無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生

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決着の一撃を放て!

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 そうだった。

 オークを狙える位置にあった櫓はオークの攻撃と炸裂矢の爆発で木っ端みじん。
 どう見ても使えるようには見えない。

 かといって今オークがいる場所を直接狙えそうな櫓は他に無いわけで。

「仕方ねぇ、こうなったら彼奴らが入ってきた所を狙うしかねぇな」
「入ってきた所ですか?」
「ああ。たぶんもうすぐあそこの壁をぶち破ってヤツが入ってくる。そこを狙うんだよ」

 ルリジオンが今も激しい音を立てている壁を見ながら応える。
 彼の言う通り丸太で出来た壁は、もうそれほど持ちそうには思えない。

「壁をぶち破った瞬間ならアイツも油断してるに違いない。それにさっきみたいに炸裂矢をたたき落とそうとしても壁が邪魔で獲物は振れないはずだ」
「開いた壁の隙間を狙えってことですか?」
「今のお前は俺様と同じ腕前を持ってんだろ? だったら大丈夫だ」

 たしかに今の俺はルリジオンの複合弓から彼の腕前を経験・・として受け継いでいる。
 さっきだって櫓の上から狙い違わず矢を放つことが出来た。

「さて、そろそろ破られそうだな。リリは危ねぇから家の中に戻ってろ」
「はーい」

 返事と共に家に向かって駈けていくリリエールの背中から俺は壁に視線を移す。
 そうしてぐらぐらと、今にも倒れそうなそれに向かって慎重に複合弓を構えた。

「ふぅ……はぁ……」

 炸裂矢をつがえながら深呼吸を一つ、二つ繰り返す。
 大丈夫。
 ミストルティンの力を信じろ。

「ミスっても俺様が出来る限りお前を守ってやるよ」

 俺の斜め前でルリジオンが腰に下げていた杖を引き抜いた。
 いや、それはただの杖では無かった。
 彼の手に握られていたのは細身の剣にしか見えない。

「なんですかそれ」
「ああ? 旅神官用に作られた武器でな。杖にも剣にもなるんだぜ」

 いわゆる仕込み杖というやつだろうか。
 この戦いが終わったらアブソープションさせて貰いたいもんだ。

 そんなことを考えている間にも壁の崩壊は近づき。

「来るぞ!」

 その声に俺は弓の弦を、力一杯引き絞る。

 そのまま緊張感に身を委ね、俺はその瞬間を待った。

 狙うのは、今にもこちらに向けて倒れて来そうな数本の丸太の中央。
 さっき見たオークの頭部の位置を頭の中に思い浮かべ矢先を調整する。

 ドゴオオオオオオオオン。
 バギャッ。

 ひときわ激しい衝突音と共に丸太の根元がへし折れる音が響き渡る。
 と同時に倒れていく壁の隙間から――

「見えたっ!」

 オークの頭が現れると同時に俺は弦から指を離す。
 しゅるるるると小さな風切り音を残して炸裂矢が向かう先には驚愕の表情を浮かべたオークの顔。

 慌ててヤツは身を伏せようとする。
 だがもう遅い。

 十数メートルの距離で音速に近い速度で放たれた矢を避けるのは不可能だ。
 炸薬の放つ光と音が俺の目と耳を貫き、巨大なオークの顔は一瞬で粉みじんとなる。

「やった!」

 俺は思わずガッツポーズを取った。
 だがまだ終わったわけじゃ無い。

「あとはまかせろ!」

 横をルリジオンがそう叫びながら駆け抜け。
 そして倒れ行く親オークの体を駆け上るように壁の向こうへ飛び出していく。

 そうだ、オークはあと一体存在する。
 煙の向こうで呆然と立ち尽くす子オークへ向かってルリジオンの剣線が走った。


「凄い……」

 ルリジオンの動きは、これまでの昼行灯な雰囲気からは信じられないほど素早く。
 彼の振るう剣の軌跡は、とてもではないがただの神官の振るうものとは思えなかった。

 ギャアアォォ。

 耳をつんざく悲鳴は一度だけではない。
 ルリジオンは必死に反撃しようとするオークの攻撃範囲から僅かに離れた距離を保ちながら、その細身の剣で何度も何度も切りつける。

「いいかげんくたばりやがれっ!!」

 余裕の笑みを浮かべたまま、ルリジオンが子オークの頭にとどめの一撃を突き刺すのにそう時間は掛からなかった。
 だが見ている俺は気が気では無かったが

 そうして俺たちの初めての防衛戦は幕を下ろし、オークたちの体からは新鮮な肉と魔石、そして武具屋道具に加工出来る素材をいくつか採取した後、ルリジオンの浄化魔法で死体を魔素へ還元させた。

「本当に綺麗に消えちゃうんですね」
「魔物ってのは魔素の固まりみたいなモンだからな。ほっといても骨も皮も血も全部魔素に戻っちまうんだよ」
「じゃあどうして浄化したんです?」
「あ? あんなモンの横で壁の修理とかしたいのか?」

 ルリジオンの言う通りだ。
 魔物の死体はそのまま放置しても数日で消えるらしいが、それを目にしながら何かをする気にはなれない。
 それに数日とは言っても、その間に腐ったりもするらしいので神聖魔法が使える者がいれば浄化で、いなければ燃やすのが普通なのだそうだ。

「それと魔石はどこかに捨てて来た方がいいんですかね?」
「なんで?」
「だってまたオークの群れが襲ってきたらどうするんですか!」

 きょとんとした表情を浮かべるルリジオンに俺は詰め寄る。

「もう来ねぇよ」
「えっ」
「魔物の魔石に入ってる紋はな。対となる者しか呼ばねぇんだ」

 今回の場合、その対となる相手は俺が倒した親オークだったらしい。
 なのでそれを倒した今、もう他のオークを呼ぶことは無いのだという。

「見てみな」

 ルリジオンは親オークから取り出した魔石を拾い上げると一転を指さす。
 そこには例の紋と同じものがうっすら浮かんでいた。
 だが――

「薄くないですか?」

 ルリジオンの家の中で見た紋ははっきりとその形がわかったのに、目の前の紋は目をこらさないとわからないほど薄い。

「対が倒されたからな。もうすぐこの紋も、対になってるほうの紋も消えちまうさ」

 ルリジオンは魔石を懐にしまい込み「さてと」と腰に手を当て壊された櫓と壁を見る。
 そして心底面倒くさそうな声音で――

「それじゃあ夜までにとりあえず壁の修理するぞ。手伝えよ」

 そう言って笑ったのだった。



※次回からスローライフ編に戻ります
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