寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

文字の大きさ
101 / 125
番外編・祭

特別任務【二十五】

しおりを挟む
 豆電球だけを灯した部屋で、瑞樹みずきは浴衣を身に纏い布団の上で正座をしていた。
 窓のカーテンはまだ閉めておらず、肥えて来た月の仄かな白い光も入り込んで来ている。
 カーテンを閉めようと、瑞樹は腰を浮かせたが、思い直してまた布団に沈めた。

(…綺麗だもんな…)

 月明かりは淡く優しく柔らかくて、それに照らされていると、身体の強張りが解けて行く気がした。

(…変な感じだな…)

 初めての時は、本当に訳が解らなかった。優士ゆうじのされるがままにされて、気が付いたら達していた。もう、本当に情けなくて、期待していた優士に申し訳なくて。
 けれど。
 優士はそんな瑞樹で良いと言う。

(…うん…)

 自分達は自分達のままで。
 きつく唇を結んで一人頷いた時、カラリと風呂場の戸が開く音が聞こえて来た。

「髪、後ろ跳ねてる。櫛で梳かさなかったのか」

「えっ」

 背後から聞こえたその言葉に慌てて後頭部に手をやれば、確かにぴょこんとした何かに指先が触れた。

「う、ま、まあ、良いだろ? 外へ出る訳じゃないし…」

 少しだけ拗ねた様に唇を尖らせて、窓の向こうの月を見ながら言えば、そっと布団が沈む感じがして、後頭部にやった手の上に、熱い掌が被せられた。

「また、緊張してるのか?」

「…してる。するだろ、やっぱり」

 多分、次も緊張すると思うと瑞樹は思った。

「そ、のさ…俺の傷とか関係なくさ…その…優士がやっぱり…その…い、挿れないか?」

「は?」

 ピリッと塩の混じった優士の声に、瑞樹は慌てて身体を動かして優士と向き合う。

「こ、こう云うのって、デカい方が良いんだろう!? 優士の方が俺のよりデカいし、みくさんのだってデカかったし、高梨隊長のだって、デカかったし…っ…!!」

 クラクラとした目眩が優士を襲った。

(目に涙を浮かべて何を言っているんだ、この馬鹿は)

 何時の間に、何処で仕入れて来た知識なのか。それは後で問い質す事にして、優士は両手で瑞樹の肩を掴んだ。

「…僕は瑞樹だから、触れたいし、触れて欲しい。大きさとか関係無い。…ああ、ほら、お前だって僕を傷付けたくないと言っていただろう? 逆に考えるんだ。大きくなければ、傷付ける事はないと」

「え」

 優士の言葉に瑞樹は目を見開く。

「…瑞樹は僕に触れたくないのか? 僕以外の奴がお前に触れても良いのか?」

 何を言っているのだろうと思うが、ここではっきりして置かないと、瑞樹はまた悩むだろう。悩んで悩んだ末に勃起不全となったら、本当に目もあてられない。

「…そんなの…嫌に決まってるだろ…」

 自分以外の奴が優士に、そう云う意味で触るだなんて、嫌に決まってるし、許せない。

「…それなら、どうする?」

 挑発する様な優士の強い瞳と声に、瑞樹は肩を捕まれたままで、優士の浴衣の合わせ目を両手で掴んで噛み付く様に言った。

「そうなる前に、触りまくるしかないだろ!」

 僅かに上目遣いで睨んで来る瑞樹の姿に、優士は小さく笑ってから肩に置いていた手を下ろした。
 雰囲気、雰囲気と瑞樹は口にするが、本当に雰囲気もクソも無いなと優士は笑う。だけど、これが自分達らしいと。こんな風にして、自分達はこれからも歩いて行くのだろう。
 白い月明かりに灯された部屋の中で、優士は下ろした両手を再び上げて、瑞樹の頬を包んだ。

「なら、受け取れ」

 囁いて顔を近付けて行けば、瑞樹がそっと瞼を伏せる。そのまま唇を重ね、閉じられた唇を舐めれば、そうっとそこが開かれたから、そこに舌を差し入れた。
 互いに熱い吐息を吐き、溢れて来る唾液を絡め取り、掬いきれなかったそれは口の端から零れて行く。
 胸元を掴む瑞樹の指をそっと外し、背中に手を回してその身体を布団に横たえさせた処で、瑞樹から待ったが掛かった。

「こ、これじゃ、前回と同じっ!!」

「不満か?」

 大いに不満であるから、瑞樹は思い切り頷いた。前回はこれで、優士に良いように振り回されたのだ。二度目となる今回は主導権を取りたいではないか。任務に行った地では、一瞬とは云え、こちらが優士を導いたのだ。あの時の朱に染まる優士を、もう一度見たいではないか。

「こ、こう云うのはふ、二人でするものだろ…だ、だから…その…今度は…俺から…触りたい…」

 顔を赤くして、軽く唇を尖らせて言われても…と、優士は思ったが、それなら、と、瑞樹の身体の上から退いてその隣に並んだ。

(次に、また僕から仕掛ければ良い話だ)

「…えっと…その…ほ…解す…んだよ、な…」

 起き上がり、優士の腰を跨いで瑞樹が放つ言葉に優士は軽く目を瞬かせて笑う。

「…ああ…今日は準備はしていないから…。…箪笥の一番下の引き出しに、香油があるからそれを…」

 それは、天野夫妻の家に呼ばれた日に、みくから教えて貰っていた物で、再び二人同じ部屋で過ごす様になってから、優士がそこに忍ばせていた。

「…え、何時の間に…」

 優士が指差す箪笥を見ながら、瑞樹はごくりと唾を飲んだ。

(…優士…恐ろしい奴…)

 箪笥の一番下なんて開けにくいから、普段着る物を入れたりはしていない。そんな処に隠すと言っては語弊があるかも知れないが、隠しているとは。
 立ち上がり、箪笥の中から四合瓶程のそれを取り出す。

(…ひぃ、ふぅ…え、五本もある…こんなに使うのか…? …いや…)

 こんなに待たせていたんだな、と、瑞樹は手にした瓶を握りしめた。
 二人、もう一度話した夜。あの時に感じた想いが溢れて来る。言葉だけでは足りなくて、伝えきれなくて。だから、触れたくて。触れ合いたくて。触れ合えば触れ合うだけでも足りなくて、もっと、もっとと。それだけが全てではないけれど。それでも、思い出せる温もりがあれば。離れていても、それがあれば。傍に、その気配があれば。
 きっと。
 その分、強く在れるのだと思う。
 その分、迷わずに在れるのだと思う。
 どうしても、人は弱いから。
 何かに縋らずには居られないのだから。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...