クラス転移で神様に?

空見 大

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青年期:魔界編

遺跡探索

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 場所は変わって王都、冒険者組合。
 やはり他の国に比べて亜人が多くみられる冒険者組合だったが、カウンターの方に行ってみればいつも元気に対応してくれていた亜人の店員の姿が見受けられない。
 どこに居るのかと探してみれば奥の方で事務作業をしている様だ。

 戦争の開始が予告され、亜人種を敵として認識してしまい始めている現状を加味すれば、血気盛んな人間の多い冒険者組合でそう言った対応を取るのは間違ったことではないだろう。
 だがそんな状況にほんの少しの寂しさを感じていると、ドタドタと足音が耳に入りエルピスは椅子から立ち上がる。

「久しぶりです!」

 そこに立っていたのはエルピスがかつて共和国へと向かった際に、護衛を務めていた冒険者グループ美食同盟の一人であるディルと呼ばれる青年。
 腰を折ろうとするディルに対してエルピスが手を差し伸べると、ディルも少し遅れてエルピスに対して手を返す。
 前回同様依頼者と受ける側という立場ではあるが、これが初回というわけでもない。
 手を差し出したのはエルピス側からの前まで通りの扱いでいいよ、というサインであり一応はディルもそれに応じてくれた様であった。

「お久しぶりです、まずは依頼を受けていただいてありがとうございました。
 正直受けていただけるか微妙だと思って居たので」
「まさか。冒険者であればだれでもあの条件なら食いつくと思いますよ、むしろ我々で本当によかったのか聞きたいくらいです」

 ディルが出した条件というのは報酬に支払うことになっている金貨のことだろう。
 その数ざっと千枚、一枚で冒険者の基本的な生活基盤となる行動をこの王都で全てしてもお釣りが帰ってくる様なものであると考えれば分かりやすいか。

 ディル達美食同盟が月にあげる売り上げが平均六十枚程度、これは王都にいる冒険者パーティーの中でもそれなりに上位の稼ぎに入るのだが、その一年の稼ぎよりも高いことを考慮すれば王都にいる冒険者ならば誰でもやりたくなる様なものだ。
 さらにこの依頼を無事にこなせば後々また同じ様な依頼をエルピスから任される可能性もある。

 その金銭的な価値は多少のリスクを背負うのを厭わせない程だが、逆に言えばそれだけリスクがあるとエルピス側も認識しているに他ならない。

「信用できる人物であることが大前提なので。仕事内容は書面でもお渡しした通り避難誘導です、戦闘が発生したら近くの街に転移魔法で飛ばします。
 その後避難誘導を開始、ある程度避難誘導が終わったら次の街へ次の街へと移動してもらいます」

 移動方法については既に依頼書にも記載してあるが、アルヘオ家から転移魔法の使える人員を二人ほど選出してあるので問題はない。
 避難誘導を四人では少ないだろうという考えは人間の国基準で言えば正しいのだろうが、亜人種が主な種族である魔界においてはエルピスが普段滞在している街の様な場所の方が珍しい。
 殆どは村やそれと言ってもいいのかすら怪しい代物ばかりであり、住んでいる人間も三桁を越すことは殆どない。
 であれば四人でも緊急の知らせと逃亡の補助くらいは可能というものである。

 それに彼ら四人であれば何か問題ごとが起きても最低限は解決するだけの力があるとエルピスは見込んでいた。
 そんなエルピスの言葉に対して美食同盟のもう一人、グスタフという大柄な男が言葉を返す。

「了解したぜ!」
「気にするべきは流れ弾よね?」
「そうですね、ただ気にする必要もないかもしれません」
「というと?」
「どうせ流れ弾が飛んできたら終わりなので」

 攻撃が飛んできた時の対処を聞いてきたのはアリアと呼ばれる女性であり、魔法使いとしてこのパーティーの安全を任されている人物でもある。
 彼女が気にしているのは火や水などの属性系魔法で被害を被った場合復帰が難しくなるので、それに対しての対処法を聞きたかったのだろう。
 だがエルピスが返した言葉は考えるだけ無駄、である。

「ちなみに聞いてなかったんですけど今回の敵って……」
「依頼書に一応記してあったんですが見てませんでした? ちゃんと下の方に書いておきましたよ」
「依頼書に? 確か隅から隅までしっかりと……」

