矢は的を射る

三冬月マヨ

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それが、幸せ

10.松茸とシメジ

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 すっと俺の頬を先生の手が撫でたと思ったら、そこをペロリと舐められた。
 何かくすぐったくて思わず笑ったら、先生もクスッて笑って、頬から唇にキスされた。
 合わさった唇からは、やっぱり、あの柑橘系の匂い、いや、味? がした。歯磨き粉も同じなんだな。俺も買って来たヤツじゃなくて、それ使えば良かった。
 先刻言われた通りに唇を開けば、厚みのある舌が入って来て、それが何かしょっぱくて、涙の味だなんて思った。ちょんちょんって、突っついて来るから、俺も同じ様に返したら、するりって絡め捕られた。大人のキスってすげー。絶対、先生、さくらんぼの茎結べる。

「…ん…」

 鼻に掛かった様な、何だか甘ったるい自分の声に、ちょっと驚いたし、恥ずかしいけど、先生しか聞いてないし、別にいっかと思った。それに、何か身体が熱くなって来て、そんなの気にしてられない。
 腹が、いや、腰? てか…まあ、そっから下。フダンシな先生を見て、大人しくなった股間だったけど、今また、んにょんにょって騒ぎ出してる。

「…せ、んせ…チ…ンコ…たすけて…」

 どうしたら良いのか解んなくて、両手を先生の胸にあてて、そう言った。触った先生の胸は熱くて、ドクドク動いてて、俺と同じにドキドキしてんのかなって思った。

「…ああ…」 

 チュッて、本当にチュッて音が聞こえる感じで先生がキスして、俺の手を掴んで立ち上がった。
 けど。

「あ、ま、まっ…」

 けど、俺、めっちゃへっぴり腰。
 いや、だって、脚に力が入んねーんだもんっ!
 腰が抜けるって、この事か!?
 先生は、何ともねーの!? 大人、ムカつく!!
 キッと恨めしげに先生を見上げたら、先生は空いていた方の手で口元を押さえた。

「…ああ…まあ…俺も同じだから…」

 そう言って、先生が顔を下に向けるから、つられて俺も顔を下へと向ける。

「あ」

 先生は、腰にバスタオルを巻いた姿だったから、スウェットを着てる俺なんかより、はっきりとそれが解った。

「…勃ってる…」

 にょんと盛り上がってる。
 何がって、ナニが。

「…そりゃ…まあ…。お前…好きなお前とこんな事をしているんだから…見る、か…?」

 好きって言われて、心臓がドックンって跳ね上がる。今日だけってか、この短時間でいっぱい聞いたのに、それは何度聞いても嬉しいし、照れる。

「…見たい…」

 ゴックンって、本当に喉が上下するのが解った。そんな勢いで唾を飲み込んで頷けば、先生の手がバスタオルへと伸びた。

「…気持ち悪かったり、嫌だと思ったら、素直に言ってくれ…」

 折り返して差し込んである、その端を手に取って抜けば、バスタオルははらりと広がって、先生が手を離せば床へと落ちた。

「おっ…」

 …きい…。デカい。昔、風呂で見た親父のチンコよりデカい。…昔だから、あやふやだけど。それが、黒黒とした毛の上で、ドンッと上を向いて、俺を見ろって言ってる。いや、チンコは喋らないけど。喋ったら、魂抜けるけど。どうしよう。先生の高級松茸を見たら、俺のなんか、二パック百円のシメジにしか見えなくなってきた。いや、落ち着け俺。シメジは無い。俺のはシメジじゃない。せめて、椎茸。香り松茸、味は椎茸って言うだろ? いや、でも、傘はあんなに無い。いや、違う、そうじゃない。落ち着け、俺。
 じっと見てたら、松茸の先端から、とろりとろりとした透明な汁が出てるのに気付いた。それにまた、俺の心臓がドックンってなる。ぷくぷくと出てる我慢汁が、先生の興奮の度合いを表していて、それがまた嬉しいやら恥ずかしいやらで、俺の股間は本当に爆発しそうだし、顔も熱くて、こっちも爆発するかも知れない。

「…嫌じゃないか?」

 恐る恐る…不安そうな、そんな声で聞いて来る先生の言葉に、俺は勢い良く首を振った。ムチウチになるかも知れねーけど、そんなの関係無い。

「嫌じゃねーし、気持ち悪くもねー。だって、俺のもこれだし」

 そう言いながら、俺はババッとスウェットのズボンを脱いだ。スーパーで買ったトランクスも一緒に。
 スウェットの上の裾を両手で掴んで捲れば、俺のチンコも元気に上を向いてた。

「かっ…」

 って呟いた後、先生は両手で口を覆って、天井を見上げて身体を震わせた。

「…的場…?」

 先生がぶるぶる震えてるから、先生のチンコもふるふると震えてる。
 先生の奇行には、この短時間で慣れたと思うけど、これってどんな状況だ?
 先生は全裸でチンコおっ勃てて、俺は下半身裸でチンコを勃ててる。
 何だろ? 何だか、何かのチンコ勝負してる気になって来た。って、何の勝負だよ?

『ピロロロ~♪』

 こっからどうすれば良いんだろ? って思ってたら、どっかからスマホの呼び出し音が聞こえた。どっかじゃないな。テーブルの上にある、俺のスマホだ。チンコを震わせる先生をそのままに、俺はスマホを手に取った。

「はい」

『カーテン閉めろ、馬鹿』

 へ?

『丸見えだ。さっさとベッドに連れ込め、ボケ』

 ………………へ?
 
 ギギギ…と、サビサビに錆び付いた音が出そうな感じで、俺はゆっくりと首を動かした。
 動かした先にあるのはベランダ。その大きな窓。窓の向こうは真っ暗だけど、駐車場を挟んで、向いにあるアパートが見える。更に、そこの一つのベランダで、部屋から漏れる明かりに浮かぶ、もわもわと漂う白い煙と、一人の男の姿。

「あ」

『俺で良かったな?』

 プッと、そこで通話が終わって、俺は叫んだ。

「ベッドへ行こうっ!!」
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