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ほんの少しだけ野宿
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そうしてもうしばらく歩いて、ようやく林道を抜けて、街道に降り立つ。
朧げながら、遠くに灯りが見える。
あそこが、(多分)キンジョーの町だ。
「お兄様、あそこですか?」
ようやく目的地が見えてきた、とシャルは喜ぶ。
「あぁ。だが、すぐには行けない」
喜んでいるところ悪いが、今からすぐに町に入ることは出来ないのだ。否、出来なくはないがオススメ出来ない。
当然シャルはそれは何故かと訊いてくるので、その理由も答える。
「俺達二人は、こんな深夜に突然町にやってくるんだ。それも、ギャレット家の火事から間もない時間に。近隣の集落や町に火事の報がすぐに届くと思えないが、放火犯の疑いをかけられる可能性がある。それなら、日中の内の方がまだ疑われる可能性は低いはずだ」
「明るくなるまで待つってことですか?」
「そうだ。……夜明けまで、まだ三時間くらいはあるな」
最後に確かめた0時から、体内時計と空を見比べて、今がおよそ午前四時くらいだろう。
辺りを見回して、風を凌げそうな岩陰を見つけたので、そこへ移動する。
「ここで夜明けを待つ。シャルも疲れただろう」
俺はそう言いつつ、この岩陰を中心に狭い範囲の結界を張る。
低魔力の結界なため、少しでも強い魔術をぶつければ破られてしまうが、夜行性の動物や魔物を防ぐにはこれで十分だ。
荷物からシートを地面に敷き、シャルに横になるように促す。
「お兄様は?」
「俺は万が一に備えて寝ずの番をしておく。町についてから休むとするさ」
マントを脱いで、それをシャルの掛け布団代わりにする。
すると、何故かシャルはしょんぼりしてしまう。
「……わたし、お兄様に負担を掛けさせてばかりです」
「確かに負担と言えば負担だが、苦になるほどじゃない」
「ですけど……」
言い澱むシャルを少し強引に寝かせ、その上からマントで覆ってやる。
「いいんだ。それに、シャルが無理をして身体を壊してしまう方がよっぽど負担になる。俺に負担をかけさせたくないと思うなら、今はちゃんと休むんだ」
こう言う言い方は、正直ずるいなぁと思う。
けれどシャルが意固地になって、本当に取り返しがつかないことになる方がずっと怖いから。
だから多少意地悪な言い方をしてでも、シャルを休ませてあげたい。
「わ、分かりました……」
不承不承ながらも、シャルはマントで身体を包むと「おやすみなさい、お兄様」と目を閉じて、
「すぅ……くぅ……すぅ……くぅ……」
すぐに寝息を立ててしまった。
俺が火計を実行する前に軽くでも寝ていたか、それともずっと起きていたのかは分からないが、それでも慣れない長距離を歩いてきたのだ。
俺が思うよりもずっと疲れていたに違いない。
「町に着いて、宿と物資を何とかしたら、それからどうするか……」
先立つものは、家が金持ちだけあって潤沢にはあるが無限ではない、使えば無くなるし、供給が無ければいずれ尽きる。
ひとまずはキンジョーの町を目指すと言ったが、そこから先の見通しが立っていない。
行く宛も無い流浪など、どれだけ粘っても一年も保たないのだ。
物資だけじゃない、情報も必要だ。
っと……座っていると、身体が疲労を思い出してくる。
一応、結界に何かあれば俺の身体にも伝わるし、仮眠程度ならすぐに起きられるはずだ。
俺も少しだけ目を閉じよう。
熟睡しない程度に、俺は意識を眠らせた。
朧げながら、遠くに灯りが見える。
あそこが、(多分)キンジョーの町だ。
「お兄様、あそこですか?」
ようやく目的地が見えてきた、とシャルは喜ぶ。
「あぁ。だが、すぐには行けない」
喜んでいるところ悪いが、今からすぐに町に入ることは出来ないのだ。否、出来なくはないがオススメ出来ない。
当然シャルはそれは何故かと訊いてくるので、その理由も答える。
「俺達二人は、こんな深夜に突然町にやってくるんだ。それも、ギャレット家の火事から間もない時間に。近隣の集落や町に火事の報がすぐに届くと思えないが、放火犯の疑いをかけられる可能性がある。それなら、日中の内の方がまだ疑われる可能性は低いはずだ」
「明るくなるまで待つってことですか?」
「そうだ。……夜明けまで、まだ三時間くらいはあるな」
最後に確かめた0時から、体内時計と空を見比べて、今がおよそ午前四時くらいだろう。
辺りを見回して、風を凌げそうな岩陰を見つけたので、そこへ移動する。
「ここで夜明けを待つ。シャルも疲れただろう」
俺はそう言いつつ、この岩陰を中心に狭い範囲の結界を張る。
低魔力の結界なため、少しでも強い魔術をぶつければ破られてしまうが、夜行性の動物や魔物を防ぐにはこれで十分だ。
荷物からシートを地面に敷き、シャルに横になるように促す。
「お兄様は?」
「俺は万が一に備えて寝ずの番をしておく。町についてから休むとするさ」
マントを脱いで、それをシャルの掛け布団代わりにする。
すると、何故かシャルはしょんぼりしてしまう。
「……わたし、お兄様に負担を掛けさせてばかりです」
「確かに負担と言えば負担だが、苦になるほどじゃない」
「ですけど……」
言い澱むシャルを少し強引に寝かせ、その上からマントで覆ってやる。
「いいんだ。それに、シャルが無理をして身体を壊してしまう方がよっぽど負担になる。俺に負担をかけさせたくないと思うなら、今はちゃんと休むんだ」
こう言う言い方は、正直ずるいなぁと思う。
けれどシャルが意固地になって、本当に取り返しがつかないことになる方がずっと怖いから。
だから多少意地悪な言い方をしてでも、シャルを休ませてあげたい。
「わ、分かりました……」
不承不承ながらも、シャルはマントで身体を包むと「おやすみなさい、お兄様」と目を閉じて、
「すぅ……くぅ……すぅ……くぅ……」
すぐに寝息を立ててしまった。
俺が火計を実行する前に軽くでも寝ていたか、それともずっと起きていたのかは分からないが、それでも慣れない長距離を歩いてきたのだ。
俺が思うよりもずっと疲れていたに違いない。
「町に着いて、宿と物資を何とかしたら、それからどうするか……」
先立つものは、家が金持ちだけあって潤沢にはあるが無限ではない、使えば無くなるし、供給が無ければいずれ尽きる。
ひとまずはキンジョーの町を目指すと言ったが、そこから先の見通しが立っていない。
行く宛も無い流浪など、どれだけ粘っても一年も保たないのだ。
物資だけじゃない、情報も必要だ。
っと……座っていると、身体が疲労を思い出してくる。
一応、結界に何かあれば俺の身体にも伝わるし、仮眠程度ならすぐに起きられるはずだ。
俺も少しだけ目を閉じよう。
熟睡しない程度に、俺は意識を眠らせた。
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