時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~託された一つの格子~

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 最初は割と幸先の良い走り出しだった魔剣の訓練。
 しかし調子良かったのはどうやら最初だけだったらしい。

 あの圧倒的な攻撃力を見せたあずーはと言うと。
 あれからは途端にナリを潜め、ただ木を叩くばかりに。

 というのも、先程の攻撃力は偶然の産物だった様だ。
 二本で打つタイミングと力加減、命力のバランスが合わないとダメで。
 意識して以降は全く奮わず、今はただ棒で叩いているだけとなっている。

 瀬玲はと言えば、こちらは顕著。
 当人が四発目を放った時点でもう膝を突く事に。
 やはり遠距離攻撃となると消耗が著しいのだろう。

 あるいは瀬玲自身の命力がそこまで高くないか。

 という訳でここで勇のストップが掛かり、一足先に休憩へ。
 ちゃなに背負われてアルライの里へと帰還だ。
 ついでにあずーもセットで。



 それで一番問題の心輝はと言えば。



「何故だぁ! なんで俺だけ出来ねぇんだ……!」

 現在も残って奮闘中。
 それだけ持久力はある様なのだが。

 なにぶん、一人だけ実感を得ていない。

 それも当然か。
 一人だけ指示にも従わず自分勝手に暴れてるだけなので。
 なので勇も口出しせず、ただ静かに見守っていた。

 だけど一向に魔剣は変化を見せず、拳は空を切るばかり。
 ただ速いだけの素人拳撃テレフォンパンチが幹や枝にピシピシ当たるだけだ。

「だから言っただろ、ちゃんと人の話聞けって。シンはただ拳を振り回してるだけなんだよ。この木を敵だと思ってないんだ」

「そ、そうなのか?」

「だから魔剣に命力が乗らないんだ。気持ちばっかりで意識が空転してるんだよ」

 その理由を勇が指先の動きで示す。
 心輝の視線から木へと、空中に線を描く様にして。

 指先はまるで木や枝に当たっていない。
 突き抜ける様にして空の先へと伸びていて。
 これでやっと心輝もダメな事が理解出来たらしい。

 そこで肩を落としてようやく諦め、悲しそうな眼を勇へと向ける。

「じゃ、じゃあどうすればいいんだ?」

「そうだな、闇雲に拳を振るんじゃなくて、例えばこの枝を敵に見立てるんだ。一番憎い相手を思い浮かべて、そいつの顔を殴る様にな」

 こうなればやっと勇にも教える気が起きるというものだ。
 今や半ば呆れ気味だけど、だからと言ってほっとく訳にもいかないので。

 なのでこんなアドバイスで活路を拓く。
 心輝にはより具体的な話をしないと伝わらなさそうだから。

「ただ、一発でいい。どんな攻撃でもな。その一発を溜めて放って終わりだ。それで成果が出ようが出まいが訓練は終わりにする」

「お、おう……」

 思えば、勇も同じだった。
 剣聖に言われた事が理解出来なくて、ただ言われた通りにするしかなくて。
 違いがあるとすれば振り回したりしなかった事くらいだ。
 当時は魔者だらけの場所で戦々恐々としていたから。

