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第123話 人としての理性を失った者の末路

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「お前を倒して証明するッ!! 魔物化なんて理不尽ですらないのだとなッ!!!」
「クッソがあぁあぁあ!!! 好き勝手なこと言うんじゃねェェェ! 僕が、ぼぼぼくがサイキョーなンだよォォォ!!!」

 楠の攻撃はもう見切った。
 あんな単調な攻撃なんて今なら目を瞑っていたって避けられる。

 だが加減はしない。
 お前がやっている事はもはや人知を超えた外道行為なのだから。

 周囲を見れば、捨て置かれたままの自衛隊員の遺体も見える。
 括りつけられたプレイヤーだって無理矢理はげしく動かれて辛いに違いない。
 それに放っておけば日本中をも蹂躙されかねない。

 人として許されない事さえ平気でやった奴を、野放しになんてできるものか!

「こうなったらァァァ!!!」
「ッ!?」

 しかもその上で奴はまだ罪を重ねようとしている。
 なんと体をひねり、人質を前面に押し出してきたのだ。
 人質の盾で俺の動きを制しようとしたらしい。

「これでてめぇはもう攻撃できな――えっ?」

 だけど残念だが、一瞬でも視線を外せば俺はその瞬間を見逃さない。

 ゆえに今、俺は楠の足元へと移動していた。
 奴が目を離した隙に死角から潜り込んだのだ。
 体だけが無駄に大きいから隠れるのは容易だったよ。

 それでさらには右膝裏へとナイフを突き立て、深々とえぐる。
 そうして現実を示すのだ。〝俺はお前では捉えられない〟と。

「ぎゃああっ!!? な、なんで!? いつの間にィィィ!!?」

 たまらず楠が崩れ、膝を突く。
 その隙に抜いたナイフで流れるように右肩部の人質の縄を切った。

 これで人質一人解放だ。
 すぐさま落ちてきた子を受け止め、尻を叩いて逃げるよう促す。
 すると人質はフラフラしながらも全力で逃げていった。よし、いいぞ!

「て、てめえええ!? よくも盾をォォォ!!!」

 それに怒り散らした楠が殴ってくる。
 しかしそれも即座に奴の背後へと回り込んで避ける。
 右脚がポンコツ状態だからな、すぐ追う事なんてできないだろう。

 ただその先には奴の尻尾が待っている。
 まるで向かって来いと言わんばかりに「ドズンッ」と地面を叩きながら。

 でも俺はそれに対してあえて突っ込んだ。
 全速力で駆け抜け、一気に飛び乗ったのだ。
 しかもその根本、奴の背へと向けて駆け昇っていく。

 そして跳ね、奴の首元へ着地。
 そのままその首根っこへと深々とナイフを深々と突き刺してやった。

「ぎぃぃやああああああ!!?!?」

 直後上がる汚い悲鳴。
 吹き散る青い鮮血。

 ただ俺はその直後にはナイフを抜き、身軽にうしろへ飛び降りる。
 周囲から伸びて来る手をかいくぐるように避けながら。
 嫌がった奴の反撃を喰らわないよう慎重にいかないとな。

 とはいえもののついでだ!
 奴の腰に回していた縄を斬り落とし、腹部の人質も解放しておく。
 
「はやく逃げろッ!」
「は、はいいい! ひいーーーーーー!!!」

 幸い、奴はもう必死で人質に意識を回している余裕はないようだ。
 急いで振り返っては、俺に対して一発二発と拳を奮ってきた。

 だから俺もかわしつつ、また攻撃のたびに関節へナイフを突き立ててやる。
 ただし今回は奴の攻撃リズムに合わせて浅く速く。

「アッ!? ヂッ!? ヂグジョオオオオ!!!!!」

 しかし四発目、反撃した途端に刃が傷口へと刺さったまま動かなくなった。
 寸前で筋肉を締め、刃を受け止めてしまったのだ。

「クッ!?」
「ハッハァ!!!」

 おかげで「バギンッ!」という音とともにナイフが根本から折れてしまった。
 いくら弱点とはいえ、力を入れれば鋼鉄さえ砕くほどの強度になるか!

 ――だが!

 今、俺は奴の慢心を逆手に取り、その懐へと向けて走り込んでいた。
 ナイフを捨て、代わりに落ちていたアスファルトの大破片を手に取りつつ。

 そして奴の再びの攻撃に対し、破片の角を突き刺してやったのだ。
 それもナイフの刃が突き立った場所を叩くようにして。

「グッギャアアア!!!? ナンデ、ナンデダァァァァァァ!!!??」

 何も武器なんてナイフじゃなくてもいいのだ。
 硬くて重ければ、ただそれだけで奴の体を打つ事ができる。

 それにな、たかが岩片だろうができる事は他にもあるぞ!

 奴の追撃を細かく跳ねて掻い潜る。
 そうして攻撃の隙を突き、左腕部の縄を岩片で断ち切った。

 さらには落ちてきた人質を受け抱え、そのまま場から離れるように走り出す。
 これで人質は全員解放! ならばやれる事はただ一つだ!

 そこで俺は遠くで眺めているであろう杉浦三佐へと視線を向ける。

 すると直後、嵐のような銃撃が楠を襲った。
 激しい銃声とともに肉眼で見えるほどの弾丸軌跡が刻まれたのだ。

 さすが杉浦三佐、俺の意思を読み取ってくれたな!

 いくら装甲が堅い魔物でも、これだけの数に撃たれれば無事ではすまない。
 この攻撃にさらされ続ければ奴でも危ういと気付くだろう。

「ひいいいいい!!? ち、ちくしょう! ちくしょおおおうッッッ!!!!! こうなったら間宮だけでもブチ殺してやるゥゥゥ!!!!!」

 それでも俺を狙ってくる根性はさすがだな。
 どれだけ俺に対して恨みを積み重ねてきたんだ?

 けどな、その事はすでに織り込み済みなんだよ!

 さぁ追ってこい!
 そのすっとろい足で!
 必死に俺だけを見続けて!

「死ィねェェェェェェ!! 間宮彼方ァァァ――ハッ!?」
「気付いたようだな。けどもう遅いよ」

 そう、気付いてももうすべて遅いんだ。
 なにせここはもうすでに、なんだからな……!

 頭に血が上りやすい楠だからこそ誘い込めると確信していた。
 それでもって案の定、見事にひっかかってくれた。

 おかげでここでなら、俺もまた本気が出せるッ!!!!!

「そんな訳でこのイカサマってやつを、お前も喰らってみろよおッ!!」
「ヒ、ヒイッ――」

 それゆえに俺はその一瞬で右拳にマナを込めていた。
 これ以上なく純粋で最高効率に収縮された、超爆発的な力の塊として。

 そしてその力塊を握り締め、俺は全力で跳ね飛んだのだ。
 ダンジョンへと入り込んだ奴の顎めがけて! 一直線に! 拳を振り上げて!

 よって粉砕・爆滅!!!!!

 ダンジョンの入口を境にして、入り込んだ奴の頭だけが爆ぜた。
 血飛沫さえ焼き尽くし、消し飛ばし、肉塊一つ残らないほど木っ端みじんに。

 そうして意思を失った奴の身体はぐらりと揺れ、そのまま力なく倒れ込む。
 人を理解しようとせず意固地になり続けた奴の憐れな末路である。

 ……まったく、本当にバカな奴だったよ。
 最後の最後まで魔物に成り下がりやがって。

 人としての理性があればまだ救いはあっただろうにさ。
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