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第二章 落ちこぼれの天才魔法使い
17話 火雷を以て邪毒を制す
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ヨルムガンド湿地帯は、まさに毒々しく澱んでいる。
本来ならば緑の木漏れ日が降り注ぎ、青々しい森林に囲まれている、自然豊かで美しい地なのだろう。
しかし今は、その美しい姿は見る影もない。
毒によって濁った沼と枯れた植物。
毒素は土壌を侵食し、食物を腐らせ、やがてこの土地は生命が消えて沈みゆくだろう。
見やれば、毒沼の中に草食動物が骨だけの姿で横たわっている。
恐らくは、毒で肉が溶けてしまった成れの果てか。
これは絶対に触れない方がいいな。動物でこれなら、人間の皮膚などあっという間に腐り溶けるだろう。
毒沼を避けつつ、遺跡へ急ぐ。
「虫や動物の中にも、外敵への警告も含めて、毒を持つものはいますけど……」
道中の所々で、毒死しただろう動物や魔物の死骸を見ていたリザがふと、そう呟く。
「これは明らかに"自然毒"の範疇を超越した毒です。こんな広範囲の動植物や土壌を腐食させる毒なんて、普通じゃありません」
リザの言う通りだろう。
「知性体の悪意によるもの、と見るべきだな。あるいは、相手は人間の可能性も否めない」
例えば、組み換えによって抗体が作られにくいウイルスなどのBC――大量虐殺を主目的とした、生物――兵器だ。
「魔物だったら倒せばそれで終わりだけど……もし、相手が人間だったらどうするの?」
エリンは俺にそう訊ねる。
そうか、エリンは対人戦闘をしたことが無いんだったな。
……出来ることなら、この二人に"人殺し"の烙印なんて押させたくない。
けれど、形振り構わなくなればその限りではない。
「この湿地帯の環境破壊の原因が、人間による計画的実行だった場合は、捕縛。つまりは生け捕りにする。だが、相手が殺傷能力を持って抵抗してきた場合は殺が……"討伐"も考慮する」
殺害、と言いかけてしまった。
これはあくまでも冒険者ギルドを通した正式な依頼だ。
時と場合と状況によっては、討伐対象が人間になることもあるが、それはかなりアングラな依頼だ、ちゃんと報酬が支払われるかどうかも怪しい、所謂「騙して悪いが~」というものが大多数だ。
「人殺しにはならないけど……やってることは人殺しに変わりないよね」
エリンは抑揚の無い声で吐き捨てた。
……なんだろう、エリンが既に覚悟ガンギマっててちょっと怖いんだけど。
「ともかく、まずは救助者を発見しましょう。その後はそれから考えても遅くはないはずです」
リザの理性的な言葉を聴いて、思考を切り替える。
そろそろ、遺跡の全貌が見えてきた。
けっこうでかいな、もし救助者が奥深くにいたら、見つけ出すのに骨が折れそうだ。
「リザ、遺跡内部に関する情報はあるか?」
「ごめんなさい、中までは分かりません……決して安全な場所ではありませんし、気を付けて行きましょう」
さすがのリザも内部までは知らないか。
まぁいい、前情報無しでのダンジョン攻略くらい死ぬほど(直喩)やってたんだ、どうにでもなるし、どうとでもする。
「よし……――ライトアップ」
ライトアップを発動、周囲を照らしてから遺跡内部へ突入していく。
遺跡の中は、毒の臭いが充満している。
外ですらあの有様だ、毒の根源とも言うべきこの場所の中ともなれば、どのくらいのひどいかなど、想像したくもない。
「ちょ、っと、これは無理かも……」
「は、鼻がおかしくなりそうです……」
エリンはマントで、リザはローブでそれぞれ鼻を押さえている。
俺も、嗅覚遮断の魔法を使おうかと考えたが、救助者の痕跡を追うためにも嗅覚は保たなければならない。
石壁の間からあちこち毒が流れては外に流出している。
やはり毒の根源はこの遺跡の奥部に間違いない。
ふと、石畳の上に捨てられた蓋無しのビンを見つけた。
冒険者が落としたか、棄てたものだろうか。いくらダンジョン内だからってゴミのポイ捨てはいけませんよ。
ビンを拾い、中の匂いを嗅いでみる。くんかくんか。
「……これは解毒薬だな。それも、飲み干してからまだそんなに時間が経っていない」
「それじゃぁ、救助者は近くにいるってことかな」
俺がビンの匂いを調べている間、エリンはさりげ無く周囲を警戒してくれている。こういうことを進んでやってくれるのはありがたい。
「だが、解毒薬を飲んだということは、魔物の被害を受けているということでもある。そろそろ敵が出てくるかもしれないな」
空きビンを懐に押し込んで、先へ進む。
程なくして、壁に反響して何かが聞こえてきた。
「戦闘の音だ」