 それでも、一発で力を出す事が出来た。
 剣聖にそう出来ると言われて、信じたからこそ。

 なら心輝にその一発を再現させればいい。
 機会はこれっきりと追い込んで、気持ちも収束させて。

 後は当人がきちんと敵を見定められれば、出来ないはずは無いのだから。

「よし、この枝は池上の野郎第四・五節参照だ……! ビビんな俺。やってやんよ!」

 それで見立てたのは何故かあの池上。
 どうやらあのいじめ遭遇事件以来、勝手に敵対意思を抱いていたらしい。

 とはいえ、今はおあつらえ向きと言えるか。
 相手が強ければ強い程、反骨心が芽生えるから。

「ブっとばしてやんよぉ……! うるおあああーーーッ!!」

 そうして意識、気持ちを収束させた拳が今、振り切られる。
 一本の細い細い枝へと向けて。

 これが只の拳なら、しなって元に戻るだろう。
 だが、それは間違い無く力が籠っていたのだ。



 故に今、小枝が――弾け飛んでいた。



 決して折れた訳でもなく。
 叩かれた部分が弾けて割れて破片ごと吹き飛んで。
 更にはその枝元にも振動を伝え、幹をも僅かに揺らしていたのである。

「お、おお……!?」

「ほらな、出来るだろ?」

 そう、只の心持ちの問題に過ぎなかったのだ。
 でなければ、魔剣をこれだけ振り続けても立てている理由が無い。

 恐らく、心輝の命力はそれなりに高いから。

 ただ矛先の向け方が性格上、下手なだけで。
 それもこうして正しく教えればきっといつか上手くなれるだろう。
 なら、これからの訓練と成長次第でどうなる事やら。

 だからこそ勇は期待してならない。
 心輝達がどの様な形に成長していくのかを。

 自分の背を守ってくれるくらいに強く成ってくれる事を願って。





 ともあれ訓練はこれで終了に。
 もうすぐ昼に差し掛かるともあって、今度は昼食 兼 座談会の時間だ。
 命力を使うのも大事だが、正確な知識も必要なので。
 
「――つまり、魔剣に必要なのは強い意思なんだ。何かをしたいっていう気持ちが強ければ強いほどいい」

「ていうことはだ、俺が最強になりたいって思ったらどんどん力が増していくんだな、そうなんだな!?」

 しかしこれは少し勇も教え方を考えなければならない。
 少しのニュアンスの違いでこうも伝わり方が違うから。
 皆が瀬玲の様に理解深い訳ではないのだ。

「お前なぁ、それじゃさっきと一緒だろ? 『なりたい』じゃなくて『ならなければならない』っていう気持ちの切り替えが大事なんだよ」

「覚悟みたいなもんね。〝もう後が無い~〟的な」

「そうそう、そんな感じ。そこんとこシンは弱いんだよ。お前、どうせ心では〝なんとかなるだろ〟とか思ってるだろうし」

「うぐ……」

 ちゃなもどちらかと言えば口下手なので、こればかりは口が出せない。
 勇の言葉に頷きを添えて飾るくらいしか。

 とはいえ、それも心輝達には充分説得力がある。
 やはり先駆者二人の意見が合わさると真実味が格段に跳ね上がるもので。

 これらは全て勇とちゃなが二人で積み上げて来た知識だ。
 命力というフワッとした概念をより具体的に伝える為の。

 命力とは感情の力だが、矛先の向け方で力が格段に変わる。
 例えば心輝の様な感情の出し方は『望み』の類でしかなくて。
 〝そうなったらいいな~〟では人が強くなれる訳も無い。

 しかし瀬玲の言った様な『覚悟』や勇の『信念』となれば大きく違う。
 意識が一点に集中され、感情が向かい易くなるのだ。
 加えて不退転、四面楚歌といった危機的状況に陥れば尚の事。
 より強く意識が魔剣に向かえば、それだけ応えてくれるのだろう。

 欲求と渇望、その差は隔たりが出来る程に大きいという訳である。

「アタシは勇君を守れればそれでいいよー」

「それだよな、そんな単純さも大事なんだと思う。だからあれだけ力が出たんだ。理由はどうでもいいとして」

「どうでもよくないのギャワーーー!!!」

 そしてその願いが何より単純であればある程、力はずっと発揮しやすくなる。
 あずーの様に単純明快で、かつ被対象が一人というのも大きい。

 心輝はその点もダメで。
 〝最強になりたい〟などというふんわりとした内容ではまさに空論となる。
 〝握力○○キログラムを超えたい〟というくらいに具体的ならずっと違うだろう。
 勇もその辺りを緻密に押さえて鍛えたから今の肉体があるのだ。

 と言っても、まだ魔剣を得て間もない彼等に〝理解わかれ〟というのも酷か。
 少しづつ実践で理解していく事が大事だと言えよう。
 もちろん予備知識があって困る事は無いが。

