俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章53 Water finds its worst level ⑯

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「――マジでよォ、オマエにはガッカリだぜ。なぁ? 早乙女」
「マジそれな! なんだよっ」

「…………」


 弥堂はクラスメイトたちに苦言を呈されている。


 希咲に言われたい放題にやりこめられている姿を見て、「あれ? コイツ割と言っても大丈夫なんじゃね?」と周囲にナメられ、今は先程の体たらくについて追及されている。


 弥堂は自身の脇に立ってツラツラとダメ出しをしてくる早乙女と、馴れなれしく肩にガッと肘を掛けながら不満を伝えてくる鮫島の二人を視て、『どうしてこんなことに……』と白目になった。


 つい30分前に登校してきた際、最近一部のクラスメイトが馴れなれしくなってきて不愉快だと考えたばかりだというのにこのザマだ。


 それもこれも――


 弥堂は胸の裡に宿る燃え尽きぬ怨嗟を燃料に黒目を呼び戻し、水無瀬の持つスマホに映ったギャル女を視る。


『あによ』


 負けず劣らずの不機嫌そうな目を返してくる。


 この生意気な女とわけのわからないことになると、その度にそれを見た周囲の者たちにナメられ、そしてこのように気安く馴れ馴れしくされるようになるのだ。

 間違いないと弥堂は確信した。


 ここでも、どこでも、常にこの女が自分の目の前に立ち塞がる。

 強い憎しみの念が思考を曇らせ、そう決めつけるよう誘う。

 それは自身の根幹となる魂がこう言っているのだ。


――早くこいつを敵だと決めろと。


 鬱屈とした負の色で澱む瞳にその敵の姿を写す。


『無言で見てくんなっつーの。キモいのよ』

「……全てお前のせいだ」
『はぁ? あんたが悪いんでしょ!』

「黙れ。お前がさっさとブラを見せればよかったんだ」
『見せるわけねーって何回言わすのよ! つーか、『お』はどうした⁉ あんた、あたしのパンツだけじゃなくてブラまでバカにする気⁉』

「ロクでもない災厄を振り撒くのはパンツだけかと思ったら上も同じじゃねえか。だがそれもよくよく考えれば当たり前のことだった。揃いの物なんだからな。上下セットとはそういう意味か」
『や。なに言ってんのかわかんないけど、上下セットは絶対にあんたが思ってるようなことじゃないし』

「ふん、なんと言い繕おうと結果が物語っている。お前の厄パンツと厄ブラを見てしまったせいでこちらは散々だ。この災厄のギャルめ」
『誰が災厄のギャルだ! 魔女みたいにゆーな! つか、ひとの下着見といて災厄呼ばわりとかなんなの! マジうざいっ! 少しはリスペクトしなさいよ!』

「断る」


 間近でこのように激しく言い合っていても、それを見ている早乙女も鮫島くんたちもケロっとしている。

 本人たちは本気で悪意をぶつけ合っているのだが、周囲はもうそれを見慣れてきていた。

 だから、気軽に口を挟んでくる。


「まぁまぁ、落ち着くんだよ弥堂くん。口ゲンカじゃ絶対勝てないって」
「おぉ、そうだぜ。勝負に負けたからって後からキレてゴネんのはダセェよ」

『は? なんなのあんたたち。ジャマしないでよ。こいつ泣かしてあげるんだから』
「いつも泣いてんのはお前だろうが。それに俺はまだ負けてはいない」

「お? まだまだやる気充分なんだよ」
「流石だなテメェ。気合入ってんじゃねェかよ」


 そして二人は何故か若干弥堂寄りだった。


『ちょっと! あんたらどっちの味方なのよっ!』

「ままま。ルール上は七海ちゃんが絶対有利なんだし、ハンデだと思ってののか達がセコンドに入るのを許して欲しいんだよ」
「つか弥堂、オメェよぅ。実際問題キツくねェか? こんなん普通にやっても勝てねェぜ?」

「お前のような素人と一緒にするな。俺はプロフェッショナルだ」

「おぉ! 弥堂くんってば、セクハラに並々ならぬ自身有りニキなんだよっ!」
「俄然期待感も高まってきたな! で? 何か手はあるのか?」

「もちろんだ」

『こらーっ! あたしをムシすんなぁっ!』


 自身の目の前で、自分を蔑ろにされたまま、自身にどうやってセクハラをするかと相談をされる。そのことへの正当な抗議をしようとしたが、これに関しては如何せん分が悪かった。

