怖い日常

深夜のコンビニ客

「なんか、気味悪いな…」

俺はそうつぶやきながら、コンビニのドアを押して入った。いつも通りの深夜のバイト帰り。小腹が空いたし、ちょっと買い物でもしようかと軽い気持ちで寄っただけだった。けれど、今日はなんか違う。店内は薄暗く、いつもの店員の顔も見えない。

「いらっしゃいませー」

奥から声が聞こえた。けれど、その声が妙に低く、少し歪んでいる気がする。なんだ？あいつ、風邪でもひいてるのか？

「…まぁ、いいか」

俺は弁当コーナーに向かい、適当にカップ麺を手に取った。いつものルーチン、いつもの動き。だけど、今日は何かがおかしい。背後に誰かの視線を感じる。しかも、その視線がどこか冷たい。振り返っても、誰もいない。

「気のせいだろう…」

俺はそう自分に言い聞かせ、レジに向かう。しかし、カウンターの前には誰もいない。

「おい、店員さん？」

声をかけても、奥から返事はない。仕方なく、俺はカウンターにカップ麺を置いて待つことにした。すると、奥のドアがギィ…と音を立てて開き、長い黒髪の女性が出てきた。顔は見えないが、制服を着ているから店員で間違いないだろう。

「あ、すみません、会計お願いします」

俺がそう言うと、彼女は無言でカップ麺をスキャンし始めた。妙に手際が悪い。動きがぎこちなくて、まるで誰かに操られているような感じだ。

「えっと、全部で…300円…です…」

彼女が低い声で言った。俺は小銭を探しながら、ちらりと彼女の顔を見た。――見えていなかった。

「な、なんだよ…」

彼女の顔には、目も鼻も口も、何もなかった。ただの平らな、無表情な顔がそこにあった。

「お、おい、冗談だろ！？何だよそれ！」

俺は後ずさった。全身に冷たい汗が吹き出す。だが、彼女は無言のまま、じっと俺を見つめていた。いや、見つめていたというよりも、ただそこに存在しているだけのようだった。

「払うよ、だから…だからもうやめろよ！」

俺は財布から紙幣を取り出して彼女に渡そうとした。その瞬間、彼女の腕が異常に長く伸びて、俺の手首を掴んだ。

「返して…」

「は、はぁ？何を返せってんだよ！」

「返して…私の…」

彼女の無表情の顔が、ぐにゃりと歪んだ。そしてその瞬間、俺の背後から別の気配が近づいてきた。振り向くと、コンビニの外の窓に、無数の顔が張り付いていた。どれも目も口もない、無機質な顔だった。

「嘘だろ…なんだよ、これ…」

逃げようとしても、足が動かない。次の瞬間、腕を掴んでいた彼女の手が氷のように冷たくなり、俺の体温を奪い取るように感じた。

「返して…ずっと…待ってたの…」

そして、俺は気づいた。このコンビニ、ここにあるはずがない。俺が最後に訪れたのは、一年前…彼女が行方不明になった日だった。

「まさか、嘘だろ…」

目の前が真っ暗になり、最後に聞こえたのは、彼女の低い笑い声だった。