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第9話 いきなり乱戦まったなし!

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 武器を持ったプレイヤー達が次々とダンジョンの通路を走っていく。
 人数的にはざっくり見て六〇人くらいだったような。
 その人数が細い道を並んで走っていくのはなかなかに壮観だ。

「もう楠っちのチームは戦ってる頃かなー」
「手際がいいなぁ」
「メンバーみんな慣れてっからねー。先陣を切るのもエースの役目だしぃ」

 さすがエースだけあって行動がすべて速いみたいだ。
 そうできる知識と技量があってこそなんだろうな。

 でもそれなら澪奈部長もなかなかだ。
 俺が何も言わなくてもすぐこんな話を教えてくれるし。

「ほら見て、通路の向こうに明かりが見えるよ!」
「第一の部屋だねぇ。一応警戒してね、そこで魔物が待ち構えてっかもだから」
「りょ、了解!」

 進むにつれ、奥からの叫び声や金属音が徐々に聞こえてくる。
 そのおかげで、手前のチームからも動揺の声が漏れ始めた。

「よぉし、あたしらもいくぞーっ!」
「やったれやったれぇー!」

 つくしと澪奈部長に限ってはなんだかイケイケだが。
 プロチームに入るとメンタルまで強くなるのかな?
 ……まぁ二人の事だし天然もありうるけど。

「よ、よぉし、かかってこぉい!」
「やるわぁ、やるわよぉ! イッヒヒヒヒ!」

 でもそんな二人の元気さが今の俺には救いだ。
 だから二人に釣られ、俺もモモ先輩と一緒につい声を上げていた。
 モモ先輩の笑い声が引きつってて怖いよ!?

 そんな中、俺達も遂に広間へ突入する。

「うっ、これは……!?」

 だがなんだ、この部屋は!?
 恐ろしく広い円形の空間が広がっている!
 しかももう地下のはずなのに青空が見えているだって!?
 さっきまでの天然洞窟とはまるで雰囲気が違うじゃないか!?

 これじゃまるで――

「……まずいねェ、これ、コロシアム型だ」
「コロシアム、型?」
「そぉ。敵が全力であーしらとぶつかれるように配置されたダンジョンタイプ。小細工が効かないんだよねぇ、これさ!」

 たしかに、言われて見ればここはコロシアムのような雰囲気だ。
 景色の先、壁の上には座席のような物も見える。
 観客こそいないが、まるで見世物にされている気分になってきたよ……!

 周りでは流入したプレイヤー達がすでに各所で魔物達と応戦し始めている。
 相手は人の背半分くらいの醜い小人みたいな奴だけど、とにかく数が多い。
 俺達の倍近くいる気がするぞ!?

「しかもゴブリンタイプきたぁ~……! ごめん彼方っち、守るのけっこー厳しいカモ」
「で、でもあたし達がんばるから信じて彼方!」
「ゴ、ゴブ? わ、わかった、俺も自分で何とかしてみせるから気にしないでください!」
「おーけー! モモっち、強化よろ!」
「まかせて……! 【筋力強化術ストルアップ】! 【体力増強術ハードアップ】! 【速度促進術スピードアップ】!」

 でもこっちも手馴れているのか、気迫では負けていないみたいだ。
 モモ先輩が詠唱を始め、強化魔法らしきものを俺達にかけてくれた。

 ……いい感じだ。力がみなぎってくる。
 澪奈部長もそれを身に感じたらしく、すぐに飛び出していった。

 速い。もう斬り掛かっている!?
 あの人は素早さで戦うタイプか。

 しかもあの軽い性格とは思えない堅実さを感じる。手際がすごくいい!
 斬っては離れ、動きで翻弄し、他の人が戦ってる相手さえ隙を見て刺している。

 後ろにも目があるような動きだ。
 戦いだとまるで別人になるかのようだぞ!?

「おぉりゃあああーーー!!!!!」

 一方のつくしは――まぁだいたいイメージ通りだ。
 錫杖を振り上げ、小さい相手の頭をゴチーンと全力でぶん殴っている。
 待ってその武器、そういう使い方なの……?

 先っぽなんかちょっと曲がってるけど本当にいいの?