俺の注意喚起に、エリンとリザはすぐに意識を戦闘のそれに切り替え、それぞれショートソードとセプターを構える。
俺もロングソードの柄に手を添えながら、反響音の元へ急ぐ。
通路を抜けて、やや広い間取りの部屋に辿り着く。
この遺跡の中央部だろうか。
「二人とも、あれ!」
エリンが指差す方向に、冒険者が三人。
一人は負傷しているのか力無く倒れており、もう二人がそれを守るように魔物と戦っている。
が、戦況はあまり芳しくないようだ。
ブンブンと耳障りな羽音を立てている、巨大な――といっても大型犬くらいのサイズの――蜻蛉型の魔物――『ドラゴンフライ』、それが五匹。
足元に五匹ほど落ちているところ、全部で十匹という群体と戦っているらしい。
「介入するぞ。リザ、援護を頼む」
「了解です!」
即座にリザは雷属性のルーンを顕現し、
「――ライトニングスピア!」
鋭い雷槍が、一匹のドラゴンフライの羽根を貫き、甲殻ごと焼き潰した。
「な、なんだ……?」
冒険者の一人が、こちらに反応してくれたので、声を張り上げて後退を呼びかける。
「そこの冒険者!ここは俺達が引き受ける!一旦下がれ!」
縮地と無影脚で瞬時に距離を詰めて、襲い掛かろうとしているドラゴンフライを横からインターセプト、抜刀様の一太刀で斬り捨てる。
ここでようやくドラゴンフライ達も俺達という援軍に気付いたが、残り三匹だ。
「えぇいッ!」
俺に一歩遅れて、しかし縮地無しでも十分以上の速度で駆け抜けるエリンは跳躍と共にショートソードを振り下ろしてドラゴンフライを真っ二つに斬り裂く。
残る二匹の内、一匹は複眼をギョロつかせて俺に牙を剥いてくるが、下から上へと斬り上げて脆い腹部を貫き、即座に左手を空けて貫手、ドラゴンフライの右複眼をぶち抜き、そのまま首を引きちぎる。
最後の一匹もエリンに襲いかかるものの、
「――ヘルファイア!」
その横合いからリザの援護射撃のヘルファイアが炸裂、火炎放射を浴びて弱ったところをエリンが確実に仕留める。
これで全部倒せたな。
「無事か?」
ロングソードを鞘に納めながら、救助対象の冒険者に向き直……って、
「あぁ、助か……ゲッ、あの時のバケモン!?」
こいつ、バッカスじゃん。
もう二人もバッカスのパーティメンバーだし、こいつらが調査に来ていたのか?人選ミスじゃない?
「ゲッ、とは失礼だな……」
「あ、いや、その……」
バッカスは怯えたように視線を泳がせて――リザと目が合う。
「ゴ、ゴミチビ……」
「は?(威圧)」
バッカスがリザのことをゴミチビとか口走ったので、バッカスのすぐ足元をズガンと踏みつけて震脚。
「ヒィッ!?」
足元を揺らされ、俺の威圧もあって、バッカスは怯えて尻もちをついた。
「今、誰のことをゴミチビって言ったんだ?リザのことをそう言ったように聞こえたんだが、俺の聞き違えか勘違いか?ん?」
ズガン、ズガン、ズガン、とその場で震脚を連発。石畳みに俺の足跡をめり込ませる。
「ちっ、ちちち、違っ、オレはそんなこと言って、言ってねぇ……っ」
「そうか、そりゃすまんな」
震脚を止めて、起き上がらせてやる。
「俺達はギルドからの依頼を受けて、あんた達の救助に来た者達だ。ここに至るまでの経緯を聞かせてほしい」
「あ、あぁ……」
すっかり弱気になったバッカスは、素直に話してくれる。
「オレらは、ヨルムガンド湿地帯の異変の調査の依頼を受けたんだ。それで、毒がどこから流れてるのかってのを、この遺跡からって目星を付けて、中に入ったのはいいんだが、ここの魔物が強くて、逃げるに逃げられねぇところだったんだ」
意外と真目に調査してるじゃないか。ちょっとだけこいつに対する評価を上方修正してやろう。
「ふむ、逃げようと思っても逃げられず、怪我人も出て進退窮まっていた、といったところか」
見やればエリンは、怪我をしているのだろう、倒れていた女の冒険者にヒーリングを掛けている。
「大丈夫ですか?」
「うぅ……」
もう一人の男も疲労困憊なのか、その場で座り込んでいる。
なるほど、ここまで消耗していたのでは、一旦引き返す方が逆に危険かもしれないな。
「よし、この遺跡の調査に関しては俺達が引き継ぐが、あんた達にも協力してもらうぞ」
「な、それはどういう……」
「このまま俺達について来いと言っているんだ。戦闘は俺達で請け負うから、そっちは自衛に専念してくれ」
今は俺達から離れる方が危険だぞ、と念を押してやると、少し迷ってから渋々ながらもバッカスは頷いてくれた。
エリンのヒーリングだけでは彼女の負担がかかるので、俺からもヒーリングを使ってバッカス達を回復させる。
「よし、そろそろ先に進もうか」
禍々しい邪気は近い。
奥へ奥へと進んでいると、行き止まりにぶつかった。