 現在の希咲さんはネット通信でのリモート参加である。

 一対一の通話によるタイマンならばともかく、複数人が入り乱れるバトルロイヤル形式では不利にならざるをえなかった。


「えへへ、みんな夢中だね。ななみちゃん、私とお喋りしよー?」
『ま、愛苗……、で、でも……』

「あのね? さっき言ってたクマさんのお話聞きたいの。森にクマさんいたの?」
『あっ! そう! そうなのよ! あたしもうビックリしちゃってさ。ってのもね……』


 本来ならば弥堂たちを止めなければならない立場のはずの希咲だったが、大好きな親友の愛苗ちゃんが自分の体験談を聞きたいと言ってくれたので、いてもたってもいられなくなりウッキウキでお話する。


「それでそれで? 弥堂くんの秘策ってなぁに?」
「あぁ。具体的な話が聞きたい。どんなプランなんだ?」

「プランや秘策というよりは、そうだな……。これは最後の手段。それに近い」

「……やっぱりか」
「んん? 鮫島はわかるの?」

「まぁな……。でも弥堂の口からちゃんと聞こうぜ」
「え? うん……、じゃあ弥堂くん。その最後の手段って……?」

「あぁ。その最後の手段とは……」


 前のめりになる早乙女と鮫島の前で、弥堂は一度言葉を切って眼を伏せる。

 そしてその眼を開くとその瞳には不屈の蒼き炎が宿っていた。


「――チンコだ。かくなる上はもうチンコを出すしかない」

「ちちちちちっ――⁉」
「……やっぱり、そうか……。それしかねえもんな……」

「いやいやいや……っ! 絶対ダメでしょ⁉」
「何故だ? この局面ではもうチンコ以外考えられんだろう」
「おぉ、そうだぜ? オレたちもさっき話し合ったんだが結論はやっぱチンコだったぜ」

「終わっちゃうよ⁉ 色々と!」
「だが、それでもチンコを出すしかない」
「あぁ。男にはな、チンコを出さなきゃならねェ時があンだよ」

「それってチンコじゃなくて勇気とかじゃないの⁉」
「なんだよ。早乙女オマエ見たくねェのか? チンコ」

「そ、そんなの見たいわけ…………、すみません、ののかはウソを吐こうとしました。実は結構見たいです、チンコ」
「おぉ、やっぱそうだよなっ」

「ののかの家、お兄ちゃんいるんだけどさ。大学生の。もう何年も前からラッキースケベ狙ってるんだけど、あの男なかなかガード固くってさ。一回見てみたいんだよね」
「……オマエ、それはやめてやれよ……、かわいそうだろ……」
「……最低だぞ」

「なんで二人揃って裏切るのっ⁉ なんか仲良くなってない⁉」


 男と女は大体チンコで仲良くなるものだが、男と男も大抵はチンコとか言ってれば仲良くなってしまうのが人間社会の仕組みであった。


「なかなかやるじゃないか、鮫島。その答えに辿り着くとはな」

「ヘッ、オレだってそれなりに修羅場潜ってんだ。だが弥堂、やっぱオメェもハンパじゃねェな」

「ほら、仲良くなってるし」

「なんだよ、オメェも一緒だぜ早乙女。おい弥堂、コイツもチンコ見てェんだってよ。ついででいいからちっと見せてやって――」

「――それは待って欲しいんだよ」

「え?」


 気を利かせてチンコを仲介する鮫島くんを早乙女は制止する。

 目を丸くする彼へ彼女は神妙そうな顔を向けた。


「確かにののかはチンコを見たい。それは正直な気持ち……、でもね。公式声明としては『そんなの見たくない』そういうことになってるんだよ……」

「ア? どういう意味だ……?」

「ののかは女子だからね……。もしも弥堂くんがホントにボロンってしたら心の中では『ありがとう』って言うよ? でもね、実際には非難するし軽蔑する。そういう素振りを見せなきゃいけないんだ……。陰ではガッツポーズだけどね」

