上 下
123 / 126

第123話 人としての理性を失った者の末路

しおりを挟む
「お前を倒して証明するッ!! 魔物化なんて理不尽ですらないのだとなッ!!!」
「クッソがあぁあぁあ!!! 好き勝手なこと言うんじゃねェェェ! 僕が、ぼぼぼくがサイキョーなンだよォォォ!!!」

 楠の攻撃はもう見切った。
 あんな単調な攻撃なんて今なら目を瞑っていたって避けられる。

 だが加減はしない。
 お前がやっている事はもはや人知を超えた外道行為なのだから。

 周囲を見れば、捨て置かれたままの自衛隊員の遺体も見える。
 括りつけられたプレイヤーだって無理矢理はげしく動かれて辛いに違いない。
 それに放っておけば日本中をも蹂躙されかねない。

 人として許されない事さえ平気でやった奴を、野放しになんてできるものか!

「こうなったらァァァ!!!」
「ッ!?」

 しかもその上で奴はまだ罪を重ねようとしている。
 なんと体をひねり、人質を前面に押し出してきたのだ。
 人質の盾で俺の動きを制しようとしたらしい。

「これでてめぇはもう攻撃できな――えっ?」

 だけど残念だが、一瞬でも視線を外せば俺はその瞬間を見逃さない。

 ゆえに今、俺は楠の足元へと移動していた。
 奴が目を離した隙に死角から潜り込んだのだ。
 体だけが無駄に大きいから隠れるのは容易だったよ。

 それでさらには右膝裏へとナイフを突き立て、深々とえぐる。
 そうして現実を示すのだ。〝俺はお前では捉えられない〟と。

「ぎゃああっ!!? な、なんで!? いつの間にィィィ!!?」

 たまらず楠が崩れ、膝を突く。
 その隙に抜いたナイフで流れるように右肩部の人質の縄を切った。

 これで人質一人解放だ。
 すぐさま落ちてきた子を受け止め、尻を叩いて逃げるよう促す。
 すると人質はフラフラしながらも全力で逃げていった。よし、いいぞ!

「て、てめえええ!? よくも盾をォォォ!!!」

 それに怒り散らした楠が殴ってくる。
 しかしそれも即座に奴の背後へと回り込んで避ける。
 右脚がポンコツ状態だからな、すぐ追う事なんてできないだろう。

 ただその先には奴の尻尾が待っている。
 まるで向かって来いと言わんばかりに「ドズンッ」と地面を叩きながら。

 でも俺はそれに対してあえて突っ込んだ。
 全速力で駆け抜け、一気に飛び乗ったのだ。
 しかもその根本、奴の背へと向けて駆け昇っていく。

 そして跳ね、奴の首元へ着地。
 そのままその首根っこへと深々とナイフを深々と突き刺してやった。

「ぎぃぃやああああああ!!?!?」

 直後上がる汚い悲鳴。
 吹き散る青い鮮血。

 ただ俺はその直後にはナイフを抜き、身軽にうしろへ飛び降りる。
 周囲から伸びて来る手をかいくぐるように避けながら。
 嫌がった奴の反撃を喰らわないよう慎重にいかないとな。

 とはいえもののついでだ!
 奴の腰に回していた縄を斬り落とし、腹部の人質も解放しておく。
 
「はやく逃げろッ!」
「は、はいいい! ひいーーーーーー!!!」

 幸い、奴はもう必死で人質に意識を回している余裕はないようだ。
 急いで振り返っては、俺に対して一発二発と拳を奮ってきた。

 だから俺もかわしつつ、また攻撃のたびに関節へナイフを突き立ててやる。
 ただし今回は奴の攻撃リズムに合わせて浅く速く。

「アッ!? ヂッ!? ヂグジョオオオオ!!!!!」

 しかし四発目、反撃した途端に刃が傷口へと刺さったまま動かなくなった。
 寸前で筋肉を締め、刃を受け止めてしまったのだ。

「クッ!?」
「ハッハァ!!!」

 おかげで「バギンッ!」という音とともにナイフが根本から折れてしまった。
 いくら弱点とはいえ、力を入れれば鋼鉄さえ砕くほどの強度になるか!

 ――だが!

 今、俺は奴の慢心を逆手に取り、その懐へと向けて走り込んでいた。
 ナイフを捨て、代わりに落ちていたアスファルトの大破片を手に取りつつ。

 そして奴の再びの攻撃に対し、破片の角を突き刺してやったのだ。
 それもナイフの刃が突き立った場所を叩くようにして。

「グッギャアアア!!!? ナンデ、ナンデダァァァァァァ!!!??」

 何も武器なんてナイフじゃなくてもいいのだ。
 硬くて重ければ、ただそれだけで奴の体を打つ事ができる。

 それにな、たかが岩片だろうができる事は他にもあるぞ!

 奴の追撃を細かく跳ねて掻い潜る。
 そうして攻撃の隙を突き、左腕部の縄を岩片で断ち切った。

 さらには落ちてきた人質を受け抱え、そのまま場から離れるように走り出す。
 これで人質は全員解放! ならばやれる事はただ一つだ!

 そこで俺は遠くで眺めているであろう杉浦三佐へと視線を向ける。

 すると直後、嵐のような銃撃が楠を襲った。
 激しい銃声とともに肉眼で見えるほどの弾丸軌跡が刻まれたのだ。

 さすが杉浦三佐、俺の意思を読み取ってくれたな!

 いくら装甲が堅い魔物でも、これだけの数に撃たれれば無事ではすまない。
 この攻撃にさらされ続ければ奴でも危ういと気付くだろう。

「ひいいいいい!!? ち、ちくしょう! ちくしょおおおうッッッ!!!!! こうなったら間宮だけでもブチ殺してやるゥゥゥ!!!!!」

 それでも俺を狙ってくる根性はさすがだな。
 どれだけ俺に対して恨みを積み重ねてきたんだ?

 けどな、その事はすでに織り込み済みなんだよ!

 さぁ追ってこい!
 そのすっとろい足で!
 必死に俺だけを見続けて!

「死ィねェェェェェェ!! 間宮彼方ァァァ――ハッ!?」
「気付いたようだな。けどもう遅いよ」

 そう、気付いてももうすべて遅いんだ。
 なにせここはもうすでに、なんだからな……!

 頭に血が上りやすい楠だからこそ誘い込めると確信していた。
 それでもって案の定、見事にひっかかってくれた。

 おかげでここでなら、俺もまた本気が出せるッ!!!!!

「そんな訳でこのイカサマってやつを、お前も喰らってみろよおッ!!」
「ヒ、ヒイッ――」

 それゆえに俺はその一瞬で右拳にマナを込めていた。
 これ以上なく純粋で最高効率に収縮された、超爆発的な力の塊として。

 そしてその力塊を握り締め、俺は全力で跳ね飛んだのだ。
 ダンジョンへと入り込んだ奴の顎めがけて! 一直線に! 拳を振り上げて!

 よって粉砕・爆滅!!!!!

 ダンジョンの入口を境にして、入り込んだ奴の頭だけが爆ぜた。
 血飛沫さえ焼き尽くし、消し飛ばし、肉塊一つ残らないほど木っ端みじんに。

 そうして意思を失った奴の身体はぐらりと揺れ、そのまま力なく倒れ込む。
 人を理解しようとせず意固地になり続けた奴の憐れな末路である。

 ……まったく、本当にバカな奴だったよ。
 最後の最後まで魔物に成り下がりやがって。

 人としての理性があればまだ救いはあっただろうにさ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...