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僕から君へ
贈り物【七】
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「今晩は。ようこそ、いらっしゃいませ」
高梨家の玄関先で、雪緒が丁寧に頭を下げて、朗らかに笑う。
「あ、こ、こんばんは! おま、おま、おまねきゅ…っ…!」
盛大に噛んだのは瑞樹だ。
「今晩は。本日は誘いに乗って来てしまいましたが、本当に俺達がお邪魔しても良かったのでしょうか? 土曜日と云う事は雪緒さんはお休みですよね?」
『いひゃい』と、舌を出す瑞樹に塩の目線を送ってから、優士が雪緒を見れば雪緒はふわりと目を細めて笑う。
「事前にお話がありましたし、僕もお二人にはお会いしたかったので」
「そんな話は後で良いだろう。挨拶が済んだのなら、そら、さっさと上がれ」
二人の後ろに居た高梨が、玄関の引き戸を閉めながら、二人を急かして土間の上へと上げさせる。
そんな高梨に、雪緒はスッと笑顔を引っ込めた。
「紫様、お二人はお客様ですよ。それも、紫様が招いたのです。解っていますか? 紫様がその様な態度では…」
「解った! すまん! 説教は後で聞く! 飯の支度は出来ているのだろう? 酒は?」
「もう」
と、頭を下げ、その上で両手を合わせる高梨に、雪緒が軽く頬を膨らませるのを瑞樹と優士は、二人の間に挟まれながら、不思議な面持ちを浮かべながら見ていた。
恒例の週末の二人の食事風景は、風が冷たくなって来た今は、外では無く食堂内で見る事が多くなった。
しかし、こんな風に頬を膨らませる雪緒の顔等見た事は無かったし、こんな風に平身低頭して謝る高梨を見た事も無かった。
それは、ここが二人の家、二人の空間だからだろうか?
暖かく穏やかな空気に包まれたここは、高梨と雪緒が二人で築いて来た物なのだろうか?
それとも、鞠子やお妙も居た過去から続いている物なのか?
それは二人には知る由も無いが。
ただ解るのは、二人からぽかぽかとした物が溢れて流れて来ていると云う事だけ。
優しくて暖かい物が流れて来ていると云う事だけ。
それが心地良くて、二人はそっと瞳を細めた。
「お見苦しい処をお見せしてしまい、申し訳ありません。こちらへどうぞ」
春の暖かな陽射しの中で微睡む様な表情を浮かべる瑞樹と優士に、雪緒は軽く口元に手をあててから、二人を茶の間へと案内した。
案内された茶の間では既に食事の用意が整っており、雪緒に促されるままに、二人は用意されていた座布団の上に並んで腰を下ろした。卓袱台を挟んで、高梨も座布団の上で胡坐を掻く。卓袱台には土鍋と小皿、おたまに菜箸が置かれていた。冷たくなって来た風の中を歩いて来た身としては、身体が温まる鍋物は嬉しい物だ。
「ああ、橘様。そちらの首にある物をお預かりしましょう。とても綺麗な白ですね。今夜はおでんです。汁が跳ねてしまいましたら台無しですから」
未だ腰を下ろさずに居た雪緒が穏やかに笑いながら、瑞樹へと手を差し出す。
「あ、いや…これは…その…」
もごもごと、首にある襟巻きをきゅっと握りながら、瑞樹は軽く顔を俯かせた。その頬は僅かに赤くなっている。
昨日、優士に渡されて、それを胸に抱き締めながら『眠れない~っ!!』と、瑞樹が布団の上でゴロゴロと転がっていた事等、優士は知らないだろうが、俯く瑞樹の隣で優士が口元を押さえ、僅かに、本当に僅かにだが頬を染めて居た事等、瑞樹も知らない。
「…まあ、自己責任と云う事で。乾杯の酒を頼む」
そんな二人に目元を緩めた高梨がそう言えば、雪緒は軽く肩を竦めて苦笑した。
「…そうですね。とても丁寧に精製されたお砂糖の様に綺麗な白ですのに…」
雪緒は知らないが、瑞樹の首にあるのは優士に贈った、あの真っ白な襟巻きだ。雪緒が口にした様に、時間を掛けて不純物を取り除いた砂糖の様に、眩い白色の。