「ムムム……!」

 モモ先輩は強化魔法維持のために動けない感じだ。
 でもふと顔を覗き込んだら、とても物悲しそうな口元になっていた。
 たぶん乱戦状態で攻撃魔法とか使えないからだろうなぁ……。
 ちなみに目元はフードに隠れて見えない。メガネが無いから隠しているらしい。

 なら、この人のために俺が周囲を警戒した方がよさそうだ。

 そこで俺はモモ先輩の隣に立ち、彼女の目になる事にした。
 先輩は頭一つ小さいので辺りがよく見渡せて良い。

「それにしてもこの状況……苦戦しているようにも見えるな」

 ただ、そのおかげで今の状況がはっきりと把握できた。

 常時優勢なのはトップチームがいる中央部とウチのチームくらいだ。
 他は押しては引いてを繰り返していて、怪我をする人も続出している。
 俺達の前を走っていた割にはそこまで強くないのかな。

 ……いや違う、魔物が強いんだ。
 たしか澪奈部長はあいつらを「ゴブリン」とか呼んでいたな。

 奴等には知能があるようで、武器や防具を多用している。
 それに攻撃もかわすし、プレイヤーの隙も突いてくるんだ。
 だから案の定、今も油断したプレイヤーが脇からナイフで切られてしまった。

 だがプレイヤー側にも治癒士ヒーラーが数人いるらしい。
 すぐに錫杖を持った人が駆け寄り、白い光を当てている。
 傷を負った人も痛がってはいるが、すぐに落ち着きを取り戻したようだ。

 なるほど、すぐ回復してくれるから多少は無茶していいと。
 チームプレイのありがたみがハッキリ出ているな。

 まぁプロチームの不動な治癒士と比べると手際が悪い気もするが。
 さすがプロチーム、治癒さえ必要無いような雰囲気だ。

「モモォ! 彼方っちィ!!!」
「――ッ!?」

 だが途端、澪奈部長の叫びが上がって初めて気付く。

 一匹の魔物が集団をすり抜け、俺達の方に向かって走り込んで来ていたのだ。
 強化魔法を使うモモ先輩に気付いたのだろう。
 後衛を率先して狙う知能もあるって事かよ……!

 そこで俺はためらう事なく小斧を投げた。
 狙いは確実、斧が魔物の頭に「ドズンッ」と斬り刺さる。
 
 ――だが止まらない!?
 相手の頭蓋が厚いのか、傷が浅かったらしい!
 クソッ、レベル1じゃこの程度かよ!?

 そのせいで魔物が急接近し、モモ先輩がおびえてしまった!

「ひ、ひいッ!?」
「ちぃぃ!」

 もう仕方ない、こうなったらやるしかないだろうッ!
 レベル1だろうがなんだろうがァァァーーー!!!

 ゆえに俺は拳を構えて前に飛び出し、剣をかざして迫る魔物に立ち向かう。

 一瞬で懐まで距離を詰め、拳で顎をかち上げ頭骨粉砕。
 その拍子に浮いた体をトゥーキックで蹴りつけ爆散させた。

「「「えっ……!?」」」
「……あれ?」

 なんだ、格闘だと斧と違ってやけにあっさり砕けてしまったが?
 おかげでつくし達も唖然としてしまっている。
 俺も正直ビックリしているのだけど。

 とりあえず落ちている斧を拾い上げつつ、頭をポリポリと掻いてみる。
 するとつくしが急いで駆け戻ってきた。

「彼方、今のすごいね!? どうやったの!?」
「え、あ、いや、こうビシバシッとにやっただけだけど……」
「うそぉ!? じゃあ待って、彼方のレベルって――あ、まだ3じゃん」
「さりげなく上がってるんだな」
「チームメンバーが倒しても経験値入るからねー。彼方ってもしかして格闘技とかやってたりするの?」
「いや格闘技はやってないかな。似たような事はしてるけど」
「そっかーそれにしてもやっぱすごいよ! あたしらでもあんな瞬殺無理だもん」
「モモ先輩の強化があるからかな?」
「こらぁーつくしィ! はよもどってこんかぁーい!」
「ヤバッ! 続き行くね!」
「あ、ああ……」

 どうやら俺はすごい事をやらかしたらしい。
 三人だけでなく他のチームの人も俺をびっくりした目で見てきているし。

 だけど今の感触、まるで――

 ――いや、きっと気のせいだろう。
 このダンジョンってやつはとは似ているようでまるで違うのだから。
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