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青年期:クラスメイト編
王と神
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「それじゃあ開けるぞ?」
「あ、いえ僕が開けます。一度開けてみたかったんですよねこれ」
「子供か」
呆れた顔のアルキゴスを横目にエルピスが閉じたドアを開けてみれば、どっしりと玉座に座り冠を頭に乗せながら王の威厳を見せるグロリアスがそこには居た。
その顔に初めて会った頃の幼さはなく、身長こそ百七十と少し程度というところだがムスクロルの面影もあってか随分と王らしい姿になったものである。
ただ体の線は未だに細く、最近は執務に追われていたのか修行もサボっていたように見受けられ、昔が少女であるならば今は男装の令嬢と言った風に見えるのが残念なところではあるが。
エルピスが開けた扉を脇から通り抜けていくと、ルークとアデルも武官が並ぶ列の前の方へと移動していった。
「高い所から失礼しますエルピスさん。この度は人類の危機を救っていただきありがとうございました、首謀者も排除なされたという事で我が国民も安心して暮らせるというものです」
前回会った時よりも少し低くなった声でグロリアスがそう言うと、周囲にいる文官や武官が全くその通りだと言わんばかりにぶんぶんと頭を縦に振った。
全員が全員とまでは行かずとも安堵の感情を抱いており、エルピスは〈神域〉によってそれらを把握する。
そんな彼らに対して申し訳ない気持ちを抱きながらも、まだ敵対勢力が消えていないのだから嘘を告げるわけにはいかずエルピスは躊躇いながらも真実を口にする。
「いや、完全に殺し切れたわけじゃない。肉体は消滅させたけど魂がまだこっちに居るから、五年後くらいにまた出てくるとは思う」
「なんと!」
「それはまた……なんとも」
「脅威はそう簡単に去ってはくれぬと言う事ですか」
事実をそのまま伝えただけだが、〈神域〉など使わなくても分かるほどに場の雰囲気は悪くなっていく。
国単位ではなく、種の単位での脅威が消えたと思ったら一時凌ぎでしかなかったのだから仕方がない。
彼等は雄二の真の目的がなんだったのか知らないだろうが、学園を狙われるという事は最悪それくらいの危険性も考慮に入れるほどの大事件なのだ。
知らない場所に現れた脅威がいきなり消えた分には安堵感だけで済むが、その恐怖が五年と言う具体的な数字で自らに牙を向けるとなると不安感があるのも当然と言える。
そんな暗い空気の中でグロリアスが軽く手を叩くと、自然と視線はグロリアスの方へと向けられた。
怯えや恐怖といった感情は見受けられず、凛々しい顔を見せながら多数の視線に対して照れたようににっこりと笑みを浮かべると力強い声音で指示を始める。
「ーーほらほら落ち込まない! 敵が来る事が分かっていたら、君達なら十分に対処可能でしょうに。ルークは対人戦闘訓練から亜人用に兵士達の訓練を変更、アデルは少し早いけど魔法開発局に入って経験を積んでおいて。文官は他国との連絡を密に、この際だからついでに四大国のうざったい共通法もどさくさで潰すよ。武官は非常事態宣言の発令と伝達、職がない人達の受け入れ先として兵士の募集項目を増やして、代わりに盗賊達の摘発。ただし怪我を負わせたり殺害は厳禁だよ、兵士として受け入れるから盗賊をやめろってわかりやすく伝えられればそれでいいから」
「御意に」
「文官達は簡易医療についての講習会の実施と、ストレスチェック。あと可能であれば煙などを用いた遠距離通信行動の取得に力を入れて」
「それじゃあ兄さん、時間も勿体ないし先に行かせてもらうよ」
王の指示が出れば手足が動くのは早く、軽く一礼だけするとエルピスとアルキゴスを残して他の面々は外に出ていく。
エルピスの横を抜け扉を向かう際にエルピスの肩をルークが少し笑顔で叩いたことからも、グロリアスの指示もあるがおおよそはエルピスとグロリアスがなるべく人目を気にしなくてもいいように気を遣ってくれたのだろう。
グロリアスは現在他国からひっきりなしにやってきている使者に対する対応がある手前、この空間から移動することはできず、エルピスと会話するのであればここしかない。
