俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章31 風紀委員会 ②

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 スンスンと鼻を鳴らしながら木ノ下先生が教室から出ていってから何秒かして、入れ替わる形で一つの人影が入室してくる。


 小さな人影だ。


 赤い髪色のアホ毛をヒョコヒョコさせながら進んできて「とぅっ!」と軽やかにジャンプすると、その姿が露わになる。

 教卓の上に飛び乗ったその人物は、着用するメイド服がひらりと舞うのにも構わずに小手を翳して教室内をキョロキョロと見回し、弥堂の所で視線を固定した。


「あ、いたいたっ。おーいっ! “ふーきいん”っ!」


 教室に現れたのは学園で飼育しているちびメイドの“まきえ”だった。


 彼女は弥堂が何か反応するよりも早く、再び「とぅっ!」と掛け声をあげ教卓から飛び立つ。

 空中でギュルルルルッと前転を繰り返しながら華麗に弥堂の机の上に着地をキメた。


「ひぁぁぁぁっ⁉」


 弥堂の膝の上に座っていた水無瀬がそれに驚き、弥堂に押し付けられて両手に余っていた何本かの酢いかを空中にばら撒く。

 “まきえ”はそれにバクバクバクッと素早く食いつく。くちゃくちゃと咀嚼して一気に飲み込むと、ベベベッと床に串を吐き出した。


「やい、“ふーきいん”! オレと勝負だっ!」

「…………」

「おい、きいてんのかよ? このクソやろ――」

「――まきえちゃん、まきえちゃん」

「あん……? お、なんだよ、“まな”じゃねえか。そんなとこで何してんだよ?」

「あのね? 床にゴミを捨てちゃダメなんだよ?」

「え? あっ……、やっちまったっ!」


 “まきえ”は言われて初めて自分の所業に気が付いたとばかりに驚く。弥堂はそれを好機と見た。


「そうだ。水無瀬の言うとおりだぞ。謝れ」

「ご、ごめんなさい……」

「ふん。いいか? ゴミとは社会の排泄物だ。人類にとって必要なものだけを取り込んで消費し、残った不要なものがゴミとなる。つまりウンコだ。それをその辺に放り捨てるのは、道端でクソを垂れ流す野良犬に等しい。そんなこともわからないのか? 薄汚いウンコタレの馬鹿犬め」

