クラス転移で神様に?

空見 大

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青年期

本軍到来

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 「――♪ ―――♪」

 ルンタの城壁は他の都市に比べてかなり低く建築されている。
 その理由は龍種の群れが年に二回ほど上空を飛んでいくからで、戦争に際して防衛上の大きな欠点にもなりえる城壁の低さを何とかしようと騎士団が躍起になっていたのが、朝日も上がらないような時間帯だっただろうか。
 結果としてはどうにもならなかった。
 当り前だ、街一つを取り囲むような城壁を作り出すのにも魔法を用いて数年以上の期間がかかるのに、それに加えて改造を施したいのであればもう一年くらいの時間はあってしかるべきである。
 それを一日で終わらせようというのは土台無理がある話だし、いくつか罠をしかけられるのが騎士団に出来る精一杯の仕事でもあった。
 そんな中で朝の間に与えられた仕事を終え、広く城壁の上で展開していた兵士の一人が鼻歌を歌いながら歩くエルピスの姿を見つけた。
 それは戦争を前にしているとは到底思えないほどの落ち着きぶりであり、一定の速度で警戒している様子もなく歩くエルピスが自分達の方に歩いてくるのを見かけると、兵士達はほんの少し緩まっていた体をこわばらせて敬礼の構えをとる。

「お疲れ様ですエルピス様!」
「お疲れ様。どう? 敵の様子は」
「以前変わりなくこちらに進軍中とのことです。すでに何度か魔力偵察を行っていますが、森霊種の存在が邪魔だと」
「んーそっか。昨日の偵察である程度減らしたからもしかしたら来ないかとも思ったけど、自信たっぷりだね」

 指揮官としてこの場を仕切っていた男の言葉に対して、エルピスは頭を軽く掻きながらそんなもんなのかなと苦笑いを浮かべる。
 昨夜の偵察の話は指揮官含めてこの場にいる全員が既に耳にした――いや、目にした戦闘だ。
 空から降ってきたただ敵を殺すためだけの魔法は、彼らがエルピスに対して恐怖を抱いてしまうほどに強力な物であった。
 今後の人生において二度と聞くことも見ることもないであろう程の轟音と爆炎、それは城壁の内側で待機していた兵士でも簡単に目視できるほどの高度まで登っていたのだ。

「昨夜の一騎当千の活躍は聞き及んでいます。我らも微力ではありますがこの国を守るものとしてこの剣を振るいましょう」
「助かります。初撃は任されているので撃ち漏らしをお願いしますね。それでは私はこの辺で」

 そういってまた壁の上を歩いていくエルピスの背中を見送った兵士たちは、それぞれの持ち場に戻る。
 どれほど恐ろしい魔法であろうと、敵に向かって放たれるのであればそれは何よりも頼もしいものだ。彼らの足取りも先ほどまでに比べれば少しは軽くなる。
 エルピスが向かった先はルンタの中にある行政管理所、その最も奥の部屋。
 適度な家具に適度な間取り、襲撃を警戒されて入り組んだ屋敷の一番奥にあるその部屋にいるのは、この国で最も死んではいけない人物である。

「お疲れ様ですエルピスさん。見回りありがとうございました」

 エルピスの眼前で入ってきたエルピスに挨拶をしながらも、国王グロリアス・ヴァンデルグその人は作戦参謀に囲まれながら頭を捻っていた。
 わざわざ国王であるグロリアスが戦地であるこの場にいる理由は二つ、それは国内的理由と国外的理由に分けられる。
 国内的理由に関して言えば民の命を救うために命を投げ出す国王という形を取るため、国外的にはこれ幸いとちょっかいをかけてくる敵国を王であるグロリアスを囮にすることで炙り出そうという作戦だ。
 それ以外にも武力の誇示など色々な理由はあるが、基本的にはその二つが今回重要視されているポイントである。