「よくわかんねェけど、女ってメンドくせェんだな?」

「うん。女子だから……。そういうわけで弥堂くん。勝手なこと言ってるのはわかってるけど、でも最初にそれだけは伝えておかなきゃって……」

「気にするな。俺はやるべきことをやる。お前も自分の思うように行動すればいい。それが俺の邪魔にならない限りは何も言うことはない」

「へへ……、オマエもなかなかイイとこあんじゃねェか……!」

「ふふ……、ありがとう、二人とも……。よぉっし! なんにせよ、まずは七海ちゃんの許可を貰わないとね!」

「そうだな! しくじんなよ? 弥堂っ!」

「当然だ」


 作戦は決まったとばかりに三人は顔の向きを揃える。全員の視線の向く先は希咲の映るスマホを持つ水無瀬の方だ。


「おぉーいっ! 七海ちゃーん? 弥堂くんがちょっとチンコ見て欲しいみたいなんだけど出してもい――っ⁉」
「ちょっくら見てやってくれよ希咲ィ! コイツを男にしてや――っ⁉」


 朗らかに声をあげた早乙女と鮫島くんだったが、絶対零度の軽蔑の眼差しに射竦められ途中で言葉に詰まった。


 水無瀬と二人で談笑していたはずの希咲が映ったスマホの画面はすでにこちらを向いており、彼女は隠すつもりのない嫌悪感を露わにしていた。


『バカじゃないの、あんたたち』


 たったの一瞥で怯んだ二人がスッと後ろに下がったので、仕方なく弥堂は口を開く。


「おい希咲。続きだ。俺の――」

『――イヤよ』

「…………」

『イヤ』


 話を最後まで聞くこともなくバッサリと斬り捨てられる。


「まだ何も言っていないが?」

『……聴こえてんのよ……! あんなでっかい声でバカみたいなこと喋って……! 愛苗に汚い言葉聴かせんじゃないわよ!』

「なんのことだ。そんなことより今からお前に見せるものが――」

『――ないわよっ! 見ないから! 当たり前でしょ!』

「だからまだ何も言ってねえだろ」

『聴こえてたって言ってんでしょ! ヘンなもん出したって絶対にあたしは見たくないからっ!』

「変なもの? お前なにか勘違いしてないか?」

『してないから! ヘンなものでしょ⁉ そんなの出すの絶対にやめてよね!』

「お前本当に聞いていたのか? 誤解があるようだぞ。俺が何を出すと思っているんだ?」

『言うわけないでしょ! 誤解じゃないから!』

「だからそれを確かめるために何を出すと思っているのかを言えと言っているんだ」

『ピピーっ! はいアウトーっ! 2枚目のイエローカードで退場ー! あんたの負けね』

「おい、横暴だぞ」


 碌な説明もせずに失格扱いをしてくる審判に弥堂が抗議をすると、引っ込んだ二人も加勢してきた。


「オイ、そりゃねェだろ希咲よォ。話くらい聞いてやってもいいだろうし、見るくらいしてやってもいいじゃねェか。ただチンコ出すってだけの話だぜ?」
「そうだよ七海ちゃん。弥堂くんも真剣に考えた結果のチンコなんだから受け止めてあげようよ?」

『だからそれがイヤだっつってんのよ! これっぽっちも誤解じゃないじゃないっ!』


 自分は極めて常識的なことしか言っていないのに何故か多勢に無勢となってしまった希咲は頭痛と眩暈がしてくる。しかしここも絶対に勢いで負けてはいけないところなので、画面の中でキョトンとしているバカどもを精一杯怒鳴りつけた。


『そんなもん出すだけでも頭おかしいのに、なんであたしが見なきゃいけないのよ⁉ おかしいでしょ!』

「そんなこと言ってもセクハラだし……、なぁ?」
「うん。セクハラだからしょうがないんだよ……」

『そもそもセクハラすんのがおかしいでしょ⁉』

「そうだけどよ、でもそういうルールにしたのはオマエじゃねェか」
「真剣に勝負に向き合った結果だし……」

『そ、そうだったとしても……、あたしにセクハラするって勝負じゃん! それでなんでそいつがその……、アレ……出すってことになんのよ!』

「でもなぁ……、あそこまで縛り入れられたらもうチンコ出すしかねェじゃん」
「そうだよ七海ちゃん。チンコ出すのだって立派にセクハラの一種だよ。認めてあげようよ」

『なんであたしが聞き分けないみたいになるわけ⁉』


 元々ちょっとバカだった連中が大バカに感化されて完全にバカになってしまい希咲は劣勢に追いやられる。


「話はついたな。聞いてのとおりだ。俺は今からチンコを出す。それで決着をつけるぞ」

『秘密兵器みたいにゆーなっ! ホンキでバカなんじゃないの⁉』

「おい、男がチンコを出すとまで言ってんだぜ? そんなにチンコをバカにすんじゃねェよ」
「そうだよ。多大なリスクを負ってのチンコだよ? ここは女としチンコをて受けてたつべきだよ」