「ひぐっ……⁉ うぇ……っ、そ、そこまで言わなくたって、いいじゃんかぁ……っ、ぶぇぇぇっ……!」


 いきなり現れて出会い頭にイキってきたメス餓鬼は即座に泣きが入った。


「うぁぁぁぁっ、“まなぁ”っ! “ふーきいん”がぁ……、“ふーきいん”がぁぁぁ……っ!」

「あぁぁ……、な、泣かないでまきえちゃん……っ! こっちおいでー?」


 慌ててパっと両腕を開いた水無瀬の胸元に“まきえ”は飛びついた。

 必然的に弥堂のお膝にはJKと女児が一纏めに乗っかることとなった。


 今日という日はもう終わったと安心していた生徒たちは、余計に犯罪的な絵面が構成されたことに動揺し、これ以上関わりたくないと足早に教室から出ていく。


「ぅっく、ひぃっ……、アイツひどいんだ……。いぬって……っ! いぬってゆったぁ……っ! アイツの方がいぬっぽいのにぃ……っ! ぅぇぇぇぇっ……」

「うんうん。大丈夫だよ。まきえちゃんはワンちゃんじゃないもんねぇ。ちゃんとお片付けしたら弥堂くんも『いいこいいこ』してくれるよ?」

「うっ、うそだぁ……。だってアイツはクズだもんっ。どうせ『めっ』しかゆわないもんっ……!」

「そんなことないよぉ。だから、ね? 一緒にお片付けしよ?」

「う、うん……、わかったぁ……、おかたづけ、する……ぅっ」

「それには及ばねえぜっ!」


 水無瀬さんが一生懸命に女児をあやしていると、男らしい覇気のある声がかかる。

 現れたのは、弥堂がいなければこのクラスで一番のクズと呼ばれていたことは間違いないコンビの片割れである須藤くんだ。


 須藤くんは精悍な顔つきで近寄ってくると、徐に懐からハンカチを取り出してピッと振って広げる。

 そして床に膝まづくと散乱している酢いかの串を全て拾い、そのハンカチで包んだ。

 そして立ち上がりながらさりげない動作でスッと懐に仕舞った。


 彼は頼りがいのありそうな力強いサムズアップを残すとそのまま所定の位置へ戻っていく。

 一同はそれを無言のまま目で追った。


「――悪ぃな、話の途中だったのに離席してよ」

「お、おい……、そんなことどうでもいいけど……。須藤。お前。それ。どうするつもりだ……?」
「ん? なに言ってんだ? 片付けるに決まってんだろ?」

「そ、そうだよな……? 捨てるに決まってるよな……?」
「当たり前だろ? 俺が責任を持って適切に処理をしとくよ。オトナの男としてな」

「……捨てるって、言わねえのか……?」
「……鮫島。お前が何を危ぶんでいるのかオレにはわからねえ……、だがな?」
「…………」
「オレは巨乳好きだ。デカければデカいほどイイと、そう思っているし、その通りに行動してきたつもりだ。それはお前が一番よく知ってるだろ?」

「そ、そうだよ……な……? ワリィ、オレの考え過ぎだったみてぇだ……」
「なに、気にすんなよ。オレたちダチだろ? オレは気にしてねえよ」

「あぁ。サンキュ。オメェが自主的にゴミ拾うとか見たことなかったからよ、つい動揺しちまったぜ」
「ハハッ、オレん家よ、小せぇ妹がいるからさ。なんつーか、癖? みてぇなモンでよ……」