「なんだかいつも気を遣ってもらってばっかりですね僕、王様なんですけどね」
「……未だに敬語が抜けてないからだと思うけどな。とりあえずさっき話した通り事態は悪化こそしてないが好転する気配もない。敵がどう動くか分からないが今日から一年間は王国に残って人類の強化に専念するよ」
「それは助かりますエルピスさん。最高位冒険者への依頼もありますしこれから忙しくなりそうですね」
最高位の冒険者達は基本的にこういった戦争に参加することはなく、また冒険者組合も基本的にこういった戦争に参加すると言うことはない。
それは多数の種族が管理職、実務職として働いている冒険者組合としては生物間における争いは知性を持つ者同士の戦争である場合、冒険者組合内での不和を招いてしまう危険性が非常に高い為に禁止されているのだ。
しかし今回の場合は人類という種に対する危機である点、また計画者が人であるという点が大きく人同士の戦争に限ってならば人であれば最高位冒険者の出動も期待できるところである。
「それはそれとして、なんかいつもの事だけど利権が絡みまくってる筈の大事な会議なのにここは話が進むのが早いな……まぁ良いけどさ。転覆する国もいくつ出てくることか。あいつの考え通りに全てが進んでいるのは勘弁して欲しいが」
「父が粗方処理してくれていましたからね、僕の代では優秀な人ばかりが残ってくれたんですよ。敵とは前世で出会った事が?」
「ああ。元クラスメイトだった、仲良くはなかったけどな。法国にまだ向こうに所属していないクラスメイトがいるらしいからそいつらの援助にも行かないと」
エルピスが手に入れた情報が確かであるのならば、副担任が法国に居るはずである。
男子女子両方から癒し役としての評価が高く、また能力獲得の際にも数人のクラスメイト達と共にしていた事から彼女の周りにいるメンバーは信用できる可能性が高い。
一年後の行先は法国で元から決まっていたのだが、そんな事を口にしているとエルピスの背後、閉じた扉の方からドタドタと音を立てて一人の人物がやってくる。
足音と気配からして戦闘ができるような人物とは思えず、まんまると太ったその身体とは対照的にどんよりと曇った表情は何か病的なものすら感じられる。
身長は165といった所だろうか、服装は王国式というよりは最近の流行である帝国式の服装に近い。
対象が誰であるとしても王の謁見中に閉じられたドアを蹴破り入ってくるなど、場合によっては極刑すらもあり得る重罪行為だ。
だというのに男は止まる様子もなく、エルピスの所まで寄りかかってくると投げ飛ばさんばかりの勢いでエルピスの体を持ち上げようとする。
「ーーぬぐっ!! 何故だ! 何故神は我にこの大罪人を滅ぼす力を与えてくださらない!」
エルピスの身体は見た目と反して驚くほどの重量がある。
普段は魔素の働きによって周囲の重力に働きかけ一般的な人間と同じ程度の重さにしているが、半人半龍ベースの神人であるエルピスの体重は龍種のそれに匹敵こそしないものの何もしなければ重たい自動車程度、つまり3から4トンくらいはあるので、いくら物理法則が息をしていないこの世界だろうとも鍛えていないものには一生あげられない重さである。
さすがに床に傷がつくのでそれほどの重さは出していないものの、それでも今のエルピスを投げ飛ばそうというのは無理だ。
「ああ……なんだ、取り押さえようか?」
「いやまぁ別に害もないんで良いんですけど、この人誰ですか?」
「先日の襲撃でお子さんを亡くされたマーロイド伯爵です、出来るだけエルピスさんと接触させないようにさせていたんですが、どうやら対処不足のようだったようですね……すいません。マーロイド伯、王の謁見に横槍を入れ、あまつさえ客人に暴力を振るった大罪、心中は察するが到底看破できない。一日独房で頭を冷やせ、アルキゴス連れていってくれ」
「王よ! 何故この者を庇うのですか!? 王はご乱心なされたのか!?」
「乱心しているのは貴公だマーロイド伯、一度落ち着きたまえ」
首根っこを掴まれて連れていかれる伯爵の姿を眺めながら、エルピスはため息をつき肩を落とす。