「──作戦はどのように?」

 机の上に出された地図には様々な情報が記載されており、その一つ一つが命懸けで手に入れられた情報であることを考えるとこの地図にはとてつもない価値がある。
 記載されている情報を軽く目で追って見るものの、力押ししかできないエルピスには作戦など理解できるはずもなく、素直に作戦の内容を聞く。

「エルピスさんには主攻を務めてもらいます。初手で敵を削ってもらったのちに城壁の上で待機、即応隊として白兵戦には参加しないでもらいます」

 斜陣掛けだの鶴翼の陣だのを期待して話を聞いていたエルピスは、グロリアスの作戦を聞いて何とも言えない苦笑いを浮かべた。
 高度な作戦行動を期待されるのも困りごとだが、そこまで単純な命令であると拍子抜けである。

「ええっと……もっとこう作戦的なのは」
「エルピス様、王と共に様々な可能性を考慮しましたがやはりエルピス様は独立して動いていただいた方が効率が良いという結果になりました。
 ですのでお気持ちは分かりますがどうかご納得を、もちろん単騎が不安でしたら護衛のものもつけますが」
「いや、良いんだけどさ別に俺も一人の方が楽っちゃ楽だから…」

 片膝をついてどうかお願いしますと目で訴えかけてくる作戦参謀の一人に対して、エルピスは苦笑いを浮かべながらその提案を了承する。
 作戦に基づいた行動というのをとってみたい気持ちはあったが、さすがに戦争という非常事態にあってそれを要求するほどエルピスもわがままなつもりはない。

「なら犠牲者を出してもアレだし、前に構えている敵の八割くらいは削っちゃうよ?」
「は、八割ですか?」
「そう。敵の数多いしね、こちら側の犠牲者は0人にしたいからそれくらいの方がいいと思うんだけど」
「本当に八割もの敵を殺せるおつもりなのですか? 敵は二個旅団、四万にもなる軍勢ですぞ!? 前方に展開している兵力だけであっても少なくとも1万はいますぞ!?」

 武装して殺すつもりでやってくる亜人が四万人、それは人類にとって膝を折り恐怖するのには十分な量である。
 今回この都市の防衛にやってきた兵士達はその全員が己が生きて帰れるとは思っていない、それは近衛兵達ですら同じだ。
 オペラシオンを除く全ての近衛兵の召集と、八割の宮廷魔術師に王国騎士団からも多数の精鋭を出してきて、ようやく戦えるかどうかというのが今回の戦争だ。
 いつもであればエルピスへの協力を嫌がる貴族達ですら泣きつかざる負えないほどの、それほどの脅威に対してエルピスは単身でその八割を削ると口にしたのだ驚かれるのも無理はない。
 しかもエルピスは『八割は殺せるかも知れない』ではなく『八割は削る』という、まるで全滅させることだって出来るが面子を立たせるためにそれくらいは残してやると言いたげな──いや、事実それ以外の何者でもない報告に作戦参謀達は全員頭を抱え込む。
 これでは考えてきた作戦など全て無駄だ、単騎でこの文字通り王に手がかかりそうな状況をひっくり返せるのであればそれはもう戦争という概念をなくす。
 半笑いを浮かべる作戦参謀達の前で、まるで自分の事のようにして自慢げに笑みを浮かべるのはそんな彼らの王グロリアスである。

「では師匠、先に国を代表してお礼を。ありがとうございました」
「ははっ、気が早いけど受け取っておくよどういたしまして。グロリアスに魔法の果てを見せてあげるよ」
「マギアさんが居ないのが残念ですね」

 もはや勝利した後の余裕を持っている王と英雄は、そんなことを口にしてニコニコと笑う。
 勝てるかどうかギリギリの戦争を前にしてこの余裕、それこそ強者の証なのだろう。
 ペンが剣より強くなる時代はどうやらまだまだ先らしいと思いながらも、作戦参謀達はエルピスが口にした魔法の果てを心待ちにするのだった。