「ただの行き止まり……じゃ無さそうだな?」
すると、リザが壁に触れてみた。
「これ……壁じゃなくて、扉ですね。何かしらの封印の術式が使われているようです」
「……分かるのか?」
バッカス達は意外そうにリザを見やる。
「封印系の魔法書を読んだことがあるので、知識だけはありました。実際に見たのは初めてですけど」
リザは彼らに向き直ることもなく、淡々と答える。
「封印?でも、どうやって解除するの?」
エリンの問掛けに、リザは「ちょっと待ってください」とセプターを石扉に当てる。
「これは……えぇと……あっ、よし、解除出来るかもしれません、やってみます」
リザの周囲にルーンが浮かび上がり、明滅を繰り返す。
「――魔力の固有周波を合わせて……維持、イメージは、ロックをかけたまま切り離す……これをこのまま押し付けて……よし、外れた……で、今度はここを書き換えて……」
何やら呟きながら、だが順調のようだ。
そして、
「……うん。皆さん、ちょっと扉から離れてください」
リザの言う通り、扉から距離を置く。
数秒の間を置いてから、ボンッと音を立てて石扉が小爆発した。
「やった!出来ました!」
どうやら成功したらしく、爆煙の向こうには石扉が倒れている。
「すごいなリザ、どうやって解除したんだ?」
どうやったのかと訊ねてみる。バッカス達にも聞かせるように。
「あの封印の術式は、特定の魔力固有周波以外の魔法を受け付けない仕様でした。普通の解除魔法では通じないので、わたしの方から固有周波を合わせて、術式の中に侵入、内部で固有周波を書き換えて、暴発させたんです」
わぉ、紛うことなきハッキングだ。
もしリザが西暦の現代社会にいたら、とんでもないハッカーに……いや、ハッカーハンターになっていたかもしれないな。
「さすがリザだ、なんともないぜ」
出来る子には頭をなでなでをしてあげよう。なでなで。
「わわっ、ア、アヤトさんっ、そんな撫でられるようなことは……え、えへへ……」
嬉しそうに肩を竦めるリザ。なでなで。
その隣でエリンが「リザちゃん、いいなぁ……」とか呟いている。あとでエリンにもなでなでしてあげよう。なでなで。
「な、なんでお前がそんなこと出来るんだ……?」
バッカス達からしたら、初級魔法しか使えない無能にそんなことが出来るわけないって思うだろうな。なでなで。
「教えてやろうか?」
ここは俺が後方彼氏面をしながら答えてやろう。未来の婚約者になる予定だから、名実共に彼氏だけどね。なでなで。
「リザは魔力循環が上手く巡っていなくて、だから初級魔法しか使えなかった。俺達がそれを解決してあげたら、今はこの通りだ。さっきの戦闘を見ていたなら分かるかと思うが、中級魔法も自由自在だし、彼女の見識知識には脱帽だ。……何故、彼女ほどの優秀で有望な魔法使いを手放したのか、俺には理解出来ないな」
訳:お前達がリザを役立たずだと追いやってくれたおかげで、俺達はこんなにも頼りになる魔法使いが仲間になってくれたんだよ、ありがとう!
「ぐっ、ぐ、くっ……!」
バッカスは大変悔しそうに「くっころ」な顔をしている。
「リ、リザ!」
縋るような声を上げたバッカス。
「「オレ達のパーティに戻って来てくれ」なら、お断りします」
しかし対するリザは彼に見向きもせずに即答した。
「なっ、お前!誰が最初にお前のことを……」
「捨てたんですよね?「役立たずだから」と」
そう。
最初にリザをパーティに誘ったのはバッカスだが、最初にリザを捨てたのもバッカスだ。
「役立たずだからと捨てて、擦れ違う度に嘲笑って、陰湿な嫌がらせをして……それでわたしが強くなっていたから今更戻って来いだなんて、都合が良いにも程があります」
ぎゅっ、と俺の腕を抱き締めるリザ。
もうあなた達の元には戻らない、と誇示するように。
「アヤトさんは、悩み苦しんでいたわたしに手を差し伸べてくれました!初級魔法しか使えないような無能なんて放っておけば良かったのに、それでもアヤトさんは何とかならないかと力を貸してくれました!どうすればいいか分からなかったわたしに、あなたは何をしてくれたんですか!?」
「っ……」
吐き出されるリザの激情に、バッカスは何も言い返せずに、頭を垂れた。
他の二人も、何も言わない。
まぁ、下手にリザを悪く言おうものなら、俺が黙ってないのは思い知っているんだろうけど。
「座興はもういいか?そろそろ行くぞ」
ハイ、バッカスザマァーーーーーーwww
リザが突破した石扉を抜けた先に待っていたのは、中央部と同じくらい広い中部屋。念のため、バッカス達には出入り口の中に隠れてもらう。
しかし、見当たるものと言えば、毒々しく苔生した石畳、壁にはやけに太く広い、うどんのように真っ白な網が張り巡らされ……真っ白な網?
