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第十五節「戦士達の道標 巡る想い 集いし絆」
~異国、颯爽たる戦士~
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アメリカ南部、テキサス州の西……ビッグベンド国立公園をずっと国境沿いにそって北に進んだ場所にある山間の一角……。
太陽から焼き付ける様な陽光が注がれ、細々とした林が大きく間を開けて立ち並んでは光を遮り影を作る。
硬い岩と土で構成された大地が赤の様相を示し、日の光による熱を受けて陽炎を緩く立ち上らせていた。
蒼天の下、一人の人影が木々の合間を鋭い足捌きで颯爽と駆け抜けていく。
その男……片手に持つのは深く光る翠の剣。
「ウ……ッ!?」
視界へ不意に映った光景に、視線が揺らめき詰まり声が漏れる。
影に覆われた瞳がその光景に焦点を合わせた時……意図せぬ事態の顕現に思わず歯を食いしばる様を見せた。
途端、大地を蹴る足を止め、慣性に引きずられるままに大地に足を滑らせていく。
激しく巻き上げられた土煙を伴い、男の体は大地から晒された岩肌の上でその勢いを止めた。
そこは崖……男が駆け抜けていたのは丘の上。
突き出た岩の上で、眼下に映る光景を前に呟く。
「こんな事態の責任なんて取るつもりは無いぞ……ッ!!」
ほんの少し、怒りにも通ずる感情が籠ったトーンの高い口調。
それもその筈……その事態を目の当たりにした彼は憤りを感じていたからだ
彼の眼下にある谷に設営された一本のアスファルト道路。
その上流を走る1台の一般車両……そしてそれを追い掛ける様に走る二人の『魔者』の姿があった。
牙の無いイノシシの様な顔と硬く短い体毛に覆われた体を持つ人型の生物……それがこの場所に転移してきた魔者という存在。
「なんでこんな所に一般人が居るんだ……何してる、今回の担当は!」
本来ならばこの付近は彼等の作戦の邪魔に成らぬよう封鎖される手筈だった。
居る筈の無い存在が居るという事……それは彼にとってこの上無い不満要素なのである。
彼の所属する……通称【魔特隊】は極秘存在として扱われ、雇い主である被派遣国が一般人の目に留まらない様に努めなければいけない。
魔特隊の保護義務は責任を以って履行しなければならない……それが契約の条件。
だが彼にとってはそんなルールよりも……好戦的な魔者という危険な存在が居る地域に一般人が侵入出来てしまっている事が何より気に食わなかった。
それは彼の使命感か、優しさ故か……。
「皆済まない、イレギュラーが発生した。 先に対処していく!」
左耳に取り付けられたインカムのボタンを押しながらそう呟くと、出力口から仲間達の声と思しき「了解」という声が漏れる。
それを聞き取ると……添えた指を離し、目下を走る車と魔者をそっと見下ろした。
その時が訪れた時、不意に風が男の背中を押す様に吹き込む。
丘の表面を吹き撫でる風に煽られ、髪が優しく揺れると……まるで靡きを荒ぶらせるかの如く、その身を崖下へと投げ出した。
切り立った崖の傍を降下していく彼……だが物怖じする事無く、その視線はなお動かぬまま。
それどころか崖の壁面を足で叩きつけ……降下軌道を大きくズラし、加速する。
意図する場所……それは走る車の真横。
ドォンッ!!
勢いのままに男がアスファルトの大地へと足を突き、甲高い衝撃音と小さな振動が響き渡る。
慌てる様に過ぎ去っていく車にも目にも暮れず……手に携えた魔剣―――翠星剣―――を道路へと垂直に突き刺した。
鋭い視線を魔者二人へと向けて。
「なやっ!!」
「魔剣使いけぇ!?」
突然現れた人影に怯み足を止めようとするが、猛スピードで走っていた彼等の勢いは止められる訳も無く……。
「ふざけるのもいい加減にしろよお前等ァ!!」
その瞬間、彼の体に纏わせた命力が溢れ出んばかりに光を放った。
眩い光が体を通して翠星剣へ伝い、アスファルトへと吸い込まれる様に流れ込む。
途端光の筋と成って地面から溢れ出すと……アスファルトが光の道筋を作るかの如く、魔者へ向けてヒビを走らせていく。
ガガゴッ!!
