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極北の大地編
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しおりを挟む第四の試練までを突破し、レオンが最後にたどり着いたのはなんの変哲もない部屋だった。
石像も何もなく、殺風景で今までの部屋よりも狭い。
その部屋の真ん中には赤く輝く光球が浮かんでいた。
レオンは初め、それが魔法で作り出されたものだと思ったが近づいて見て違うと気づいた。
赤い光球はドクドクと脈打っているのである。その様子はかつてレオンが戦った悪魔達の魂の姿によく似ていた。
違うのは色のみ。恐る恐るレオンが近づくと、赤い光球の拍動はさらに強くなる。
また、レオンの中で封じ込められた悪魔の魂達にも変化があった。
体の外へ出ようともがいている感じとは違い、何かに惹かれて興味を示しているような感覚だった。
赤い光球と悪魔の魂は共鳴しているようだった。
その光に見惚れて、レオンの手が思わず伸びる。
すると、声が聞こえた。
「それ以上はやめておけ、人の子よ。火傷では済まぬ。」
その声に驚いて、レオンは手を引っ込めた。声は間違いなくレオンのすぐ近くから聞こえたが、近くに人はいない。
レオンの視線は自然と光球に向いていた。
「ほう、聡いな。普通我の姿を見たものは驚くと言うのに……。」
レオンの目の前で光球が姿を変える。
赤く燃え上がり、人型の何かになった。
それは精霊だった。
「よく来た人の子よ。ここは精霊の住まいし場所。貴殿の力しかと見届けたぞ。」
人形になった精霊はレオンを見下ろしながら言う。
レオンは少し戸惑った。精霊とは本来魔法使いが儀式を通して呼び出す物だからだ。
遺跡の中に精霊が住んでいるなど聞いたことがなかったのである。
その考えを見通したかのように精霊は説明を続ける。
「ここは我ら精霊達の住まう場所。精霊界が滅び、その姿を消してから我らは人の地を借りて生き延びている。」
精霊によれば、数百年前に精霊達の故郷である精霊界が滅んだ。
そしてその時に多くの精霊達が人間界にやってきて、人間と契約を結びその土地に住み着くようになったのだと言う。
そして、その契約がここが試練の間と呼ばれるようになった所以でもあった。
「我らが結んだ契約は、土地の代償に我らが見込んだ人間に力を与えるというもの。そして喜べ、貴殿の力は認められた。」
精霊はアルガンドの大地に住みつき、長い歴史と共に寄り添ってきた。
つまり、アルガンドの円卓十二人の賢者とはこの試練の間で精霊に力を貰った者たちのことであった。
「つまり、今までの試練は僕が精霊様達に認められるかどうかの試練だったというわけですね?」
レオンの問いに精霊は答える。
「それは正しいとも、間違いとも言えるな。あの程度の試練を突破できぬ者に力は力を与えるわけには行かぬが、突破できたからといって必ず与えるというわけでもない。あれらの試練は言わば貴殿を知るための方法でしかないのだ。」
レオンが簡単すぎると思っていた試練。それは正しく簡単だったのだ。
遺跡の中には目に見えないだけで無数の精霊達がいる。
彼らは遺跡にやってくる人間達に悪戯を仕掛けるのが大好きで、魔法で石像を動かしたり特定の魔法を封じたりする。
レオンが魔道具だと思っていた遺跡の中の物はすべて、精霊が魔法をかけていたのである。
そして、精霊達は人間の反応を見て楽しむ。何を考え、どのように切り抜けるのか。そして、その方法を見て気にいるかどうか判断するのだ。
第三の試練までに侵入した人間を気にいる精霊が現れれば、その人間は第四の試練に通される。
そこでは石像を通して精霊が直に人間の魔力を感じて、自分とその人間の相性を確認する。
第四の試練でレオンに話しかけた四体の石像はレオンのことを気に入った四人の精霊の姿だったのである。
そして、その第四の試練を終えた後に第五の試練で正式に精霊の力を与えられるのである。
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