カサ……という音が聴覚を掠める。
「上だ!」
俺の注意喚起を受けて、エリンとリザも弾かれたように見上げる。
網目の隙間から蠢く"何か"は、真っ白な何か――糸を分泌してきた。
その狙いは――リザだ。
「キャアァッ!?」
反応が遅れたリザに、まるで綱引きの綱のように太い糸が何本も弾け絡み付く。
「リザちゃん!?」
「気をつけろエリン!相手はバカでかい"蜘蛛"だ!」
天井の網はただの網じゃない、蜘蛛の巣だ。
その隙間に見えた異形は、黒と黄土色の斑模様に、複数の眼をギョロつかせる蜘蛛――怪蟲『アラクネ』か。
「やっ、やだっ、取れ、ない……!」
リザは必死に振り解こうとしているが、もがこうとするばかりで全く動けない。
何せ蜘蛛の糸の強度は人間サイズに置き換えれば鉄の四倍以上、直径わずか0.5mmもあれば人間を簡単に無力化出来てしまうのだ、人間の20倍はあるだろうアラクネのサイズの糸ならば、生身の人間がどうこう出来るものではない。
仕方ない、ここは少し強引にいかせてもらおう。
「――『エクスプロージョン』」
詠唱するは、上級火属性魔法。
天井の蜘蛛の巣の中心部に、高濃度の火属性エネルギーを集束、集束、集束――炸裂。
弾道ミサイルが着弾したかのような凄まじい爆炎が、アラクネの巣を瞬時に消し炭にする。
同時に、リザを拘束している糸にまで及ばないように範囲をセーブしているから、巻き込まれることはない。
一拍置いて、地響きを立てながらアラクネが石畳に降りてきて、鋏角を剥き出しにして威嚇してきた。あのエクスプロージョンを躱したのか。
「また気持ち悪いのが出てきたね……」
オチューとはまた違う意味で生理的嫌悪感を顕わにするエリン。
だが、まずはリザを助けるのが先だ。
「慌てるなリザ、自分の周囲に火属性エネルギーを放出するんだ」
「えっ、えっ、ほ、放出!?えぇと……こうっ!」
リザの身体が朱く光ると、彼女が放つ火属性エネルギーの熱に、アラクネの糸が焼き切れる。
「と、解けました……!」
よし、よくできました。
アラクネはエリンを捕らえようと糸を放射状に放つが、
「視えてる」
トンッ、と石畳を蹴って糸と糸の隙間を潜り抜けてアラクネに一気に接近する。
糸の分泌を止めたアラクネは、近付いてくるエリンに、毒に塗れた鋏角で斬り裂こうと振るう。
エリンは冷静に盾で鋏角を受け流し、返す刀でショートソードを振り抜き、鋭い一閃がアラクネの左脚の一本を斬り飛ばす。
自身を支える脚のひとつを切断され、アラクネは耳障りな悲鳴を上げて仰け反る。
では、そろそろ俺も攻めるとしよう。
縮地でエリンとは反対側からアラクネに接近、脚への攻撃ではなく、その鬱陶しい糸製造機――腹部への一撃。
しかし、その寸前でアラクネは後方へ跳躍して距離を置いた。
浅いな、表面を少し斬り裂いたくらいか。
距離を置いたアラクネは、目玉を忙しなくギョロつかせ、鋏角をギチギチと擦り鳴らし、俺に向けて糸を放ってくる。
が、これは敢えて受けてやろう。
徐ろに左腕を向け、瞬く間に左腕にアラクネの糸が纏わりつく。
「アヤトさんっ!?」
「大丈夫だリザ、問題ない」
そうして糸に捕われた俺を引き寄せようと、アラクネは自身の糸を手繰り寄せる。
が、それこそが俺の狙いだ。
その場で高濃度の雷属性の高エネルギーを放出、左腕に纏わせる。
すると、放出される雷属性のエネルギーは瞬く間に通電――それは、糸を出している最中であるアラクネにも及ぶ。
「喰らっとけ」
いけアヤチュウ!(多分)7000ボルトだ!
