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番外編・祭
特別任務【二十五】
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豆電球だけを灯した部屋で、瑞樹は浴衣を身に纏い布団の上で正座をしていた。
窓のカーテンはまだ閉めておらず、肥えて来た月の仄かな白い光も入り込んで来ている。
カーテンを閉めようと、瑞樹は腰を浮かせたが、思い直してまた布団に沈めた。
(…綺麗だもんな…)
月明かりは淡く優しく柔らかくて、それに照らされていると、身体の強張りが解けて行く気がした。
(…変な感じだな…)
初めての時は、本当に訳が解らなかった。優士のされるがままにされて、気が付いたら達していた。もう、本当に情けなくて、期待していた優士に申し訳なくて。
けれど。
優士はそんな瑞樹で良いと言う。
(…うん…)
自分達は自分達のままで。
きつく唇を結んで一人頷いた時、カラリと風呂場の戸が開く音が聞こえて来た。
「髪、後ろ跳ねてる。櫛で梳かさなかったのか」
「えっ」
背後から聞こえたその言葉に慌てて後頭部に手をやれば、確かにぴょこんとした何かに指先が触れた。
「う、ま、まあ、良いだろ? 外へ出る訳じゃないし…」
少しだけ拗ねた様に唇を尖らせて、窓の向こうの月を見ながら言えば、そっと布団が沈む感じがして、後頭部にやった手の上に、熱い掌が被せられた。
「また、緊張してるのか?」
「…してる。するだろ、やっぱり」
多分、次も緊張すると思うと瑞樹は思った。
「そ、のさ…俺の傷とか関係なくさ…その…優士がやっぱり…その…い、挿れないか?」
「は?」
ピリッと塩の混じった優士の声に、瑞樹は慌てて身体を動かして優士と向き合う。
「こ、こう云うのって、デカい方が良いんだろう!? 優士の方が俺のよりデカいし、みくさんのだってデカかったし、高梨隊長のだって、デカかったし…っ…!!」
クラクラとした目眩が優士を襲った。
(目に涙を浮かべて何を言っているんだ、この馬鹿は)
何時の間に、何処で仕入れて来た知識なのか。それは後で問い質す事にして、優士は両手で瑞樹の肩を掴んだ。
「…僕は瑞樹だから、触れたいし、触れて欲しい。大きさとか関係無い。…ああ、ほら、お前だって僕を傷付けたくないと言っていただろう? 逆に考えるんだ。大きくなければ、傷付ける事はないと」
「え」
優士の言葉に瑞樹は目を見開く。
「…瑞樹は僕に触れたくないのか? 僕以外の奴がお前に触れても良いのか?」
何を言っているのだろうと思うが、ここではっきりして置かないと、瑞樹はまた悩むだろう。悩んで悩んだ末に勃起不全となったら、本当に目もあてられない。
「…そんなの…嫌に決まってるだろ…」
自分以外の奴が優士に、そう云う意味で触るだなんて、嫌に決まってるし、許せない。
「…それなら、どうする?」
挑発する様な優士の強い瞳と声に、瑞樹は肩を捕まれたままで、優士の浴衣の合わせ目を両手で掴んで噛み付く様に言った。
「そうなる前に、触りまくるしかないだろ!」
僅かに上目遣いで睨んで来る瑞樹の姿に、優士は小さく笑ってから肩に置いていた手を下ろした。
雰囲気、雰囲気と瑞樹は口にするが、本当に雰囲気もクソも無いなと優士は笑う。だけど、これが自分達らしいと。こんな風にして、自分達はこれからも歩いて行くのだろう。
白い月明かりに灯された部屋の中で、優士は下ろした両手を再び上げて、瑞樹の頬を包んだ。
「なら、受け取れ」
囁いて顔を近付けて行けば、瑞樹がそっと瞼を伏せる。そのまま唇を重ね、閉じられた唇を舐めれば、そうっとそこが開かれたから、そこに舌を差し入れた。
互いに熱い吐息を吐き、溢れて来る唾液を絡め取り、掬いきれなかったそれは口の端から零れて行く。
胸元を掴む瑞樹の指をそっと外し、背中に手を回してその身体を布団に横たえさせた処で、瑞樹から待ったが掛かった。
「こ、これじゃ、前回と同じっ!!」
