寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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番外編・祭

特別任務【十一】

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「…はあ…良いねぇ、露天風呂ってヤツは」

 はあ~っと、白い息を吐きながら、みくが夜空を見上げる。
 見上げた先には満天の星空と、白く細く折れそうな月がある。
 建物の周囲、及び、露天風呂の周りには篝火が焚かれていて、それが外灯の役割を果たしていた。
 時折、パチパチとした薪の爆ぜる音が聞こえて来て、得も言われぬ風情を醸し出していた。

「やっぱ、良いよなー」

 湯舟に入れない様にと、みくは長い髪を巻いて団子にして手拭いでくるんでいた。
 後れ毛が白い項にぺとりと貼り付いていて、それを隣で見る天野の口元は緩みまくっていた。
 普段、自宅で共に二人で入る機会は少ない。狭くも無いが、広くも無い。そんな自宅の風呂と比べて、この露天風呂の広さと開放感と言ったら、それはもう至福としか言い様が無かった。脚を思い切り伸ばした処で、それを阻む物は何も無い。何なら寝っ転がっても問題無い。溺れるだろうが。

「ええ、本当に。空気も澄んでいてとても気持ちが良いです。お星様も綺麗ですね」

 ちゃぷりちゃぷりと音を立てて、雪緒ゆきおが濡らした手拭いで首回りを拭う。
 じんわりとゆっくりと湯の熱が身体に染み渡り、ほんのりと色付いた肌には小さな汗の玉が浮かんでいた。因みに、雪緒は生真面目に正座をしている。

「おー! 泳げるのは気持ちいいな!」

せい兄様! お風呂で泳ぐのは禁止ですよ!」

 そんなゆったりとした雰囲気を壊すのは、何時でも元気な星と、それを窘める月兎つきとの杜川兄弟だ。

「あ、今度は上手く出来た」

「お前は幾つだ」

 手拭いで風船を作って遊んでいる瑞樹みずきに、塩対応するのは優士ゆうじ

「いいだろ。中々上手く出来ないんだぞ、これ」

「こんな物、簡単だ」

 むっと唇を尖らせる瑞樹を可愛いと思いながらも、決して優士はそれを口に出さずに、頭の上に乗せてた手拭いを手に取り、湯に浮かせ空気を入れて風船を作った。
 いとも簡単に風船を作って見せた優士に、瑞樹は更に頬を膨らませる。
 そんな二人を微笑ましいと雪緒やみく、天野が見ていた時。

「みくさん! ちゃんと湯文字着けてますかー? 胸もしっかりと隠して下さいね!」

「楠に胸を抉られない様に気を付けて下さいよ!」

 竹で編まれた壁の向こうの女湯から、瑠璃子と亜矢が語り掛けて来た。

「はいよー!」

 みくは軽く苦笑してから、そう元気に返事した。
 そんな心配は無用なのだが、みくが実は男である事を瑠璃子と亜矢は知らないのだから無理もない。完全に女性にしか見えない見た目に、完全に女性の声なのだから、みくが男だと知る者は少ない。今、この混浴風呂に居る者は、皆みくが男である事を知っている者達だ。だから、当然みくは湯文字を巻いては居ないし、胸だって隠してはいない。

「抉るって何だ…」

「抉ったのかっ!?」

 むっと眉を寄せて呟く優士に瑞樹は大仰に驚いた。

「抉った覚えは無い。服の上から観察しただけだ。そんなの誰でもするだろう」

 心外だと眉を寄せ呟く様に言った優士の言葉が、壁の向こうの二人に届く事は無かった。
 それよりも早く、大きな瑠璃子の声が被ったからだ。

「えっ!? 亜矢ちゃん、楠君に胸を見られた事があるの!?」

「ありませんっ!! 私の胸が小さいからって、私が実は男じゃないかって言われただけです! けど、あんな目で見られたら抉られそうですよね!?」

「でも、そんな言う程じゃないよ? 亜矢ちゃん着痩せしてるよね。ほら、片手じゃ隠れないよ」

「ちょ…っ…!!」

 元気な女子達の声に、雪緒は赤く染まった頬を両手で押さえた。

「お、ゆきお、顔が赤いぞ」

「お二人共! 雪兄様が困っています! 卑猥な会話は慎んで下さい!」

「あっ、ごめんね雪緒君!」

「すみません!」

 月兎の怒りの声に、壁の向こうで慌ただしく、バシャバシャとした音が聞こえて来た。二人が勢い良く頭を下げたのだろう。

「あっ、いいえ! どうかお気になさらずに…っ…! お二人の会話に聞き耳を立てる様な事をしてしまい、僕は何てはしたないのでしょう…っ…!」

「雪坊は幾つになっても真面目だなあー」

「ホントホント。そーいや、何時だったかダンナと温泉に行ったんだろ? 二人で入ったのかい? ナニしたんだい?」

「ふえっ!?」

「…ゆ…っ…!!」

 女風呂とは反対側の壁から高梨の声が聞こえた気がしたが、それは直ぐに盛大な水音によって掻き消されてしまった。

「お! そうだ! おいらも聞きたかったんだ! おじさんに頭洗って貰ったか? やっぱり、くすぐったかったのか?」

「はっ!?」

 無邪気に笑いながら泳いで来て、目の前で仰向けでぷかぷか浮かぶ星の言葉に、雪緒は目を見開いた。

「何だ、洗って貰ってないのか? 何してたんだ?」

「あ、えぇと…」

 もごもごと雪緒は言い淀み、きちんと正座をしていたそこに、両手を置いて、持っていた手拭いをぎゅっと握り締めて俯いてしまった。
 壁の向こうの男湯からは、バシャバシャとした水音が聞こえ、反対側の女湯の方からは『あ、いいね! 髪洗ってあげるね、亜矢ちゃん!』と云う楽しそうな声が聞こえて来ていた。
 星のそんな素朴な問い掛けに、みくと天野は興味津々と云った体で、頬を緩ませて雪緒を見ている。
 月兎も顔には出さないが、星の傍らで静かに雪緒を見ていた。
 瑞樹は、何処か落ち着かない様子で雪緒を見ている。そわそわと目を泳がせながらも、耳は何一つ聞き逃すまいと、総ての音を拾おうとしていた。
 そんな瑞樹の様子に、わざとらしく溜息を零しながらも、優士は塩のままで雪緒を見る。
 普段の雪緒から、この様な会話の流れになる事等、滅多に無い。これは、良い機会だ。
 星はただ単純に深い意味等無く聞いたのだが、本人は気付いていない。自分が如何に美味しい質問をしたのか等。そして、男湯との境の壁の向こうでは、むさいおっさん達に押さえ付けられた高梨が、星とみくを呪っている事等、当然本人達は知る由も無かった。
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