無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生

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新生活の始まりと鑑定スキルとランクAアイテム

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「それじゃあ早速だがここにある道具全部やってくれるか?」

 昨日と同じごちゃ混ぜスープでの朝食を終えた後、俺はルリジオンに連れられて村の納屋へ向かった。
 そこにはかつての開拓民が置いていったという農具や開拓のために必要な器具が入っているらしい。

「これを全部……ですか?」
「出来るんだろ?」

 ルリジオンは納屋の中からいくつかの道具を引っ張り出すと地面に並べ、俺にその全てをアブソープションするように言った。

「実は一日に覚えさせられるのは今のところ二つまでっぽいんですよね」
「二つ? 昨日聞いたときは何でも覚えさせられるって言ってたじゃないか」
「何でもとは言ってませんよ!」

 どうやらルリジオンは半分眠りながら人の話を聞いていた様だ。
 俺も疲れでうとうとしながら話していたから、もしかすると俺が適当に返事をしたのかも知れないが。

「レベルアップすればもっとスロットも一日にアブソープション出来る数も増えるかも知れませんけど、今のところは二つまでです」
「なるほどね。で、レベルアップするにはどっちにしろその枝に覚えさせる必要があるんだろ?」

 ルリジオンと話していてわかったことだが、元の世界の単語は自動的にこの世界の似た言葉に翻訳されて伝わるようで。
 一々レベルの意味とかを説明しなくて良いのは助かる。

「そうですね。一応経験を沢山積んだものや凄い道具ほどもらえる経験値は高くなるらしいんですが」

 最初にアブソープションを使ったとき、頭に流れ込んできたミストルティンの説明。
 その中にあった説明だとそういうことらしい。

「伝説の剣とか凄い人の使った道具とか無いですかね?」
「そんなもん、こんな所にあるわけねーだろ」
「ですよねぇ」

 俺はとりあえずルリジオンが並べた器具を一つ一つ見ながら考える。
 全てかなり使い込まれているものばかりで新しいものは一つも無い。
 この開拓村が捨てられてからどれくらい経っているのかはわからないが、見かけだけならそれほど酷いものは無さそうだ。
 たぶんどれをアブソープションしてもそれなりの経験値は得られるだろう。

「とりあえず今のところ一日二個までなんで、今日使う予定の道具があるならそれにしましょう」
「しゃーねーな」

 ルリジオンはボサボサの頭をがりがりと掻きながら、器具の山から二つのものを引きずり出した。

 一つはノコギリ。
 もう一つは大きめの金鎚で、どちらも古びてはいるが綺麗に錆は落とされている。

「今日は兄ちゃんのベッドを作ろうと思ってんだよ」
「なるほど。それじゃあ早速やりますね」

 俺は胸ポケットからミストルティンを取り出すと、まずはステータス画面を表示する。


 ミストルティン

 レベル:2
 EXP:19 NEXT 20

 形 態:デフォルト
 モード:アブソープションモード

 《アイテムスロット》

 1:魔法灯 2:古びた短剣

 《スキル》

 アブソープション・使用法理解・経験取得


 そしてアイテムスロットに並ぶ二つのアイテムを順番に指で触りながら「クリア」と頭の中で念じる。
 これでアイテムスロットは両方とも「なし」に戻った。

「いちいち空けないといけないのは面倒だけど勝手に入れ替わられても困るしね」

 次に俺はノコギリにミストルティンの先端を当ててスキルを発動させる。

「アブソープション!」

 発動と同時に脳内に聞き慣れた声が響く。

『アイテム:ノコギリ アブソープション完了――EXPを9獲得――得られた知識と経験をマスターに転送いたします』

 思ったより多いの経験値が得られたことに少し驚く。
 同時に流れ込んできた経験によると、この開拓村に新品で持ち込まれてからこのノコギリは余り使われてなかったようで。
 それなのに例の短剣よりも多い経験値が得られた理由は簡単だ。

「経験取得のスキルのおかげだな」

 どうも『経験取得スキル』はアブソープションしたものの経験を得るだけでなく、同時にそれを経験値にプラスしてくれるらしい。
 正直、かなり経験を積んでいた短剣で8しか経験値がもらえなかったことで先が思いやられたが、この先必要経験値が上がってもなんとかなりそうになってホッとしている。

 早速おれはもう一度ステータスを確認してみることにした。


 ミストルティン

 レベル:2
 EXP:19 NEXT 20

 形 態:デフォルト
 モード:アブソープションモード

 《アイテムスロット》

 1:ノコギリ 2:なし

 《スキル》

 アブソープション・使用法理解・経験取得


 次のレベルまで残り1。
 今度のレベルアップではどんな能力が追加されるのだろうか。

「次、行きます! アブソープション!」

 俺は期待に胸膨らませながら、古びた何の変哲も無い金鎚をアブソープションし――

『アイテム:金鎚(ランクA) アブソープション完了――EXPを200獲得――レベルが上がりました。新しく『性能回復』が追加されました――レベルが上がりました。新しく『鑑定』が追加されました。スロットが追加されました。得られた知識と経験をマスターに転送いたします』