 パーティーリーダーであるディルは依頼書の管理を任されていたのだろう。
 懐からエルピス手書きの依頼書を取り出すと、じっくりと再び上から下まで目を通し始める。
 そうして文字を読み進めていくとエルピスが口にしていた部分に差しあたったのかその顔を青白くさせながらディルはエルピスに泣きつく様な顔をして言葉をこぼす。

「邪竜に始祖種!? しかもこんなちっちゃく…!」
「説明書が無駄に多いのは読み飛ばしを促進させる為です、契約書作りの時は結構有効なんですよこれ」
「ひどいですよエルピス様…!!」
「転移役件護衛役としてうちの執事達も付きます。そんなに心配しなくても良いんですよ」

 騙したようで悪いとは思って居るが、誰かは手伝ってもらわないといけないので致し方ない。
 これで断られたらそれまでではあるが、卑怯なことにエルピスは顔を合わせながら話をすればまず間違いなく断られないだろうという計算をしたうえでこの場に立っているのでこの場に彼らが来た時点でエルピスの仕事は殆ど完遂されたに近い。

「……頼みますよエルピスさん」
「もちろん任せてください。作戦は完璧なので」

 作戦は完璧である。
 そんなエルピスの言葉に安堵したディルたちはそれならばと依頼を引き受けてくれた。
 この世に完璧なんて存在しないし、未知数の要素の方が多いというのにそれでもエルピスが完璧だと言葉をかけたのは単にそうして声をかけて上げれば安心するだろうという考えからだ。

 必要性がある人物を引き入れる必要性がある以上危険を承知でも彼らには来てもらう必要性がある。
 契約書を取り付け魔界の街まで彼らを連れていき、ようやく本日の業務を終えたエルピスは屋敷で身体を横にして一日の疲れを取る。

 そうして寝っ転がっていると見知った気配が近寄ってくるのを感じ、エルピスは姿勢をただす。

「お疲れ様エルピス。久しぶりね」
「お久しぶりです母さん。父さんはどこに?」
「そろそろ来るはずだけど……来たわね」
「すまん遅れた。エルピスはもう着いてたのか」

 やってきたのは両親。
 服装は戦闘向けなものに切り替わっており、いつでも戦える準備ができているのはそれだけ戦闘が近いと言う話である。
 先にやってきたクリムに遅れてイロアスがやってくると、必然的に話す内容は戦争に向けての話に変わっていく。

「とりあえずやるべき事はやっておきました、今ごろアルさんがバーンさんのところに行っているはずです」
「あいつも来てるのか!? いよいよ総力戦になってきたな」
「残念なことに本当の戦争が始まるのはあと二、三年後ですがね。
 急遽ではありますが装備一式揃えてもらったので父さんと母さんはこれ使ってください」

 思い出した様にエルピスが取り出したのは杖と鉤爪が一つずつ。
 杖は父に、鉤爪は母へとエルピスが用意した代物であるが、驚くべきところはその武器の性能だろう。

 外見から見て武器の性能がわかる程度にはこの場にいる全員武を収めている、数多の武器を見て、触れ、戦い、手にしてきたイロアスやクリムが見たこともないほどの業物が二振。
 自分達の子供の手からそれが渡された事も不思議といえば不思議だが、それよりもまずはそれの出どころがどこかである。

 だが考えるまでもない事だ、息子が神の力を持っていて土精霊の領域に足を踏み入れたのであればあの神に会っていないはずがない。

「これは……お前が作ってくれたのか?」
「約束だからね、ちょっと遅れちゃったけど。鍛治神にいろいろ聞いたりしながら俺が作ったオーダーメイドの品だよ」
「これなら確かに邪竜相手にも有効に働くだろうが、よくそんな伝手があったな」
「俺からしたら人なのに神と交流を持つ父さんの方がびっくりだよ。そういえばフィアは?」

 英雄であるとは言え人は人、神が興味を持つことはあるだろうがそれでも神と交友関係を持つことのできる父の社交性にはエルピスも驚かされるばかりである。
 そんな中でそう言えばと最愛の妹のことについて尋ねてみると、廊下の方からドタドタとした足音が聞こえてエルピスはもしやとそちらに視線を移す。