 朗らかに会話をしながら教室から出ていく須藤くんと鮫島くんを見送り、教室に残った生徒たちはそれぞれの仲間内の会話に戻っていく。


 ピタっと泣き止んでいた“まきえ”は水無瀬と顔を見合わせると、再び号泣しだす。


「うあぁぁぁぁっ、“まなぁ”……っ! ウンコタレって……、“ふーきいん”がウンコタレってゆったぁ……、ぶぇぇぇぇっ……!」

「よしよし。大丈夫だもんねぇ? まきえちゃんは漏らしてないもんねぇ」

「うんっ! オレちゃんと昼飯くったあとトイレでしたもんっ! うんこ漏らしてねえもんっ……!」

「そうなんだぁ。いっぱいでた?」

「うんっ、いっぱいでたっ!」

「えへへ、よかったねぇ? うんちいっぱいでてえらいねぇ?」

「へ、へへっ……! オレちゃんと野菜も食ってっからさ!」

「わぁ、すごいっ! まきえちゃん、いいこだね? いっぱい『よしよし』してあげるね?」

「わぷっ」


 水無瀬がギュッと抱き寄せると、“まきえ”はモニュンっとおっきなお胸に顔を沈める。

 そのまま頭を撫でられていると、泣きっ面はあっという間にうっとりとしたものに変わる。


「……ママぁ…………」

「えへへー。いいこ、いいこぉ」

「……いーにおい……、まな、まえよりいーにおい……、なんでぇ……?」

「え? そうかな? 前は体育あったから……?」

「わかんなぁい……、いーにおい……、まえより、おいしそ……じゅるり」

「私より酢いかの方がおいしいよ?」


 何やらおかしな雰囲気になってきた女児二人を机の上にのせて弥堂は自身のスクールバッグを持つ。速やかにこの場を離れるべきだと判断したからだ。


「では、俺は失礼する」

「えっ……? あっ、弥堂くん……っ!」

「ごゆっくり」

「……ごゆっくりぃ…………、って! 待てコラァーーっ!」


 思いのほか正気に返るのが早かった“まきえ”に呼び止められる。

 弥堂は舌を打った。


「……なんだ?」

「なんだじゃねえよ、このヤロー! わざわざテメーに会いに来たのに何も用件言えてねえじゃねえか……っ!」

「俺はお前に用はない」

「オレがあるっつってんだよバカやろうっ! “ふーきいん”! テメーはほんとダメな!」

「うるさい。用があるならさっさと言え」

「弥堂くんっ、もっと優しく言ってあげて? まきえちゃんのお話ちゃんと聞いてあげようよ」

「そうだそうだっ! もっと言え、“まな”っ!」


 子供二人がかりで対話を要求され、弥堂は仕方なく応じてやることにした。


「ところで今日は青い方はどうした?」

「あん? “うきこ”なら仕事だよ」

「嘘を吐くな。あいつが仕事をするわけがないだろ」

「そんなことねえよ⁉ “うきこ”だってたまには仕事することもあるんだよ! 知った風なこと言うんじゃねえよ!」

「そうか」

「そうだぜ。今日は部室棟の修理に行ったよ。なんでも空き部屋のガラスが割られてたとかでよ」

「それは酷いことをする奴もいるもんだな」
「大変だね」

「……テメーがやったんじゃねえよな? “ふーきいん”……」

「お前は破壊跡を見れば俺が壊した物かわかるんじゃなかったのか?」

「いや、まぁ、そうだけどよ……」

「お前の見立てではどうなんだ?」

「いや、わっかんねーけど、テメーの必殺パンチではなかったと思う……」

「なら、俺じゃないんだろう。自信を持て。お前の目は確かだ」

「おっ、そうか?」

「そうだ」

「へへっ、じゃあテメーは無罪だぜ。“ふーきいん”。よかったな」

「あぁ。ありがとう。これからも頼むぞ」

「おうっ! 任せとけよ!」

「あぁ。じゃあな」

「おうっ、またなっ!」
「ばいばい、弥堂くんっ」


 誤解が解けたようだったので弥堂は踵を返そうと――


「――いやいや、まてよっ! おかしいだろ!」

「チッ」

「なんでテメーはいつもそうなんだよ! オレが用があるってんのになんでテメーが違う話すんだよ! そういうのやめろよ! オレがだまされちゃうだろっ」

「だったら、何の用だ。俺は忙しいんだ」

「テメーこないだバックレただろっ!」


 ビシッと指をさされ弥堂は怪訝な顔をする。


「なんのことだ?」

「スッとぼけてんじゃあねえよ、このヤロウッ! こないだお嬢様が待ってたのに、テメー無視して帰っただろ⁉ オレたち怒られたんだからな!」

「それがどうかしたのか?」

「どうか⁉ どうかしたかっつったか? このクソやろうっ! ちゃんと約束は守れよ!」

「俺は約束などしていないが?」

「しただろ! お嬢様が生徒会室で待ってるって“うきこ”から聞いただろ!」

「聞いたな」

「ほらっ! 約束やぶったじゃん! バックレたじゃんっ!」


 ほれ見たことかとドヤ顔で指を向けてくる頭の悪い児童に弥堂は溜息を吐いた。


「なんだよその態度っ! テメーが悪いんだろ! わかってんのかよ!」

「わかってないのはお前だ」

「なんだとぉっ⁉」


 両手を振り上げてギャーギャー喚く子供に弥堂は道理というものを教えてやることにする。


「いいか? 確かに俺はお前の片割れから、『生徒会長閣下が呼んでいる』と聞いた」

「だろぉ!」

「そして、『生徒会室で待っている』とも聞いた」

「そうだ!」

「俺はそれに『そうか』と答えた」

「ほらぁっ!」

「つまり俺は約束などしていない」

「なんでだよ!」


 物分かりの悪い奴だと侮蔑の眼を遣る。


「俺は『わかった』だとか『行く』だとかは一言も言っていない」

「は……? えっ……?」

「了承をしてないから約束は成立していない」

「なんだよそれっ⁉」


 いい年をしてふざけた言い訳をする男にちびメイドは激怒した。


「テメーいい加減にしろよ! いっつもそうやってヘリクツばっか言いやがって! テメーはほんとダメな! お嬢様が来いっつってんだからちゃんと行けよ!」

「これが屁理屈なら大変なことになるぞ。相手に要求を伝えさえすれば一方的に約束が成立してしまう。それがどういうことかわからないのか?」

「あぁ? ややこしいこと言うなよ。そうやってまた誤魔化すんだろ」

「そうか。なら、どういうことか教えてやる」


 弥堂は水無瀬の方へ眼を向けた。


「おい、水無瀬。一億円くれよ。何故なら俺が欲しいからだ」

「えっ? でも、私一億円もってないよぅ……」


 唐突に頭の悪い金額を請求され、愛苗ちゃんは申し訳なさそうに、ふにゃっと眉を下げた。


「“ふーきいん”! テメー、“まな”からカツアゲしてんじゃねえよ!」

「何故だ?」

「何故もなにもねえよ! カツアゲはダメだろ!」

「俺はお前のお嬢様と同じことをしただけだぞ?」

「はぁ? お嬢様がカツアゲなんかするかよ!」

「そうか? お嬢様は俺に来いと言った。だから約束になった。そして、俺は水無瀬に一億円をくれと言った。だから約束になった。ほら、同じだろう?」

「同じじゃ……えっ? あれっ……? えっ……⁉」

「いいか。慎重に答えを選べよ。もしも俺と会長閣下との間に約束が成立してしまっていたのなら、お前のお嬢様は俺にカツアゲをしたことになる。そうだったとしたら前代未聞の不祥事だ。生徒会長が生徒からカツアゲなど聞いたことがない。彼女は地位を追われるだろうな」

