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1章 魔法少女とは出逢わない
1章28 こちらはどちら、そちらはどちら ④
しおりを挟む“ぶおぉ~っ”と吠えるドライヤーの音が鳴りやむ。
シッポを巻き付けてドライヤーを、前足でヘアブラシを、それぞれ抱え上げたままネコ妖精のメロは空中をふよふよと浮遊し、今しがたお世話をした自らのパートナーの周りを飛んで自身の仕事の出来栄えを確認する。
「……カンペキッスね! カァーッ、ツレェー。ネコ妖精女子力高すぎてツレェーッス!」
「ありがとうメロちゃんっ。でもね……、その……」
「うんうん」と頷きご満悦な様子の羽の生えた黒猫に、風呂上がりの水無瀬 愛苗は感謝の言葉をかけつつもどこか言い辛そうに言葉尻を濁した。
「ん? どうしたッスか、マナ? ははぁ~ん……、わかったッス。皆まで言うなッス」
「え? なにが?」
「ブルブルする猫の手ならパンツが入ってる引き出しの中っス。ちゃんとメンテはしてあるッスからいつでも使えるッスよ」
「え? でも私今日は肩凝ってないよ?」
「なぁに、安心するッス。ジブン小一時間ほど席を外すッスから心置きなくエキサイティンするッス!」
「えと、よくわかんないけどそうじゃないの……、あのね……?」
自分は全てわかっているとしたり顔で後方に回って腕組みをするネコを首だけで追いかけて、ふにゃっと困ったように眉を下げる。
「あのね? ドライヤーのコードが絡まっちゃって動けないの。ブルブルじゃなくってグルグルなの」
「おっと、こいつはいけねぇッス」
ドライヤーを持ったまま水無瀬の周囲を回ったせいで電源コードが彼女の身体に巻き付き両腕を拘束したようになってしまっていた。
メロは素早く逆回転してコードを回収する。
「とれたぁーっ!」
「にゃーーッス!」
拘束を解かれた水無瀬は両腕を大きく広げて己の自由さを強調する。
メロも四つ足を空中で広げて迎合した。
ただの雰囲気だ。
その勢いのままルンルンする水無瀬さんの今日のパジャマはタヌキさんの着ぐるみパジャマだ。
「ム……ッス」
腕を広げたことで露わになったその服装をネコさん妖精が見咎めた。
「クォラァッス! マナ! なんでネコさんパジャマじゃないんスか⁉ 浮気ッスか! これは信頼関係に関わるッスよ!」
「え? でもネコさんのは今朝メロちゃんがパジャマの上で毛玉吐いちゃったからお洗濯だよ?」
「おっと、こいつはジブンうっかりしてたッス。ついジェラシーしちゃって忘れてたッス! ゴメンッス、マナ」
「ううん、へいきだよ? お洗濯終わったらまたネコさん着て一緒に寝ようね?」
「いや、いいんッス。色んな動物を着ていいんッス。奔放に育っていくッスよ」
「でも、メロちゃんがヤなんだよね?」
「ふふっ、そこは複雑な乙女心ってヤツッス」
「おとめ……?」
コテンと首を傾げるパートナーにメロはドヤ顔で説明をしてやる。
「確かにジブンの大好きなマナが他の動物の着ぐるみを着てたら正直ジェラっちゃうッス。それは正直な気持ちッス」
「じゃあ……」
「まぁ、待つッスよ。確かにネコさんハートがギュッて締め付けられるッスが、このジェラシーが最高のスパイスなんッス」
「すぱいす……」
「そうッス!」
まったく着いていけてない水無瀬を前に、メロはムンっと胸を張り一匹で盛り上がっていく。
「まるで他のケダモノに大事なマナを取られたかのような喪失感から怒りや悲しみを感じつつも、その裏で仄暗くも、しかし確かな興奮が湧き上がってくる。それも正直な気持ちッス」
「えっと……、たいへん……? なんだね……?」
「そうッス! 大変な背徳感ッス! これがNTRっ! 人類はなんて恐ろしい概念を生み出してしまったんスか! このドスケベ生物めッス!」
「また“えぬてぃーあーる”……、流行ってるんだね。私全然知らなかったよ!」