「そういうことだ。ルールに則った結果のチンコだ。俺のチンコが必ずお前を討ち倒す。俺のチンコと勝負しろ希咲」

『だぁーーっ! チンコチンコうっさいのよ! 小学生かっ! どいつもこいつも――っ⁉』


 バカどもを叱りつけている途中で七海ちゃんはハッとする。


 つい自分もその単語を口にしてしまったことに気付いてチラっと親友の顔色を窺う。

 しかし現在は彼女のスマホが自分のアバターなのでカメラに収まっていない愛苗ちゃんのお顔は見えなかった。


『ま、愛苗……?』

「うん。なぁに? ななみちゃん」


 恐る恐る呼びかけると彼女はヒョコっと画面に顔を出した。


『ち、ちがうの……、今のはつい……、ごめんね……?』

「えっ? えっと、私ならだいじょうぶだよ? みんなのお話聞いてて楽しいし」

『そ、そう……? ホントに……?』

「うんっ。だから気にしないでみんなとお喋りしてあげて?」

『う、うん……』


 ニコッと笑いかけてくれる彼女の様子に、どうやら嫌われていなかったようだと安堵する。

 そして表情をコロッと変えてバカどもと対峙した。


『しね』

「何が気に食わないんだ、お前は」
『それいちいち答える必要あんの?』

「お前の出したルール上は問題ないはずだ」
『大ありよっ!』

「お前のルールとは要はお前の身体に対して何かアクションを起こすことを禁ずるものだろう? 露出するチンコは俺のものだ。それともなにか? このチンコは自分の所有物だと、そう主張するつもりか?」
『クソキモいことゆーなっ! そんなもん所有した覚えはないわよ!』