「ここに居ますよお兄様!」
「ええっ!? 父さんなんでフィアまだここに居るの!?」

 当初の予定であれば王国にある本家に一旦フィアは戻して、ヘリアと2個小隊規模の戦力をそこに集めて安全を確保しておく筈だったのだ。
 フィアはまだ戦闘もまともに体験したことのない小さな子供、これからの才能は未知数だがいまは正直言って戦闘に参加できるレベルでは到底ない。
 むしろ巻き込まれただけで致命的な被害を被る可能性すらあり得る。
 そんな彼女がこの場いる事にエルピスが驚きを隠せないでいると、イロアスが状況を説明する。

「この子がどうしてもって聞かなくてな、せめてここで兄を見送りたいんだと」
「お兄様、力のない非力な妹をお許しください。せめてお兄様の無事をお祈りしたいんです」

 だがフィアとて自分の力が足りていないことも理解している。
 だから兄の為にできることは精々が無事を祈りながら見送ることくらいのこと、ただ其れだけでもエルピスからしてみれば何にも代えがたい。
 フィアの頭に手をのせて何気なしに撫ぜてみれば目を細めながら嬉しそうにしており、エルピスは改めて己がなんのために戦ってきたのかということを再確認する。

「ありがとうフィア、フィトゥスと一緒に安全なところから見ててね。フィトゥス、任せたよ」
「はい。フィア様、参りましょうか」
「また後でねお兄様!」

 決戦は明日、まだ作戦までにはそれなりの時間があるため妹と言葉を交わすのがこれが最後ということはないだろう。
 今回の戦闘に関してはエルピスも自分が絶対に自分が無事に帰ってこれるとは思っていない。
 なにせ相手は神の僕だ、神の僕に殺されるほど神として落ちぶれてしまったつもりではないが、神の僕がいると言うことは当たり前ではあるが神自体もいるという事だ。

 その神が現れて一対一の戦闘を申し込まれた場合、エルピスは無事にそれを捌ききれるだけの自信がない。
 父や母がいるため万が一の場合でも三対一の状況を作り出せるかもしれないが、それでもエルピスの心が落ち着くことはないのだ。
 死を実感する戦闘など本当に久しぶりのことであったから。

「──遅れまして申し訳ございません。ただいま到着しました」

 そうして不安な心でいっぱいのエルピスの前に現れたのは、いつも通りのアウローラだった。
 フィアと入れ替わる様にして入ってきた彼女は貴族らしい一礼をすると、にこやかな笑みを浮かべる。
 久々にみるアウローラの顔にエルピスも安堵を覚えていると、クリムがアウローラの方へと向かって駆け出していくではないか。

「まぁアウローラちゃん! 来てくれたのね嬉しいわ」
「クリムさんちょっと抱きしめる力強いです!」
「あらごめんなさい。でもアウローラちゃんクリムさんなんて他人行儀な呼び方はやめてほいしわ、お義母様って呼んでもいいのよ?」

 思えば直接対面することがあまりなかったであろう両者、こうして出会っているところを見るとなんだか言葉にしにくい気持ちがエルピスの中に湧き上がってくるのを感じる。
 ふと横を見てみればニヤニヤとする父の顔がエルピスの視界に移り、それをなるべく視界に入れない様にしながらもエルピスはハラハラとしながらその二人の会話を見守るのだった。

「そうですか? でしたらお母様」
「まぁ可愛い! イロアス聞いた!?」
「おいずるいぞクリム! アウローラちゃん俺は? 俺も呼んでいいよ!」
「イロアス様…いえ、お義父様、お義母様。アウローラの前でその様な言動をしては今後に響きますよ──って何故泣かれているのですか!?」
「エラちゃんからのお母様呼びはダイレクトに心にくるわね…」
「そうだなぁ…! あんなにちっちい頃から意識してたもんなぁ…!」

 もはや状況は意味不明、目を閉じて声だけを聞いていたエルピスはそのまま眠りにつきたいとさえ思ってしまう。
 立場的にはアウローラもエラもエルピスの彼女、これは両親からも無事公認されているので何も言うところではないが問題は創生神の言葉だ。

 結婚を意識させる様なことをアレが口にしてきたせいで、今の状況がまさにそう言った雰囲気に感じられてしまうのはエルピスの自意識過剰ではないだろう。
 少しの間そんな他愛のない話を聞いていたエルピスだったが、数分経ってもその話が終わりそうにないと判断して目をパチリと開けると、無理やりその話の流れを途切れさせた。

