大陸一の賢者による地属性の可能性追求運動 ―絶対的な物量を如何にして無益に浪費しつつ目的を達するか―

ぽへみやん

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5.地属性で植物は操れるか

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「勇者の周りをチョロチョロとしているあの、黒髪の人間。間違いありません、あれが黒幕ですわ」

 水晶板タブレットで勇者の動向を探っていた魔王軍【風の四天王】ヴェゼルフォルナは、そのように結論付けた。
 熱帯に多く棲息する黒髪種の人間。特別派手な特徴があるわけではないが、強いて言うなら、目が円く見開かれていて、妙に不気味だ。水晶板タブレットの映像を通して見るだけで、ゾッとした。

「あの化け物勇者だけでも手一杯なのに、わけのわからない入れ知恵を……! どうして地属性魔法で炎と風が出ますの!! どうして炎と風で城が消し飛びますの!!?」

 最初は、何をしているのかわからなかった。何だか妙な黒い土を城に振りかけているな、と見張っていたら、そのまま何もしないで離れていく。
 単なる嫌がらせか、掃除が面倒だなどと思っていた所、向かいの山に勇者と黒髪の男が現れる。
 黒髪の男が何かしら指示を出すと、勇者は石を縄で縛って繋いだ、ボーラのような投擲武器を城に向かって放り投げ……着弾と共に、凄まじい光と熱、風に轟音が迸り。

 城が、瓦礫と化した。

 ヴェゼルフォルナは恐慌に駆られて飛び立ち、持てる限りの魔力を持って速攻での殲滅を図った。
 四天王の役割は、その身を要とした魔王城を守る結界の維持。生き残ることこそが使命。生きていればこちらの勝ち、今まではそう思っていた。
 考えが甘かった。
 やらなければやられる。

 勇者だけならば、確かに化け物じみた力は持っていても、相性の問題で何とか生き残れるはずだった。しかし、あの男はまずい。あれが勇者を操り、その力を引き出せば、近い内に自分は必ず死ぬ。
 四天王の使命以前に、死の恐怖が先に立った。
 魔族に恐怖の感情はない、なんていう心理学者がいたけれど、それは単に恐怖を知る機会がなかったか、知る前に死んでいたからだ。でなければ、見栄っ張りな痩せ我慢だろう。確実に死ぬ、自分を殺す相手がいる。そんな状況で恐怖を感じないなんて、生物としての欠陥でしかない。そう、ヴェゼルフォルナは考える。
 恐怖があるから、生き残ろうとする。そのために対策を取るのだ。

 城は一晩で自己再生するが、あの炎と風の地属性魔法(ヴェゼルフォルナ自身も何を言っているのかわからなかった)を食らえば、再生した端から簡単に吹き飛ぶ。
 最初の一度目はわざわざ城の傍まで黒い土を積み上げにきていた勇者達だが、今は離れた位置から、土窯のような巨大な筒を使い、その魔法を撃ち込んでくるようになった。炎と風と瓦礫では【地属性以外完全無効】の彼女がダメージを受けることはないが、例の滅びの弾頭(とヴェゼルフォルナは名付けた)の中に、五発に一発の割合で、地属性で作ったただの岩石を打ち込んでくる。それも、当たれば死ぬサイズのだ。
 当たれば、死ぬ。

「……あの黒幕も早々に片付けなければなりませんけど、その前に、身の安全が先ですわね」

 恐怖とは、最も強く人の行動を支配する感情である。
 ヴェゼルフォルナは一旦積極的攻撃策を棚上げし、まずは飛来物に対する自動迎撃魔術の開発を、急ピッチで進めることとした。

***

 【大陸一の賢者】の地下秘密基地。
 つい先日まで山奥で隠遁生活を送っていた時に住んでいた庵は、風の四天王に破壊された。今は【地の勇者】ドリスに作らせた地下施設に賢者は住み、施工主のドリスも居候している。距離としては風の四天王城から歩いて二分、目と鼻の先だ。普段は基地から遠く離れた非常口から出入りしているので、今の所、風の四天王にその存在が気付かれている様子はなかった。
 地下ながら天窓には分厚い板ガラスをはめ込み、採光も十分。住み心地はそう悪くない。以前、様々な地域から集めて行った「土」や「石」の範囲の調査によると、ドリスの感覚では石英は石の一種ということらしく、透明度の高い石英ガラスも比較的簡単に生成できてしまったのだ。

 その地下秘密基地にて、賢者と勇者の作戦会議が行われていた。

「地属性で植物って操れる?」
「逆に聞きますけど、何で操れると思ったんですか?」

 怪訝な顔のドリスに、賢者は「だよねぇ」と頷いた。

「俺、農業改革とか政策とか、発明なんかで賢者って呼ばれてただけで、魔法って全然詳しくないんだよ。何が、どこまで出来るのかも、知らないからさ」
「そんなもんですかね」

