」
「それじゃあ、私もそれに合わせて帰ります。 今日はお父さんとお母さんと一緒に美味しい物でも食べに行きませんか?」
「お、いいね……そうしようか」
彼女の提案を受け、勇の顔が途端に笑顔になり二人が顔を合わせる。
すると茶奈も「フフッ」と笑い、上目遣いに勇を見つめた。
茶奈は藤咲家に居候して長く……血縁では無いが、いつの間にやら彼女は勇の両親を本当の両親の様に慕い「お父さん」「お母さん」と呼ぶ様になっていた。
勇や彼の両親もまたその言葉を長く聞き続けており、今では何の違和感も無くなっていた。
そう思う程に、今の彼女は藤咲家の家族の様に溶け込んでいるのだ。
相変わらずの徒歩での帰宅であったが、二人の足取りは軽く。
これから起こるであろう僅かな楽しい時間を期待しているのがありありとわかる様に、地面を叩く足音はリズミカルに音を刻み―――
―――その二人の笑顔の会話は確かに道中で華咲かせていた。
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