向こうの怒りに対して理不尽さを感じるほどエルピスも子供ではないが、それでもこうも直接的な行動をされると少々嫌気もさすものである。
とはいえそのおかげで目的の状況を作り出すことに成功したのだから、エルピスとしては先程の人物に感謝をする方がいいのかもしれないが。
「災難でしたねエルピスさん……エルピスさん?」
音を立てずに気配を出さずに、そうやってエルピスが歩けば先頭から離れたグロリアスの近くに寄るなど難しい話ではない。
玉座は階段上になった場所の先にあるため先程まではグロリアスの言葉通り見下ろす形になっていたが、エルピスがグロリアスの直ぐ近くにまで寄ってきたため身長差も相まって若干エルピスが見下ろす形になる。
不安げな声を上げるグロリアスの髪を軽く撫で、頭につけている王冠の感触を味わいながらエルピスは今日言おうと思ってきていた事を口にする。
「グロリアス。俺にはずっと秘密にしていた事があるんだ、アウローラにも両親にも。聞いてくれるか?」
「は、はいもちろんです。でもなんでこんな近くに? というかそれこそ話が急な気がするんですが」
「他の奴に聞かれたら不味いからだよ、誰が聞いてないとも限らないしな。後今からする話はいつしたところで多分急だ」
この城は前の王、つまりムスクロルが魔改造を施した結果各部屋の様々な場所に様々な覗き穴が作られている。
盗神の力を多少は解放しているエルピスに見破れない罠があるとは思えないが、それでも警戒しておくに越したことはない。
完全に外界と断絶した空間を魔神の力によって作り上げたエルピスは、自分を見つめるグロリアスの瞳を眺めながらゆっくり言葉を紡ぐ。
「荒唐無稽で多分信じられない事を言うけど、それを信じられるか?」
「ーーええ。もちろんですよ、エルピスさんの事信用してますからなんでも言ってください」
瞳に嘘はない。
なら紡ぐ言葉は簡潔なもので構わないだろう。
声を震わせないように気をつけながら、後はほんの少しの勇気さえあればいい。
真面目なセリフを口にしようとして自分とグロリアスの間柄には合わないなと判断し、エルピスは軽口でなんでもないかのように振る舞い口にする。
「ーー俺実は神様なんだよね」
「あ、いえ僕が開けます。一度開けてみたかったんですよねこれ」
「子供か」
呆れた顔のアルキゴスを横目にエルピスが閉じたドアを開けてみれば、どっしりと玉座に座り冠を頭に乗せながら王の威厳を見せるグロリアスがそこには居た。
その顔に初めて会った頃の幼さはなく、身長こそ百七十と少し程度というところだがムスクロルの面影もあってか随分と王らしい姿になったものである。
ただ体の線は未だに細く、最近は執務に追われていたのか修行もサボっていたように見受けられ、昔が少女であるならば今は男装の令嬢と言った風に見えるのが残念なところではあるが。
エルピスが開けた扉を脇から通り抜けていくと、ルークとアデルも武官が並ぶ列の前の方へと移動していった。
「高い所から失礼しますエルピスさん。この度は人類の危機を救っていただきありがとうございました、首謀者も排除なされたという事で我が国民も安心して暮らせるというものです」
前回会った時よりも少し低くなった声でグロリアスがそう言うと、周囲にいる文官や武官が全くその通りだと言わんばかりにぶんぶんと頭を縦に振った。
全員が全員とまでは行かずとも安堵の感情を抱いており、エルピスは〈神域〉によってそれらを把握する。
そんな彼らに対して申し訳ない気持ちを抱きながらも、まだ敵対勢力が消えていないのだから嘘を告げるわけにはいかずエルピスは躊躇いながらも真実を口にする。
「いや、完全に殺し切れたわけじゃない。肉体は消滅させたけど魂がまだこっちに居るから、五年後くらいにまた出てくるとは思う」
「なんと!」
「それはまた……なんとも」
「脅威はそう簡単に去ってはくれぬと言う事ですか」
事実をそのまま伝えただけだが、〈神域〉など使わなくても分かるほどに場の雰囲気は悪くなっていく。
国単位ではなく、種の単位での脅威が消えたと思ったら一時凌ぎでしかなかったのだから仕方がない。
彼等は雄二の真の目的がなんだったのか知らないだろうが、学園を狙われるという事は最悪それくらいの危険性も考慮に入れるほどの大事件なのだ。
