上 下
20 / 76

ほんの少しだけ野宿

しおりを挟む
 そうしてもうしばらく歩いて、ようやく林道を抜けて、街道に降り立つ。
 朧げながら、遠くに灯りが見える。
 あそこが、(多分)キンジョーの町だ。

「お兄様、あそこですか?」

 ようやく目的地が見えてきた、とシャルは喜ぶ。

「あぁ。だが、すぐには行けない」

 喜んでいるところ悪いが、今からすぐに町に入ることは出来ないのだ。否、出来なくはないがオススメ出来ない。
 当然シャルはそれは何故かと訊いてくるので、その理由も答える。

「俺達二人は、こんな深夜に突然町にやってくるんだ。それも、ギャレット家の火事から間もない時間に。近隣の集落や町に火事の報がすぐに届くと思えないが、放火犯の疑いをかけられる可能性がある。それなら、日中の内の方がまだ疑われる可能性は低いはずだ」

「明るくなるまで待つってことですか?」

「そうだ。……夜明けまで、まだ三時間くらいはあるな」

 最後に確かめた0時から、体内時計と空を見比べて、今がおよそ午前四時くらいだろう。
 辺りを見回して、風を凌げそうな岩陰を見つけたので、そこへ移動する。

「ここで夜明けを待つ。シャルも疲れただろう」

 俺はそう言いつつ、この岩陰を中心に狭い範囲の結界を張る。
 低魔力の結界なため、少しでも強い魔術をぶつければ破られてしまうが、夜行性の動物や魔物を防ぐにはこれで十分だ。
 荷物からシートを地面に敷き、シャルに横になるように促す。

「お兄様は?」

「俺は万が一に備えて寝ずの番をしておく。町についてから休むとするさ」

 マントを脱いで、それをシャルの掛け布団代わりにする。
 すると、何故かシャルはしょんぼりしてしまう。

「……わたし、お兄様に負担を掛けさせてばかりです」

「確かに負担と言えば負担だが、苦になるほどじゃない」

「ですけど……」

 言い澱むシャルを少し強引に寝かせ、その上からマントで覆ってやる。

「いいんだ。それに、シャルが無理をして身体を壊してしまう方がよっぽど負担になる。俺に負担をかけさせたくないと思うなら、今はちゃんと休むんだ」

 こう言う言い方は、正直ずるいなぁと思う。
 けれどシャルが意固地になって、本当に取り返しがつかないことになる方がずっと怖いから。
 だから多少意地悪な言い方をしてでも、シャルを休ませてあげたい。

「わ、分かりました……」

 不承不承ながらも、シャルはマントで身体を包むと「おやすみなさい、お兄様」と目を閉じて、

「すぅ……くぅ……すぅ……くぅ……」

 すぐに寝息を立ててしまった。
 俺が火計を実行する前に軽くでも寝ていたか、それともずっと起きていたのかは分からないが、それでも慣れない長距離を歩いてきたのだ。
 俺が思うよりもずっと疲れていたに違いない。

「町に着いて、宿と物資を何とかしたら、それからどうするか……」

 先立つものは、家が金持ちだけあって潤沢にはあるが無限ではない、使えば無くなるし、供給が無ければいずれ尽きる。
 ひとまずはキンジョーの町を目指すと言ったが、そこから先の見通しが立っていない。
 行く宛も無い流浪など、どれだけ粘っても一年も保たないのだ。
 物資だけじゃない、情報も必要だ。

 っと……座っていると、身体が疲労を思い出してくる。
 一応、結界に何かあれば俺の身体にも伝わるし、仮眠程度ならすぐに起きられるはずだ。

 俺も少しだけ目を閉じよう。
 熟睡しない程度に、俺は意識を眠らせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

姫軍師メイリーン戦記〜無実の罪を着せられた公女

水戸尚輝
ファンタジー
「お前を追放する!」無実の罪で断罪された公爵令嬢メイリーン。実は戦いに長けた彼女、「追放されるのは想定済み」と計画通りの反撃開始。慌てふためく追放する側の面々。用意周到すぎる主人公のファンタジー反逆記をお楽しみください。 【作品タイプ説明】 イライラ期間短く、スカッと早いタイプの短期作品です。主人公は先手必勝主義でバトルシーンは短めです。強い男性たちも出てきますが恋愛要素は薄めです。 【ご注意ください】 随時、(タイトル含め)手直ししていますので、作品の内容が(結構)変わることがあります。また、この作品は「小説家になろう」様「カクヨム」様でも掲載しています。最後まで閲覧ありがとうございますm(_ _)m

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

処理中です...