外殻を無視した体内への直流電撃だ、さすがのアラクネと言えども、デリケートゾーンに高圧電流をぶち込まれたら堪らないだろうよ。
10万ボルトとか言うケタ違いな超高圧電流を直に受けてもちょっと焦げるくらいで平然としている、二十年くらい十歳のままでいる彼がおかしいんだって。
予想外な反撃を受けて、アラクネは悲鳴を上げながら全身を痙攣させて暴れ回る。
あまりに暴れ回るもんだから、石壁に何度も巨体をぶつけている。
これではエリンは近付けないだろうが、だからこそのリザの出番だ。
「リザ、任せるぞ」
糸を排除しつつ、リザにトドメの一撃を頼む。
「はい!」
雷属性のルーンを顕現、弱って動きを鈍らせたアラクネをロックオン。
「――ライトニングスピア!」
紫電迸る雷槍が、アラクネの腹部目掛けて放たれ、貫いた。
土手っ腹にポッカリと風穴を開けられたアラクネは、腹部からおびただしい量の糸を撒き散らして斃れ、ついに動かなくなった。
アラクネ、撃破だ。
本来ならば緑の木漏れ日が降り注ぎ、青々しい森林に囲まれている、自然豊かで美しい地なのだろう。
しかし今は、その美しい姿は見る影もない。
毒によって濁った沼と枯れた植物。
毒素は土壌を侵食し、食物を腐らせ、やがてこの土地は生命が消えて沈みゆくだろう。
見やれば、毒沼の中に草食動物が骨だけの姿で横たわっている。
恐らくは、毒で肉が溶けてしまった成れの果てか。
これは絶対に触れない方がいいな。動物でこれなら、人間の皮膚などあっという間に腐り溶けるだろう。
毒沼を避けつつ、遺跡へ急ぐ。
「虫や動物の中にも、外敵への警告も含めて、毒を持つものはいますけど……」
道中の所々で、毒死しただろう動物や魔物の死骸を見ていたリザがふと、そう呟く。
「これは明らかに"自然毒"の範疇を超越した毒です。こんな広範囲の動植物や土壌を腐食させる毒なんて、普通じゃありません」
リザの言う通りだろう。
「知性体の悪意によるもの、と見るべきだな。あるいは、相手は人間の可能性も否めない」
例えば、組み換えによって抗体が作られにくいウイルスなどのBC――大量虐殺を主目的とした、生物――兵器だ。
「魔物だったら倒せばそれで終わりだけど……もし、相手が人間だったらどうするの?」
エリンは俺にそう訊ねる。
そうか、エリンは対人戦闘をしたことが無いんだったな。
……出来ることなら、この二人に"人殺し"の烙印なんて押させたくない。
けれど、形振り構わなくなればその限りではない。
「この湿地帯の環境破壊の原因が、人間による計画的実行だった場合は、捕縛。つまりは生け捕りにする。だが、相手が殺傷能力を持って抵抗してきた場合は殺が……"討伐"も考慮する」
殺害、と言いかけてしまった。
これはあくまでも冒険者ギルドを通した正式な依頼だ。
時と場合と状況によっては、討伐対象が人間になることもあるが、それはかなりアングラな依頼だ、ちゃんと報酬が支払われるかどうかも怪しい、所謂「騙して悪いが~」というものが大多数だ。
「人殺しにはならないけど……やってることは人殺しに変わりないよね」
エリンは抑揚の無い声で吐き捨てた。
……なんだろう、エリンが既に覚悟ガンギマっててちょっと怖いんだけど。
「ともかく、まずは救助者を発見しましょう。その後はそれから考えても遅くはないはずです」
リザの理性的な言葉を聴いて、思考を切り替える。
そろそろ、遺跡の全貌が見えてきた。
けっこうでかいな、もし救助者が奥深くにいたら、見つけ出すのに骨が折れそうだ。
「リザ、遺跡内部に関する情報はあるか?」
「ごめんなさい、中までは分かりません……決して安全な場所ではありませんし、気を付けて行きましょう」
さすがのリザも内部までは知らないか。
まぁいい、前情報無しでのダンジョン攻略くらい死ぬほど(直喩)やってたんだ、どうにでもなるし、どうとでもする。
「よし……――ライトアップ」
ライトアップを発動、周囲を照らしてから遺跡内部へ突入していく。
遺跡の中は、毒の臭いが充満している。
外ですらあの有様だ、毒の根源とも言うべきこの場所の中ともなれば、どのくらいのひどいかなど、想像したくもない。
「ちょ、っと、これは無理かも……」
「は、鼻がおかしくなりそうです……」
エリンはマントで、リザはローブでそれぞれ鼻を押さえている。
俺も、嗅覚遮断の魔法を使おうかと考えたが、救助者の痕跡を追うためにも嗅覚は保たなければならない。
石壁の間からあちこち毒が流れては外に流出している。
やはり毒の根源はこの遺跡の奥部に間違いない。
ふと、石畳の上に捨てられた蓋無しのビンを見つけた。
冒険者が落としたか、棄てたものだろうか。いくらダンジョン内だからってゴミのポイ捨てはいけませんよ。
ビンを拾い、中の匂いを嗅いでみる。くんかくんか。
「……これは解毒薬だな。それも、飲み干してからまだそんなに時間が経っていない」
「それじゃぁ、救助者は近くにいるってことかな」