「もう流行ってるなんてモンじゃないッスよ。その概念は最早人類の遺伝子にまで組み込まれていて本能として皆持ってるものッス!」
「そ、そうだったんだ……。私まだ全然わかってないんだけど、私もなの?」
「うむッス! 避けては通れないッス。マナも一流のレディーになるためには、いつでもNTRされる覚悟を持っているんスよ!」
「う、うん……、よくわかんないけど私がんばるねっ!」
バーンっと肉球を突き付けて宣告してくるネコさん妖精に対して、水無瀬も両の手を握力15㎏のマックスパワーで握ってみせ、フンフンと鼻息荒くNTRに前向きな姿勢を見せる。
「まぁ? とはいえッス。そこらへんに関しては我々ネコさんの方が先んじてるッス。ウチら元々NTRフリーみたいなもんッスからね! 野性だしッス!」
「えぬてぃあーるふりー……?」
「アイツが言ってたッス。ドスケベ法令がどうとかって」
「あいつ……、あっ、弥堂くんのこと?」
「おっといけねぇッス」
メロは慌てて二つの肉球で自身のお口を塞ぐ。
今日聞いたばかりの言葉をつい喋ってしまったが、そういえばあのニンゲンのオスがそれを言っていた時には水無瀬は催眠状態に陥っていた。
催眠に掛かっていた状態に起きたことを、あまり彼女に知らせるべきではないと考えていたメロは口を噤む。
「そういえば、アイツって…………えーと、あー……」
「弥堂くんがどうしたの? メロちゃん」
誤魔化すように話題を変えようとして失敗する。
「んーーと、そういえばアイツって学校でも『あぁ』なんッスか……?」
「『あぁ』?」
「あーーっと、その、どういうヤツなんッスかね? ヘンなヤツッスけど」
「んとね。真面目……? かなぁ。いっしょうけんめい風紀委員のお仕事がんばってるよ」
「……そうッスか。あの、マナ……?」
「なぁに? メロちゃん」
「アイツとは……」
先の言葉が出てこず、メロは黙る。
「いや、なんでもねえッス! 明日上手くいくといいッスね!」
「えへへー。うん。喜んでくれるかなぁ……?」
「だーいじょうぶッスよ! マナが一生懸命選んだんっすから!」
「そうかなぁ」
「そうッス! なぁに、もしも微妙なリアクションしてたらお乳をボロンって見せてやるッス! そのオッパイに悦ばねえオスは地球上に存在しねえッス」
「おっぱいは関係ないよぅ……」
お乳に手を当ててふにゃっと困ったように眉を下げる水無瀬に、ガッハッハッと豪快に笑いかけてメロは誤魔化した。
そのままの流れでドライヤーとヘアブラシを片付けに動く。
「今日は疲れたッスねー。イベント多すぎッス」
「そうだねー。いっぱい歩いたねー」
「……ところで、身体の方は大丈夫ッスか?」
「え? うん。そんなに疲れてないよ」
ゴソゴソとわざとゆっくり作業をしながら、振り向かずに水無瀬へ労いをかける。水無瀬もそれに答えながらベッドからぴょんこと降りてテーブルに置いたネコ用ブラシを取りに行く。
「……そうじゃなくって、その……、どこか痛かったり苦しかったりとか、大丈夫っスか?」
「あ、そういうことか。うんっ、全然へいきっ!」
「ホントに……? ムリしてないッスか?」
「ホントだよっ。むしろなんかいつもよりちょっと調子いい……? かも……?」
心配するパートナーへ自らの健在ぶりをアピールするため、水無瀬は両腕を素早く何度も上げ下ろしして躍動感を表現する。
「……そうッスか。それならよかったッス」
「えへへ、心配してくれてありがとう。メロちゃんは疲れてない?」
「へへっ、ジブンはいつでも絶好調ッス! 女子力高いッスからね!」
「わぁ、すごい。かわいいっ」
メロは素早く床に寝転ぶと身体をグリングリン捻りながらゴロゴロ転がり、獣としてのバイタリティをアピールしてパートナーを喜ばせた。
「それじゃ今度は私がブラシしてあげるね。メロちゃんおいでー」
「……はぁ~いッス…………、って、いけないッス!」
