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可愛い義妹には旅をさせよ(完)
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――季節は巡り、暖かな春をまた迎える。
"俺"がアルフレッド・ギャレットに憑依してから、一年が経った。
「本当に行くんだな、シャル」
「はい」
学問所の玄関に立つ俺とクリスさん……いや、"クリス"は、旅支度を整えたシャルの見送りをしていた。
俺とシャルがサダルスウドに帰還したあの日。
シャルは「今すぐにではありませんが、いつか一人で旅に出たいのです」と俺達に言った。
それは何故かと問えば、「わたしは今まで、お兄様と一緒でしかありませんでした。でも、これからはわたし自身で生きてみたいのです」と。
可愛い子には旅をさせよ、と言うのはこういうものなのか。
無論、俺はそれを止めるつもりはない。
俺の人生は俺が決めるように、シャルの人生はシャルが決めるんだ、とガルシアに言ったように。
もちろんそれは明日明後日のことではなく、いつかのことだ。
今しばらくは、学問所で子ども達の教育を続け、いずれ機を見て旅に出たいとのこと。
その間、シャルは剣の朝練を怠らず、知識や見聞を深め、さらにクリスから教わる耕作もしっかりと身に着けていった。
それと。
俺自身は、ベン村長と奥さんの奨めもあって、『クリスと結婚した』。
シャルが旅に出ている間は、クリスが年少組の教育を担当すると言う打算もあるのだが、前々から「俺とクリスさん、なんかいい雰囲気っぽい?」と感じることもあったし、クリスさんも俺のことを気に入ってくれていた、と言うこともあって。
……まぁその、俺とクリスが夜の時間を"お愉しみ"になる時は、シャルを村長宅に預けてもらったりもしたわけだが。
今、クリスの胎には、小さな生命が宿っており、それに伴って彼女のお腹も大きくなりつつある。
あと半年もすれば、無事に生まれてくるだろう。
そして一年。
遅まきながら成長期を迎えたらしいシャルは、義兄たる俺の贔屓目を抜きにしても、見事な美少女に成長した。
小柄で華奢だったシャルも、ある程度背も伸びて、身体付きも幾分か女性らしくなった。
これも日々の鍛錬と、毎日の健康的な食事の賜物だろう。サボらずに手間をかけた食事を続けて良かった。
その美しく成長したシャルは、キンジョーの町で買ってから握らない日は無かったほど馴染んだレイピアを腰に提げ、俺の御下がりのザックを足元に置き、今まさに旅立ちの時を迎えていた。
「旅が辛いと思ったら、いつでも帰ってきていいのよ」
クリスは心配そうにシャルにそう告げる。
「わたしなら大丈夫です、"お姉様"」
シャルがクリスを「お姉様」と呼ぶ。
いつか前だったか、クリスがシャルを「本当の妹にしてあげてもいい」と言ったことが、よもや現実になるとはな。
するとシャルは屈んで手で筒を作ると、クリスの膨らんだお腹にそれを当てた。
「お兄様とお姉様の赤ちゃん。わたしも必ず会いに来るから、元気に生まれてきてね」
何だったかな、ある程度成長した胎児は、外からの音を認識するとか習った覚えがある。
今のシャルの声が、"この子"にも届いているといいな。
続いてシャルは、俺に向き直る。
「それと、お兄様」
「ん?」
「その……ぎゅっとしてください」
「よしきた」
シャルの言わんとすることを理解した俺は、歩み寄って両手を伸ばし、彼女の肩越しに背中へと回し、強く優しく抱き寄せる。
シャルもまた、俺の脇を通して背中に腕を回す。
痩せっぽちでただ小さかっただけのシャルが、こんなにも"女性"になった。
兄貴としては、嬉しく思うと同時に、そう遠くない内にまだ見ぬ男の元へ嫁ぐことになるんだろうなとも思ってしまい、ちょっぴり寂しくも感じる。
まぁそれはそれでいい、シャルが見つけて選んだ幸せなら、余程のことでも無ければ祝福してあげよう。
「……うん、もう大丈夫です」
そっとシャルが俺の背中から手を離し、俺もまたホールドを解く。
ザックを背負い、大きく頷くシャル。
「それでは、行ってきます」
――アルフが、シャルの幸せのために頑張る物語はここで終わりを告げる。
けれど今度は、シャルが自らと、誰かの幸せのために頑張る物語が始まる。
義妹から、一人の女性へと成長したシャルが紡ぎ出す物語――それは、まだ分からない。