俺がビンの匂いを調べている間、エリンはさりげ無く周囲を警戒してくれている。こういうことを進んでやってくれるのはありがたい。
「だが、解毒薬を飲んだということは、魔物の被害を受けているということでもある。そろそろ敵が出てくるかもしれないな」
空きビンを懐に押し込んで、先へ進む。
程なくして、壁に反響して何かが聞こえてきた。
「戦闘の音だ」
俺の注意喚起に、エリンとリザはすぐに意識を戦闘のそれに切り替え、それぞれショートソードとセプターを構える。
俺もロングソードの柄に手を添えながら、反響音の元へ急ぐ。
通路を抜けて、やや広い間取りの部屋に辿り着く。
この遺跡の中央部だろうか。
「二人とも、あれ!」
エリンが指差す方向に、冒険者が三人。
一人は負傷しているのか力無く倒れており、もう二人がそれを守るように魔物と戦っている。
が、戦況はあまり芳しくないようだ。
ブンブンと耳障りな羽音を立てている、巨大な――といっても大型犬くらいのサイズの――蜻蛉型の魔物――『ドラゴンフライ』、それが五匹。
足元に五匹ほど落ちているところ、全部で十匹という群体と戦っているらしい。
「介入するぞ。リザ、援護を頼む」
「了解です!」
即座にリザは雷属性のルーンを顕現し、
「――ライトニングスピア!」
鋭い雷槍が、一匹のドラゴンフライの羽根を貫き、甲殻ごと焼き潰した。
「な、なんだ……?」
冒険者の一人が、こちらに反応してくれたので、声を張り上げて後退を呼びかける。
「そこの冒険者!ここは俺達が引き受ける!一旦下がれ!」
縮地と無影脚で瞬時に距離を詰めて、襲い掛かろうとしているドラゴンフライを横からインターセプト、抜刀様の一太刀で斬り捨てる。
ここでようやくドラゴンフライ達も俺達という援軍に気付いたが、残り三匹だ。
「えぇいッ!」
俺に一歩遅れて、しかし縮地無しでも十分以上の速度で駆け抜けるエリンは跳躍と共にショートソードを振り下ろしてドラゴンフライを真っ二つに斬り裂く。
残る二匹の内、一匹は複眼をギョロつかせて俺に牙を剥いてくるが、下から上へと斬り上げて脆い腹部を貫き、即座に左手を空けて貫手、ドラゴンフライの右複眼をぶち抜き、そのまま首を引きちぎる。
最後の一匹もエリンに襲いかかるものの、
「――ヘルファイア!」
その横合いからリザの援護射撃のヘルファイアが炸裂、火炎放射を浴びて弱ったところをエリンが確実に仕留める。
これで全部倒せたな。
「無事か?」
ロングソードを鞘に納めながら、救助対象の冒険者に向き直……って、
「あぁ、助か……ゲッ、あの時のバケモン!?」
こいつ、バッカスじゃん。
もう二人もバッカスのパーティメンバーだし、こいつらが調査に来ていたのか?人選ミスじゃない?
「ゲッ、とは失礼だな……」
「あ、いや、その……」
バッカスは怯えたように視線を泳がせて――リザと目が合う。
「ゴ、ゴミチビ……」
「は?(威圧)」
バッカスがリザのことをゴミチビとか口走ったので、バッカスのすぐ足元をズガンと踏みつけて震脚。
「ヒィッ!?」
足元を揺らされ、俺の威圧もあって、バッカスは怯えて尻もちをついた。
「今、誰のことをゴミチビって言ったんだ?リザのことをそう言ったように聞こえたんだが、俺の聞き違えか勘違いか?ん?」
ズガン、ズガン、ズガン、とその場で震脚を連発。石畳みに俺の足跡をめり込ませる。
「ちっ、ちちち、違っ、オレはそんなこと言って、言ってねぇ……っ」
「そうか、そりゃすまんな」
震脚を止めて、起き上がらせてやる。
「俺達はギルドからの依頼を受けて、あんた達の救助に来た者達だ。ここに至るまでの経緯を聞かせてほしい」
「あ、あぁ……」
すっかり弱気になったバッカスは、素直に話してくれる。
「オレらは、ヨルムガンド湿地帯の異変の調査の依頼を受けたんだ。それで、毒がどこから流れてるのかってのを、この遺跡からって目星を付けて、中に入ったのはいいんだが、ここの魔物が強くて、逃げるに逃げられねぇところだったんだ」
意外と真目に調査してるじゃないか。ちょっとだけこいつに対する評価を上方修正してやろう。
「ふむ、逃げようと思っても逃げられず、怪我人も出て進退窮まっていた、といったところか」
見やればエリンは、怪我をしているのだろう、倒れていた女の冒険者にヒーリングを掛けている。
「大丈夫ですか?」
「うぅ……」
もう一人の男も疲労困憊なのか、その場で座り込んでいる。
なるほど、ここまで消耗していたのでは、一旦引き返す方が逆に危険かもしれないな。
「よし、この遺跡の調査に関しては俺達が引き継ぐが、あんた達にも協力してもらうぞ」
「な、それはどういう……」
「このまま俺達について来いと言っているんだ。戦闘は俺達で請け負うから、そっちは自衛に専念してくれ」
今は俺達から離れる方が危険だぞ、と念を押してやると、少し迷ってから渋々ながらもバッカスは頷いてくれた。