「え、でも……、そんなの……っ」

「お前が決めろ。お前の返答次第で彼女の将来が決まる。慎重に答えろ。俺は、お嬢様と、約束を、したか?」

「あっ……、あっ……、して、ない……」

「そうか。お前もそう思うか。気が合うな」

「うぅ……っ……」


 何か言い知れぬ巨悪に屈したような気分になり、“まきえ”はシュンと落ち込み水無瀬に頭を撫でられる。


「お前の迂闊な言動ひとつで閣下の名誉を貶め、失墜させる原因ともなりかねない。しっかりと反省をしろ」

「うん……、ごめん……」

「俺も本当はこんなことを言いたくないんだが、これもお前のためを思ってのことだ。お前は成長出来る人材だと思っているからこそ厳しいことを言うんだ。わかるな?」

「うん……、ありがと……」

「では、俺はもう行く。今後もしっかり励めよ」

「うん……、じゃあな……、って、待てよ! またこれかよっ!」


 パターン化しすぎたせいか、段々と気付く速度が上がっているようで弥堂は面白くないなと感じた。


「まだ何かあるのか?」

「あるに決まってんだろ!」

「決まってる……? それは誰が決めたんだ? 少なくとも俺は決めていない。お前が決めたら勝手に俺の方もきま――」

「――あーーっ! うっせ! うっせぇ! そういうのもう聞きたくねぇっ! お嬢様が来いって言ってんだよ」

「そうか」

「生徒会室だ。今日はちゃんと行けよ」

「お前の気持ちはわかった」

「行くって言えよこのヤロウッ!」


 弥堂は何もないフイっと顔を逸らし何もない宙空を見上げた。


「……テメーがその気ならオレにも考えがあるぜ」

「ほう」

「お前がお嬢様のとこに行くまで付きまとってやる。なんならオレが引きずってでも連れていく」

「なんだと?」


 不都合を感じ眉を寄せる男へ、“まきえ”は強気な目を向ける。


「どうせお前はバックレるつもりだろうからな。逃がしゃしねえぜ!」

「……仕方ないな」


 フウと息を吐き、弥堂は自らのバッグに手を入れゴソゴソと探る。

 “まきえ”は目を細め警戒をし、ソプラノボイスで威嚇をする。


「テメー、武器でも出す気か? いいぜ? 何でも使えよ。やってやんよコラァっ!」

「武器などではない。お前に『いいもの』をやろう」

「あん? いいもの……?」


 弥堂が“まきえ”に手渡したのは一枚の紙だ。

 “まきえ”は怪訝な顔をしながら四つ折りにされた紙を開く。

 そこに書かれていたのは――


「――なんだこりゃ? 地図か?」


 学園の敷地を描いたと思われる手書きの地図だ。


「何か所かバツ印が書かれているだろう。それがなにかわかるか?」

「なにって……、バツだろ? 悪いもんじゃねえのか?」

「違うな。そのバツの中のどれかに『お宝』が隠してある」

「お宝っ⁉」

「あぁ。それは宝の地図だ」


 “まきえ”は地図を食い入るように見る。


「お宝って、お宝ってなんなんだよ⁉」

「いいものだ。なにせ、お宝だからな」

「そ、そっかぁ……、お宝だもんな!」


 彼女はもうすっかりとお宝に夢中なようだ。


「もしもお前がそのお宝を見つけ出せたのならば、それはお前のものだ」

「マジかよっ!」

「やるか? 宝さがしを……」

「やるっ! やるぜ! 決まってんだろ⁉」

「わぁ、まきえちゃんいいなぁ。楽しそう」

「おぉ。“まな”もやるか? 一緒に遊ぼうぜ!」

「うん、でも……、私今日は用事があるの……」

「そっか、そりゃしょうがねえよな! 任せとけ……って、あっ⁉」


 ノリノリだった女児がなにかに気付いてショボンと肩を落とす。


「オレも“ふーきいん”を連れてかなきゃいけないんだった。お嬢様のためにやらなきゃ……」

「そう気を落とすな。そのお宝を見つけることこそが、お嬢さまのタメになる」

「えっ?」


 意味が分からないと見上げてくるちびメイドに仕事の意味を教えてやる。


「そのお宝は何だと思う?」

「ん? いいものだろ? だってお宝だもん」

「そうだ。しかしそれはお宝はお宝でも、お嬢様のお宝写真だ」

「はぁ?」

