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第一話
ここはアンデッド相談所<Ⅰ>
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その後俺は、彼ら一人一人の話を聞いた。
話す内容は何処でも聞いたような話ばかり、人によっては取るに足らない何処にでもある話だというかもしれない。
ある者は確実に死ぬクソみたいな命令を受け、戦場で散っていった名もなき兵士。
平時は農民で、戦争が始まれば兵士として駆り出された。いわゆる農兵。
誰も好き好んで戦場に行ったわけじゃない。
彼らは皆、俺に死の間際の気持ちを話して、そして自分の家族や住んでいた村や街がどうなったかだけが気がかりだった。
村の情報は全てセレーネを介して教えてやる。
彼らが戦い命を散らしたおかげなのか、村や街に被害は出なかったらしい。
俺はどうしてゾンビ達と言葉を交わせるのだろうか。
それに何故俺の声が聞こえた瞬間、まるで理性を得たかのようになるんだ?
何もかもが謎ばかりだったが、今は彼らの話を全て聞くことに専念した。
『俺は無駄死ににならなかったんだな』
「ああ、あんた達の街は守れたんだ」
『……そうか、良かった……話を聞いてくれて』
「気にするな」
全てのゾンビの話を聞き終わる頃、空が白み始めていた。
「じゃあ、みんなそろそろいいか?」
『アア……送ッテクレ……』
『手間ヲカケル……』
またゾンビ達の声が不鮮明になっていた。
「じゃあセレーネ頼めるかな?」
「ぐずっ……はい……」
それまで横で泣いていたセレーネが、前に出て祈りを捧げ始めた。
「慈悲深き大地の女神よ……このものたちの魂を、どうか御身の元で安らかな安息を与えたまえ……」
最後に残ったゾンビの一団が、セレーネの祈りで魂が光となり上空へと送られていく。
残った身体はさらさらと砂のように崩れ去っていく。
そして最後の彼らの言葉はやはり『ありがとう』だった。
「ふう……さすがに顎が疲れた。こんなに話をしたなんて何年ぶりだろうな」
「ぐずっ……うう……」
「よく一晩中泣き続けられるな」
「だ、だって……、あんなに皆さんが……」
神の奇跡と呼ばれる神聖魔法で回復系は一日の回数に制限があるが、ターンアンデッドなどには制限がないのでMPがある限り使える。
とはいえMPを温存するため、ある程度数をためてから一斉に送ってもらった。
そのときにゾンビ達がセレーネに感謝をしていると伝えると、そこから涙が止まらない状態になっていた。
「ほらほら、あんまり泣いていると顔が腫れちまうぞ」
ハンカチとかは……ないか。
「申し訳ありません」
「うわっ?」
セレーネは俺に抱きついて泣きだしていた。
「死してなお彼らは家族や恋人のことを案じていたなんて……、本当に戦いにならなくて良かったです」
俺の胸の中で泣いている。
こういうときってどうすればいいんだろうか。
そっと抱きしめてやるのが正しいのか? い、いやでもだな……。
「ああ、そうだな。俺もそう思うよ」
手を途中まで動かすが、最終的に抱きしめるに至らなかった。
だが、本当にゾンビ達の『声』は本物だったのだろうか。
いやでも、わざわざそんなものを作る意味はない。
アンデッドとは一体どんな存在なんだ? どうにかこういう謎を解く方法はないのだろうか。
彼女が泣き止むまでしばらくそのままにしていると、太陽が顔を出し日が差し込めてきた。
「うう……眩しっ、結局徹夜になっちゃったな」
「そ、そうですね……少し頭がクラクラします」
「俺の方は顎が疲れたよ。一晩中話をしてたからさ。それに喉も……」
「後で、喉に良い薬を用意しますね」
「あ、それは助かる」
「わたくしもさすがに……、ふわぁ……」
「おやおや、さっきまで泣いていた子が、もう大きなあくびしているよ」
「あう……、も、もう、意地悪な人。女性のあくびを見るなんて」
「いや、目の前で見えるようにするのはどうなんだよ」
「うっ、それはそうですけども……」
セレーネって意外と脇が甘いし思わせぶりに見えるから結構男を勘違いさせていそうだな。
「それでは戻って眠りましょうか」
「そうだな。是非そうしたい……」
二人で砦の方に向かって歩き出す。
砦の方から門が開いて砦長や兵士達が出てくる。
「勇者殿! 聖女様! 大丈夫なのですか?」
「ああ、アンデッドは全部見送ったから」
「見送った?」
「はい。勇者様が全てのアンデッドと話をして、彼らは暴れることも抵抗することもなく神の元へと還っていきました」
「なんと!」
「勇者ってのは、本当に凄い力を持っているんだな」
兵士達は喜びの声を上げる。
「バカな! 上級アンデッドならともかくゾンビに知性などあるわけが、貴様我らを謀って何が目的だ!」
だがそれに納得がいかない女騎士が俺に剣を向けてきた。
「ちょ!?」
話す内容は何処でも聞いたような話ばかり、人によっては取るに足らない何処にでもある話だというかもしれない。
ある者は確実に死ぬクソみたいな命令を受け、戦場で散っていった名もなき兵士。
平時は農民で、戦争が始まれば兵士として駆り出された。いわゆる農兵。
誰も好き好んで戦場に行ったわけじゃない。
彼らは皆、俺に死の間際の気持ちを話して、そして自分の家族や住んでいた村や街がどうなったかだけが気がかりだった。
村の情報は全てセレーネを介して教えてやる。
彼らが戦い命を散らしたおかげなのか、村や街に被害は出なかったらしい。
俺はどうしてゾンビ達と言葉を交わせるのだろうか。
それに何故俺の声が聞こえた瞬間、まるで理性を得たかのようになるんだ?