 /

 遥か遠い大地まで埋め尽くさんばかりの大量の亜人。
 日が昼に上がり始めた頃、ついにルンタへと到着した亜人の軍勢はその隊列を解き各部族がとにか適当に別れてこちらへ向かってくるのを心待ちにしているようだった。
 城壁の上では口の中が乾くような感覚に襲われる兵士が大半であり、それは指揮官クラスの兵士であろうとも変わることはない。
 いまから自らの意思で命をかけて戦闘に挑むのだ、怯えるなという方が土台無理な話である。
 大きく息を吸い込めばまだ十分な距離があるはずなのに、嫌な匂いが鼻のなかを通り過ぎていく。
 そんな中で余裕を見せるのは城壁のど真ん中に立つ6人組、それぞれが使い古した甲冑をその身に纏い戦地にありながらそれが当然のように過ごす彼らは王を護衛するこの国で最も近接戦に長けた6人である。

「それで本当にいいんすかアルさん、俺達が一番最初に出なくっても」
「大丈夫だ。俺の知る限り対多数最強の魔法使いが敵の初動は潰してくれる」
「アウローラ様の一件から実力は知ってるから信用はしてますが、あれがどうにかなるとはとても思えませんね」

 プロムスが指さすのは目の前で突撃の号令を待っているであろう亜人の軍勢。
 この力は確かに強力であるが、集団の力はそれを遥かに超えていると言っても良い。
 個人の戦力1と集団の戦力1では戦争という条件下であれば集団の1の方が強かったりすることはそう珍しくない。
 だからこそ王国側はこれほどの人数を用意したわけだし、初撃を失敗される可能性が少しでもあるならいまからでも近衛兵達で突っ込むように変更したいところだ。
 だがアルキゴスの表情はエルピスが失敗する可能性など微塵も考えている様子はない。
 だから信頼するというわけでは一切ないが、少し待っても良いだろうという程度にはプロムスも思考を切り替えられた。

「──敵魔法詠唱開始! 魔法検知数多すぎて処理しきれません!! 最低でも4000以上です!」
「なっ!」
「落ち着けぇ! 魔法防御用術式は既に用意してある!! お前らは突っ込んでくる敵の対処だ!!」

 先程までは生唾を飲み込む音すら聞こえるような静かさであったのにも関わらず、敵が魔法反応を出した途端に隣の人間の声すら聞こえないほどの大騒ぎが城壁の上で起こる。
 彼等も歴戦の古兵ばかり、なのにこれほど叫びまわるのは王国が戦争を経験するのがかなり久々のことだからだ。
 これだけの人数同士で戦うことなど滅多にない、古兵が呑まれるほどに人数の圧は大きいのだ。

「大丈夫なんでしょうかアルさん、多分これ障壁持ちませんよ!? 私魔法使えるので分かりますけど四千もの魔法反応なんて下手したらこの街ごと更地ですよ!!?」
「うるっさいぞフィリア。エルピスが出た、魔法もなんとかするだろ」

 魔法の数をそのまま魔法の位に押し当てるのであれば、四千発にもおよぶ魔法は打ち方次第では国急魔法にも相当するだろう。
 魔力量だけでいっても戦術級魔法数発分、近衛兵であるフィリアが一月頑張ってようやくなんとかなるかどうかといった魔力量を四回分も様々な属性で撃ち込まれれば城壁などひとたまりもない。
 だがアルキゴスが動く気配は一向になく、近衛兵も指示を出されていない以上動くことは出来ない。

 〔全王国軍兵士に通達、主攻が敵の魔法を受け切ってから反撃するので、それまでその場で待機。繰り返すその場で待機だ〕

 軍団魔法レギオンマジックによって周囲一帯に放たれた声は、確かに彼等の王であるグロリアスものであった。
 敵の攻撃を前にして動くなというのは死ねと言われていると道義であるが、国王からの命令であるならば彼等はその足を地面に縫い付けて離さない。