「私はまぁそこまで強くならなくてもいいかな。最低限戦えればそれで」

「そんな意識だといざって時に困ると思うぞ」

「けど努力なんて私の柄じゃないし」

 後は個々のやる気の問題だ。
 こうして瀬玲の様に一線を引かなければ。
 突き詰めようと思えば命力が結果を残してくれるので。

「アイディアを思い浮かべると、魔剣もそれに応えて再現してくれたりしますよ。攻撃ばっかりじゃなく。だから努力もいいけど、勉強するに越した事は無いと思います」

「へぇ、結構融通利くんだ。今度カプロに魔剣ドライヤーでも造ってもらおうかな」

「お前、魔剣を何だと思ってんだよ……」

 それに魔剣は力だけではない。
 ちゃなの様にアイディアで勝負する事も出来るだろう。
 その点なら瀬玲も合わせられるかもしれない。

 もっとも、命力でも賢さだけはどうにもならないけれども。
 こんな余計なアイディアを生む知恵はあっても、実践力が無いのはとても残念である。

 以上の話からも魔剣の扱い方は個性からでも大きく異なる事がわかる。
 力を発揮させるなら信念を。
 内に溜め込むなら無心を。
 多様な形に変えるなら願望を。

 いずれも一長一短で、単純の様で難しい。
 それを体でなく心で理解するまではもう少しだけ時間がかかりそう。

 そうわかった所でアルライの皆さんから昼食のお裾分けだ。

 たちまち香ばしい香りが鼻を突き、空腹を悟らせてくれる。
 訓練と座談会は思ったよりカロリーを消費させていたらしい。
 なので早速と頂く事に。

「私、実はあんまり甘いご飯得意じゃないんだよね」

 とはいえ瀬玲だけは何だか及び腰。
 がっつく勇達の前でたちまち頬杖を突く。

 きっと文化交流の時に食べて思い知ったのだろう。
 こればかりはちょっと受け入れられないな、と。
 今目の前に出されたのも件の【ボモイ芋の甘露煮】だったもので。

「そう言わずに食べてみろよ。よく出来てて美味しいよ」

 しかし勇がこうも勧めれば食べない訳にもいかない。
 プラフォークを片手に、柔らかな丸芋の塊へと通して口へと運ぶ。

 でもその途端、思っても見なかった感触が口の中へと広がる事に。

 とても美味しいのだ。
 前に感じた味とはまるで別物かと思える程に。

「えっ!? 何これ美味しくない!?」

「だろ? なんかすっごい美味い」

 甘みがとても心地良くて、口から全身に広がっていくよう。
 それでいて芋のふわっとした感触を喉が求めて止まらない。
 ジャガイモよりずっと瑞々しくて、まるでシチューの具の様だ。

「そりゃ当たり前さぁねぇ。命力使やぁ【ボモイ煮】はとっても美味しいでぇよ。命力を癒してくれる効果があるでなぁ」

「え、そうなんだ!?」

 そこで聞き耳を立てていた一人のおばちゃんがその答えを教えてくれた。

 なんと彼等の食べ物には命力に直接作用する効果があったのである。
 基本的に命力を持つ魔者だからこその料理という訳だ。

 そしてその効能は魔剣使いとなった人間にもしっかり発揮する。
 なら疲れた心輝達だけでなく、勇にだって作用するだろう。

「あ、ホントだすっげ、左足が動く! これだけで!?」

「せやねぇ。元々治りかけちう事もあったやろけど、衰弱にも効果はあるでよ」

 まさかの事実に勇さえ驚きばかりで。
 遂には求めるままにガツガツと料理を口に運び始める。
 ちゃなさえ巻き込んでの芋争奪戦勃発だ。

「いいっ食いっぷりやねぇ。おばちゃんのもお食べなし」

「あんがとござまふ!」

 回復するなら無理にでもかけ込みたい。
 美味しいと感じるなら幾らでも。

 こうして気付けば座談の事も忘れ、食事で夢中に。
 思っても見なかった最後のサプライズに勇達も大喜びである。



 そう、勇達はこの後もう帰らなければならないから。



 明日は平日で学校もあるし、これから長く歩く必要もあって。
 だから訓練もここで終わりとなる。
 名残惜しいと心輝は零すが、続きは東京でも出来るから問題無いだろう。

 それで帰ろうとした時、カプロから一つのお土産と言伝を預かる事に。
 眠ったと思いきや、どうやらまだ作業していたらしくて。

 それで造って渡されたのは一つの小さな格子。
 大命力珠を嵌め込んでおける、菱形状に象られた針金網の様な物だった。

 で、そのカプロ曰く〝この命力珠は常々身に持っていて欲しい〟という。

 それで勇は大命力珠もろとも格子を受け取り、里を後にした。
 いつか出来るであろう専用魔剣の製造を託して。



 きっとカプロなら凄い魔剣を造ってくれる。
 そう大いなる期待を胸にしながら。


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