「だったら問題ないな。ではいくぞ――」
『――いかせないわよっ! なんでまた見せてこようとするわけ⁉ こないだも見せてきたんだからもういいじゃんっ!』

「一回見てんだから別にいいだろうが」
『もう見たくないって言ってんの!』


 何やら雲行きのおかしくなった二人の会話に色々な人たちが「ん?」と首を傾げる。

 弥堂の背後でも早乙女と鮫島くんがヒソヒソと意見を交わしていた。


「お、おい、今『また』って言わなかったか?」
「言ってたんだよ。『もう』見たくないってことは……」

「オイオイオイ……、マジかよ……あいつらやっぱ……」
「こ、これはワンチャンあるよ……。ガチかもしれないんだよ……!」


 意地悪なマイクがしっかりとその言葉を拾い、それを聞いた希咲は自分が何を口にしたのか気が付きハッとなった。


『みっ、みみみみてないっ! みてないから! セーフだったの!』
「あ?」

『あ?じゃないでしょ! あんたのなんて見てないんだから!』
「そうか」

『みてないし、みたことないけど、みたわけないから、絶対にみないのっ!』
「なに言ってんだお前」


 興奮してわけのわからないことを言い出した希咲を胡乱な瞳で見遣る。


『とにかく! アウトだから! ファウルっ! ダメっ! 出したら退場っ!』
「ルールの改竄か。卑怯だぞ」

『もともとダメだから! 当たり前でしょ!』
「そんなこと言ってなかっただろうが!」

『えっちなのはダメって言ってんじゃん! 毎年ボロンってして逮捕されるオジサンとかいるでしょ⁉ フツーに犯罪なのはダメに決まってんじゃん!』

「まぁ、そりゃそうか」
「ですよねーって感じなんだよ」

『あんたら、なに? そのあっさりとした態度。じゃあなんで一緒になって言ってきたのよ?』

「いやー、ワンチャンあっかなぁって思ってよ」
「ののかは面白いかなーって思いまして」

『……あんたら今度覚えときなさいよ? あたしそっち帰るまで絶対に忘れないから……』

「…………」
「…………」


 そろそろぶちギレが近い希咲にマジの目で死刑宣告され、ビビリ散らかした二人はまた後ろへ下がる。そして弥堂へ耳打ちをした。


「び、弥堂くん、そろそろヤバイんだよ……っ」
「お、おぉ。もうチンコはやめとけ。な? 今度会った時モギ取られるぞ?」


 引き際を見極めた二人は撤退を提案をしてくる。

 しかし退くことなど選択肢にない男がそれを聞き入れることはない。


「ふざけるな。目的も果たせずにおめおめと敗北を認めろと言うのか?」

「そ、それなら他の方法を考えるんだよ」
「だな。命あってのセクハラだぜ」

「他のと言われてもな……。何か代案はあるのか?」

「あっ! じゃあじゃあ! こんなのはどう?」


 命知らずのクラスメイトを説得するために早乙女は提案を持ち出す。


「触るのも無理だし、見たり見せるのもダメならやっぱり言葉しかないんだよ」

「だがそれもファウルだと言っていたぞ」

「エロいワードを言わなきゃいいんだよ」

「ほう」


 早乙女の語る内容に弥堂は一定の関心を示した。


「こっちが要求した言葉をそのまま言わせようとすると引っ掛かりやすいから、ここは質問形式にして答えを相手に言わせるんだよっ」

「さっきそれで怒られなかったか?」

「それはエロワードを言わせようとしたからだよ。だからここはその言葉自体はエッチじゃないけど、それを七海ちゃんに言わせることでセクハラになるような、そんな質問を投げかけるんだよ!」

「だが、そんな質問とはなんだ?」

「う~ん……、難しいけど、こういう時は基本に立ちかえってみるのはどう?」

「基本?」

「セクハラの基本だよ。数字とかどうかな? ブラのカップは流石にダメだろうから。基本の3サイズから攻めてみるとか」

「なるほどな。よし――おい、希咲」

『イヤよ』

「…………」


 早乙女の助言通りにしてみようと思ったら、またも始める前に斬り捨てられる。


『そんな目で見たってダメだから』

「たかが数字だろ」

『は? バカじゃん? 3サイズとか言ったらあたしの身体のこと色々知られちゃうじゃん。つか、3サイズ聞くとかTHE・セクハラじゃん。ダメに決まってんじゃん』

「……知られたら困る……、そうか。お前言いたくないんじゃなくて言えないんだな? そうすることでむ――」

『――殺すぞ』

「…………」

『その先言ったらレッド100枚だから』

「クソが……」


 カードをチラつかせて脅迫をしてくる悪質なジャッジに弥堂は怒りを感じる。


「おい早乙女。ダメみたいだぞ。次だ」

「そう言われてもなぁ……。ののかももう思いつかないなぁ」


 どうやら次善の策はなかったようで、いよいよ手詰まりとなってきた。


『ねー? もういいじゃん。いつまでやんの? これ』
「まだだ……っ」

『必死すぎてマジキモいんだけど』
「クソ……っ」


 戦闘続行の意思を示したものの、しかしそれで何か効果的な手段を思いつくわけではない。


(何かないか……っ!)


 3サイズほどクリティカルでなくても、そこはかとなくセクハラにはなる――そんな数字は。


 脳幹が焼き切れるほどに思考を回転させるが、自身に培っていないものが出てくるはずがない。

 もともとセクハラの知識に明るいわけでも、セクハラが得意なわけでもない弥堂ではこの土壇場でそれを思いつけるわけがない。


 弥堂は焦りを感じる。

 だが、こんな時にどうすればいいかは知っていた。


 自分自身に答えがない時はそれを他人が持っているものだ。


 記憶の中に記録されたあらゆる人物の言葉から起死回生の一手を探し出す。


 そうすると過去から時を超えて語り掛けてくる者がいた。


『――哎呀アイヤー朋友ポンヨウッ……、朋友ポンヨウヨォ……ッ!』


 しゃがれた声、皺くちゃの顔、目や口元を覆い隠すほど伸びきった白い眉毛と髭。

 確かに覚えのあるその人物は――


(――チャンさん……!)


 弥堂の知り合いのホームレスで情報屋をやっている怪しい老人で、シケモクを吸わないと正気に戻らないというイカれた人物だ。


 そんな彼が答えを持っている。


 それは一体なんだっただろうか。

 さらに記憶を探り、そしてその答えに辿り着く。


「…………そうかっ!」


 そして弥堂は眼を見開き今の時へと回帰した。

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