知らない場所に現れた脅威がいきなり消えた分には安堵感だけで済むが、その恐怖が五年と言う具体的な数字で自らに牙を向けるとなると不安感があるのも当然と言える。
そんな暗い空気の中でグロリアスが軽く手を叩くと、自然と視線はグロリアスの方へと向けられた。
怯えや恐怖といった感情は見受けられず、凛々しい顔を見せながら多数の視線に対して照れたようににっこりと笑みを浮かべると力強い声音で指示を始める。
「ーーほらほら落ち込まない! 敵が来る事が分かっていたら、君達なら十分に対処可能でしょうに。ルークは対人戦闘訓練から亜人用に兵士達の訓練を変更、アデルは少し早いけど魔法開発局に入って経験を積んでおいて。文官は他国との連絡を密に、この際だからついでに四大国のうざったい共通法もどさくさで潰すよ。武官は非常事態宣言の発令と伝達、職がない人達の受け入れ先として兵士の募集項目を増やして、代わりに盗賊達の摘発。ただし怪我を負わせたり殺害は厳禁だよ、兵士として受け入れるから盗賊をやめろってわかりやすく伝えられればそれでいいから」
「御意に」
「文官達は簡易医療についての講習会の実施と、ストレスチェック。あと可能であれば煙などを用いた遠距離通信行動の取得に力を入れて」
「それじゃあ兄さん、時間も勿体ないし先に行かせてもらうよ」
王の指示が出れば手足が動くのは早く、軽く一礼だけするとエルピスとアルキゴスを残して他の面々は外に出ていく。
エルピスの横を抜け扉を向かう際にエルピスの肩をルークが少し笑顔で叩いたことからも、グロリアスの指示もあるがおおよそはエルピスとグロリアスがなるべく人目を気にしなくてもいいように気を遣ってくれたのだろう。
グロリアスは現在他国からひっきりなしにやってきている使者に対する対応がある手前、この空間から移動することはできず、エルピスと会話するのであればここしかない。
「なんだかいつも気を遣ってもらってばっかりですね僕、王様なんですけどね」
「……未だに敬語が抜けてないからだと思うけどな。とりあえずさっき話した通り事態は悪化こそしてないが好転する気配もない。敵がどう動くか分からないが今日から一年間は王国に残って人類の強化に専念するよ」
「それは助かりますエルピスさん。最高位冒険者への依頼もありますしこれから忙しくなりそうですね」
最高位の冒険者達は基本的にこういった戦争に参加することはなく、また冒険者組合も基本的にこういった戦争に参加すると言うことはない。
それは多数の種族が管理職、実務職として働いている冒険者組合としては生物間における争いは知性を持つ者同士の戦争である場合、冒険者組合内での不和を招いてしまう危険性が非常に高い為に禁止されているのだ。
しかし今回の場合は人類という種に対する危機である点、また計画者が人であるという点が大きく人同士の戦争に限ってならば人であれば最高位冒険者の出動も期待できるところである。
「それはそれとして、なんかいつもの事だけど利権が絡みまくってる筈の大事な会議なのにここは話が進むのが早いな……まぁ良いけどさ。転覆する国もいくつ出てくることか。あいつの考え通りに全てが進んでいるのは勘弁して欲しいが」
「父が粗方処理してくれていましたからね、僕の代では優秀な人ばかりが残ってくれたんですよ。敵とは前世で出会った事が?」
「ああ。元クラスメイトだった、仲良くはなかったけどな。法国にまだ向こうに所属していないクラスメイトがいるらしいからそいつらの援助にも行かないと」
エルピスが手に入れた情報が確かであるのならば、副担任が法国に居るはずである。
男子女子両方から癒し役としての評価が高く、また能力獲得の際にも数人のクラスメイト達と共にしていた事から彼女の周りにいるメンバーは信用できる可能性が高い。
一年後の行先は法国で元から決まっていたのだが、そんな事を口にしているとエルピスの背後、閉じた扉の方からドタドタと音を立てて一人の人物がやってくる。
足音と気配からして戦闘ができるような人物とは思えず、まんまると太ったその身体とは対照的にどんよりと曇った表情は何か病的なものすら感じられる。