「魔法攻撃来ます──ッ!!」

 ただ視界一面が白く染まっていた。
 それは多種多様な魔法攻撃によりそれらの色が混ざり合うことで、人の目にはただ白い魔法のように見えてしまっているのだ。
 だがその実態は五属性に加えて特殊魔法に分類されるものや種族限定の魔法など、様々な魔法がただこちらを殺すためだけに放たれてきていた。
 この魔法の光を前にしては城壁などあってないようなものだ、ここで防ぐことが叶わなければ白兵戦を行う前に消し炭にされて終わりだろう。
 そう思えるほどの閃光の中で一人の影が中空に躍り出た。
 それに目立った緊張は見られず、それに集中しているような様子も見られない。
 ただそれがそうであるように、その人物が手を前にかざすとこちらに向かって放たれた白い魔法の全てが動きをピタリと止める。
 時を止める? 障壁で防ぐ? そのどちらでもない。
 人になど理解ができるはずもない神の境地、魔神エルピスの権能は魔法を使う全ての生命の天敵であった。

「おお!!」
「なんという魔法だ!」

 そんな歓声が湧き上がってくるのは魔法が止まったのを認識して数秒してからだ。
 熟練の兵士にそれほどの熟考をさせるほどにはこの魔法の効果は人にとっては珍しいものであって、その物珍しさというのはどうやら亜人達も同じであったらしい。
 おどろいたような声音でこちらを指差しながら何かを叫んでいる性濁豚は、きっと魔法の不発を嘆いていることだろう。

「反転術式起動、増幅術式起動。対象指定敵亜人種の内8割。権能解放!」

 エルピスが手を差し出すと、魔法は侵攻方向を反転させて亜人の軍勢にその矛先を向ける。
 粗削りの魔力で作られた魔法は魔神の権能によって研ぎ澄まされ、無尽蔵の魔力によってその魔法的階級を一段階跳ね上げて分裂させると当たったという事実を確定させた状態で敵に打ち返された。
 昨夜の魔法に比べれば大地に対する被害は少なく済んでいる、だというのに巻き上げられた土煙は互いの間にある空間全てを覆い隠した。
 残酷なまでの力の差から目を覆い隠す用にして巻き上げられた土煙だが、その土煙に紛れてさらなる敵の殲滅を願い男たちは駆け出していく。

「敵主力に被弾を確認!」
「いくぞお前ら! 突撃だ!!」

 巻き上げられた土煙で敵の被害がどれほどかも分からないというのに、兵士達は目の前に餌をぶら下げられた獣のように一心不乱に前へ! 前へ! と。
 効果の程を目で確認する必要すらない、あれだけの魔法を喰らえばそれが亜人であろうと人であろうと結果はさして変わらないのだ。

「bsibydje fun!!」
「死に晒せ異業種どもが!!」
「重騎兵が前に出るぞ! 道開けろ!!」
「──初撃の効果は完璧ですね。陣形は半壊、半数ほど敵も削れましたし犠牲者0も案外あり得そうですね」
「俺も出るぞ。エルピスんとこのが他のとこの警備にあたってくれてるからな、これ以上頼りにするわけにもいかん」

 喋りながらも騎士達は城壁の上から飛び降りると、男たちはそのまま壁を蹴って敵の方へと矢のように駆け出していく。
 陣形を崩されぐちゃぐちゃの陣で駆けてくる敵を抑え切らなければいけない亜人達に対して、騎士達は統率の取れた動きで着実に敵の数を減らしにかかっていた。
 人同士の戦争であるならばまだしも、異種族間同士の戦争は敵を殲滅するまで終わることはない。
 粉砕されていく敵兵団の姿を見ながら、城壁の上でその光景を眺めているのは先程敵陣を壊滅させたエルピスである。