「もう! 父さんも母さんも真面目にやって! エラ、二人には予定通り言っておいてくれた?」

 エルピスが口に出した二人というのはこの場にいないセラとニルの事である。
 二人には封印解放までの監視と周囲の警戒をお願いしてあるので、この場に来れないことはエルピスも把握していた。

「うん。エルの要求通りに言っておいたよ、レネスは少し離れたところで待機するってさ」
「ありがとう。そういえばエラにもこれ渡しておくね」
「これは……妖精神の力?」

 エルピスの掌から現れた光る球体の様なものがエラに手渡されると、まるで何もなかったかの様に薄れていきそれはどこかへと消えていく。
 妖精神としての権能の譲渡がこれによって行われ、エラは擬似的にではあるものの妖精神の力を行使できる権利をこれで手に入れた事になる。

「そう。ただ混霊種としての力を完全に開放しないと膂力系の能力向上はないけどね。ないよりは全然ましだと思うから」
「フェルにはそれ渡してあるのよね? 龍神と魔神の膂力は誰に渡してあるの?」
「龍神の方はエキドナと折半してるし魔神の方は元から膂力関係の補助はあんまりないから渡すほどはないかな。
 次の称号を解放したらアウローラにも魔神の権能を貸し出す予定だよ」
「ほんとに!? これで私もようやく戦力になれるわけね」

 いまでこそ補助的な役割を持つアウローラだが、一般基準で言えば天才と称しても良いほどの魔法の才能を持つ人物である。
 多様な魔法を作り出す事に関してはエルピスよりも長けているし、なによりも忘れがちではあるが彼女によってつけられた傷は回復魔法では癒せないという特性もあるのだ。

 エルピスとしては前線に彼女が立ち敵を殺すところをあまり見たくないので能力を貸し出してこなかったのだが、昨今の情勢を考えるとアウローラに力を渡しておいた方が安全だろうというのがエルピスの見立てだ。

「扱いきるのには少し時間がかかるだろうけれど、それでも何とかなると思うよ。
 ただ人の間は無理だからまずアウローラを生物的に進化させるところからかな。勇者の称号くらいは取ってくれないと」

 神人……はまぁ無理としてその一つ下である聖人、さらに一つ下の仙人でギリギリ扱えるかどうかと言ったところ。
 人は他の親族に比べて進化先が多いのが特徴だが、正直言ってしまうと他の種族に比べると進化後と進化前の差がそれほど大きくないのが現実だ。
 仙人クラスまでは長生きな魔力と少しの超能力を持つ人間といった程度、それこそマギアなどは寿命も考慮に入れて考えるとまず間違いなく仙人だろう。

 だが彼が有名になっているのはその魔法の才が故であり、仙人である事が彼を有名たらしめていないあたりからしてこの世界の仙人に対する認識はその程度なのだ。
 とはいえ聖人ともなると話は違う、神の血を引くと言われる彼らと同等の存在になるというのは非常に難しい事である。
 それこそ勇者の称号を持っていることは最低条件であると言えるだろう。

「お前なあ、簡単に言うけど勇者の称号だって相当きついんだぞ? 俺だってとったの15歳とかその辺だったしな」
「そうよ、種族的な進化は相当な年月かかるんだから。アウローラちゃんも無理しない程度に頑張るのよ?」

 その無茶振りを簡単にしてきた人間が口にするとあまりにも説得性に欠けるが、急いでも簡単に出来ることでないことはアウローラ自身も分かっている。
 何故なら学園にいる間に自分の力をなんとか強くできないかと考えていた中で、そういった進化という道も考えていたからだ。

「本来種族的な進化は後天的にはあり得ません、獲得するには並外れた才能と奇跡的な状況に加えて称号の効果を必要とします。
 ただそれでもアウローラならきっと大丈夫です、応援してますよ」
「まぁ期待してなさい、頑張ってみるわ!」

 上位種の龍人であるクリムや英雄であるイロアスに言われるとなんだか実感の湧かなかった言葉も、慣れ親しんだ相手であるエラに言われれば多少は現実感を増してくるというものである。
 得られるとすれば明日、もし自分のところに取得のチャンスが回ってきたら確実に手に入れると意気込みながらアウローラは戦争前のほんの少しの時間を過ごすのだった。