何もかもが謎ばかりだったが、今は彼らの話を全て聞くことに専念した。
『俺は無駄死ににならなかったんだな』
「ああ、あんた達の街は守れたんだ」
『……そうか、良かった……話を聞いてくれて』
「気にするな」
全てのゾンビの話を聞き終わる頃、空が白み始めていた。
「じゃあ、みんなそろそろいいか?」
『アア……送ッテクレ……』
『手間ヲカケル……』
またゾンビ達の声が不鮮明になっていた。
「じゃあセレーネ頼めるかな?」
「ぐずっ……はい……」
それまで横で泣いていたセレーネが、前に出て祈りを捧げ始めた。
「慈悲深き大地の女神よ……このものたちの魂を、どうか御身の元で安らかな安息を与えたまえ……」
最後に残ったゾンビの一団が、セレーネの祈りで魂が光となり上空へと送られていく。
残った身体はさらさらと砂のように崩れ去っていく。
そして最後の彼らの言葉はやはり『ありがとう』だった。
「ふう……さすがに顎が疲れた。こんなに話をしたなんて何年ぶりだろうな」
「ぐずっ……うう……」
「よく一晩中泣き続けられるな」
「だ、だって……、あんなに皆さんが……」
神の奇跡と呼ばれる神聖魔法で回復系は一日の回数に制限があるが、ターンアンデッドなどには制限がないのでMPがある限り使える。
とはいえMPを温存するため、ある程度数をためてから一斉に送ってもらった。
そのときにゾンビ達がセレーネに感謝をしていると伝えると、そこから涙が止まらない状態になっていた。
「ほらほら、あんまり泣いていると顔が腫れちまうぞ」
ハンカチとかは……ないか。
「申し訳ありません」
「うわっ?」
セレーネは俺に抱きついて泣きだしていた。
「死してなお彼らは家族や恋人のことを案じていたなんて……、本当に戦いにならなくて良かったです」
俺の胸の中で泣いている。
こういうときってどうすればいいんだろうか。
そっと抱きしめてやるのが正しいのか? い、いやでもだな……。
「ああ、そうだな。俺もそう思うよ」
手を途中まで動かすが、最終的に抱きしめるに至らなかった。
だが、本当にゾンビ達の『声』は本物だったのだろうか。
いやでも、わざわざそんなものを作る意味はない。
アンデッドとは一体どんな存在なんだ? どうにかこういう謎を解く方法はないのだろうか。
彼女が泣き止むまでしばらくそのままにしていると、太陽が顔を出し日が差し込めてきた。
「うう……眩しっ、結局徹夜になっちゃったな」
「そ、そうですね……少し頭がクラクラします」
「俺の方は顎が疲れたよ。一晩中話をしてたからさ。それに喉も……」
「後で、喉に良い薬を用意しますね」
「あ、それは助かる」
「わたくしもさすがに……、ふわぁ……」
「おやおや、さっきまで泣いていた子が、もう大きなあくびしているよ」
「あう……、も、もう、意地悪な人。女性のあくびを見るなんて」
「いや、目の前で見えるようにするのはどうなんだよ」
「うっ、それはそうですけども……」
セレーネって意外と脇が甘いし思わせぶりに見えるから結構男を勘違いさせていそうだな。
「それでは戻って眠りましょうか」
「そうだな。是非そうしたい……」
二人で砦の方に向かって歩き出す。
砦の方から門が開いて砦長や兵士達が出てくる。
「勇者殿! 聖女様! 大丈夫なのですか?」
「ああ、アンデッドは全部見送ったから」
「見送った?」
「はい。勇者様が全てのアンデッドと話をして、彼らは暴れることも抵抗することもなく神の元へと還っていきました」
「なんと!」
「勇者ってのは、本当に凄い力を持っているんだな」
兵士達は喜びの声を上げる。
「バカな! 上級アンデッドならともかくゾンビに知性などあるわけが、貴様我らを謀って何が目的だ!」
だがそれに納得がいかない女騎士が俺に剣を向けてきた。
「ちょ!?」
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