 頭に響いたそんなメッセージに、俺は一瞬何が起こったのか理解出来なくなった。

「えっ」

 俺は慌ててステータスを確認する。


 ミストルティン

 レベル:4
 EXP:219 NEXT 350

 形 態:デフォルト
 モード:アブソープションモード

 《アイテムスロット》

 1:ノコギリ 2:金鎚(ランクA) 3:なし

 《スキル》

 アブソープション・使用法理解・経験取得・性能回復・鑑定


 一気にレベルが2も上がったのも驚いた。
 だけどそれ以上に追加されたスキルに俺は心を奪われる。

「鑑定スキルって言えば異世界ものの花形スキルじゃないか」
「おい、どうした兄ちゃん」

 ステータス画面と金鎚の間で視線を彷徨わせていた俺に、ルリジオンが心配そうに声を掛けてくる。

「聞いてください。この金鎚なんですが」

 俺は金鎚を持ち上げると、ルリジオンに向けて突き出す。

「これがどうかしたのか?」
「これ、ランクAの金鎚だったんですよ!」
「え……ランクAだと。このぼろっちい金鎚がか?」

 ルリジオンは突き出された金鎚を奪う様に手にすると、目を細めてじっくり確認し始めた。

「わっかんねぇな。俺には普通の金鎚にしか思えねぇ。本当にランクAだとしたら王国でもトップクラスの鍛冶師が作ったモンだぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、本当にこいつがランクAの品モンだったとしたらトンだ掘り出しモンだぜ。しかしそんなモンがどうしてこんな所に……」

 何やらぶつくさと金鎚を片手に考え込み始めたルリジオンを俺は放置することにして、新しく得たスキルについて確認する。
 まずは鑑定スキルについてだ。

 使い方はアブソープションと同じく、ミストルティンを鑑定したいものに触れさせて発動させるだけらしい。
 ということでとりあえず試しにノコギリを鑑定してみる。

「鑑定っと」

『品名:ノコギリ ランク:D 説明:片刃の鉄製ノコギリ』

「ランクDね。あと鉄製なんだ」

 俺にはランクDがどれほどのものなのかはわからない。
 だけど普通に流通している品物が大体D位なのではないだろうか。

「だとするとやっぱりランクAって凄いんだろうな」

 といっても見ただけでは正直普通の金鎚と何が違うのかわからない。
 というわけで早速鑑定してみようと俺はルリジオンにそのことを告げた。

「鑑定スキルだぁ? おいおい、その枝っコロはそんなことも出来るのかよ」
「さっきその金鎚をアブソープションしたおかげでレベルが上がって新しくスキルを覚えたんです」
「そういやレベルアップしたおかげで経験取得とかいう力が追加されたって言ってたな」

 そのおかげでオークに勝つことが出来たことを彼には話した。

「はい。今回もレベルアップしたおかげで二つほどスキルが増えました」
「二つもか、そいつぁすげぇ。それで鑑定と後何が増えたんだ?」
「えっと……性能回復ってスキルなんですけど。まぁこっちは後で説明しますよ」

 俺はそう言いながらルリジオンが手にしたままの金鎚にミストルティンの先を当てる。

「鑑定」

 そして早速スキルを発動させた。

『品名:金鎚+ ランク:A 付与:垂直打ち 説明:高純度の鉄と技術で作られた逸品。壊れにくく錆びにくい』

 先ほどのノコギリと違って『付与』という項目が増えている。
 たぶん付与魔法の様なものが掛かっていて、それがランクAとなっている理由の一つには違いない。
 品名に付いている『+』は付与付きという意味だ。

「なるほどなぁ。それでリリでも釘を真っ直ぐ打てたのかぁ」

 俺が鑑定結果をルリジオンに教えると、彼は何やら思い当たることがあった様だった。

「それって『垂直打ち』とかいう付与のことですか?」
「おうよ。あの家にある家具とか俺様が作ったんだがよ」

 その時、自分も手伝いたいと言うリリエールに簡単な釘打ちを任せたらしい。
 曲がっても後で直そうと考えていたルリジオンだったが、予想に反してリリエールの打った釘はどれ一つとして曲がっておらず。
 結果彼女は『これからも釘打ちはリリがやる!』と言って聞かなくなってしまったとか。

「まぁ、手伝ってくれるのはありがたかったからな。しかしこの金鎚が付与アイテムだったとは驚いたぜ」
「ですね」
「とりあえずコレは大事に使わせて貰うとするぜ」

 ルリジオンはそう言うと金鎚を軽く布で拭いてから腰のベルトに差し込んだのだった。


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