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第二章  パッショナートな少女と歩く清夏の祭り

第30話 砂漠の薔薇と忘年の交わり

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契約精霊フェルクタールって言うのはね。なんていえば良いのかしら。この世界の人達が20歳くらいまでにパートナーになる精霊フルンタルを選ぶの。選ぶって言うより巡り会うにっといった方が近いわね」

 スペクリムの人達は自分と一生付き添う精霊フルンタルと呼ばれる存在と巡り会うのだという。こればかりは縁だとリシェーラさんは話してくれた。
 大抵は両親どちらかの精霊フルンタルの子を継承するらしい。

 なので、契約精霊フェルクタールは幼い頃から一緒に生活を共にするので、家族同然の関係なのだという。
 だけど古い伝統であって、親を亡くした子もいるし、事故で契約精霊フェルクタールを亡くす人もいる。また縁なので巡り会わない人もいるため、今では契約精霊フェルクタールのいない人も珍しくはないそうだ。

「アリスにはあまり聞かないであげてね。多分、あの様子だと事故で亡くしたのかもしれないわ」
「え……はい」

 リシェーラさんの話で何となくそんな気がしていた。多分アリスが亡くした大切な人というのはその契約精霊フェルクタールなのかもしれない。

「大抵の町は大丈夫だけど、中にはまだ契約精霊フェルクタールがいないと動かない自動ドアとか、端末とかあるから、そんなときは力に成ってあげて」
「それはもちろん」

 アリスには恩がある。僕に出来ることがあれば力に成りたい。

 だけど僕は地球人だ。スペクリムの人達の様に契約精霊フェルクタールはいない。そういう意味ではアリスと似たようなもの、生活面で力に成ってあげることはあまりないのかもしれない。
 多分リシェーラさんはそのことは分かっていて言っているんだろう。

 力に成ってあげてというのは支えてあげてという事だ。

「さて、どうしようか? あそこまで登るのは……無理ね」
「ですね。一体何で地面が崩れたんでしょう?」
「あれは、スキネ。貴方達の言葉で言うところの雲母マイカっていう鉱物よ。ここ一体で取れる薄くはがれやすい鉱物で、たまに地面に混じっているから天然の落とし穴になることがあるの」

 雲母マイカ。つまりウンモだ。以前何かで聞きかじったことがある。花崗岩に含まれ綺麗なものは宝石にも成ったりするケイ酸塩の一種。
 考えてみれば、やたら水晶のような岩場が多い惑星なので、そういう天然の落とし穴があっても不思議じゃないのかもしれない。

 僕らは頭上の自分達が落ちてきた白く光る穴を見つめ、途方に暮れる。
 前を見れば青く綺麗な洞窟と透き通った水。ほんの微かに揺れる水面の光。

 ん? 何か水面が変じゃないか?

「どうしたの? ソラト?」
「いや、ちょっと」

 光る水面に違和感を覚えた僕は徐に近づいて手で触れてみる。
 ほんの僅かだけど水に流れを感じる。

「リシェーラさん。水に流れがある。これってどこかに出口があるってことじゃないかな?」
「え? 本当に?」

 少し眉をひそめつつ、リシェーラさんも水面に触れる。
 掌に感じ取れる水の流れに、リシェーラさんの顔が次第に晴れやかなものへと変わっていく。

「流れがあるわっ! ソラトっ! 貴方って凄いのねっ!」
「ちょ、ちょっとっ! り、リシェーラさんっ⁉」

 突然、リシェーラさんが抱き着いてきた。

 女の人ってこんなに柔らかいんだ――

 それにいい香り――じゃなくてっ!

 皮膚に伝わってくる柔らかい感触と温もりが、僕の脳裏で本当と理性が壮絶な戦いを繰り広げさせる。
 水の流れに感極まって抱き着いてくるなんて、余程不安だったのだろう。

 凛々しく大人の魅力を持っていたリシェーラさんが見せる意外な一面に、僕は何とも言えない庇護欲を擽られる。
 地球人の年齢からすれば大体2歳差。寧ろそんなギャップがあるのが普通で、大人の女性に抱く身勝手な幻想の方こそ、負担を与えてしまっているのかもしれない。

「ひ、一先ず、出口があるかどうかだけでも確認してみよう?」
「え、ええ、そ、そうねっ! そうしましょう?」

 僕の言葉に落ち着きを取り戻してくれたリシェーラさんは、飛び跳ねるように抱擁を解いてくれた。
 顔も少し赤く染め、照れくさそうにするリシェーラさんのとても顔は愛らしい。

「も、もし脱出できなければ、ここに戻ってきて救助を待つ。そうしませんか?」
「わ、分かったわ。そ、それが良いわね」

 少々気まずい雰囲気を抱えつつ、僕らは川下へと下ることにした。
 岩場は濡れていて滑りやすい。リシェーラさんの手を握りながら進む。

 勿論不誠実でやましい気持ちなど一切ない。断じてない。

 でも不誠実に感じるのは何でだろう? 誰に対して? それに――

 岩と岩の間を飛び越えるため、僕の手を取るリシェーラさん。その恥ずかしそうに俯く表情に心を揺れ動かされるのだろう?

「段々川の流れが速くなっているね」
「そ、そうですね。思いのほか出口が近いのかもしれません」

 さっきまで殆ど凪いでいた水面が小川のせせらぎへと変わっている。

 それはどことなく自分の心と似ていた。

 アリスと出会う前は凪いでいた心は、彼女と出会ったお陰で少なくとも寄せては返す波の様に感情が揺れ動くように変わっている。

 ぴったりと僕へ寄り添い、穏やかな表情を浮かべるリシェーラさんに、どぎまぎとしながら、また暫く進むと突然リシェーラさんが声を上げた。

「ねぇ! ソラトっ! あれを見てっ! 光が見えるわっ!」
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