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第十七節「厳しき現実 触れ合える心 本心大爆発」
~オトメ、サリテ~
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トレーニングの疲れや戦闘訓練の傷の痛みも治まらぬ中……関係者達が事務所内にあるミーティングルームへと集う。
「お姉様強すぎっすよぉ……ッテェ……」
「……ここまで実力差があると逆に清々しいモノではあるがな……」
「い、痛そう……大丈夫ですか?」
彼等を集めたラクアンツェの目的……それは彼等の能力の現状を把握させる為、そしてその情報を伝え、互いのの長所・欠点を共有する事であった。
この打ち合わせにはカプロや平野、笠本も参加し、客観的な意見も取り入れる事も視野に入っている様だ。
「さてと……ハイハイ皆さんご注目っ!!」
準備が出来たのだろう……ラクアンツェが慣れた手つきで用意されたノートパソコンを打ち込み終えると、声を上げて騒ぐ勇達の視線を呼び込む。
すると彼等の前にはプロジェクターから映し出された各々の能力と思われるグラフや説明が表示されていた。
それを見るや勇達だけではなく平野や笠本までが「わぁ……」と思わず声を上げる。
「この数日皆さんと手を交え、またトレーニングの状況を観察してパーソナルデータにしてみました。 恐らくこれで皆さんの長所・短所がハッキリとわかると思います」
彼女の表示したデータが各々の机に備えられたタッチパネルにも送信され、それが表示されるや否や自分達のデータに目を通し始めた。
途端、彼等の目が一斉に曇る。
書かれた情報がいずれもが詳細に至るまで分析し尽くされた内容だったからだ。
そこで初めて自身の欠点を把握する者すら居る程に……その内容は濃厚であった。
「じゃあとりあえず一人づつ要約して説明していくからちゃんと聞くように。 まずは藤咲勇君から」
「お、お願いします……」
つい名前を呼ばれた事に反応し、勇が頭を下げる。
そんな彼の挙動を見るや、ラクアンツェの顔が僅かに口元を綻ばせた。
「周知の事と思いますが、皆さんの中で極端と言ってもいい程命力の総量が低いわ。 ……しかし、命力の消費技術が異常な程に卓越しており、またそれを補って余りある身体能力が貴方の強みと言えるでしょう。 これを前には命力の総量など殆ど意味はなさないでしょうね」
そんなべた褒めにも近い言葉の前に、当人はなんだか恥ずかしいのか……赤面し顔をポリポリと掻く。
だがそんな彼を前に、笑顔だったラクアンツェの顔が突然曇り……急に声のトーンを落とし再び語り始めた。
「ですが、戦闘経験が圧倒的に無さ過ぎます。 これは他の『そちら側』魔剣使いに言える事ですが……戦い方が非常に単調、その中でも貴方の戦闘方法は非常に素直過ぎてチープと言えます。 もう少し相手との戦いでイニシアチブを取る為に幅を広げなければいけません。 例えば命力を攻撃ではなく牽制に使う等の小賢しさが必要でしょうね。 そうね、貴方は相沢瀬玲さんの戦い方を学んでみてください」
そう言われ勇は不意に瀬玲の顔を見ると……瀬玲もまた振り向き互いの視線が合う。
途端……瀬玲が「へっ」と鼻で笑い見下げる様な顔付きになり、それを見た勇の心には憤りとも呆れとも言えぬ妙な心境がほんの少し生まれていた。
「そして貴方は感情に左右され過ぎる部分が多い。 特に昂った際には持ち前の命力コントロールが非常に荒くなる、癖にも近い欠点があります。 自分の心境コントロールにも重点を置くように」
怒る事こそ少ないが激昂しやすい勇の欠点が浮き彫りとされ、思わず顔が引きつる。
心の持ち方が命力の強さにも影響する点を考えると当然の事ではある。
とはいえ、激昂する事で命力が強くなっても不安定であれば意味が無いのだ。
そんな事が彼の心に一瞬フラッシュバックされると……途端にガクリと頭を落とし、深く項垂れたのだった。
「次に田中茶奈さん……貴方は命力の総量は元より、使い方に関して非常に多彩で意外性に富んでいると言えるでしょう……ですが、それだけです。 体力は無い、格闘技が出来る訳でもない、近接戦闘になれば途端に貴方が勝てる見込みは無くなるでしょう」
そう正論を言われた瞬間、茶奈の顔がみるみる内に蒼白になっていく。
当然であろう、自分の長所である命力量を「それだけ」で済まされたのだから。
先日の勇とアンディ・ナターシャの戦いでの解説をそのままそっくり返された茶奈は何とも言えぬ悲しみの感情に包まれていく。
「おまけに現状は制御が出来ない、これは魔剣使いとしては致命的と言えるでしょうね」
ズコーン!!