「その地図に隠されているのはな、お嬢さまのおパンツを盗撮した写真だ」

「はぁっ⁉」
「えぇっ⁉」


 水無瀬と“まきえ”は仲良く揃ってびっくり仰天する。


「テッ、テメ、“ふーきいん”、このヤロウッ! ついにそういうことまでするようになりやがったか……⁉」

「早合点をするな。撮ったのは俺ではない」

「どういうことなんだよ⁉」

「以前に盗撮犯を検挙したことがあってな。その時に押収した写真に閣下が写ったものがあったんだ」

「な、なんだと……⁉ お嬢様になんてことを……っ!」


 弥堂の口から淡々と語られる性犯罪者の卑劣な行いに見た目女児のメイドは激しい憤りを覚えた。


「敬愛する閣下のあられもない写真が世に出回ってはいけないと思ってな、俺はそれを隠したんだ」

「なんでだよ⁉ 捨てろよ!」

「証拠品は簡単には捨てられないんだ。いつどこで必要になるかわからない。だが、ひとつ困ったことがあってな」

「……? なんだよ……?」

「隠し場所のカムフラージュのためにダミーをたくさん埋めてそれにもバツ印を付けたんだが、どれが本物かわからなくなってしまってな」

「バカじゃねえのっ⁉」

「さぁ、本物を見つけ出せ」

「お前が探せよっ!」


 頭のおかしい男の頭のおかしい要求にちびっこは激しく動揺した。


「俺はそれでもいいんだが、なかなか時間がなくてな。俺はこれから行かなければならない所があるんだろう? お前が決めたんだ」

「いやっ、それは……っ」

「それに、悠長にしていたら困ることにもなるかもしれんぞ? お前のお嬢さまがな」

「ど、どういうことだ……⁉」

「今度。G.Wに大規模な改修工事が入るだろう? 業者が掘り起こしてしまうかもしれんぞ? お嬢様は可哀そうにな。見ず知らずの男にあのような姿を見られてしまうなんて」

「テッ、テメェ……っ! マジでふざけんなよっ!」

「そら。お嬢様のために働け。馬車馬のように走り回って、奴隷のようにあちこち掘り返せ」

「ちっ、ちっくしょう……っ!」


 “まきえ”はダッと勢いよく走り出す。宝の地図を握りしめて。


「……………」


 弥堂はくだらないものを見るような眼でそれを見送り、水無瀬の方へ顔を向けるとニコっと笑顔が帰ってきた。


「じゃあな」

「あ、うん……っ。弥堂くん、今日はいっぱいお菓子ありがとねっ。今度お返し持ってくるね!」

「結構だ。俺は菓子も食わない」

「そっか、それじゃあ――」

「――行かなくてもいいのか? お前は忙しいだろ?」

「え? あ、そうだった。ごめんね、ありがとう」

「くれぐれも繁華街の方には行くなよ」

「え? なんで?」

「それはネコにでも聞け。じゃあな」

「あ、ばいばーい」


 一方的に話を終わらせ、水無瀬を置いて教室を出る。


 廊下に出て右に曲がり、各委員会に割り当てられた部屋が集中する棟へ向かう。先日騒動があった文化講堂の手前にある。

 ちなみに教室を出て左に曲がった先にある昇降口棟に生徒会室がある。


 今日は元々風紀委員会の定例会議が放課後に予定されていた。

 それに生徒会室に行くとはやはり一言も言っていない。


 風紀委員として働くのは生徒会長閣下の為の仕事ということになるので、それを疎かにするのは閣下の為にはならない。

 それにその仕事にブッキングするように呼び出しをしたのはあちらの落ち度だ。だから自分は悪くない。


 次に咎められた時にする言い訳を予め考えながら歩いていると、風紀委員会の活動場所に到着する。

 弥堂はその部屋の扉を開けた。


「ふははははーっ!」


 待ち受けていたかのように部屋の中央の長机の上で仁王立ちになっている人物が、弥堂が扉を開けたタイミングで高笑いを上げた。

 美景台学園の女生徒の制服を着用している。しかしそのサイズは平均よりもだいぶ小さい。


 弥堂は短く嘆息をした。


「ノコノコとよくきたなぁーっ! びとぅーっ!」


 赤髪のロリを追い払った先で辿り着いた風紀委員会室で待ち受けていたのは金髪のロリだった。
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