「さてと、どうするのかな? このままだと壊滅させられるだけだけど」

 亜人の部隊が一つ、一つと消えていくたびにエルピスは周囲への警戒を強くしていく。
 いまエルピスがいる場所を除く三方向にはニル、レネス、フェルが一人ずつ配置についており裏を取られる心配はないと思って良い。
 そうして遠くを眺めながら敵の出方を伺っているエルピスの横に音もなく現れたのは、戦闘服に身を包んだフィトゥスである。
 付近の警戒などを頼んでいたのだが、どうやらあらかたの作業は終わったようである。

「お疲れ様ですエルピス様。我々もそろそろ出陣しますね」
「分かっているとは思うけど、くれぐれも犠牲者を出さないようにね。俺がここにいる間は大丈夫だけどここを離れたら援護もできないし」 
「もちろんです。それではエルピス様は新たな敵が来るまでここで私の勇姿をご覧ください」
「この国の土を踏んだこと後悔させてやってきて」

 先程までの兵士達と同じように駆けていくフィトゥスと、それを追いかけるようにしてエルピスも知っている執事やメイド達が騎士達の援護に向かう。
 上から見ていればどこがどれくらい苦戦しているのかよく分かるもので、近衛兵達はさすがに圧巻の制圧力を見せながら小隊~中隊規模の敵を一人で請け負っていた。
 フィトゥスやリリィなども同じくそれくらいの敵を引き受けているが、エルピスが驚いたのは意外にも騎士団の兵士達が一体ニの戦闘でも問題なく切り抜けていられている事だ。
 一対一の戦闘でちょうど良いくらいの戦力比だと考えていたエルピスだったが、彼等をみくびっていたことを認めざるおえないだろう。
 戦闘開始から早くも30分、またたきの間に過ぎていく時間の流れ中であってもエルピスの集中力が途切れることはない。

 魔法障壁や物理障壁を用いて門の上から騎士達の援護を行い、時には小隊規模を亜空間に消し飛ばすことで、常に人間側が有利を保てるように動いていた。
 エルピスが全力で参加すればすぐに終わってしまう戦争、だが全力でエルピスがこの戦争に参加するのは国防をアルヘオ家に投げてしまっていると言うよくない状況を作ってしまう。
 あくまでもエルピスはこの場では手伝いをするだけ、それ以上のこともそれ以下のこともするべきではない。

 〔そのまま近衛は前線の押し上げ! 重装歩兵は一旦後ろに、弓兵はカバー入れて!! 宮廷魔術師はもっと火力回しなさい!〕

 脳内で鳴り響くのは軍団魔法レギオン・マジックによって指示を出すアウローラの声である。
 戦闘中の彼等の耳に届かせるには、それなりの音量で声をかける必要があるとはいえ、喉を枯らしてしまうのではないかと思えるほどの声量で指示を出すのは命がかかっているからだろう。
 武家の貴族の娘として基礎的な知識は持ち合わせているのか、臨機応変に敵の攻撃に対して対処しているアウローラの指示はエルピスからすれば見事なものである。
 行動が遅れ切り捨てざるおえない人員が出た時に、それをカバーしようと少々無茶をしようとしてしまうのは悪いところではあるがそれはエルピスが働けば良いだけの話。
 この場において指揮官としての力を十二分に発揮していたアウローラは、遺憾無くその実力を発揮する。

 〔エルピス! 援護回せる!?〕
「大丈夫だよアウローラ。いまちょうどリリィとフィトゥスが本調子になったところだから」

 エルピスが視界にとらえるのはフィトゥスとその隣にいるリリィの姿である。
 エルピスが知っているリリィは火と水の精霊を指摘して戦って居たのだが、今は上位である炎と氷の精霊を操りながら戦って居た。
 属性が上位になると言うことは、それだけ強い精霊と契約を結ぶことができたと言うことでもある。
 それらを並行して使用しながらも、彼女の剣撃には一瞬の隙もなく、人卵植インセクトが近寄れば炎で焼かれ、粘触種テンタクルは氷の中に閉ざされてその生命活動を停止されている。