床にペタンと座り両腕を広げる水無瀬の元へフラフラと寄っていきそうになったメロだったが、ハッとしてから頭を振る。
「どうしたの?」
「お気持ちはありがたいッスが、それには及ばねえッス!」
「え? ブラシしないの?」
「うむッス! とっても魅力的なお誘いッスが、ジブン今夜は予定があるッス!」
「そうなの?」
無職の飼い猫の分際でと弥堂なら苛つくところだが、素直なよい子の愛苗ちゃんは多忙なネコさんのことを自らと同等の存在として尊重している。
「今夜はご近所の野良猫の集会があるッス」
「わ、そうなんだ。私もいきたいっ」
「おっと、それはダメッス。アイツらニャーニャーと威勢よく鳴く割にはどいつもこいつもヘタレッスからね。ニンゲンを見たらションベンチビッて逃げちゃうッス」
「そっかぁ。驚かしちゃったら可哀想だもんね。やめとくよ」
「悪いッスね。本来なら崇高なるネコ妖精のジブンはあんな下賤なケダモノどもの集まりには参加する義理はないんスけど、不在の時になにを決議されるかわからないッスからね。ちゃんと参加してちゃんと声をあげることが大事ッス」
「よくわかんないけどネコさんたちも大変なんだね」
「うむッス。先日役所のクソ野郎どもが一斉に野良猫の去勢をやりやがったッスからね。これから訪れるであろう少子高齢化のネコ社会についてどうするべきか、ジブンがバシっと言ってやってくるッス!」
「ご、ごめんなさーい!」
「なぁに、マナが気にすることじゃないッスよ! 所詮お外は弱肉強食! ニンゲンに酷い目にあわされない為に我々ネコさんはもっと可愛さに磨きをかけていかなければならないッス! あの野良どもがもっと可愛ければニンゲンどももメロメロになって何でも言うこと聞いてくれるに違いないッス! つまりは女子力で、結論タワマンッス!」
「よ、よくわかんないけど、タワマンじゃなくってゴメンね……?」
「今のは一般論ッス。ジブンこの家が好きッス! お花の匂いには時々お鼻がムズムズするッスっけど、パパさんもママさんも大好きッス!」
「わぁ、よかったぁ」
「もちろんマナのことが一番好きッス!」
「えへへー、私もメロちゃんが大好きだよー」
「うへへーッス!」
にこーっと笑いあって会話を終わらせる。
メロが窓際に立つと水無瀬も近づいて来て窓の鍵を開けてやる。
「カギはかけちゃっていいッスよ。ジブン朝帰り予定ッスから」
「うん。わかったよ。知らないおじさんについてっちゃダメだよ?」
「おっ、ナナミの真似っスかー?」
「うんっ。早くまたななみちゃんに会いたいなぁ」
「まぁ、2週間くらいッスよね? そんなのすぐッスよ」
カラカラと窓を開けてやるとメロは数歩進む。
「マナこそ、知らないおじさんが窓開けてくれーって来ても開けちゃダメッスよ?」
「ここ二階だよ⁉」
「甘く見ちゃダメッス。プロのおじさんはこれくらい平気で上がってくるッスよ」
「そうなんだ。おじさんってすごいんだね……」
「知ってる男でもダメッスよ。アイツが来ても開けてはいけないッス。ママにされちゃうッスよ」
「アイツ……? 弥堂くん?」
「そうッス。ジブンにはわかるッス。ヤツは近年まれに見るレベルのドスケベッス。間違いなくプロッス。結婚するまで簡単に許しちゃダメッスよ」
「弥堂くんは来ないよぉ。お家知らないと思うし」
「へへ、それもそうッスね」
にへへーと笑いあうコンビは、そのプロのドスケベが学園の事務室に不法侵入し既に個人情報を入手済みであることを知らない。
「それじゃ、行くッスね」
「うん、気を付けてねっ」
「ういうい、おやすッス」
「うん。おやすみなさい」
二階の窓から黒猫が飛び立ちふよふよとゆっくり地面へ降りていく。
その姿を見送り水無瀬は窓とカーテンを閉めた。
振り返ってベッドへ向かう。
明日の月曜日からはまた一週間学園生活だ。
授業などで必要なものはすでにバッグに詰めて準備を終えているので、あとはもう寝るだけだ。