 ドリスは、既に賢者の知恵については欠片も疑っていない。賢者の提案は、まだ四天王討伐という結果こそ出していないが、自分一人では掠らせることもできなかった風の四天王を、あと一歩の所まで追い詰めた。
 賢者が「火薬」だの「爆弾」だのと呼ぶ炎と風の魔法一つ取っても、確実に地属性魔法の歴史を塗り替えるものだ。
 ドリスの属性適性は地属性へ極端に偏っており、普通に体外に魔力を放出しようとするだけで、意図しなくとも地属性が付与されてしまう。口に入るとジャリジャリする。そのため、地魔法以外を操ることは、基本的にできない。
 賢者の知る魔法使いは、無属性の純魔力を「ただ出すだけだから楽は楽」などと言っていたらしい。そこまで行くと逆に珍しいとは思うが。
 一般に、属性に偏りがあればあるほど、色が濃く、魔法の効力自体は強くなるとされている。逆に、属性の偏りが小さければ、変換時にエネルギーのロスはあるものの、無理やり他の属性を扱うこともできる。「一長一短」というよりは「隣の芝生は青い」といった程度の話だが、勇者に選ばれる程の地属性適性があっても、他の属性に憧れることは多々あった。ドリスは、自分が実践レベルの炎と風を生み出せたことに、実の所、ちょっと感動すらしていた。

 だから、賢者が魔法に詳しくないといっても、それで信頼性を失うものではない。
 知らない物は自分が教えれば良い、それがチームだ、とドリスは考える。

「畑仕事の手伝いとかは、地元でちょいちょいやってましたよ」

 土を耕す、掘り返す、整えるといったことは、地属性魔法使いなら大体誰にでもできることだ。井戸を掘る、獣避けの空堀を作るといったことも、そこそこの地属性魔法使いなら可能な範囲。開墾や治水工事となると相応の力が必要になる。故に、農村での地属性魔法使いの扱いは高くなる……かといえば、そういうわけでもない。それらは全て、魔法がなくとも人間の力で可能なことなのだから。人は自分でもできる(ような気がする)ことなら、その物量や完成度を問わず、実際より低く見てしまうものである。そのくせ、「魔法で簡単にできるなら、出し惜しみせずにやるのが当たり前」だと考える。
 ドリスは九歳の頃、村で原因不明の熱病が流行った時には、村長命令により、芋畑と根菜畑は全て一人で収穫させられた。報酬は現物支給で、馬鈴薯が四つと大根が一本。
 なお余談だが、その翌朝の村の広場には、頭頂部と尻と両乳首に馬鈴薯を貼り付け、大根一本を股間に構えた全裸の村長の石像が七体、飾られていたという。目撃者もない上に、魔力の痕跡は一切残っておらず、事件はそのまま迷宮入りとなった。

「石とか土なら、大体何でも作れるんだよね」
「まぁそうですね。こないだの、いろんな石を作る実験みたいなの、結構楽しかったですね」
「あれ楽しかったよねぇ」

 二人共が知らない、わからないことについては、実験で確かめれば良い。
 賢者曰く、旅に出た時期から見ると、時間の余裕は相当あるらしい。他の勇者を待たせることに焦りを感じていたドリスは、それを聞いて少し安心した。

「石みたいに見本がなくても、柔らかい土とか、サラサラの土とか、作り分けることはできる?」
「そういう雰囲気の土っていうのはできます」

 ドリスが左右の掌に生成した土を載せてみせると、賢者はそれぞれ軽くつまんで指ですり潰し、「なるほど」と頷く。

「森の土とか、それより遥かに養分の多い土とかもできる?」
「その、養分が多いっていうのの、方向性がわかれば行けるんじゃないでしょうか」

 手に乗せた土を散らして魔力に戻しつつ、ドリスは首を傾げた。
 賢者は少しばかり思案して、続ける。

「なら、魔力を思いっきり込めた土、なんてのは?」
「あ、それならわかりますよ。魔力込めるだけですもんね!」

 そう言いながら両手一杯に生成したのは、異様な圧力を放つ禍々しい土だった。

「これに植物の種を植えたら、凄い勢いで育ったりしない?」

 賢者は声を弾ませてそう尋ねた。

「やったことないですけど、魔物モンスター化とかはするんじゃないですか!?」

 ドリスは満面の笑みでそう答えた。

***

 地下を掘って風の四天王城の傍へ近付く。
 手をそっと地上に出して、城の壁際に、高力土を大量に生成する。
 そこへ毒草、食虫植物、寄生植物の種をパラパラと撒き、コップで軽く水をかけて撤退。

 次の日の朝には、新しい森が出来ていた。

 魔物化した毒草が吐き出す花粉は毒霧を生む。
 牙と脚を生やした食虫植物が、品種ごとに陣営を作り、相争い、喰らい合う。
 大蛇程の蔓が城を絡み、絞め、砕き割る。

 緑一色の地獄絵図である。

「あーあ、外壁壊れちゃいましたよ賢者様」
「やっぱり植物は地属性じゃなかったかぁ」

 確かに、成果は、出なかった。
 離れた地面から顔を覗かせてその光景を眺める賢者と勇者は、それでも、達成感には包まれていた。
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