エリンのヒーリングだけでは彼女の負担がかかるので、俺からもヒーリングを使ってバッカス達を回復させる。
「よし、そろそろ先に進もうか」
禍々しい邪気は近い。
奥へ奥へと進んでいると、行き止まりにぶつかった。
「ただの行き止まり……じゃ無さそうだな?」
すると、リザが壁に触れてみた。
「これ……壁じゃなくて、扉ですね。何かしらの封印の術式が使われているようです」
「……分かるのか?」
バッカス達は意外そうにリザを見やる。
「封印系の魔法書を読んだことがあるので、知識だけはありました。実際に見たのは初めてですけど」
リザは彼らに向き直ることもなく、淡々と答える。
「封印?でも、どうやって解除するの?」
エリンの問掛けに、リザは「ちょっと待ってください」とセプターを石扉に当てる。
「これは……えぇと……あっ、よし、解除出来るかもしれません、やってみます」
リザの周囲にルーンが浮かび上がり、明滅を繰り返す。
「――魔力の固有周波を合わせて……維持、イメージは、ロックをかけたまま切り離す……これをこのまま押し付けて……よし、外れた……で、今度はここを書き換えて……」
何やら呟きながら、だが順調のようだ。
そして、
「……うん。皆さん、ちょっと扉から離れてください」
リザの言う通り、扉から距離を置く。
数秒の間を置いてから、ボンッと音を立てて石扉が小爆発した。
「やった!出来ました!」
どうやら成功したらしく、爆煙の向こうには石扉が倒れている。
「すごいなリザ、どうやって解除したんだ?」
どうやったのかと訊ねてみる。バッカス達にも聞かせるように。
「あの封印の術式は、特定の魔力固有周波以外の魔法を受け付けない仕様でした。普通の解除魔法では通じないので、わたしの方から固有周波を合わせて、術式の中に侵入、内部で固有周波を書き換えて、暴発させたんです」
わぉ、紛うことなきハッキングだ。
もしリザが西暦の現代社会にいたら、とんでもないハッカーに……いや、ハッカーハンターになっていたかもしれないな。
「さすがリザだ、なんともないぜ」
出来る子には頭をなでなでをしてあげよう。なでなで。
「わわっ、ア、アヤトさんっ、そんな撫でられるようなことは……え、えへへ……」
嬉しそうに肩を竦めるリザ。なでなで。
その隣でエリンが「リザちゃん、いいなぁ……」とか呟いている。あとでエリンにもなでなでしてあげよう。なでなで。
「な、なんでお前がそんなこと出来るんだ……?」
バッカス達からしたら、初級魔法しか使えない無能にそんなことが出来るわけないって思うだろうな。なでなで。
「教えてやろうか?」
ここは俺が後方彼氏面をしながら答えてやろう。未来の婚約者になる予定だから、名実共に彼氏だけどね。なでなで。
「リザは魔力循環が上手く巡っていなくて、だから初級魔法しか使えなかった。俺達がそれを解決してあげたら、今はこの通りだ。さっきの戦闘を見ていたなら分かるかと思うが、中級魔法も自由自在だし、彼女の見識知識には脱帽だ。……何故、彼女ほどの優秀で有望な魔法使いを手放したのか、俺には理解出来ないな」
訳:お前達がリザを役立たずだと追いやってくれたおかげで、俺達はこんなにも頼りになる魔法使いが仲間になってくれたんだよ、ありがとう!
「ぐっ、ぐ、くっ……!」
バッカスは大変悔しそうに「くっころ」な顔をしている。
「リ、リザ!」
縋るような声を上げたバッカス。
「「オレ達のパーティに戻って来てくれ」なら、お断りします」
しかし対するリザは彼に見向きもせずに即答した。
「なっ、お前!誰が最初にお前のことを……」
「捨てたんですよね?「役立たずだから」と」
そう。
最初にリザをパーティに誘ったのはバッカスだが、最初にリザを捨てたのもバッカスだ。
「役立たずだからと捨てて、擦れ違う度に嘲笑って、陰湿な嫌がらせをして……それでわたしが強くなっていたから今更戻って来いだなんて、都合が良いにも程があります」
ぎゅっ、と俺の腕を抱き締めるリザ。
もうあなた達の元には戻らない、と誇示するように。
「アヤトさんは、悩み苦しんでいたわたしに手を差し伸べてくれました!初級魔法しか使えないような無能なんて放っておけば良かったのに、それでもアヤトさんは何とかならないかと力を貸してくれました!どうすればいいか分からなかったわたしに、あなたは何をしてくれたんですか!?」
「っ……」
吐き出されるリザの激情に、バッカスは何も言い返せずに、頭を垂れた。
他の二人も、何も言わない。
まぁ、下手にリザを悪く言おうものなら、俺が黙ってないのは思い知っているんだろうけど。
「座興はもういいか?そろそろ行くぞ」
ハイ、バッカスザマァーーーーーーwww
リザが突破した石扉を抜けた先に待っていたのは、中央部と同じくらい広い中部屋。念のため、バッカス達には出入り口の中に隠れてもらう。
しかし、見当たるものと言えば、毒々しく苔生した石畳、壁にはやけに太く広い、うどんのように真っ白な網が張り巡らされ……真っ白な網?