いつもは22時か23時には就寝してしまうので、普段よりは少し遅い時間だが特に問題はないだろう。
いつもより魔法少女の活動が長引いてしまったので、帰りが遅くなり、その結果の日付が変わる少し前の時間だ。
今日はあちこち移動をした。
だからメロも気遣ってくれたのだろう。
「メロちゃんは心配性だなぁ」
そう漏らすが表情は嬉しげで、言葉とは裏腹に胸の奥がポカポカとする。
以前のことがあるから余計にメロにも両親にも心配をかけてしまって、逆に心苦しいものもある。
(……でも、今はこうしてどこにでも歩いて行けるから、こんなに元気なんだってもっと安心させてあげないと……)
心中でそっと決意する。
メロは心配していたが、彼女へ答えた言葉どおりそれほど疲れてもいない。
むしろ、いつもよりも元気なくらいだ。
お昼過ぎからあちこち歩いて、夕方にショッピングモールで見たことないくらいに大きなゴミクズーと遭遇し、戦った。
それを考えるともっと疲労していてもいいはずだが、何故だか妙に調子がいい。
なんなら戦いが始まる前よりも元気になっているくらいだ。
「なんでだろう?」
一人きりの部屋で首を傾げる。
他にも気になることはある。
ショッピングモールの戦闘の記憶がない。
メロも彼も、自分がゴミクズーを倒して力を使い果たして倒れてしまったと、そう言っていた。
そうだっただろうか?
その時のことを思い出す。
ショッピングモールの敷地に入ったところで悪の幹部であるボラフが現れ、ギロチン=リリィという名前の巨大な花のゴミクズーを喚び出し、周りの人々がパニックになったところで慌てて変身して結界を張って世界を隔離し、そして戦闘に入った。
(……大きすぎてどうしようって思ってたら、あっというまに捕まっちゃって、きゃーってなってたら――)
――そうしたら彼が現れた。
弥堂 優輝。
クラスメイトの男の子。
(弥堂くんはすごいなぁ……)
身体がおっきくて力が強いのは知っていたが、魔法が使えるわけでもないのに急にゴミクズーと戦うことになっても全然恐がらないし、慌てすらもしない。
「私はすぐゴミクズーさんにぶたれちゃうのに……」
あの巨大なギロチン=リリィの攻撃を当たり前のように躱して、その上どんくさい自分に魔法の当て方まで教えてくれて……
「――あれっ?」
そこから先の記憶がない。
次に思い出せる場面は戦闘が終わった後の場面だ。
(あの後魔法が当たって倒せたのかな……?)
その後魔力切れで倒れたという話だったが、そんな自覚症状は全くない。
(むしろ……)
むしろ、魔力は増えているくらいだ。
おかしいと、そう思うがしかし――
(――でも、みんながそう言うんならそうなんだよね)
弥堂やメロが自分に嘘を吐いているのかもしれない。
そのような発想は水無瀬 愛苗には全くなく、可能性を思いつくことすらない。
ゼロだ。
だから――
もしかしたら大きな戦いの後で興奮しているから、高揚感から調子がいいように感じるのかもしれない。そういえば初めて魔法少女に変身した時もそうだった。だから今回もきっとそうだ、と。
――そのような方向に考えがいく。
「うんうん」と納得して頷いたところで、自分は今部屋に一人だったことにハッと気が付き動きを止める。
「……さみしいな」
ポツリと漏らす。
ここ何年かはいつもメロが一緒に居てくれる。
今日のように特別な事情がない限りは一人きりになることはない。
自分ももう高校生なので、いい歳だ。
でも――
――ひとりの部屋は寂しい。
親友の七海には暫く会えない。
気持ちが落ち込まないように、いつも一緒のパートナーのことを考える。
そういえば、彼女はしきりに弥堂のことを気にしていたようだ。
彼はいつも『あぁ』なのか、と。
(『あぁ』ってなんだろう……?)
よくわからない。
だから、明日聞いてみよう。
(そうだっ。明日……っ!)