「森霊種の国で戦った時よりよっぽど強くなってるなぁ」

 ぽつりと言葉を漏らすエルピスは、彼女達の勇姿をよく見るために城壁に腰をかける。
 他の執事やメイド達も戦闘方法が多少変化しているが、リリィよりも余程変化が見られるのはフィトゥスだろう。
 悪魔として生きるフィトゥスが最も得意とするのは他人の魔力を奪い取ること、もしくは武器を用いない肉弾戦闘だったはずだ。
 魔力の奪取は手で触れていることが最低条件であったはず、なのに目の前で戦闘を繰り広げるフィトゥスは敵から奪い取った剣でも上手く敵の魔力を吸い上げている。
 そうして吸い取られていった魔力によって思い出したかのようにその手から放たれる魔法は、眼前の敵をチリに変えるのには十二分な火力を持っていた。
 そんな蹂躙にも等しい戦闘を眺めていると、ふといくつかの閃光がエルピスの視界に止まる。
 それは高度な技術で隠されてはいるものの、間違いなく魔法術式のそれであった。

「エルピス様っ!!」
 〔エルピス危ないっ!!〕

 警告音を出したのは周囲にいたもの殆ど全員だ。
 外法中の外法、他人の魔法回路を自らの体に入れ墨として刻印し、それによって二重詠唱や三重詠唱を可能にすると言うかつてあったとされる大戦時代に人類が生み出した負の遺産。
 そんなもはや無くなって久しい技術を用いて放たれた森霊種の魔法は、すんぶんの狂いもなく正確にエルピスの額のみを狙って矢のように飛んでくる。
 人であれば閃光の様な速度であるが、エルピスにとっては欠伸が出るほどの長い長い時間を経てようやくたどり着いた矢はエルピスの額に当たると強度が足りずくしゃりと潰れた。
 龍神の鱗を砕くのにはどうやら強度がまだまだ足りなかったようである。

「どうだ! やってやった! やってやったぞ!! ――ぐっ!?」
「隊長被弾!!」

 どう見たって攻撃足りえていない矢の成果に対して、当てられた森霊種は随分と嬉しそうなものである。
 当たれば必殺、そう思って放った矢なのだろうが、だとすればエルピスが放つ矢はどうなのだろうか。
 魔力で作り出した矢を軽く放ってみてみれば、喜んだままの表情で脳天を撃ち抜かれてぴくぴくと体を動かすだけの死体が一つ出来上がる。
 蹂躙はひどくつまらないものだ、こうしてただ無作為に命の浪費がなされることに快感なぞ覚える道理もない。
 まるで列をなす蟻のように目標に向かって進むだけの小さな命を刈り取るのに必要な労力はいったいどれほどか。
 敵からしてみれば悪夢のようなその実力をもってして、エルピスは戦場で退屈を覚えていた。
 そんなエルピスの退屈を見越したようにして二人の亜人種が現れる。
 森霊種と性濁豚、もはや見慣れてしまいそうなほどに目にしたその組み合わせだが、身につけられた装備に刻まれているおびただしい程の傷跡が彼らの歴戦具合を物語っていた。
 明らかに他の面子とは実力がかけ離れているのは、その体からあふれ出る存在感で技能を使用するまでもよくわかる。

「はははっ! これ以上はどうやらいくらやっても無駄そうだな! 降りてこいよ半人半龍、俺と遊ぼうじゃねぇか」
「随分と同胞を殺してくれたようだしね」

 敵として認識するのにはまだまだ程遠い程のその二人は、だが見過ごせば犠牲者を容易に生み出せるほどには強者である。
 かくして龍の子は傍観することをやめ、自らの意思でもって外敵の排除へと足を向けた彼を止める事の出来るものなど存在しない。
 どうやら戦争の終結はそれほど遠くないようである。
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