その白を二人がどの様に染め上げて行くのか、それを見るのも、また一興かと高梨は口元を緩めるのだった。
高梨家の玄関先で、雪緒が丁寧に頭を下げて、朗らかに笑う。
「あ、こ、こんばんは! おま、おま、おまねきゅ…っ…!」
盛大に噛んだのは瑞樹だ。
「今晩は。本日は誘いに乗って来てしまいましたが、本当に俺達がお邪魔しても良かったのでしょうか? 土曜日と云う事は雪緒さんはお休みですよね?」
『いひゃい』と、舌を出す瑞樹に塩の目線を送ってから、優士が雪緒を見れば雪緒はふわりと目を細めて笑う。
「事前にお話がありましたし、僕もお二人にはお会いしたかったので」
「そんな話は後で良いだろう。挨拶が済んだのなら、そら、さっさと上がれ」
二人の後ろに居た高梨が、玄関の引き戸を閉めながら、二人を急かして土間の上へと上げさせる。
そんな高梨に、雪緒はスッと笑顔を引っ込めた。
「紫様、お二人はお客様ですよ。それも、紫様が招いたのです。解っていますか? 紫様がその様な態度では…」
「解った! すまん! 説教は後で聞く! 飯の支度は出来ているのだろう? 酒は?」
「もう」
と、頭を下げ、その上で両手を合わせる高梨に、雪緒が軽く頬を膨らませるのを瑞樹と優士は、二人の間に挟まれながら、不思議な面持ちを浮かべながら見ていた。
恒例の週末の二人の食事風景は、風が冷たくなって来た今は、外では無く食堂内で見る事が多くなった。
しかし、こんな風に頬を膨らませる雪緒の顔等見た事は無かったし、こんな風に平身低頭して謝る高梨を見た事も無かった。
それは、ここが二人の家、二人の空間だからだろうか?
暖かく穏やかな空気に包まれたここは、高梨と雪緒が二人で築いて来た物なのだろうか?
それとも、鞠子やお妙も居た過去から続いている物なのか?
それは二人には知る由も無いが。
ただ解るのは、二人からぽかぽかとした物が溢れて流れて来ていると云う事だけ。
優しくて暖かい物が流れて来ていると云う事だけ。
それが心地良くて、二人はそっと瞳を細めた。
「お見苦しい処をお見せしてしまい、申し訳ありません。こちらへどうぞ」
春の暖かな陽射しの中で微睡む様な表情を浮かべる瑞樹と優士に、雪緒は軽く口元に手をあててから、二人を茶の間へと案内した。
案内された茶の間では既に食事の用意が整っており、雪緒に促されるままに、二人は用意されていた座布団の上に並んで腰を下ろした。卓袱台を挟んで、高梨も座布団の上で胡坐を掻く。卓袱台には土鍋と小皿、おたまに菜箸が置かれていた。冷たくなって来た風の中を歩いて来た身としては、身体が温まる鍋物は嬉しい物だ。
「ああ、橘様。そちらの首にある物をお預かりしましょう。とても綺麗な白ですね。今夜はおでんです。汁が跳ねてしまいましたら台無しですから」
未だ腰を下ろさずに居た雪緒が穏やかに笑いながら、瑞樹へと手を差し出す。
「あ、いや…これは…その…」
もごもごと、首にある襟巻きをきゅっと握りながら、瑞樹は軽く顔を俯かせた。その頬は僅かに赤くなっている。
昨日、優士に渡されて、それを胸に抱き締めながら『眠れない~っ!!』と、瑞樹が布団の上でゴロゴロと転がっていた事等、優士は知らないだろうが、俯く瑞樹の隣で優士が口元を押さえ、僅かに、本当に僅かにだが頬を染めて居た事等、瑞樹も知らない。
「…まあ、自己責任と云う事で。乾杯の酒を頼む」
そんな二人に目元を緩めた高梨がそう言えば、雪緒は軽く肩を竦めて苦笑した。
「…そうですね。とても丁寧に精製されたお砂糖の様に綺麗な白ですのに…」
雪緒は知らないが、瑞樹の首にあるのは優士に贈った、あの真っ白な襟巻きだ。雪緒が口にした様に、時間を掛けて不純物を取り除いた砂糖の様に、眩い白色の。
その白を二人がどの様に染め上げて行くのか、それを見るのも、また一興かと高梨は口元を緩めるのだった。
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