茶奈は厳しい二言目を受けた途端、白目を剥いて机に突っ伏した。
精神耐性も無いのだろう。
周りが彼女を心配するが……ラクアンツェがそれを静止し周囲を諫める。
「そうやって周りが甘やかすのも問題点です。 彼女も戦士である以上、厳しい現実は受け入れなければいけないのだからもう少し彼女の成長の為に突き放す必要があるでしょう。 そういった点をアージさん、貴方の持ち前の厳しさでコントロールしてください」
「しょ、承知した……」
アージも弱々しい茶奈を前にすると甘やかしてしまう点があったと反省しつつ……彼女の為にもその提案を飲む事にした。
そんな上げては落とすといった論調で一人また一人……長所と短所、改善点を遠慮無く彼女の口から挙げていくと、一人づつ漏れなく順に並んだ彼等の顔が順々に蒼白になり引きつっていく。
「以上が……皆の特徴と改善点となります。 全員肝に銘じて改善に努める様に!!」
全員分の事を伝えきる頃には、誰一人残らず机に突っ伏していた。
一方で思わず安堵の溜息を漏らすカプロ達……聴いていただけの彼等も気が気で無かった様である。
「さて、一旦これで私のやれる事は終わりました。 後は各々で考えて改善しなさいな。 私はしばらく探し物をする為に姿を消す事にします」
すると、最もダメージが低かった……であろう勇の顔が持ち上がり彼女を見つめ口を開く。
「……どこへ行くつもりなんですか?」
答えはわかりきっていた。
だがそれでも聞いたのは、それが彼なりの見送る言葉だったからだ。
「……そうね、敢えて言うなら『続き』を求めに」
フララジカ……その目的はラクアンツェにも未だわかりかねていた。
一体誰が、何故、何の為に、どの様に起こそうとしているのか……。
だからこそ、彼女は『続き』を探すのだ。
≪続く真実を求める為に≫
そう答えると彼女は静かに足を踏み出しミーティングルームを退出していく。
足取りは軽く……しかしそのしなやかな動きはどこか力強く、廊下を突いて響く足音は自信に満ち溢れているかの様だった。
沈んだ気持ちを隠せない勇は、その足音を耳にしながら項垂れる様に背もたれにもたれ掛かる。
すると不意に……小さな声が勇の隣から聞こえて来た。
「行っちゃったね……」
「茶奈、起きてたんだな」
勇が声の下へ視線をそっと移すと……突っ伏した状態から彼を覗き見る茶奈の顔がチラリと映り込む。
「世界の戻し方……見つかるといいですね」
その一言と共に彼女の口元に浮かぶ笑窪。
どこか安心を呼び込む様な朗らかな声色に、思わず勇も口元を緩ませた。
「……ああ、そうだね……きっと見つかるさ」
仲間達がラクアンツェの『酷評』によるダメージによって項垂れ落ちる中、二人は静かに語り合う。
こうして前向きになれるから……彼等はまた、一歩前に進めるのだろう。
今はまだ、その先が不透明であろうとも……。
「お姉様強すぎっすよぉ……ッテェ……」
「……ここまで実力差があると逆に清々しいモノではあるがな……」
「い、痛そう……大丈夫ですか?」
彼等を集めたラクアンツェの目的……それは彼等の能力の現状を把握させる為、そしてその情報を伝え、互いのの長所・欠点を共有する事であった。
この打ち合わせにはカプロや平野、笠本も参加し、客観的な意見も取り入れる事も視野に入っている様だ。
「さてと……ハイハイ皆さんご注目っ!!」
準備が出来たのだろう……ラクアンツェが慣れた手つきで用意されたノートパソコンを打ち込み終えると、声を上げて騒ぐ勇達の視線を呼び込む。
すると彼等の前にはプロジェクターから映し出された各々の能力と思われるグラフや説明が表示されていた。
それを見るや勇達だけではなく平野や笠本までが「わぁ……」と思わず声を上げる。
「この数日皆さんと手を交え、またトレーニングの状況を観察してパーソナルデータにしてみました。 恐らくこれで皆さんの長所・短所がハッキリとわかると思います」
彼女の表示したデータが各々の机に備えられたタッチパネルにも送信され、それが表示されるや否や自分達のデータに目を通し始めた。
途端、彼等の目が一斉に曇る。
書かれた情報がいずれもが詳細に至るまで分析し尽くされた内容だったからだ。
そこで初めて自身の欠点を把握する者すら居る程に……その内容は濃厚であった。
「じゃあとりあえず一人づつ要約して説明していくからちゃんと聞くように。 まずは藤咲勇君から」
「お、お願いします……」
つい名前を呼ばれた事に反応し、勇が頭を下げる。
そんな彼の挙動を見るや、ラクアンツェの顔が僅かに口元を綻ばせた。
「周知の事と思いますが、皆さんの中で極端と言ってもいい程命力の総量が低いわ。 ……しかし、命力の消費技術が異常な程に卓越しており、またそれを補って余りある身体能力が貴方の強みと言えるでしょう。 これを前には命力の総量など殆ど意味はなさないでしょうね」
そんなべた褒めにも近い言葉の前に、当人はなんだか恥ずかしいのか……赤面し顔をポリポリと掻く。
だがそんな彼を前に、笑顔だったラクアンツェの顔が突然曇り……急に声のトーンを落とし再び語り始めた。