そして鋭く切り出された岩々がアスファルトを抉る様に突き破り隆起した。
命力の籠った岩々が姿を現したのは魔者達の直下。
突然の出来事に逃げる事すらままならず……激しく打ち出された鋭い岩の槍が魔者達の体を抵抗無く引き千切る。
悲鳴すら上げる事無く……たちまち魔者達は無残な肉塊へと成り果てたのだった。
「こんな事ばかりするから……自業自得なんだッ!!」
彼はもはや誰も聞いていないであろう言葉を昂る感情を乗せて言い放つと、露出した地面に突き刺さった翠星剣を引き抜き……目的の場所へと向けて再び足を踏み出す。
彼の名は藤咲 勇。
一年前より、『魔者』と戦う力―――【魔剣】を得て、今日も彼は戦う。
左の蒼眼に映るのは、平穏の願いか……それとも、現実への憤りか……。
太陽から焼き付ける様な陽光が注がれ、細々とした林が大きく間を開けて立ち並んでは光を遮り影を作る。
硬い岩と土で構成された大地が赤の様相を示し、日の光による熱を受けて陽炎を緩く立ち上らせていた。
蒼天の下、一人の人影が木々の合間を鋭い足捌きで颯爽と駆け抜けていく。
その男……片手に持つのは深く光る翠の剣。
「ウ……ッ!?」
視界へ不意に映った光景に、視線が揺らめき詰まり声が漏れる。
影に覆われた瞳がその光景に焦点を合わせた時……意図せぬ事態の顕現に思わず歯を食いしばる様を見せた。
途端、大地を蹴る足を止め、慣性に引きずられるままに大地に足を滑らせていく。
激しく巻き上げられた土煙を伴い、男の体は大地から晒された岩肌の上でその勢いを止めた。
そこは崖……男が駆け抜けていたのは丘の上。
突き出た岩の上で、眼下に映る光景を前に呟く。
「こんな事態の責任なんて取るつもりは無いぞ……ッ!!」
ほんの少し、怒りにも通ずる感情が籠ったトーンの高い口調。
それもその筈……その事態を目の当たりにした彼は憤りを感じていたからだ
彼の眼下にある谷に設営された一本のアスファルト道路。
その上流を走る1台の一般車両……そしてそれを追い掛ける様に走る二人の『魔者』の姿があった。
牙の無いイノシシの様な顔と硬く短い体毛に覆われた体を持つ人型の生物……それがこの場所に転移してきた魔者という存在。
「なんでこんな所に一般人が居るんだ……何してる、今回の担当は!」
本来ならばこの付近は彼等の作戦の邪魔に成らぬよう封鎖される手筈だった。
居る筈の無い存在が居るという事……それは彼にとってこの上無い不満要素なのである。
彼の所属する……通称【魔特隊】は極秘存在として扱われ、雇い主である被派遣国が一般人の目に留まらない様に努めなければいけない。
魔特隊の保護義務は責任を以って履行しなければならない……それが契約の条件。
だが彼にとってはそんなルールよりも……好戦的な魔者という危険な存在が居る地域に一般人が侵入出来てしまっている事が何より気に食わなかった。
それは彼の使命感か、優しさ故か……。
「皆済まない、イレギュラーが発生した。 先に対処していく!」
左耳に取り付けられたインカムのボタンを押しながらそう呟くと、出力口から仲間達の声と思しき「了解」という声が漏れる。
それを聞き取ると……添えた指を離し、目下を走る車と魔者をそっと見下ろした。
その時が訪れた時、不意に風が男の背中を押す様に吹き込む。
丘の表面を吹き撫でる風に煽られ、髪が優しく揺れると……まるで靡きを荒ぶらせるかの如く、その身を崖下へと投げ出した。
切り立った崖の傍を降下していく彼……だが物怖じする事無く、その視線はなお動かぬまま。
それどころか崖の壁面を足で叩きつけ……降下軌道を大きくズラし、加速する。
意図する場所……それは走る車の真横。
ドォンッ!!
勢いのままに男がアスファルトの大地へと足を突き、甲高い衝撃音と小さな振動が響き渡る。
慌てる様に過ぎ去っていく車にも目にも暮れず……手に携えた魔剣―――翠星剣―――を道路へと垂直に突き刺した。
鋭い視線を魔者二人へと向けて。
「なやっ!!」
「魔剣使いけぇ!?」
突然現れた人影に怯み足を止めようとするが、猛スピードで走っていた彼等の勢いは止められる訳も無く……。
「ふざけるのもいい加減にしろよお前等ァ!!」
その瞬間、彼の体に纏わせた命力が溢れ出んばかりに光を放った。
眩い光が体を通して翠星剣へ伝い、アスファルトへと吸い込まれる様に流れ込む。
途端光の筋と成って地面から溢れ出すと……アスファルトが光の道筋を作るかの如く、魔者へ向けてヒビを走らせていく。
ガガゴッ!!
そして鋭く切り出された岩々がアスファルトを抉る様に突き破り隆起した。
命力の籠った岩々が姿を現したのは魔者達の直下。
突然の出来事に逃げる事すらままならず……激しく打ち出された鋭い岩の槍が魔者達の体を抵抗無く引き千切る。
悲鳴すら上げる事無く……たちまち魔者達は無残な肉塊へと成り果てたのだった。
「こんな事ばかりするから……自業自得なんだッ!!」
彼はもはや誰も聞いていないであろう言葉を昂る感情を乗せて言い放つと、露出した地面に突き刺さった翠星剣を引き抜き……目的の場所へと向けて再び足を踏み出す。
彼の名は藤咲 勇。
一年前より、『魔者』と戦う力―――【魔剣】を得て、今日も彼は戦う。
左の蒼眼に映るのは、平穏の願いか……それとも、現実への憤りか……。
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