「不満か?」
大いに不満であるから、瑞樹は思い切り頷いた。前回はこれで、優士に良いように振り回されたのだ。二度目となる今回は主導権を取りたいではないか。任務に行った地では、一瞬とは云え、こちらが優士を導いたのだ。あの時の朱に染まる優士を、もう一度見たいではないか。
「こ、こう云うのはふ、二人でするものだろ…だ、だから…その…今度は…俺から…触りたい…」
顔を赤くして、軽く唇を尖らせて言われても…と、優士は思ったが、それなら、と、瑞樹の身体の上から退いてその隣に並んだ。
(次に、また僕から仕掛ければ良い話だ)
「…えっと…その…ほ…解す…んだよ、な…」
起き上がり、優士の腰を跨いで瑞樹が放つ言葉に優士は軽く目を瞬かせて笑う。
「…ああ…今日は準備はしていないから…。…箪笥の一番下の引き出しに、香油があるからそれを…」
それは、天野夫妻の家に呼ばれた日に、みくから教えて貰っていた物で、再び二人同じ部屋で過ごす様になってから、優士がそこに忍ばせていた。
「…え、何時の間に…」
優士が指差す箪笥を見ながら、瑞樹はごくりと唾を飲んだ。
(…優士…恐ろしい奴…)
箪笥の一番下なんて開けにくいから、普段着る物を入れたりはしていない。そんな処に隠すと言っては語弊があるかも知れないが、隠しているとは。
立ち上がり、箪笥の中から四合瓶程のそれを取り出す。
(…ひぃ、ふぅ…え、五本もある…こんなに使うのか…? …いや…)
こんなに待たせていたんだな、と、瑞樹は手にした瓶を握りしめた。
二人、もう一度話した夜。あの時に感じた想いが溢れて来る。言葉だけでは足りなくて、伝えきれなくて。だから、触れたくて。触れ合いたくて。触れ合えば触れ合うだけでも足りなくて、もっと、もっとと。それだけが全てではないけれど。それでも、思い出せる温もりがあれば。離れていても、それがあれば。傍に、その気配があれば。
きっと。
その分、強く在れるのだと思う。
その分、迷わずに在れるのだと思う。
どうしても、人は弱いから。
何かに縋らずには居られないのだから。
窓のカーテンはまだ閉めておらず、肥えて来た月の仄かな白い光も入り込んで来ている。
カーテンを閉めようと、瑞樹は腰を浮かせたが、思い直してまた布団に沈めた。
(…綺麗だもんな…)
月明かりは淡く優しく柔らかくて、それに照らされていると、身体の強張りが解けて行く気がした。
(…変な感じだな…)
初めての時は、本当に訳が解らなかった。優士のされるがままにされて、気が付いたら達していた。もう、本当に情けなくて、期待していた優士に申し訳なくて。
けれど。
優士はそんな瑞樹で良いと言う。
(…うん…)
自分達は自分達のままで。
きつく唇を結んで一人頷いた時、カラリと風呂場の戸が開く音が聞こえて来た。
「髪、後ろ跳ねてる。櫛で梳かさなかったのか」
「えっ」
背後から聞こえたその言葉に慌てて後頭部に手をやれば、確かにぴょこんとした何かに指先が触れた。
「う、ま、まあ、良いだろ? 外へ出る訳じゃないし…」
少しだけ拗ねた様に唇を尖らせて、窓の向こうの月を見ながら言えば、そっと布団が沈む感じがして、後頭部にやった手の上に、熱い掌が被せられた。
「また、緊張してるのか?」
「…してる。するだろ、やっぱり」
多分、次も緊張すると思うと瑞樹は思った。
「そ、のさ…俺の傷とか関係なくさ…その…優士がやっぱり…その…い、挿れないか?」
「は?」
ピリッと塩の混じった優士の声に、瑞樹は慌てて身体を動かして優士と向き合う。
「こ、こう云うのって、デカい方が良いんだろう!? 優士の方が俺のよりデカいし、みくさんのだってデカかったし、高梨隊長のだって、デカかったし…っ…!!」
クラクラとした目眩が優士を襲った。
(目に涙を浮かべて何を言っているんだ、この馬鹿は)
何時の間に、何処で仕入れて来た知識なのか。それは後で問い質す事にして、優士は両手で瑞樹の肩を掴んだ。