だとしても、シャルの歩みは止まらないだろう。
空は、どこまでも蒼く晴渡っていた。
END
"俺"がアルフレッド・ギャレットに憑依してから、一年が経った。
「本当に行くんだな、シャル」
「はい」
学問所の玄関に立つ俺とクリスさん……いや、"クリス"は、旅支度を整えたシャルの見送りをしていた。
俺とシャルがサダルスウドに帰還したあの日。
シャルは「今すぐにではありませんが、いつか一人で旅に出たいのです」と俺達に言った。
それは何故かと問えば、「わたしは今まで、お兄様と一緒でしかありませんでした。でも、これからはわたし自身で生きてみたいのです」と。
可愛い子には旅をさせよ、と言うのはこういうものなのか。
無論、俺はそれを止めるつもりはない。
俺の人生は俺が決めるように、シャルの人生はシャルが決めるんだ、とガルシアに言ったように。
もちろんそれは明日明後日のことではなく、いつかのことだ。
今しばらくは、学問所で子ども達の教育を続け、いずれ機を見て旅に出たいとのこと。
その間、シャルは剣の朝練を怠らず、知識や見聞を深め、さらにクリスから教わる耕作もしっかりと身に着けていった。
それと。
俺自身は、ベン村長と奥さんの奨めもあって、『クリスと結婚した』。
シャルが旅に出ている間は、クリスが年少組の教育を担当すると言う打算もあるのだが、前々から「俺とクリスさん、なんかいい雰囲気っぽい?」と感じることもあったし、クリスさんも俺のことを気に入ってくれていた、と言うこともあって。
……まぁその、俺とクリスが夜の時間を"お愉しみ"になる時は、シャルを村長宅に預けてもらったりもしたわけだが。
今、クリスの胎には、小さな生命が宿っており、それに伴って彼女のお腹も大きくなりつつある。
あと半年もすれば、無事に生まれてくるだろう。
そして一年。
遅まきながら成長期を迎えたらしいシャルは、義兄たる俺の贔屓目を抜きにしても、見事な美少女に成長した。
小柄で華奢だったシャルも、ある程度背も伸びて、身体付きも幾分か女性らしくなった。
これも日々の鍛錬と、毎日の健康的な食事の賜物だろう。サボらずに手間をかけた食事を続けて良かった。
その美しく成長したシャルは、キンジョーの町で買ってから握らない日は無かったほど馴染んだレイピアを腰に提げ、俺の御下がりのザックを足元に置き、今まさに旅立ちの時を迎えていた。
「旅が辛いと思ったら、いつでも帰ってきていいのよ」
クリスは心配そうにシャルにそう告げる。
「わたしなら大丈夫です、"お姉様"」
シャルがクリスを「お姉様」と呼ぶ。
いつか前だったか、クリスがシャルを「本当の妹にしてあげてもいい」と言ったことが、よもや現実になるとはな。
するとシャルは屈んで手で筒を作ると、クリスの膨らんだお腹にそれを当てた。
「お兄様とお姉様の赤ちゃん。わたしも必ず会いに来るから、元気に生まれてきてね」
何だったかな、ある程度成長した胎児は、外からの音を認識するとか習った覚えがある。
今のシャルの声が、"この子"にも届いているといいな。
続いてシャルは、俺に向き直る。
「それと、お兄様」
「ん?」
「その……ぎゅっとしてください」
「よしきた」
シャルの言わんとすることを理解した俺は、歩み寄って両手を伸ばし、彼女の肩越しに背中へと回し、強く優しく抱き寄せる。
シャルもまた、俺の脇を通して背中に腕を回す。
痩せっぽちでただ小さかっただけのシャルが、こんなにも"女性"になった。
兄貴としては、嬉しく思うと同時に、そう遠くない内にまだ見ぬ男の元へ嫁ぐことになるんだろうなとも思ってしまい、ちょっぴり寂しくも感じる。
まぁそれはそれでいい、シャルが見つけて選んだ幸せなら、余程のことでも無ければ祝福してあげよう。
「……うん、もう大丈夫です」
そっとシャルが俺の背中から手を離し、俺もまたホールドを解く。
ザックを背負い、大きく頷くシャル。
「それでは、行ってきます」
――アルフが、シャルの幸せのために頑張る物語はここで終わりを告げる。
けれど今度は、シャルが自らと、誰かの幸せのために頑張る物語が始まる。
義妹から、一人の女性へと成長したシャルが紡ぎ出す物語――それは、まだ分からない。
だとしても、シャルの歩みは止まらないだろう。
空は、どこまでも蒼く晴渡っていた。
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