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第一話 シロイオリ
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視えたのは、暗く、底冷えする程に寒い室内。
四方を漆喰の冷たい壁に囲まれたそこは、入口の重い鉄の扉と仕切るように、床と天井を繋ぐ木組みの柵があった。古い色褪せた畳の上には、薄いせんべい布団。
部屋の隅へ目をやれば、主を迎えるのにせめて、多少なりとも髪位は整えろと置いていかれた、鏡台と櫛。
「じゃあ、ここへ閉じ込められていたと思わしき人が、何らかの原因って事なんですね?」
流れるような所作で朝食の味噌汁を啜り、椀を卓へ戻した星がそう問いかけるのに、理久は曖昧に頷くように首を傾げる。
「たぶん・・・。思念に引きずられただけで、裡に入られた訳じゃないからはっきりとは分からなかったんだけど」
強く残った感情は、絶望、悲しさ、無念と、深い深い憎悪。
理久は重い口ぶりで言い、焼き物の鮭へ箸を伸ばした。
「この建物の歴史と経緯を調べた方が良さそうですねぇ」
言った星に、ズズっと音を立てて味噌汁を啜った権堂が「そうだな」と頷く。
「ノブマサってのが誰なのかも、たぶんそれで分かんだろ」
「じゃあ僕と芳桐は朝食をいただいたら、元の持ち主についてや地元の歴史について調べてきます」
僕の得意分野ですから!
にっこり笑って目を輝かせた星に、頼んだと返した権堂は
「んじゃあ俺と理久は一旦ここの事は置いといて、昨日片付けた痕と、他の場所にも異常がないか敷地内の点検だな」
理久へ言って、豪快にとろろのかかった麦飯をかき込んだ。
元は蔵だった物を大幅に改装し特別室を作ったという事以外、建物についての詳細は残念ながら解らないし、これと言った資料も特に無いと言う支配人に、仲介人を介して建物の元々の持ち主を紹介して貰うと、星と芳桐はすぐにアポイントを取って出かけて行った。
それを見送った権堂と理久は、ホテル内を隈なく視て歩く事にする。
各棟、各階、庭の隅まで。初めに視たような悪い気が溜まる場は無いものの、未だ多少残っていた微細な思念や滞っている物を片付けながら、広大な敷地を歩き回れば、気付けば昼過ぎになっていた。
「もう13時過ぎじゃねぇか。どうりで腹減ったと思ったんだ」
時間を確認してボヤいた権堂に、理久も時計を確認してそれに賛同する。
「確かにお腹すきましたね。一度戻りますか?」
問いかけに頷いた権堂はジーンズのポケットからスマートフォンを取り出すと「あ」と小さな声を漏らした。
「坊ちゃんから連絡来てたわ」
気付かなかった。
言ってスマートフォンを操作して耳に当てる。
そうしてすぐに繋がった相手と、簡単に二言三言会話を繰り返し「分かった」と、通話を終了させた。
「元の持ち主から、建物とノブマサの話はある程度聞けたらしい。んで、そこで紹介された別の家に寄ってから戻ってくるってよ」
ジーンズのバックポケットへスマートフォンをしまうと
「理久、飯食おうぜ。歩き回って力使って腹減ったわ。さっき玄関で掃除してた兄ちゃんに聞いたんだが、この近くに美味いラーメン屋があるらしい」
行くぞと、理久を促した。
四方を漆喰の冷たい壁に囲まれたそこは、入口の重い鉄の扉と仕切るように、床と天井を繋ぐ木組みの柵があった。古い色褪せた畳の上には、薄いせんべい布団。
部屋の隅へ目をやれば、主を迎えるのにせめて、多少なりとも髪位は整えろと置いていかれた、鏡台と櫛。
「じゃあ、ここへ閉じ込められていたと思わしき人が、何らかの原因って事なんですね?」
流れるような所作で朝食の味噌汁を啜り、椀を卓へ戻した星がそう問いかけるのに、理久は曖昧に頷くように首を傾げる。
「たぶん・・・。思念に引きずられただけで、裡に入られた訳じゃないからはっきりとは分からなかったんだけど」
強く残った感情は、絶望、悲しさ、無念と、深い深い憎悪。
理久は重い口ぶりで言い、焼き物の鮭へ箸を伸ばした。
「この建物の歴史と経緯を調べた方が良さそうですねぇ」
言った星に、ズズっと音を立てて味噌汁を啜った権堂が「そうだな」と頷く。
「ノブマサってのが誰なのかも、たぶんそれで分かんだろ」
「じゃあ僕と芳桐は朝食をいただいたら、元の持ち主についてや地元の歴史について調べてきます」
僕の得意分野ですから!
にっこり笑って目を輝かせた星に、頼んだと返した権堂は
「んじゃあ俺と理久は一旦ここの事は置いといて、昨日片付けた痕と、他の場所にも異常がないか敷地内の点検だな」
理久へ言って、豪快にとろろのかかった麦飯をかき込んだ。
元は蔵だった物を大幅に改装し特別室を作ったという事以外、建物についての詳細は残念ながら解らないし、これと言った資料も特に無いと言う支配人に、仲介人を介して建物の元々の持ち主を紹介して貰うと、星と芳桐はすぐにアポイントを取って出かけて行った。
それを見送った権堂と理久は、ホテル内を隈なく視て歩く事にする。
各棟、各階、庭の隅まで。初めに視たような悪い気が溜まる場は無いものの、未だ多少残っていた微細な思念や滞っている物を片付けながら、広大な敷地を歩き回れば、気付けば昼過ぎになっていた。
「もう13時過ぎじゃねぇか。どうりで腹減ったと思ったんだ」
時間を確認してボヤいた権堂に、理久も時計を確認してそれに賛同する。
「確かにお腹すきましたね。一度戻りますか?」
問いかけに頷いた権堂はジーンズのポケットからスマートフォンを取り出すと「あ」と小さな声を漏らした。
「坊ちゃんから連絡来てたわ」
気付かなかった。
言ってスマートフォンを操作して耳に当てる。
そうしてすぐに繋がった相手と、簡単に二言三言会話を繰り返し「分かった」と、通話を終了させた。
「元の持ち主から、建物とノブマサの話はある程度聞けたらしい。んで、そこで紹介された別の家に寄ってから戻ってくるってよ」
ジーンズのバックポケットへスマートフォンをしまうと
「理久、飯食おうぜ。歩き回って力使って腹減ったわ。さっき玄関で掃除してた兄ちゃんに聞いたんだが、この近くに美味いラーメン屋があるらしい」
行くぞと、理久を促した。
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