「…僕は瑞樹だから、触れたいし、触れて欲しい。大きさとか関係無い。…ああ、ほら、お前だって僕を傷付けたくないと言っていただろう? 逆に考えるんだ。大きくなければ、傷付ける事はないと」
「え」
優士の言葉に瑞樹は目を見開く。
「…瑞樹は僕に触れたくないのか? 僕以外の奴がお前に触れても良いのか?」
何を言っているのだろうと思うが、ここではっきりして置かないと、瑞樹はまた悩むだろう。悩んで悩んだ末に勃起不全となったら、本当に目もあてられない。
「…そんなの…嫌に決まってるだろ…」
自分以外の奴が優士に、そう云う意味で触るだなんて、嫌に決まってるし、許せない。
「…それなら、どうする?」
挑発する様な優士の強い瞳と声に、瑞樹は肩を捕まれたままで、優士の浴衣の合わせ目を両手で掴んで噛み付く様に言った。
「そうなる前に、触りまくるしかないだろ!」
僅かに上目遣いで睨んで来る瑞樹の姿に、優士は小さく笑ってから肩に置いていた手を下ろした。
雰囲気、雰囲気と瑞樹は口にするが、本当に雰囲気もクソも無いなと優士は笑う。だけど、これが自分達らしいと。こんな風にして、自分達はこれからも歩いて行くのだろう。
白い月明かりに灯された部屋の中で、優士は下ろした両手を再び上げて、瑞樹の頬を包んだ。
「なら、受け取れ」
囁いて顔を近付けて行けば、瑞樹がそっと瞼を伏せる。そのまま唇を重ね、閉じられた唇を舐めれば、そうっとそこが開かれたから、そこに舌を差し入れた。
互いに熱い吐息を吐き、溢れて来る唾液を絡め取り、掬いきれなかったそれは口の端から零れて行く。
胸元を掴む瑞樹の指をそっと外し、背中に手を回してその身体を布団に横たえさせた処で、瑞樹から待ったが掛かった。
「こ、これじゃ、前回と同じっ!!」
「不満か?」
大いに不満であるから、瑞樹は思い切り頷いた。前回はこれで、優士に良いように振り回されたのだ。二度目となる今回は主導権を取りたいではないか。任務に行った地では、一瞬とは云え、こちらが優士を導いたのだ。あの時の朱に染まる優士を、もう一度見たいではないか。
「こ、こう云うのはふ、二人でするものだろ…だ、だから…その…今度は…俺から…触りたい…」
顔を赤くして、軽く唇を尖らせて言われても…と、優士は思ったが、それなら、と、瑞樹の身体の上から退いてその隣に並んだ。
(次に、また僕から仕掛ければ良い話だ)
「…えっと…その…ほ…解す…んだよ、な…」
起き上がり、優士の腰を跨いで瑞樹が放つ言葉に優士は軽く目を瞬かせて笑う。
「…ああ…今日は準備はしていないから…。…箪笥の一番下の引き出しに、香油があるからそれを…」
それは、天野夫妻の家に呼ばれた日に、みくから教えて貰っていた物で、再び二人同じ部屋で過ごす様になってから、優士がそこに忍ばせていた。
「…え、何時の間に…」
優士が指差す箪笥を見ながら、瑞樹はごくりと唾を飲んだ。
(…優士…恐ろしい奴…)
箪笥の一番下なんて開けにくいから、普段着る物を入れたりはしていない。そんな処に隠すと言っては語弊があるかも知れないが、隠しているとは。
立ち上がり、箪笥の中から四合瓶程のそれを取り出す。
(…ひぃ、ふぅ…え、五本もある…こんなに使うのか…? …いや…)
こんなに待たせていたんだな、と、瑞樹は手にした瓶を握りしめた。
二人、もう一度話した夜。あの時に感じた想いが溢れて来る。言葉だけでは足りなくて、伝えきれなくて。だから、触れたくて。触れ合いたくて。触れ合えば触れ合うだけでも足りなくて、もっと、もっとと。それだけが全てではないけれど。それでも、思い出せる温もりがあれば。離れていても、それがあれば。傍に、その気配があれば。
きっと。
その分、強く在れるのだと思う。
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どうしても、人は弱いから。
何かに縋らずには居られないのだから。
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