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懐かしの故郷編
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しおりを挟むレオン達がリーンの街にたどり着いて二日目。
六人はそれぞれ別れての情報収集を開始した。
一人ずつ行動を別にし、調べた結果を後で集合した時に擦り合わせる手筈だ。
しかし、レオンとナシェンだけは二人組で行動することになった。
五年前とはいえ、レオンは一度この国では名の売れた犯罪者である。
レオンのことを知っている人に出会い、騒がれるとまずい。
そして、ナシェンは一人で放っておくと何をしでかすかわからない。
そう言った理由で二人組にさせられてしまったのである。
「レオンさん、あそこになんか屋台がありますよ」
街を歩くナシェンはいつもよりも楽しそうだった。
呼び方が「レオン様」ではなくさん付けに戻っているが、これはレオンが許可した。
もともと様付けは苦手だったし、話しかける度に「レオンさ……ま」とぎこちなくなるナシェンに配慮したのだ。
ナシェンが「さん」で呼び続けたことによりいつのまにかリュウも「レオン様」と呼ぶのはやめていてが、レオンにとってはその方がありがたかった。
ナシェンは屋台で売っていた水牛の肉に興味津々のようだ。
無駄遣いはよせとナッシャから言われたのも忘れて早速買おうとしている。
その様子を見てレオンはナシェンが目的を忘れているのではないかと少し不安になった。
「おい、ダメだよお嬢ちゃん。これどこのお金だい?この町ではギルしか使えないよ」
牛串を買おうとしたナシェンは通貨の違いにより断られてしまう。
アルガンドとこの国では通貨が違うのだ。
それを忘れてアルガンドの金貨で買おうとしたらしい。
まずい、とレオンはナシェンの元に向かう。アルガンドは秘匿的な国のため、通貨から身元が割れることはないだろうがこの状況は少し目立つ。
「おやっさん、その子の分私が代わりに支払いましょう」
レオンがナシェンの元に向かうよりも早く、店主にそう声をかけて代金を支払う男がいた。
男は店主から牛串を受け取るとそれをナシェンに手渡す。
「はいお嬢さん。お使いとは感心ですね」
その口ぶりから察するにナシェンのことを旅芸人か誰かの連れ子がお使いで買い物に来たのだと勘違いしたようだ。
確かにナシェンは童顔で仕草も子供っぽいところがある。
知らない人から見れば幼く見えても仕方ないだろう。
実年齢よりも随分と下に見られ、子供扱いされたナシェンだが本人はそんなことは全く気にしていないらしい。
牛串を受け取ると男に満面の笑みでお礼を言って、レオンの元へ駆け寄ってくる。
「レオンさーん!買ってもらいました」
その嬉しそうな顔で大声でレオンを呼ぶ。
その声に男が反応を示す。「レオン」の名前に反応したのだ。
レオンは咄嗟に顔を伏せて男から視線を逸らす。こんなことならば、偽名で呼ぶようにナシェンに伝えておくべきだったと後悔する。
五年前の騒動でレオンの顔を直接見ていない者でも、その名前には聞き覚えがあるだろう。
自分が有名な存在だというのに実感が湧かなかったために、レオンは油断していた。
男がレオンの元に近づいてくる。下を向いたレオンには男の足先しか見えなかった。
レオンはもしも正体がバレたのならばすぐにその場を逃げ出すつもりだった。
「もし……レオン・ハートフィリア様ではございませんか」
男にそう声をかけられて、レオンは放心する。
バレている、と思うよりも先に男がレオンの家名を言い当て、さらには敬称をつけたことに驚いたのだ。
恐る恐る顔を上げるレオン。
その男性の顔にレオンは見覚えがあった。
忘れもしない、学院を目指し村から旅立った時にとても世話になった人物だ。
レオンを村から王都まで寝台馬車で運んだ御者のリッヒがそこにいた。
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