ハッと思い出してテテテッとテーブルの方へ駆けていく。
テーブルの上に置いておいた紙袋からキレイにラッピングされた包みを両手で取り出す。
それを持ったままトトトッとスクールバッグのもとに移動する。
(忘れちゃうといけないから)
包みが潰れないように中に入っていた教科書類を並べ直してスペースを確保する。
この日のために準備をしてきたのだ。
その為にメロも母親も七海も協力をしてくれた。
『あぁ』
その意味は実はなんとなくはわかっている。
学園でも色んな人が彼のことを『そう』言っている。
危ない。頭がおかしい。乱暴者。コミュ障。空気が読めない。悪い人。クズ。カス。ゲス。ヤクザ。人殺し。などなど……。
彼が多くの人たちから『そう』言われていることは知っているし、耳にだって入っている。
いくら自分が鈍くたってそれくらいのことには気が付いている。
でも――
(――違う……)
違うのだ。
(――そうじゃない)
そうではない。
それだけじゃない。
自分にはわかる。
今から大体1年前。
去年のG.Wが終わった頃に彼は転入してきた。
高校1年生で入学式から一か月遅れで編入という形でクラスメイトになった彼のことを周りの生徒たちは物珍しそうにしていた。
頭の回転の遅い自分はなんとなく「そうなんだー」とボーっとしていただけだったが、すぐに気が付いた。
自己紹介をするようにと先生に言われて教卓に立ってこちらを向いた彼が顔を上げた瞬間にわかった。
自分の気のせいでなければ視線をこちらへ向けた彼と、目と目が合った瞬間に気が付いて、そして気になった。
だから、自分は知っている。
『そう』じゃないと。
その直後に今年の自己紹介と同じようなことをして、その後も連日色々とヤンチャをして、それが続くうちに『そう』言われるようになってしまったが、絶対に『そう』じゃないのだ。
色んな人に悪口を言われたり、たまにケンカをしたりしているみたいだが、自分は知っているから、自分は彼の味方でいようと決めたのだ。
(ななみちゃんみたいに……)
高校に入学してすぐにクラスで各委員会の担当を決める際に、何か人の役に立つことをしようと、家が花屋をしているからという安易な思い付きで、学園の花壇の世話などを主にする『いきもの委員会』に所属することを立候補した。
しかし、そこで上手く行動が出来なくて浮いてしまっていた自分に声をかけて、仕事も周囲との関係も上手くいくように助けてくれたのが、現在親友になっている希咲 七海だ。
今にして思えば空回りしていたのだと思える。
色んな人の役に立とうと、色んな人と仲良くなろうと張り切りすぎて、その方法もわからないのに気持ちだけで暴走していたのだ。
その自分に出来なかったことを完璧に実演してみせたのが七海なのだ。
とにかく七海ちゃんはカッコよかった。
それから「七海ちゃん、七海ちゃん」と後に着いていっていたら、なんやかんやで仲良くしてくれて、親友にまでなってくれたのだ。
その時からずっと七海ちゃんが大好きだ。
(ななみちゃん……)
お胸がぽわっとするがすぐにハッとなる。
今は七海ちゃんではなく弥堂くんのことだった。
ともかく、七海のおかげで自分は他の人とも仲良くなれて快適に学園生活が送れるようになったので、今度はそれを自分が弥堂にしてあげようと、そういう心づもりだ。
誰かに優しくしてもらって、『いいこと』をしてもらって。
自分もその人に同じだけのことをしてお返しをして。
さらに他の誰かにも同じことをしてあげて。
その誰かもさらに他の誰かに。
そうすればきっとみんな幸せになれるはずなのだ。
水無瀬 愛苗はそのように信じている。
そのための行動の一つが魔法少女であるし、また別の一つがこのラッピングされた包みなのだ。
(喜んでくれるといいな……)
「――弥堂くん」
ドクン――と、跳ねる。
その名前を思わず口に出した瞬間、心臓が一つ大きく跳ね、そして今はドキドキドキ……と、いつもよりも強く動いているように感じられた。
体調不良ではない。
身体は調子がいい。
とてもいい。
「なんだろう……」
呟きに応えてくれる者は今は誰もいない。
一人きりの部屋で胸に手をあてて、その鼓動にきいてみた。
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