身長は165といった所だろうか、服装は王国式というよりは最近の流行である帝国式の服装に近い。
対象が誰であるとしても王の謁見中に閉じられたドアを蹴破り入ってくるなど、場合によっては極刑すらもあり得る重罪行為だ。
だというのに男は止まる様子もなく、エルピスの所まで寄りかかってくると投げ飛ばさんばかりの勢いでエルピスの体を持ち上げようとする。
「ーーぬぐっ!! 何故だ! 何故神は我にこの大罪人を滅ぼす力を与えてくださらない!」
エルピスの身体は見た目と反して驚くほどの重量がある。
普段は魔素の働きによって周囲の重力に働きかけ一般的な人間と同じ程度の重さにしているが、半人半龍ベースの神人であるエルピスの体重は龍種のそれに匹敵こそしないものの何もしなければ重たい自動車程度、つまり3から4トンくらいはあるので、いくら物理法則が息をしていないこの世界だろうとも鍛えていないものには一生あげられない重さである。
さすがに床に傷がつくのでそれほどの重さは出していないものの、それでも今のエルピスを投げ飛ばそうというのは無理だ。
「ああ……なんだ、取り押さえようか?」
「いやまぁ別に害もないんで良いんですけど、この人誰ですか?」
「先日の襲撃でお子さんを亡くされたマーロイド伯爵です、出来るだけエルピスさんと接触させないようにさせていたんですが、どうやら対処不足のようだったようですね……すいません。マーロイド伯、王の謁見に横槍を入れ、あまつさえ客人に暴力を振るった大罪、心中は察するが到底看破できない。一日独房で頭を冷やせ、アルキゴス連れていってくれ」
「王よ! 何故この者を庇うのですか!? 王はご乱心なされたのか!?」
「乱心しているのは貴公だマーロイド伯、一度落ち着きたまえ」
首根っこを掴まれて連れていかれる伯爵の姿を眺めながら、エルピスはため息をつき肩を落とす。
向こうの怒りに対して理不尽さを感じるほどエルピスも子供ではないが、それでもこうも直接的な行動をされると少々嫌気もさすものである。
とはいえそのおかげで目的の状況を作り出すことに成功したのだから、エルピスとしては先程の人物に感謝をする方がいいのかもしれないが。
「災難でしたねエルピスさん……エルピスさん?」
音を立てずに気配を出さずに、そうやってエルピスが歩けば先頭から離れたグロリアスの近くに寄るなど難しい話ではない。
玉座は階段上になった場所の先にあるため先程まではグロリアスの言葉通り見下ろす形になっていたが、エルピスがグロリアスの直ぐ近くにまで寄ってきたため身長差も相まって若干エルピスが見下ろす形になる。
不安げな声を上げるグロリアスの髪を軽く撫で、頭につけている王冠の感触を味わいながらエルピスは今日言おうと思ってきていた事を口にする。
「グロリアス。俺にはずっと秘密にしていた事があるんだ、アウローラにも両親にも。聞いてくれるか?」
「は、はいもちろんです。でもなんでこんな近くに? というかそれこそ話が急な気がするんですが」
「他の奴に聞かれたら不味いからだよ、誰が聞いてないとも限らないしな。後今からする話はいつしたところで多分急だ」
この城は前の王、つまりムスクロルが魔改造を施した結果各部屋の様々な場所に様々な覗き穴が作られている。
盗神の力を多少は解放しているエルピスに見破れない罠があるとは思えないが、それでも警戒しておくに越したことはない。
完全に外界と断絶した空間を魔神の力によって作り上げたエルピスは、自分を見つめるグロリアスの瞳を眺めながらゆっくり言葉を紡ぐ。
「荒唐無稽で多分信じられない事を言うけど、それを信じられるか?」
「ーーええ。もちろんですよ、エルピスさんの事信用してますからなんでも言ってください」
瞳に嘘はない。
なら紡ぐ言葉は簡潔なもので構わないだろう。
声を震わせないように気をつけながら、後はほんの少しの勇気さえあればいい。
真面目なセリフを口にしようとして自分とグロリアスの間柄には合わないなと判断し、エルピスは軽口でなんでもないかのように振る舞い口にする。
「ーー俺実は神様なんだよね」
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