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第十五話 真相

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「何であそこで止めるんだよ」

「んー?何のこと?」

カラオケを先に後にした二人は、通う予備校までの道のりで淡々と話す

「折角良いところだったのに、俺なんか全く解消出来てねぇよ」

「あーそれは…この前新宿で取り締まった違法薬物の件覚えてる?」

「あ?…あぁ」

「実は父さんに頼んで科捜研からちょーっと拝借したんだよね」

「は?」

「中身はなんてことない催淫剤だったんだけどね、さっきマツリちゃんのコーラに全部入れてきちゃった」

「お前…それって…」

「30分もすれば一晩中ムラムラして眠れなくなるんじゃない?来週が待ち遠しいなぁ」

市井が屈託のない笑顔で笑う
それを見て千紘が引き攣った顔で苦笑した

「あれで少しは俺達のこと意識してくれると良いよね」

「お前ってほんと……最高だわ」


そんな卑劣な会話を二人だけが聞こえる声音で話す
しかし街行く人は、二人をまるでアイドルでも見るかのような眼差しで目で追った


警察庁長官を親に持つ千紘と警視総監を親に持つ市井は、その権力を利用して、戸祭のネットに拡散された動画や写真は何とか火消しする事が出来た

戸祭の存在を知ったキッカケも、実はネット犯罪が増加の一途を辿り二人の親が内密に捜査協力を要請したからである

初めて戸祭を見つけたのは、アニメのコスプレ衣装を着てぎこちなくポーズを取っている動画だった
勿論その動画でアニメの存在を知った二人だが、視聴は一話すらまともに見ていない

そこからいくつか他の動画を物色し、無理強いさせられているものと確信した二人は、生放送の日に目星を付けて今回の騒動を起こしたのだ

しかし厄介な事に、いくつか動画を見漁っている内に余りにも刺さりすぎてしまったのだ。二人の性癖に

特に両親や親戚、学校、地域住人までもが強い圧力ともいえる期待に必ず模範解答で応えなければならない二人にとって、普段の生活は首輪を付けたドーベルマンのように息苦しかった

たまに裏で喧嘩をしては、親に頼んで揉み消して貰ったりすることはあっても、そんなのでは解消できない息の詰まる重荷があった

似合わない優等生を演じ明けても暮れても勉学に勤しんでいたそんな時に見つけた中学生の彼、戸祭弥勒とまつりみろく
明らかに先輩や同級生に取り入ろうと必死に画面の前で愛嬌を振りまくそのいたいけな姿に心を奪われた

動画の節々に編集の粗さが目立つ指示パネルの映り込みや強制じみた強い声の要求
それらに歪んだ笑顔で一生懸命応える謙虚な姿勢に釘付けになってしまっていた

そしていつしか二人は思ったのだ、この子を自分のモノにしたいと

「マツリちゃん、早く俺達に落ちないかなぁ」

近所の住人が挨拶するのを、お得意の営業スマイルで二人は応える
腹のウチはこんなにも真っ黒だなんてことは、表の世界で生きる人間は誰も知り得なかった




.





「戸祭くんって、相高の先輩と仲が良いの!?」

「あの二人めちゃくちゃ有名だよね!?何で知り合ったの!?」

週末明け、学校に行くなりクラスメイトから質問攻めにあった
普段は空気のようにオレを無視していたクセに、金曜の放課後に街をぶらつく姿やカラオケに入る様子を何人かの同級生に目撃されていたらしい

「いや…別に…」

しかしオレはそれどころではなかった
あれから家に帰宅すると、盛りのついた猿のように下半身の疼きが止まらなかった

あのまま自慰行為に及んでは、まるであの二人との中途半端に終わってしまった卑猥な行為が物足りないと言わんばかりに思えてしまい、どうしても抜くことが出来ずこうしてムズムズとした感覚が未だ残る中、月曜を迎えてしまっていた

「カラオケで千紘先輩にキスされてたって聞いたけどホント!?」

「ちょっとマミ!ただの噂だってば!」

「…………。」

ぎゃいぎゃいと女子たちが周囲でざわつく様子に嫌気が差したオレは、トイレに行くから。とその場を振り切って教室を後にした

「ハァ…」

トイレの洗面器に手をかけ、深く溜息を吐いた
改めて疑問に思う
何故ここまであの二人はオレに執着しているのか

話しかけてきたさっきの女の子達だって、オレも目で追うほど可愛いらしいと思う

そんな女子たちが憧れているあの二人には、オレじゃなくても相手は吐いて捨てるほどいるはずだ

眼鏡とマスクを外し、鏡の前の自分の顔をマジマジと見つめる
背丈に見合った童顔で、何度日に照らされても赤くなるだけで元に戻る白い肌
目は丸く更に子供っぽさを引き立たせてヤンキーのフリをしていた事が恥ずかしいとさえ思える

そんなオレの嫌いな言葉は“カワイイ”だった

男に産まれ、そんな不名誉な言葉はない
頑張って男らしく振る舞っても小学校の時は女の子にカワイイとちやほやされ、男の子達から女々しい奴と煙たがられた

根暗で会話が上手く出来なかったオレは、すぐにイジメの対象になって静かに自分を殺した

やっと卒業して、誰も自分を知らない学校を選んだのに慣れないヤンキーを演じた末、先輩たちからのただの都合の良いパシリになっただけで何も変われてはいなかった
今は特に厚い前髪で顔を隠し、太いレンズの眼鏡をかけ、マスクで表情を失った

「小学校の時より酷くなってるし…」

こんな地味で何の取り柄もないオレに、あの二人が興味を引く事が理解出来ない

ただ一つ可能性があるとするならば…




.




「おい、どこ行くんだ?」

本当に言った通り、二人は放課後にオレの学校の門の前で待っていた
ざわざわと人だかりが出来る中、オレは腰を低くしてなんとか逃れようとコソコソと門を出たが、呆気なく二人に見つかってしまう

「…ぼ…オレ…今日気分悪いんです…」

「クスリまだ効いてるの?俺達がなんとかしてあげるよ」

「………クスリ…?」

「ちゃんと服は持ってきたんだよな?時間が惜しいから、早く行くぞ」

あれよあれよと二人に手を引かれ、女子たちの悲鳴にも似た黄色い声が遠ざかる

オレは市井が言った言葉が頭に引っ掛かったが、抵抗する暇もなくとある廃屋へと連れ込まれてしまう
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