 /

 そうして次の日。
 特にこれと言って何か変わった事もなく改めて予定を組み直したエルピス達一行は、邪竜が封印されているという遺跡の中にいた。

 遺跡の中にいるのは先頭にクリムとエルピス、ついでアウローラとエラに最後尾にイロアスの姿が見える。
 アウローラとエラに関しては邪竜との戦闘が始まり次第各町への警戒を伝えるため転移魔法で移動するので戦闘の頭数には入れられないが、されでもこの五人がいれば大抵のことはなんとかなるであろうという面子である。

「くっら! 何よこれ何にも見えないじゃない」
「アウローラ、下がってろ危ないぞ」
「下がってろったってこれじゃ何も見えないわよ。明かりつけてもいい?」

 暗視の能力を持たない人間からしてみれば、陽の光が差し込まない遺跡の中は本当に真っ暗闇なのだろう。
 声音に若干の恐怖心を混ぜながら照明の許可を求めたアウローラに対して、エルピスは手でそれを静止する。

「やめておいた方がいい、視界の変化はできるだけない方がいい。暗視の魔法をかけるからそれで我慢して」

 暗視の魔法とは言え完全な暗闇の中では昼間の様な明るさを得ることはできず、薄暗闇の中にはまだいる事だろう。
 だがそれで納得してくれたのかアウローラが一歩後ろに下がると、エルピス達は再び遺跡の奥へと入っていく。
 それから十分ほど、外から見ていたよりも遥かに大きな遺跡の内部に驚いていると、ふとイロアスから声がかかる。

「エルピス、後ろに下がってろ。来るとしたらそろそろだ、警戒を緩めるな──」
「──父さん!」

 暗闇の中から飛び出した弓の様なものに腹部を打たれ、苦痛の顔を見せながら腹を押さえる父をみて、エルピスはほんの一瞬だけ何をすれば良いのかと思考を放棄してしまう。
 いまの攻撃は確実に自分に狙ったものであった、それをエルピスが避けられ父が受けた理由は間違いなく庇ったからである。
 そのことを分かってしまったからこそエルピスの判断は遅れてしまったのだ。

「エル下がって!!」

 だがエラの掛け声と同時にエルピスの意識は急浮上し戦闘へと意識が切り替わる。
 その頃にはもはや常人では回避不可能な距離まで飛来する物体が近寄ってきていたが、エルピスはそれを超常的な反射神経で避け切ると両の手の中に魔法を起動した。

「仕方がないここごと消し飛ばす!! エラ達は当初の予定通りに!」

 右の手の中で作り出したのは転移魔法、これはエラとアウローラを目的の場所に転移させるためのものである。
 左手には神級の爆発魔法。
 大気圏すら容易く突破するほどの爆炎を巻き上げるそれを転移魔法に遅らせてその場で起動させたエルピスは、遺跡を内部から完全に爆散させて敵を完全に殺し切ろうとする。

 爆発前に転移魔法で逃げているのでクリムやイロアスに被害はなく、既に腹部を治療したのかエルピスの横に並び立ったイロアスの顔からは警戒の色が解けていない。
 その視線が注がれているのは先程まで遺跡があった場所だ。
 神の魔法を受けて生きていられる原生生物は魔界には存在しない、だが同じようにイロアスに攻撃を通すことのできる生物だって元から魔界に居たりしないのだ。

 瓦礫を押し退けながら現れたのは明らかに魔界にそぐわない人物達、どころからどう見ても人間でしかない彼らはおそらくは破壊神の手先なのだろう。

「……ふむ、中々の威力じゃな。じゃが所詮は経験の浅い神じゃて」
「エルピスっ! エルピスぅぅぅ!!」
「恨みはないが死んでもらおう」

 三者三様の反応を見せながら、それでも殺意だけはしっかりと向けてくる相手に対してエルピスは久々に己の力がこういった時のためにあるのだということを再認識する。
 父と母を守るために、その隣に立つためにいまこの日この時まで研鑽を積み重ねてきたのだ。
 ならば人に振るう出来ではないこの力を全身全霊を持って振るうことになんの問題があるというのだろうか。

「神の僕が神の喉元に手を向けることなど不可能だと教えてやるよ」

 戦闘の合図にこれ以上の言葉は必要ないだろう。
 得難いものを手に入れるために手を伸ばす者達は、いまここでお互いの主張を通すために己の敵を討ち滅ぼさんと一歩前へと踏み出すのだった。
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