9 / 16
第一話 シロイオリ
9
しおりを挟む
視えたのは、暗く、底冷えする程に寒い室内。
四方を漆喰の冷たい壁に囲まれたそこは、入口の重い鉄の扉と仕切るように、床と天井を繋ぐ木組みの柵があった。古い色褪せた畳の上には、薄いせんべい布団。
部屋の隅へ目をやれば、主を迎えるのにせめて、多少なりとも髪位は整えろと置いていかれた、鏡台と櫛。
「じゃあ、ここへ閉じ込められていたと思わしき人が、何らかの原因って事なんですね?」
流れるような所作で朝食の味噌汁を啜り、椀を卓へ戻した星がそう問いかけるのに、理久は曖昧に頷くように首を傾げる。
「たぶん・・・。思念に引きずられただけで、裡に入られた訳じゃないからはっきりとは分からなかったんだけど」
強く残った感情は、絶望、悲しさ、無念と、深い深い憎悪。
理久は重い口ぶりで言い、焼き物の鮭へ箸を伸ばした。
「この建物の歴史と経緯を調べた方が良さそうですねぇ」
言った星に、ズズっと音を立てて味噌汁を啜った権堂が「そうだな」と頷く。
「ノブマサってのが誰なのかも、たぶんそれで分かんだろ」
「じゃあ僕と芳桐は朝食をいただいたら、元の持ち主についてや地元の歴史について調べてきます」
僕の得意分野ですから!
にっこり笑って目を輝かせた星に、頼んだと返した権堂は
「んじゃあ俺と理久は一旦ここの事は置いといて、昨日片付けた痕と、他の場所にも異常がないか敷地内の点検だな」
理久へ言って、豪快にとろろのかかった麦飯をかき込んだ。
元は蔵だった物を大幅に改装し特別室を作ったという事以外、建物についての詳細は残念ながら解らないし、これと言った資料も特に無いと言う支配人に、仲介人を介して建物の元々の持ち主を紹介して貰うと、星と芳桐はすぐにアポイントを取って出かけて行った。
それを見送った権堂と理久は、ホテル内を隈なく視て歩く事にする。
各棟、各階、庭の隅まで。初めに視たような悪い気が溜まる場は無いものの、未だ多少残っていた微細な思念や滞っている物を片付けながら、広大な敷地を歩き回れば、気付けば昼過ぎになっていた。
「もう13時過ぎじゃねぇか。どうりで腹減ったと思ったんだ」
時間を確認してボヤいた権堂に、理久も時計を確認してそれに賛同する。
「確かにお腹すきましたね。一度戻りますか?」
問いかけに頷いた権堂はジーンズのポケットからスマートフォンを取り出すと「あ」と小さな声を漏らした。
「坊ちゃんから連絡来てたわ」
気付かなかった。
言ってスマートフォンを操作して耳に当てる。
そうしてすぐに繋がった相手と、簡単に二言三言会話を繰り返し「分かった」と、通話を終了させた。
「元の持ち主から、建物とノブマサの話はある程度聞けたらしい。んで、そこで紹介された別の家に寄ってから戻ってくるってよ」
ジーンズのバックポケットへスマートフォンをしまうと
「理久、飯食おうぜ。歩き回って力使って腹減ったわ。さっき玄関で掃除してた兄ちゃんに聞いたんだが、この近くに美味いラーメン屋があるらしい」
行くぞと、理久を促した。
四方を漆喰の冷たい壁に囲まれたそこは、入口の重い鉄の扉と仕切るように、床と天井を繋ぐ木組みの柵があった。古い色褪せた畳の上には、薄いせんべい布団。
部屋の隅へ目をやれば、主を迎えるのにせめて、多少なりとも髪位は整えろと置いていかれた、鏡台と櫛。
「じゃあ、ここへ閉じ込められていたと思わしき人が、何らかの原因って事なんですね?」
流れるような所作で朝食の味噌汁を啜り、椀を卓へ戻した星がそう問いかけるのに、理久は曖昧に頷くように首を傾げる。
「たぶん・・・。思念に引きずられただけで、裡に入られた訳じゃないからはっきりとは分からなかったんだけど」
強く残った感情は、絶望、悲しさ、無念と、深い深い憎悪。
理久は重い口ぶりで言い、焼き物の鮭へ箸を伸ばした。
「この建物の歴史と経緯を調べた方が良さそうですねぇ」
言った星に、ズズっと音を立てて味噌汁を啜った権堂が「そうだな」と頷く。
「ノブマサってのが誰なのかも、たぶんそれで分かんだろ」
「じゃあ僕と芳桐は朝食をいただいたら、元の持ち主についてや地元の歴史について調べてきます」
僕の得意分野ですから!
にっこり笑って目を輝かせた星に、頼んだと返した権堂は
「んじゃあ俺と理久は一旦ここの事は置いといて、昨日片付けた痕と、他の場所にも異常がないか敷地内の点検だな」
理久へ言って、豪快にとろろのかかった麦飯をかき込んだ。
元は蔵だった物を大幅に改装し特別室を作ったという事以外、建物についての詳細は残念ながら解らないし、これと言った資料も特に無いと言う支配人に、仲介人を介して建物の元々の持ち主を紹介して貰うと、星と芳桐はすぐにアポイントを取って出かけて行った。
それを見送った権堂と理久は、ホテル内を隈なく視て歩く事にする。
各棟、各階、庭の隅まで。初めに視たような悪い気が溜まる場は無いものの、未だ多少残っていた微細な思念や滞っている物を片付けながら、広大な敷地を歩き回れば、気付けば昼過ぎになっていた。
「もう13時過ぎじゃねぇか。どうりで腹減ったと思ったんだ」
時間を確認してボヤいた権堂に、理久も時計を確認してそれに賛同する。
「確かにお腹すきましたね。一度戻りますか?」
問いかけに頷いた権堂はジーンズのポケットからスマートフォンを取り出すと「あ」と小さな声を漏らした。
「坊ちゃんから連絡来てたわ」
気付かなかった。
言ってスマートフォンを操作して耳に当てる。
そうしてすぐに繋がった相手と、簡単に二言三言会話を繰り返し「分かった」と、通話を終了させた。
「元の持ち主から、建物とノブマサの話はある程度聞けたらしい。んで、そこで紹介された別の家に寄ってから戻ってくるってよ」
ジーンズのバックポケットへスマートフォンをしまうと
「理久、飯食おうぜ。歩き回って力使って腹減ったわ。さっき玄関で掃除してた兄ちゃんに聞いたんだが、この近くに美味いラーメン屋があるらしい」
行くぞと、理久を促した。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
性奴の夜
くねひと
BL
Sのセイヤ、そしてMのユウキ……。マッチングアプリで知り合った二人のSMプレイがユウキの視点で語られる。この日も、ユウキはいつものように素裸で緊縛され、セイヤの前にひざまずいていた。でもいつもと少し勝手が違う。なぜって、二人の他に、少年がいるから………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる