寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

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幼馴染み

【十七】お墓参り

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「休みだからって、何時まで寝てるんだ!」

「うわっ!?」

 瑞樹みずきはそう言いながら、父親が眠る敷布団をぐっと引っ張り上げる。
 そうすれば、瑞樹の父は布団から身体を投げ出されて、畳の上に転がった。

「うう、酷いよ瑞樹~」

「酷くない。もう十時だぞ。さっさと朝ご飯食べる! 今日は母さんの墓参り行くって言ってたろ!」

 畳に手を付いて身体を起こし胡坐を掻いて、瑞樹の父が情けない声を上げれば、瑞樹はよいしょと布団を抱え、ぶっきらぼうに言って開け放してあった障子から出て行った。

「あ、ああ、そうだった」

 ぽんと手の叩く音を背後に聞きながら、瑞樹は縁側から庭に降り、物干し竿に布団を掛ける。
 空を見上げ、布団叩きを手に、今日も朝から気温が高く良い天気だ。雷雨が来なければ良いのに、と瑞樹は思った。
 瑞樹は夏季休暇で実家へと帰って来ていた。それは優士ゆうじも同じだ。
 まだ正規の隊員では無い彼らには、一週間の夏季休暇が与えられた。同じ様に冬季休暇もある。

『考えて置け』

 休みに入る前に告げられた高梨の言葉が、つきりと瑞樹の胸を刺す。
 あの日、新月の遠征後の休み明けに『今後の事で話がある』と、瑞樹は高梨に呼び出された。
 そこで、ずばりと言われたのだ。

『お前は…今のお前では討伐隊は無理だ』

 と、真っ直ぐに目を見据えられて言われた。あの細い目と低い声で。
 瑞樹は反論せずに、ただ俯いて唇を噛み締めた。
 それもそうだろう。戦う事も、自分の命を守る為に逃げる事も出来なかったのだから。こんな自分は足手纏いにしかならないし、最悪自分のせいで誰かが命を落とすかも知れない。そう、例えば一番身近にいる優士が。
 それは事実だし、瑞樹自身も痛感した事だ。
 だが、改めてそれを突き付けられると、それは胸を抉る痛みと共に心の奥底に突き刺さった。
 そして。

『治療隊へ移るか?』

 とも言われた。
 それは紛れもない戦力外通知だった。
 真っ直ぐに、瑞樹の目を見詰めながら話す、高梨の低い声は何処までも冷たく響いた。
 他にも色々と言われた気がするが、それだけが頭の中を巡っていて、正直覚えてはいない。
 隊長室から出て来た瑞樹を優士が心配そうに迎えてくれたが、瑞樹はただ弱弱しく首を横に振っただけだった。

 ずっと一緒だった。
 ずっと傍に居てくれた。
 ずっと二人で頑張って来た。
 その優士と、こんな形で離れる事になるなんて思わなかった。
 ただただ、情けなくて悔しくて申し訳無くて。
 この町に在る朱雀の駐屯地に足を運ぶ事も出来ない。

「…考えなくたって…答えはもう決まってるじゃないか…」

 瑞樹はぽつりと呟いて、干した布団に額を押し当てた。

 ◇

 青い空に吸い込まれる様に白く立ち昇る煙と共に、パンパンとした柏手かしわてを打つ音が寺の境内に響く。
 瑞樹は父に朝食を摂らせた後に、二人で亡き母の墓参りに来ていた。
 盆と云う事もあり、あちらこちらに人影が見えるし、人の姿は見えなくとも、立ち昇る線香の煙や、花立には活けたばかりの花も見て取れる。
 閉じていた目を開ければ、そこには白と黄の菊の花がある。
 物置台には、甘い物が好きだった母の為に、来る途中で購入したおはぎが二つ乗っていた。そしてその隣には抹茶の入った湯呑も。抹茶は家で淹れて水筒に入れて持って来た。甘い物には抹茶に決まってると、瑞樹の母は何時も口にしていたから。
 母は喜んで食べてくれているだろうか。それとも違う物を欲しがっているのだろうか。何か珍しい物が良かったのだろうか。

「…うん。じゃあ食べようか」

 じっとおはぎを見てそんな事を考えて居たら、それまで手を合わせて目を閉じていた瑞樹の父が、静かに目を開いて、笹の葉の上に置かれたおはぎを手に取った。

「ん…。戴きます」

 瑞樹も父に倣い、おはぎを手に取る。普段は甘い物を口にしない瑞樹の父だが、この時ばかりは違う。懐かしそうに目を細めて、ゆっくりと食べて行く。それは、まるで別れを惜しむ様だと瑞樹には思えた。
 そっと空を仰げば、また何処かからか線香の白い煙が上がっていて、ゆらゆらと揺れて青い空に吸い込まれて溶けて行った。
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