カサ……という音が聴覚を掠める。
「上だ!」
俺の注意喚起を受けて、エリンとリザも弾かれたように見上げる。
網目の隙間から蠢く"何か"は、真っ白な何か――糸を分泌してきた。
その狙いは――リザだ。
「キャアァッ!?」
反応が遅れたリザに、まるで綱引きの綱のように太い糸が何本も弾け絡み付く。
「リザちゃん!?」
「気をつけろエリン!相手はバカでかい"蜘蛛"だ!」
天井の網はただの網じゃない、蜘蛛の巣だ。
その隙間に見えた異形は、黒と黄土色の斑模様に、複数の眼をギョロつかせる蜘蛛――怪蟲『アラクネ』か。
「やっ、やだっ、取れ、ない……!」
リザは必死に振り解こうとしているが、もがこうとするばかりで全く動けない。
何せ蜘蛛の糸の強度は人間サイズに置き換えれば鉄の四倍以上、直径わずか0.5mmもあれば人間を簡単に無力化出来てしまうのだ、人間の20倍はあるだろうアラクネのサイズの糸ならば、生身の人間がどうこう出来るものではない。
仕方ない、ここは少し強引にいかせてもらおう。
「――『エクスプロージョン』」
詠唱するは、上級火属性魔法。
天井の蜘蛛の巣の中心部に、高濃度の火属性エネルギーを集束、集束、集束――炸裂。
弾道ミサイルが着弾したかのような凄まじい爆炎が、アラクネの巣を瞬時に消し炭にする。
同時に、リザを拘束している糸にまで及ばないように範囲をセーブしているから、巻き込まれることはない。
一拍置いて、地響きを立てながらアラクネが石畳に降りてきて、鋏角を剥き出しにして威嚇してきた。あのエクスプロージョンを躱したのか。
「また気持ち悪いのが出てきたね……」
オチューとはまた違う意味で生理的嫌悪感を顕わにするエリン。
だが、まずはリザを助けるのが先だ。
「慌てるなリザ、自分の周囲に火属性エネルギーを放出するんだ」
「えっ、えっ、ほ、放出!?えぇと……こうっ!」
リザの身体が朱く光ると、彼女が放つ火属性エネルギーの熱に、アラクネの糸が焼き切れる。
「と、解けました……!」
よし、よくできました。
アラクネはエリンを捕らえようと糸を放射状に放つが、
「視えてる」
トンッ、と石畳を蹴って糸と糸の隙間を潜り抜けてアラクネに一気に接近する。
糸の分泌を止めたアラクネは、近付いてくるエリンに、毒に塗れた鋏角で斬り裂こうと振るう。
エリンは冷静に盾で鋏角を受け流し、返す刀でショートソードを振り抜き、鋭い一閃がアラクネの左脚の一本を斬り飛ばす。
自身を支える脚のひとつを切断され、アラクネは耳障りな悲鳴を上げて仰け反る。
では、そろそろ俺も攻めるとしよう。
縮地でエリンとは反対側からアラクネに接近、脚への攻撃ではなく、その鬱陶しい糸製造機――腹部への一撃。
しかし、その寸前でアラクネは後方へ跳躍して距離を置いた。
浅いな、表面を少し斬り裂いたくらいか。
距離を置いたアラクネは、目玉を忙しなくギョロつかせ、鋏角をギチギチと擦り鳴らし、俺に向けて糸を放ってくる。
が、これは敢えて受けてやろう。
徐ろに左腕を向け、瞬く間に左腕にアラクネの糸が纏わりつく。
「アヤトさんっ!?」
「大丈夫だリザ、問題ない」
そうして糸に捕われた俺を引き寄せようと、アラクネは自身の糸を手繰り寄せる。
が、それこそが俺の狙いだ。
その場で高濃度の雷属性の高エネルギーを放出、左腕に纏わせる。
すると、放出される雷属性のエネルギーは瞬く間に通電――それは、糸を出している最中であるアラクネにも及ぶ。
「喰らっとけ」
いけアヤチュウ!(多分)7000ボルトだ!
外殻を無視した体内への直流電撃だ、さすがのアラクネと言えども、デリケートゾーンに高圧電流をぶち込まれたら堪らないだろうよ。
10万ボルトとか言うケタ違いな超高圧電流を直に受けてもちょっと焦げるくらいで平然としている、二十年くらい十歳のままでいる彼がおかしいんだって。
予想外な反撃を受けて、アラクネは悲鳴を上げながら全身を痙攣させて暴れ回る。
あまりに暴れ回るもんだから、石壁に何度も巨体をぶつけている。
これではエリンは近付けないだろうが、だからこそのリザの出番だ。
「リザ、任せるぞ」
糸を排除しつつ、リザにトドメの一撃を頼む。
「はい!」
雷属性のルーンを顕現、弱って動きを鈍らせたアラクネをロックオン。
「――ライトニングスピア!」
紫電迸る雷槍が、アラクネの腹部目掛けて放たれ、貫いた。
土手っ腹にポッカリと風穴を開けられたアラクネは、腹部からおびただしい量の糸を撒き散らして斃れ、ついに動かなくなった。
アラクネ、撃破だ。
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◇ ◇ ◇
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序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
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