「ですが、戦闘経験が圧倒的に無さ過ぎます。 これは他の『そちら側』魔剣使いに言える事ですが……戦い方が非常に単調、その中でも貴方の戦闘方法は非常に素直過ぎてチープと言えます。 もう少し相手との戦いでイニシアチブを取る為に幅を広げなければいけません。 例えば命力を攻撃ではなく牽制に使う等の小賢しさが必要でしょうね。 そうね、貴方は相沢瀬玲さんの戦い方を学んでみてください」
そう言われ勇は不意に瀬玲の顔を見ると……瀬玲もまた振り向き互いの視線が合う。
途端……瀬玲が「へっ」と鼻で笑い見下げる様な顔付きになり、それを見た勇の心には憤りとも呆れとも言えぬ妙な心境がほんの少し生まれていた。
「そして貴方は感情に左右され過ぎる部分が多い。 特に昂った際には持ち前の命力コントロールが非常に荒くなる、癖にも近い欠点があります。 自分の心境コントロールにも重点を置くように」
怒る事こそ少ないが激昂しやすい勇の欠点が浮き彫りとされ、思わず顔が引きつる。
心の持ち方が命力の強さにも影響する点を考えると当然の事ではある。
とはいえ、激昂する事で命力が強くなっても不安定であれば意味が無いのだ。
そんな事が彼の心に一瞬フラッシュバックされると……途端にガクリと頭を落とし、深く項垂れたのだった。
「次に田中茶奈さん……貴方は命力の総量は元より、使い方に関して非常に多彩で意外性に富んでいると言えるでしょう……ですが、それだけです。 体力は無い、格闘技が出来る訳でもない、近接戦闘になれば途端に貴方が勝てる見込みは無くなるでしょう」
そう正論を言われた瞬間、茶奈の顔がみるみる内に蒼白になっていく。
当然であろう、自分の長所である命力量を「それだけ」で済まされたのだから。
先日の勇とアンディ・ナターシャの戦いでの解説をそのままそっくり返された茶奈は何とも言えぬ悲しみの感情に包まれていく。
「おまけに現状は制御が出来ない、これは魔剣使いとしては致命的と言えるでしょうね」
ズコーン!!
茶奈は厳しい二言目を受けた途端、白目を剥いて机に突っ伏した。
精神耐性も無いのだろう。
周りが彼女を心配するが……ラクアンツェがそれを静止し周囲を諫める。
「そうやって周りが甘やかすのも問題点です。 彼女も戦士である以上、厳しい現実は受け入れなければいけないのだからもう少し彼女の成長の為に突き放す必要があるでしょう。 そういった点をアージさん、貴方の持ち前の厳しさでコントロールしてください」
「しょ、承知した……」
アージも弱々しい茶奈を前にすると甘やかしてしまう点があったと反省しつつ……彼女の為にもその提案を飲む事にした。
そんな上げては落とすといった論調で一人また一人……長所と短所、改善点を遠慮無く彼女の口から挙げていくと、一人づつ漏れなく順に並んだ彼等の顔が順々に蒼白になり引きつっていく。
「以上が……皆の特徴と改善点となります。 全員肝に銘じて改善に努める様に!!」
全員分の事を伝えきる頃には、誰一人残らず机に突っ伏していた。
一方で思わず安堵の溜息を漏らすカプロ達……聴いていただけの彼等も気が気で無かった様である。
「さて、一旦これで私のやれる事は終わりました。 後は各々で考えて改善しなさいな。 私はしばらく探し物をする為に姿を消す事にします」
すると、最もダメージが低かった……であろう勇の顔が持ち上がり彼女を見つめ口を開く。
「……どこへ行くつもりなんですか?」
答えはわかりきっていた。
だがそれでも聞いたのは、それが彼なりの見送る言葉だったからだ。
「……そうね、敢えて言うなら『続き』を求めに」
フララジカ……その目的はラクアンツェにも未だわかりかねていた。
一体誰が、何故、何の為に、どの様に起こそうとしているのか……。
だからこそ、彼女は『続き』を探すのだ。
≪続く真実を求める為に≫
そう答えると彼女は静かに足を踏み出しミーティングルームを退出していく。
足取りは軽く……しかしそのしなやかな動きはどこか力強く、廊下を突いて響く足音は自信に満ち溢れているかの様だった。
沈んだ気持ちを隠せない勇は、その足音を耳にしながら項垂れる様に背もたれにもたれ掛かる。
すると不意に……小さな声が勇の隣から聞こえて来た。
「行っちゃったね……」
「茶奈、起きてたんだな」
勇が声の下へ視線をそっと移すと……突っ伏した状態から彼を覗き見る茶奈の顔がチラリと映り込む。
「世界の戻し方……見つかるといいですね」
その一言と共に彼女の口元に浮かぶ笑窪。
どこか安心を呼び込む様な朗らかな声色に、思わず勇も口元を緩ませた。
「……ああ、そうだね……きっと見つかるさ」
仲間達がラクアンツェの『酷評』によるダメージによって項垂れ落ちる中、二人は静かに語り合う。
こうして前向きになれるから……彼等はまた、一歩前に進めるのだろう。
今はまだ、その先が不透明であろうとも……。
応援ありがとうございます!
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